第6話 有名配信者と企業の連絡、それでも私は「VRです」と言い続ける
「……1万8000人?」
白石紬は、配信画面を見て固まった。
同時接続数——18234。
もう、どこまで増えるのか分からない。
「……ほんとに、なんで」
コメント欄は、もはや読めない速度で流れていた。
《コメント:海外勢増えすぎ》
《コメント:翻訳班たのむ》
《コメント:この配信追いつけない》
「えっと……見えてますか?」
軽く手を振ると、コメントが一斉に反応する。
《コメント:見えてる!》
《コメント:YES》
《コメント:We see you!》
「……よかった」
少しだけ安心する。
でも、その直後。
《コメント:大手配信者来てるぞ》
《コメント:〇〇さんいる》
《コメント:本物きた》
「……え?」
一瞬、流れが変わる。
そして。
《コメント:※登録者300万人の配信者です》
「……えぇ?」
思わず変な声が出た。
《コメント:これ本当にリアルなの?》
《コメント:コラボしない?》
《コメント:同時に配信して検証したい》
「……コラボ?」
頭が追いつかない。
さっきまで一人で配信していただけなのに、急に“トップ層”が話しかけてきている。
「えっと……あの……」
言葉が詰まる。
でも。
「……今は一人でやってるので、ちょっと難しいかもです」
正直に答える。
《コメント:慎重でいい》
《コメント:逆に信用できる》
《コメント:この対応好き》
「……ほんとに、よく分かってなくて」
苦笑する。
その時だった。
《コメント:※某ゲーム会社関係者》
「……また?」
嫌な予感がする。
《コメント:技術的に非常に興味があります》
《コメント:もし可能であれば詳細をお聞きしたい》
《コメント:ご連絡いただけませんか》
「……連絡?」
一瞬、空気が固まる。
《コメント:企業きたw》
《コメント:囲われるぞ》
《コメント:逃げろ》
「……えっと」
どう答えればいいのか分からない。
でも、ここで変なことを言えば——
「……今は、個人で楽しんでいるので」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「……詳しいことは、ちょっと……ごめんなさい」
《コメント:断ったw》
《コメント:つよい》
《コメント:これは本物の対応》
心臓がバクバクしている。
——危ない。
一歩間違えれば、全部崩れる。
「……私は、ただ配信したいだけなので」
それは、本音だった。
お金も必要。
でも、それ以上に。
「……ここ、好きだから」
ぽつりと呟く。
《コメント:わかる》
《コメント:この空気いい》
《コメント:癒し》
少しだけ、空気が柔らぐ。
その時。
ミズが、急に跳ねた。
「……ミズ?」
ぴょん、と地面に降りて、ある方向を見つめる。
「……どうしたの?」
その視線の先。
——何もないはずの空間。
でも。
「……なんか、揺れてる?」
空気が、歪んでいる。
まるで、水の中みたいに。
《コメント:なにそれ》
《コメント:グリッチ?》
《コメント:バグ演出?》
「……バグ、かな」
そう言いながら、ゆっくりと近づく。
一歩。
また一歩。
そして。
「……っ!?」
視界が、一瞬だけ“ズレた”。
景色が、重なった。
今いる場所と——
“別の場所”。
「……今の、なに」
思わず立ち止まる。
《コメント:今何起きた?》
《コメント:ラグ?》
《コメント:空間おかしくない?》
「……分からない」
正直に答える。
でも、ひとつだけ分かる。
——この世界、どんどん変になってる。
その時。
さっきの石の方向から、微かな光。
「……また、あそこ」
ミズが、小さく震える。
「……今日は、やめとこ」
直感だった。
これ以上触れるのは、危ない。
《コメント:撤退判断いい》
《コメント:賢い》
《コメント:続き気になる》
「……続きは、また今度」
そう言って、カメラを少し上に向ける。
空は、相変わらず綺麗だった。
でも。
「……これ、ほんとにゲームなのかな」
小さく、呟く。
すぐに。
「……VRです」
自分で、自分に言い聞かせるように。
《コメント:www》
《コメント:まだ言うか》
《コメント:そこ好き》
同時接続数——
23000。
もう、止まらない。
有名人も、企業も。
世界中が、この配信を見ている。
でも。
「……私は、私のペースでやる」
そう決めて、紬は微笑んだ。
——白石紬の配信は、“世界の注目”と“未知の違和感”を抱えたまま、続いていく。




