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龍と狼の事情  作者: 旅人


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5/8

軍師

レイが再び抜け出そうと身を翻した、その背後から鋭い声が飛んだ。

「――どこへ行かれるのですか、レイ?」

思わず肩が跳ねる。

振り返るより早く、刀の鞘がカチンと鳴る音が回廊に響いた。

龍を束ねる軍師、フェン。

彼女は雌龍でありながら、レイと同等――いや、それ以上の実力を持つ存在だった。

黒みを帯びた青い鱗が雷光を反射し、長い髭が風に揺れる。

優雅に湾曲した角、金色に鋭く輝く瞳。

知性と冷徹さ、そして雌龍特有の気品が同居する佇まいだった。

レイは慌てて向き直り、作り笑いを浮かべる。

「いやいや、フェン殿。これから家へ戻るところでございまして」

そっと進行方向を変えようと体をずらした瞬間、

フェンの長い尻尾が素早く伸び、レイの尻尾の根元をがっちりと掴んだ。

鱗同士が擦れる乾いた音が、静かな回廊に響く。

「今日は私とチェスで一局いかがです?

どうせ“あの場所”へ行こうとしているのでしょう?」

レイの額に汗が滲む。

「あはは……これは参りました。

では、もし私が勝ちましたら……黙っていてくださいます?」

フェンは深く溜息をつき、傍らの卓から古びたチェスボードを取り出した。

黒檀と白檀で象嵌された盤。

駒は翡翠と黒曜石で作られ、龍の鱗を模した精緻な彫りが施されている。

龍の文化に合わせた特別製で、

王は「龍王」、皇后は「龍后」、騎士は「飛龍」と名付けられていた。

「……いいでしょう。庭園へ」

二人は龍界中央の庭園へ向かう。

雲海に浮かぶ浮島のような場所で、低く垂れ込めた雷雲の奥で、青白い稲妻が走っていた。

雨はまだだが、空気は重く湿っている。

石卓に盤を置き、フェンが腰を下ろす。

レイも向かいに座りながら、心の中で考えていた。

(ウルカに……何か土産を持っていこう。

甘い果物とか、あと酒とか)

「フェン殿、どちらが先手です?」

フェンは駒を並べ終え、静かに微笑む。

「私が先手をいただきます」

盤上で、「龍后」が大胆に中央へ進む。

攻撃的な布陣だ。

レイは慎重に「飛龍」を展開し、防御を固めつつ隙を探る。

駒を置く音が、庭園の静寂に規則正しく響く。

フェンの指先は優雅だが、その瞳には明確な闘志が宿っていた。

一方、レイの表情が厳しい顔になり集中していた

数手後、レイは静かに駒を動かした。

「……チェックメイトですね?」

フェンの瞳が一瞬だけ細まる。

盤面を見下ろし、確かに逃げ道はなかった。

彼女は不機嫌そうに唇を噛み、ゆっくりと駒を片付け始める。

鱗が微かに震え、低い唸りが喉から漏れた。

「……やはり強いですね、レイ。

お見事です。次は勝ちますから」

レイは首を傾げる。

(勝ったのに……そんなに悔しいのか?

フェン殿、意外と負けず嫌いだな……)

「じゃあ、約束ですからね!」

レイは立ち上がり、雷雲を避けるように空へ身を躍らせる。

尻尾の先が、嬉しそうに揺れていた。

フェンはその背を見送り、静かに息を吐いた。

「……はぁ」

胸に渦巻く、やりきれない感情。

レイの心が、あの狼の少女へ向いていること。

軍師として彼の立場を守るべきなのに、

自分の想いが、ただの嫉妬でしかないこと。

彼女は刀の柄を強く握りしめ、龍王の元へ向かう。

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