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龍と狼の事情  作者: 旅人


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6/8

手当て

ウルカは草むらの真ん中で仰向けになり、四肢を広げて深く息を吐いた。

柔らかい草が背中を優しく包み、陽の光が葉の隙間からまだらに落ちてくる。

耳をピクピク動かし、喉の奥からゴロゴロと低い、幸せそうな音を漏らす。

尻尾の先がゆっくり左右に揺れいた

「気持ちいい……こんな草むらで寝れるなんて、あの頃は考えてなかったな」

かつての魔界での日々が、ふと脳裏に浮かぶ。

血の匂いが染みついた戦場、剣の音、倒れた敵の最後の死に様を…

ウルカは自分の手を見下ろした。

爪は今は短く丸められているが、昔は鋭く、赤く染まっていた。

この手は何人殺めてきたんだろうか。

己こそが正義だと思い込んでいた頃にね……。

「ウルカはいつも可愛いよ?」

突然の声に、ウルカの全身がビクッと震えた。

狼の姿から一瞬で人型に戻り、反射的に後ろ足を振り上げ、思い切り蹴り飛ばした。

ドンッ、という鈍い音が響き、相手が草むらに転がる。

「びっくりした! 声掛けろよ!」

レイは地面に尻餅をつき、痛みを堪えながら苦笑する。

白銀の鱗が少し乱れ、たてがみのような長い毛が草に絡まっている。

腹部に軽い擦り傷ができ、薄く血が滲んでいる。

「ごめん……そんなつもりじゃなかったんだよ」

ウルカは慌てて立ち上がり、レイの元へ駆け寄る。

人型のまま、レイの傷口をそっと覗き込む。

近くの草むらに生えている椿の葉を探し、柔らかくて厚みのある新芽を数枚摘み取る。

葉の表面を軽く指で拭いて汚れを落とし、傷口にぴたりと当てて押さえる。

葉の縁を少し破って絆創膏のように固定し、レイの鱗に優しく巻きつける。

「痛かった? ……ごめん、反射で。動かないでて」

レイは照れくさそうに目を逸らしつつ、微笑む。

「ありがとうね……でも、声掛けただけで蹴り入れる君も中々だよ。狼の反射神経、恐るべし」

ウルカは頰を少し赤らめ、レイの背中にぴたりと体を寄せる。

そのまま背中に乗り、くつろいだ体勢を取る。

尻尾をレイの腰に巻きつけ、顔をたてがみに埋める。

「まぁいいだろ? 背中借りるぜ」

レイは苦笑しながら、体を低くして安定させる。

「ウルカ? 僕の背中乗るの構わないけどさ……めっちゃなんかしてない?」

ウルカは体をゆっくり擦り付け、レイのたてがみを鼻先でくしゃくしゃにする。

柔らかく、ほのかに甘い龍の匂いがする毛並みに

「レイのたてがみ、気持ちいいな……布団になる」

「あんまり布団にしないでよ……」

レイはそう言いながらも、動かずにいてくれる。

椿の葉が傷口を覆い、じんわりと熱を帯びて癒えていく。

ウルカはレイの背中に頰を寄せ、目を閉じる。

レイは静かに空を見上げ、時折ウルカの耳を指で軽く撫でる。

「昔の話、聞いてた?」

ウルカの声が小さく響く。

レイは優しく頷く。

「うん……少しだけ。無理に話さなくていいよ。でも、聞きたい時はいつでも」

ウルカは喉をゴロゴロ鳴らし、レイのたてがみに顔を埋める。

「今は……ここがいい。あの頃には戻りたくない」

レイの鱗が、ほんのりピンクに染まる。

「僕も、ここがいいよ。ウルカと一緒にいられるなら」

風が草を揺らし、二人の匂いが混じり合う。

ウルカの尻尾が、レイの尻尾に絡まるように絡みつく。

椿の葉が風に軽く揺れ、傷が完全に癒えるまで、二人はただ静かに、互いの温もりを確かめ合っていた。

ウルカの手は、レイの背中を優しく撫で続け、まるで大切なものを労わるように。

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