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巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


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城壁の向こう

第十二話 城壁の向こう


【壁の向こうには、


知らない世界がある。


そして時には、


知らない誰かとの出会いもある。】


行商人と別れた後、


道は再び静かになった。


だが、


さっきまでとは少し違う。


トリーはさっき見たゼンマイ鳥の真似をしていたし、


ベルはその様子を見て笑っていた。


司祭もそんな二人を見ながら、


ほんの少しだけ口元を緩める。


エリオンはその光景を見て、


静かに息を吐いた。


――そうだ。


こういう時間も必要なのだ。


重いことばかりでは、


人は歩き続けられない。


そんなふうにしばらく歩くと、


遠くに城壁が見え始めた。


「うわあ……」


最初に声を上げたのはトリーだった。


オルム。


巨大な都市ではない。


だが、


小さな漁村とは比べ物にならなかった。


灰色の城壁が長く続き、


門の前には人が溢れている。


ベルは落ち着かない様子で辺りを見回した。


トリーなど、


ほとんど口を開けたままだ。


「すごい……」


呆然と呟く。


「本当に大きい……」


エリオンも似たような気分だった。


これほど多くの人を見るのは初めてだった。


門前はまさに混沌としていた。


荷馬車と人々が入り乱れ、


怒鳴り声も絶えない。


その中で。


商人が衛兵へそっと袋を握らせている。


衛兵は見て見ぬふりをし、


商人を先へ通した。


後ろで待たされていた者たちが、


不満そうに文句を言う。


「またあいつかよ」


「俺たちも金を握らせるべきだったな」


その列の間を縫うように、


串焼きやパンを売る者もいた。


「焼きたてだよー!」


「今なら温かいパンもあるよー!」


匂いにつられたのか、


トリーが腹をさする。


「……お腹空いた」


エリオンが思わず笑った。


司祭も小さく笑う。


「そうだな」


ぽつりと呟く。


「こういう騒がしさも悪くない」


その声は、


どこか安堵しているように聞こえた。


やがて司祭は一行を連れて門へ向かう。


列は長かった。


だが、


教会の紋章を見せると、


衛兵の態度はすぐに変わった。


「失礼しました、司祭様」


慌てて道を開ける。


後ろから不満の声が聞こえたが、


衛兵は聞こえないふりをした。


こうして一行は、


比較的あっさりと街へ入ることができた。


門をくぐった瞬間――


まるで別世界だった。


通りの両側には店が並び、


人々が絶え間なく行き交う。


露店商。


客引き。


荷運び人。


誰もが忙しそうだった。


「宿を探してる!?」


突然、


子供たちが集まってきた。


「安い宿知ってるよ!」


「飯がうまいとこある!」


「この辺じゃ一番お得だよ!」


トリーが飛び上がる。


「うわっ!」


司祭は慣れた様子だった。


子供たちを順番に見ていく。


そして。


一人の子供の前で立ち止まった。


他の子より少し身なりが整っている。


目つきも落ち着いていた。


司祭は硬貨を一枚取り出した。


「良い宿へ案内してくれるかな」


子供の目が大きくなる。


「うん!」


司祭は静かに続けた。


「できれば、


真面目な主人のいる宿がいい」


子供は満面の笑みを浮かべた。


「知ってる!


