第4話 炎上寸前、そして専門家の参戦
「……5230人」
白石紬は、配信画面の数字を見つめたまま固まっていた。
ほんの数十分前まで、誰にも見られていなかった配信。
それが今、5000人以上。
しかも、まだ増え続けている。
「……すごい、けど」
コメント欄の流れは、さっきまでとは明らかに違っていた。
《コメント:これ絶対合成》
《コメント:いやガチだろ》
《コメント:どっちだよ》
《コメント:検証しろ》
——空気が、割れている。
「……えっと」
どう話せばいいか分からない。
でも、何か言わないといけない。
「これは、その……自作のVRゲームで——」
《コメント:その説明無理ある》
《コメント:技術的に不可能》
《コメント:開発者だけどこれはありえない》
「……っ」
言葉が詰まる。
その時だった。
《コメント:※現役グラフィックエンジニアです》
「……え?」
一つのコメントが、流れを止めた。
《コメント:このレベルの水表現、個人制作はまず無理》
《コメント:物理演算もおかしい》
《コメント:リアルタイム処理じゃない可能性ある》
「……リアルタイムじゃない?」
《コメント:事前レンダリングか、もしくは——》
《コメント:——現実そのもの》
「……え」
一瞬、背筋が冷えた。
《コメント:いやいやw》
《コメント:それはない》
《コメント:でもちょっと分かる》
コメント欄が、一気にざわつく。
「……現実って」
冗談のはずなのに。
妙に、引っかかる。
その時。
手のひらの上で、ミズがぷるん、と跳ねた。
「……あ」
《コメント:ミズ動いた》
《コメント:かわいい》
《コメント:それもCG?》
「……ちょっと、歩いてみるね」
紬は立ち上がり、ゆっくりと外へ出る。
草を踏む感触。
風の匂い。
すべてが、現実そのもの。
「……この辺、探索してみます」
カメラを周囲に向ける。
すると。
「……あれ?」
少し離れた場所。
森の奥に、見慣れない“光”が見えた。
淡く、青白く輝く何か。
「……あんなの、さっきあった?」
《コメント:初見》
《コメント:新エリア?》
《コメント:イベントきた》
「……行ってみる」
足取りはゆっくりだけど、確実に近づいていく。
ミズが、少し震えた。
「……怖いの?」
ぴた、とミズが動きを止める。
まるで、警戒しているみたいに。
「……大丈夫、大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟く。
そして、光の前に辿り着いた。
それは——
「……石?」
地面に埋まるようにして存在する、青く光る石だった。
表面には、見たことのない模様が刻まれている。
「……これ、なに」
《コメント:遺跡っぽい》
《コメント:ルーン文字?》
《コメント:触ってみて》
「……うん」
紬は、ゆっくりと手を伸ばす。
そして。
石に、触れた。
——その瞬間。
ドクン。
「……っ!?」
心臓が、強く脈打つ。
視界が、一瞬だけ揺れた。
「……なに、今」
頭の奥に、何かが流れ込んでくる感覚。
知らないはずの“知識”。
言葉にならない情報。
「……っ、痛……」
思わず、その場に膝をつく。
《コメント:大丈夫!?》
《コメント:演出じゃないよね?》
《コメント:顔色やばい》
「……だ、大丈夫……」
呼吸を整える。
ゆっくりと、顔を上げる。
すると。
さっきまで読めなかった石の模様が——
「……読める?」
頭の中に、意味が浮かんでくる。
「……『接続点』……?」
思わず、口に出す。
《コメント:え?》
《コメント:今読めたの?》
《コメント:設定じゃないの?》
「……分からない。でも、なんか……分かる」
自分でも意味が分からない。
でも確かに、“理解できてしまった”。
《コメント:やっぱりおかしい》
《コメント:これゲームじゃないだろ》
《コメント:ガチの可能性ある》
「……」
紬は、静かに石を見つめた。
——この世界、ただのスローライフじゃない。
何かが、ある。
その時。
同時接続数が、さらに跳ね上がった。
——9870。
「……え」
もう、驚く余裕もない。
ただ一つ、確信していた。
「……これ、すごいことになってる」
炎上寸前の疑い。
でも、それ以上に。
“本物かもしれない”という期待。
その両方が、配信を押し上げていた。
——白石紬の配信は、この瞬間、“ただのバズ”を超えた。




