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龍と狼の事情  作者: 旅人


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3/8

酒屋の出会い

二人は龍界の酒肆――古い木造の建物で、梁に吊るされた提灯が赤く揺れ、煙たい香辛料と酒の匂いが混じり合う店内――の隅の席に着いていた。

壁には龍の鱗を模した装飾が並び、カウンターの奥では大鍋で煮込まれる肉の音が響いている。東方龍たちが好む、辛く熱い酒と香ばしい小皿料理が並ぶ店だ。

「ロン? 何頼もうか?」

レイがメニューを眺めながら、軽く笑う。

まだ鱗の色が微かにピンクが残ったままの頰を、ロンに気づかれないよう隠すように。

「そうですね……この『小悪魔の唐揚げ』と『龍神酒』とか。辛めで体が熱くなるやつがいいですよ」

レイが手を挙げて店主に声をかけようとした瞬間、ふとカウンターに視線が止まる。

そこに、ウルカがいた。

耳をピンと立て、尻尾を軽く揺らしながら、納品の木箱を下ろしている。

人型だが、狼らしい鋭い瞳と、毛皮の匂いが微かに漂う。

「レイ様? どうしました?」

ロンが怪訝そうにレイの視線を追う。

レイの瞳が一瞬、縦長に輝いた。

「ウルカ!」

ウルカが振り返り、驚いた顔でレイを見る。

耳がピクッと動き、尻尾が一瞬固まったあと、ゆっくり近づいてくる。

「なんでこんな所にいるんだ?」

ウルカが不思議そうに首を傾げると、ロンはすぐに立ち上がり、丁寧だがどこか棘のある声で言った。

「レイ様がいつもお世話になっております。まさかこんな……狼とは思いませんでした」

ウルカは鼻で小さく笑う。

「ふーん、嫌味か? まぁいいけどさ。俺はこの店に納品に来ただけだしな。野菜やら肉やら、畑で取れたやつを卸してるんだよ」

レイはそれを聞いて、ぱっとウルカの屋敷を思い浮かべた。

あの森の奥の古い屋敷の裏に広がる、広大な畑。

土の匂いと、ウルカが無意識に土を爪で掘る仕草……。

「ウルカってもしかして、畑仕事してるの?」

ウルカは頷きながら、レイたちの席に当然のように腰を下ろす。

尻尾が椅子の背に巻きつくようにして。

「まぁな! 腹ごしらえに飯食って帰ろうかなと思ってた所だしな」

ロンは表向き笑顔を保ちながら、心の中で舌打ちする。

(この狼……レイ様を惑わす存在だ。夢中になるのは見たくない)

だが、レイがウルカの隣に座り直し、嬉しそうにメニューを差し出すのを見て、ため息を抑える。

「レイ様? 本来の意図、忘れてません?」

レイはハッとして、慌ててウルカに視線を戻す。

「ごめんごめん……じゃあ、ウルカも一緒に食べよ? いや、でも俺たち仕事の後で……」

ウルカは肩をすくめて立ち上がる。

「別にいいよ。納品終わったらすぐ帰るし。邪魔したな」

レイが名残惜しそうに手を伸ばしかけるが、ウルカは軽く尻尾を振ってカウンターに戻る。

ロンはじっとウルカの後ろ姿を見ていた。

どこかで見たような……貴族の血筋を思わせる、凛とした立ち姿。

耳の形、瞳の色、鱗のように光る銀色の毛並み……。

(この狼……まさか、あの古い魔族の家系の?)

ロンは唐揚げを一口かじりながら、考えを巡らせる。

熱い油が舌を焼くが、それ以上に心がざわついていた。

レイは少ししょんぼりしながら、龍神酒を傾ける。

「ウルカ、畑仕事か……なんか、意外だけど似合うな」

ロンは黙って頷き、内心で決意を固める。

(レイ様を守るためなら……この狼の正体、調べておくべきかもな)

店内の喧騒が、二人の間に微妙な緊張を残したまま、夜が更けていく。

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