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11 夏の家のご馳走

 まず、家から持ってきた米をザルに入れる。

 昼食と夕食の二食分持ってきたからたっぷりある。


(夕ご飯の分はあとでまた取りに行けばいいや。)


 ザルを持って外に出る。

 古い井戸もあるけど、その横に湧水がチョロチョロ流れている場所があるから、そこで米を研ぐ。


 山の水だから冷たい。

 水質検査、っていうのもしてもらっているから飲んでも大丈夫だ。


 米を研ぎ終わったら、鉄鍋に移して水を入れる。


 土間に戻って竈で火を起こす。

 新聞紙、藁、小枝、細木という順で積み上げて、新聞紙に火をつける。

 商店街でもらった団扇で扇ぐ。

 アウトドア動画で紹介されているようなおしゃれな道具はここにはない。


 細木に火がついたら、少し太めの木を入れる。

 団扇でバタバタと下品に扇ぐ。

 薪を入れて、また扇ぐ。

 この数日は湿度が高かったから、モクモクと煙が出る。

 煙が収まると、薪がゴーと音を立てて燃え始める。

 僕が作った炭も入れる。

 これはあとで七輪に移すやつだ。


「おーい、佑登ー」


 屋上から江田君の声がした。


「うん、今行くー」


 返事をして梯子のところに行く。


「いい写真撮れた?」


「ああ、ていうか煙い」


「あ、そっか、ごめんごめん」


 江田君が梯子を降りてきた。

 考えてみたら料理をしている時に屋上に上がったことはなかった。

 屋根の上に簀の子を作ったような屋上のすぐ横に、煙突があるのだった。


 江田君と一緒に土間に戻る。


「えっ」


 驚いたように、彼は足を止めた。


「かまど…?」


「うん、そうだよ。電気もガスもないから。」


 電気はガソリン発電機があるけど、昼間は使わない。


「そのへんでのんびりしてて。」


 というほど、広い小屋ではなくて、三畳の上がり框(かまち)だ。

 僕が竈に薪を入れて、バタバタ扇ぐのを江田君は框に腰掛けて見ていた。


 竈の火が安定したら、鉄鍋をかける。

 「はじめチョロチョロ中パッパ」とかよく言うけど、僕はあまり気にしたことがない。

 ちなみに「赤子泣いても蓋取るな」とも言うけど、炊き具合は蓋を開けて確認している。


 炊飯器よりもたぶん早く米は炊けるから、七輪で焼く食材を取りに行く。

 朝、持ってきた食材を『穴』に入れてあるからだ。


 夏の家の建っているのは、石垣を組んだ平坦地だ。

 昔、見張り用の砦が建っていたらしい。

 その石垣の下の方に、横穴がある。

 その奥から、冷たい風が一年中出ていて、天然の冷蔵庫として使っている。

 いわゆる「風穴」だ。


 小さめのイワナが二尾。

 鶏モモ肉が一枚。

 キャベツ、タマネギ、ミニトマト。

 シメジ、ヒラタケ、シイタケ。

 麦茶を入れたペットボトルも持ってきた。


(ふむ。)


