第5話 海外からの視聴者と、終わらない検証
「……1万、超えてる」
白石紬は、ぼんやりと画面を見つめていた。
同時接続数——10342。
ついさっきまで5000だったはずなのに、気づけば倍近くになっている。
「……なんで?」
自分でも理由が分からない。
でも、コメント欄を見てすぐに気づいた。
《コメント:Hello from US》
《コメント:This is insane》
《コメント:Is this real life?》
《コメント:No way this is a game》
「……英語?」
明らかに、日本語じゃないコメントが増えている。
《コメント:海外から来た》
《コメント:Redditでバズってる》
《コメント:海外勢流入してるぞ》
「……Reddit?」
聞いたことはある。
海外の掲示板サイトだ。
「……え、そこまで?」
《コメント:もう世界デビューで草》
《コメント:逃げられないぞw》
《コメント:伝説始まってる》
「いや、逃げないけど……」
苦笑しながら、紬はカメラを少し持ち直す。
その時。
《コメント:※元ゲームエンジン開発者》
「……また?」
専門家らしきコメントが、また流れてきた。
《コメント:この環境、リアルタイム生成ならサーバー負荷が異常》
《コメント:個人で動かせる規模じゃない》
《コメント:というか、物理法則が微妙にズレてる》
「……ズレてる?」
思わず聞き返す。
《コメント:水の波紋、現実と似てるけど完全一致じゃない》
《コメント:空気の揺らぎも不自然に“綺麗すぎる”》
《コメント:作られた世界に近い》
「……へぇ」
分かったような、分からないような。
でもひとつ言えるのは——
「……やっぱり、すごいってことだよね」
《コメント:ポジティブすぎw》
《コメント:そこじゃないw》
《コメント:本人が一番分かってない説》
「だって、ちゃんと動いてるし」
紬は軽く笑って、ミズを指でつつく。
ぷるん、と弾けるように跳ねる。
《コメント:かわいい》
《コメント:癒し枠》
《コメント:それ本当にAI?》
「……ミズはミズだよ」
答えになっていない答え。
でも、それしか言えない。
その時。
《コメント:検証する》
「……え?」
《コメント:同時に同じ場所再現してみる》
《コメント:似た環境で水の挙動比較する》
《コメント:リアルかどうか見極める》
「……本気だ」
コメント欄の空気が、また変わる。
《コメント:検証勢きた》
《コメント:ついに戦争始まる》
《コメント:これは面白くなってきた》
「……そんなことしなくてもいいのに」
思わず本音が漏れる。
でも。
——止まらない。
この流れは、もう誰にも止められない。
その時だった。
ミズが、ぴた、と動きを止めた。
「……ミズ?」
次の瞬間。
ぴょん、と跳ねて、紬の肩に乗る。
「……え?」
《コメント:どうした》
《コメント:動き変じゃない?》
《コメント:警戒してる?》
「……なにか、いる?」
紬は、ゆっくりと周囲を見回す。
風が止まる。
空気が、少しだけ重くなる。
「……あれ」
さっき見た“青い石”。
その方向が、微かに光っていた。
「……また?」
《コメント:例の石?》
《コメント:イベント続き?》
《コメント:これ絶対何かある》
「……近づかない方がいい気もするけど」
足が、自然と動いていた。
配信者としての好奇心。
それが、恐怖を上回る。
「……少しだけ、見てみる」
ゆっくりと、石に近づく。
すると。
前回よりも、はっきりとした光。
そして——
「……文字、増えてる?」
刻まれている模様が、変わっていた。
《コメント:変化してる?》
《コメント:アップで見せて》
《コメント:解析する》
「……えっと」
カメラを近づける。
その瞬間。
頭の奥に、また“流れ込む”。
「……っ!」
「……『観測者』……?」
思わず、口に出す。
《コメント:観測者?》
《コメント:何それ》
《コメント:設定深すぎる》
「……違う、設定じゃない」
無意識に、否定していた。
でもすぐに。
「……あ、えっと……ゲーム内の、用語かな」
慌てて言い直す。
心臓が、うるさい。
《コメント:今の反応ガチじゃない?》
《コメント:本人困ってるぞ》
《コメント:やっぱり何かある》
「……何もないよ」
笑ってみせる。
でも、その笑顔は少しだけ硬かった。
同時接続数——
15000を超えた。
世界中から、見られている。
疑われながら。
期待されながら。
「……配信、続けます」
もう、止められない。
止まったら、終わる。
——白石紬の“嘘のような日常”は、この瞬間、世界規模になった。
6話は、本日の12時に更新いたします。
7話目から朝の8時固定で更新、pv次第で1日3本アップします。
現状30話まで予約投稿してますのでお楽しみください。