すごく良いところ!」


その子に案内され、


一行は街の中心から少し離れた場所へ向かった。


騒がしい通りを抜けると、


周囲はだいぶ静かになる。


やがて、


小さな宿が見えてきた。


大きくはない。


だが、


古いながらも綺麗に手入れされていた。


窓辺には小さな植木鉢まで置かれている。


「ここだよ!」


子供の言葉通り、


雰囲気は悪くなかった。


宿の夫婦も人の良さそうな顔をしていた。


特に女将は、


ベルを見るなり心配そうな顔をする。


「まあ。


女の子なのね」


少し考え込み。


それから言った。


「だったら私たちの部屋を使いなさいな」


ベルの目が丸くなる。


「えっ?」


「私たちは下でも寝られるから」


あまりにも自然な口調だった。


ベルは困ったように、


司祭とエリオンを交互に見る。


司祭が小さく笑った。


「良い宿を紹介してくれたな」


子供の顔がぱっと明るくなる。


約束の硬貨を受け取ると、


何度も頭を下げながら走っていった。


荷物を置くなり、


トリーが勢いよく立ち上がった。


「街を見に行っちゃダメ?」


目が輝いている。


だが司祭は首を振った。


「先に傭兵ギルドだ」


トリーの肩が落ちる。


「ああ……」


「長居はできないからな。


まず仲間を探さないといけない」


だが。


「……傭兵ってたくさんいる?」


すぐに目を輝かせた。


「いるだろうな」


少し元気が戻る。


その一方で。


ベルはベッドの端に腰掛け、


小さく呟いた。


「……私は少し休みたいです」


「そうしなさい」


司祭が頷く。


「無理はするな」


こうして。


司祭とエリオン、


そしてトリーの三人だけが


傭兵ギルドへ向かうことになった。


ギルドはすぐに見つかった。


扉を開けた瞬間――


騒音が押し寄せる。


酒杯のぶつかる音。


笑い声。


怒鳴り声。


傭兵たちが酒を飲み、


一角では腕相撲に金を賭けていた。


「もっと力入れろ!」


「腕が折れるぞ、この野郎!」


トリーは身を縮めながらも、


目だけは輝いていた。


「すごい……」


壁には依頼書や賞金首の張り紙が並んでいる。


そして受付では。


やつれた顔の受付係が、


必死に人を捌いていた。


「次の方!」


「だから俺の依頼が先だって――」


「順番です!」


いつの間にか、


トリーはエリオンのすぐ隣に張り付いていた。


興味津々ではある。


だが、


本物の傭兵たちに囲まれているせいか、


少し緊張しているようだった。


かなり待たされた後。


トリーがぼそりと呟く。


「……まだかな」


司祭は聞こえなかったふりをした。


ようやく順番が回ってくる。


受付係が疲れた顔で尋ねた。


「ご用件は?」


司祭が条件を説明する。


巡礼路。


東方面。


子供二人同行。


そして――


支払える金額。


受付係の顔が微妙になる。


「うーん……」


困った顔だった。


書類をめくりながら、


小さくため息をつく。


「条件が少し微妙ですね」


トリーがしょんぼりした顔で


エリオンを見上げた。


その時。


受付係の視線が、


ふと一角へ向いた。


「……あ」


小さく呟く。


「一人だけいますね」


全員が同時に振り返った。


隅の席だった。


薄暗いテーブルで、


黒髪の女が一人座っている。


片手には酒杯。


壁には一本の剣が立て掛けられていた。


周囲の席は騒がしい。


なのに――


その女の周囲だけ、


妙に静かだった。


女はこちらの視線に気付いたのか、


ゆっくり顔を上げた。


無関心で、


どこか疲れたような目だった。


受付係が小さく言う。


「レアです」


少しだけ言い淀む。


「腕は確かですよ」


だが。


なぜか語尾が曖昧だった。


「……料金も比較的安いですし」


エリオンは思わず眉をひそめた。


安い。


それでいて腕が立つ傭兵。


何かがおかしい。


受付係はそれに気付いたらしく、


わざとらしく咳払いする。


「まあ……」


「少し敬遠する人もいますが」


トリーが素直に尋ねた。


「なんで?」


受付係は周囲を気にしてから、


小声で答える。


「女が旅に加わると縁起が悪いとか」


「血の匂いが魔物を呼ぶとか」


「女のいるパーティーは長続きしないとか……」


肩を竦めた。


「そういうの、


気にする人はいますからね」


エリオンは呆れた顔になる。


だが周囲の傭兵たちは違った。


何人かは当然のように頷き、


誰かは小さく笑った。


まるで。


当たり前の話でも聞いたように。


その時だった。


レアが酒杯を置く。


コトン。


そして。


こちらを見た。


視線を逸らさない。


ただ。


何でもないことのような顔で。


再び酒杯を手に取った。


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