 イワナとシイタケはそのまま焼けばいいや。

 鶏と野菜とキノコはホイル焼きにしよう。


 イワナには塩をつける。

 鶏肉は小さめに、野菜はざっくり切る。

 アルミホイルにヒラタケとシメジと一緒に乗せて、味噌をかけて包む。


 竈の中から炭を取り出して七輪に移す。

 もう真っ赤に燃えている。


 網を乗せて、その上に食材を並べる。

 米を炊いている鉄鍋はコトコトと蓋が鳴って、泡を吹いていた。


「もうすぐできるよ。」


と振り返ったら、江田君があんぐりと口を開けて僕を見ていたから驚いた。


「えっ、何?」


「佑登、お前、いつもこんなことしてんのか。」


「まさか、休みの日だけだよ。」


「そういうことじゃないんだけど、そうか。」


 江田君といい、高桐さんといい、どうも言葉が少ない。

 僕もそうだから、類は友を呼ぶ、ということなのかもしれない。


 鍋の泡が収まったから蓋を開けたら、いい感じになっていた。

 蓋を戻して火から下ろし、少し蒸らす。


 あとはイワナの焼き具合を観察するだけだ。

 焦げ目がついたら裏返す。


 ホイル焼きの上に置いていたシイタケを網に下ろして炭火を当てる。

 ちょっと醤油をたらすと、芳ばしい香りが立ちのぼった。


 ホイル焼きも一度開いて、鶏肉を裏返す。

 野菜から出た汁気と味噌が混ざって、こちらもいい香りだ。


 ここは僕専用の家ではなくて、山仕事の人たちの休憩所でもあるから食器はけっこう揃っている。


 イワナが頭まで乾いた焦げ色になったからシイタケと一緒にお皿に取った。

 ホイル焼きも適当に取り分けて、ちゃぶ台に並べた。


(汁ものがなかったなあ)


 なんだか野性味あふれる食卓になっちゃったけど仕方ないよね。

 大きめの茶碗にはご飯を盛りつける。

 ほどよくお焦げが混ざって美味しそうだ。


「さ、食べよう。」


「ああ、いただきます。」


 江田君は律儀に箸を持った手を合わせて、それからイワナに箸をつけた。


「あ、イワナはね、頭からいけるよ。」


 僕はイワナを体ごと持ち上げて、頭から齧りついた。

 苦みと甘味、そして塩味が効いていて美味しい。

 けど、熱かった!


「あふいからきをふけて」


 ハフハフしながら言ったら、目を丸くしていた江田君は少し笑った。

 江田君は黙って食べていたけど、ご飯を一口食べて、


「うまっ」


と呟き、驚いたように茶碗を二度見していたのが少し嬉しかった。


「うちの田んぼで獲れた米だよ。今朝精米したから美味しいでしょ。」


 鶏肉だけは買ったものだと思うけど、あとは全部檜山郷産。

 イワナは誰が釣ったのかわからないけど、親戚の誰かだ。


「俺、実はシイタケが苦手だったんだけどさ、めちゃめちゃ美味かった。」


 食べ終わった江田君はそう言ってくれた。


「うん、僕も子どもの頃苦手だった。でも炭焼きにすると全然違うよね。」


「そうだな。あ、いや、そうじゃなくて、佑登の料理を褒めてるんだけど。」


「あはは、焼いただけなんだから食材がいいんだよ。」


「佑登らしいな。まあいいや、でもほんと、どれも美味かったよ。」


「江田君はいつも昼休みはどうしてるの?」


「とりあえずコンビニ行って、おにぎりとか買って、食べる場所はいろいろだな。川か山に撮影に行ったり、家に帰って写真の整理する時もあるし、校舎の屋上で食ってる時もある。」


「そうなんだ。」


 江田君の謎が、また一つ解けた。


「……。」


「えっ、何?」


「佑登って、何も言わないのな。」


「え、どういうこと?あっ、『みんなと食べないの?』とか、そういうこと?」


「まあな。」


「僕にそんなこと言えるわけないよー。」


 校庭での作業に逃げこんで、園芸倉庫の横で一人ランチをしている僕に何か言う資格なんかない。


 食事が済んだら、江田君は森の写真を撮りたいから、と言って帰っていった。


 午後は森の排水溝を掃除した。

 排水溝が詰まって水が溢れると、斜面に水が溜まって地滑りや土砂崩れの要因になる。

 雨が降った週の週末には必ずしなければいけない作業だ。


 暗くなったら薪で湧かした風呂に入って、ニセアカシアのコースターにヤスリをかけて、寝た。

 寝てから夕食を食べていないことに気がついたんだけど、なんだか疲れてそのまま眠ってしまった。


 ま、こんな日もあるよね。

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