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巡礼者の道  作者: 잿빛서기관


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役に立たないもの

第十一話 役に立たないもの


【人はパンだけでは生きていけない。


時には、


役に立たないものが心を救うこともある。】


村を離れてから、


しばらく誰も口を開かなかった。


トリーでさえ静かだった。


何度か何かを言いかけては、


結局また口を閉じる。


ベルもエリオンと司祭の様子を気にしながら、


静かに俯いていた。


司祭は前だけを見て歩いている。


表情はいつもと変わらない。


だが、


どこか疲れて見えた。


エリオンは何度も司祭を横目で見た。


聞きたいことは山ほどある。


村のこと。


恩寵のこと。


祈りのこと。


そして――


司祭が言っていた、


「似たようなもの」のこと。


だが。


子供たちの前で話すには、


少し重すぎた。


結局、


エリオンは何も聞けなかった。


ぬかるんだ道を、


足音だけが続いていく。


その時だった。


カラン。


どこかで金属がぶつかる音がした。


カチャ。


ガチャリ。


思わず全員が顔を上げる。


遠くから、


誰かがこちらへ歩いてきていた。


大きな荷を背負った男だった。


鞄のあちこちに、


鉄のカップや小さな金属飾りがぶら下がっている。


歩くたびに、


やたら賑やかな音を立てていた。


男は一行を見つけると、


遠くから大きく手を振った。


「おおっ!


巡礼者さんたちじゃないか!」


やたら声が大きい。


トリーがぼそりと呟く。


「……誰?」


「行商人だろうな」


司祭が短く答えた。


距離が近づく。


行商人は目の前で立ち止まり、


一人ずつ顔を見回した。


そして。


目を細める。


「……おやおや」


舌を鳴らした。


「みんな葬式帰りみたいな顔してるな?」


ベルがぴくりと肩を震わせる。


トリーも気まずそうに咳払いした。


すると行商人は、


にかっと笑った。


「よし!」


「こういう時は薬より効くものがある!」


そう言うなり、


突然荷物を降ろし始める。


ガチャガチャ!


ガタン!


あっという間に、


道端に小さな露店が出来上がった。


トリーが瞬きをする。


「……何してるんですか?」


「商売だ」


行商人は胸を張った。


「世の中で一番大事で、


一番偉い仕事だぞ」


そう言って荷物を漁る。


やがて取り出したのは、


小さなガラス瓶だった。


中には、


きらきらした粉のようなものが入っている。


行商人が瓶を振る。


すると――


陽の光を受けて、


淡い輝きがふわりと広がった。


ベルの目が丸くなる。


「……わあ」


「綺麗だろ?」


行商人が得意げに笑う。


「南の商会連中は


『星屑の瓶』なんて呼んでたな」


もう一度瓶を振る。


きらきらした光が、


陽射しの中をゆっくり漂った。


気が付けば、


トリーがすぐ近くまで寄っていた。


「本物の星なんですか?」


「たぶんな」


「たぶん!?」


「違ったら蛍の粉だ」


「何なんですかそれ!」


行商人は豪快に笑った。


今度は小さなゼンマイ仕掛けを取り出す。


ゼンマイを巻くと、


木で作られた鳥がギシギシ動きながら


その場で踊り始めた。


トリーが思わず吹き出した。


ベルは最初、


ぽかんと見つめていた。


だが。


鳥がまたぎしりと踊ると、


とうとう小さく笑った。


行商人はますます調子に乗る。


陽の光で色が変わるガラス片。


振ると澄んだ音の鳴る銀鈴。


風が吹くと、


太陽の飾りが回る小さな風見飾り。


どれも――


役に立たないものばかりだった。


エリオンはしばらく眺めた後、


司祭をちらりと見た。


司祭も微妙な顔をしている。


たぶん同じことを考えていた。


……まさか、


これを買えって言うんじゃないだろうな。


だが行商人は、


すでに双子の心を完全に掴んでいた。


「この風見飾りなんてな、


南の貴族のお嬢様方に大人気なんだ」


太陽の飾りを揺らす。


「窓に吊るしておくと、


憂鬱な気分も吹き飛ぶらしいぞ」


「本当に?」


トリーが食いつく。


「もちろん!」


行商人は胸を張った。


「俺の商品は全部効く!」


そして声を潜める。


「まあ、


信じる奴にだけな」


ベルとトリーの顔が、


少しずつ明るくなっていく。


エリオンはその様子を静かに見ていた。


ついさっきまで、


死んだように静かだった二人だ。


それが今は――


目が輝いていた。


行商人は喋り続けた。


無駄に大げさで。


無駄に真面目で。


無駄に図々しい。


なのに。


なぜか聞いていると笑ってしまう。


気付けば、


司祭の口元にさえ


かすかな笑みが浮かんでいた。


しばらくして。


行商人がぱんと手を叩いた。


「よし!


今日の商売はここまで!」


そう言って、


平然と商品を片付け始める。


トリーが瞬きをした。


「……え?」


ベルもぽかんとしている。


「売らないんですか?」


「ん?」


行商人が首を傾げる。


「ああ、


別に買わなくていいぞ」


笑いながら荷物を背負う。


「そもそも巡礼者さんたちに売る物でもないしな」


エリオンが首を傾げた。


「それなら、


どうして……」


行商人はあっさり答えた。


「子供たちの顔が死んでたからだ」


その瞬間。


空気が静まる。


だが行商人は気にしない。


「うちにもあれくらいのがいてな」


トリーとベルを交互に見る。


「故郷を出る前なんて、


それはもう情けない顔して泣いてたぞ」


行商人はくすりと笑った。


「思い出しただけだ。


気にするな」


そして手をひらひら振る。


「長い旅ってのはな。


こういう役に立たないものも見ないと、


飽きちまうんだよ」


カラン。


再び歩き出す。


鞄にぶら下がった鉄のカップが揺れ、


賑やかな音を鳴らした。


行商人は遠ざかりながらも、


ずっと手を振っている。


「今度は本当に儲かる物も見せてやるよー!」


トリーが小さく笑った。


「……変な人だな」


だがその声は――


さっきよりずっと明るかった。


ベルも少し笑っている。


エリオンはしばらく行商人の背中を見つめた。


そしてゆっくり振り返る。


司祭と目が合った。


司祭は何も言わなかった。


だが。


少しだけ。


先ほどより表情が軽くなっているように見えた。


エリオンは静かに息を吐く。


そして再び、


旅路を歩き始めた。


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