#41 意味深なことを言って誤魔化そうとしているだろ
「と、いうことがあって――商店街対抗の運動会へ参加することになりました」
今日は久しぶりに編集者と直接会う日であった。
締め切り間際になっても、なかなか小説が完成しない俺に対して痺れを切らした編集者が、アイデアやコンセプトをまとめるために助け舟を出そうと、直接会って話をすることになったのだ。
「そうですか、へえ? 瀬分先生が運動会――大丈夫ですか? 運動不足で怪我とかしないでくださいね。特に手の怪我とか」
珍しく編集者に心配されてしまった。なんだ、優しいところあるじゃん。いつも文句ばかり言っているわりには――
「先生が怪我をしたら、いろいろとスケジュールに狂いが生じるので」
前言撤回。編集者はちっとも優しくなかった。全部自己都合の塊であった。
「リスケも大事な仕事なのでは?」
「そんなわけないだろ――ところで、運動会はいつですか?」
「明日です」
「は?」
「だから、明日です」
「体力づくりとか、準備は?」
「いやぁ、していないですね。ま、なんとかなりますよ」
そこで編集者が青ざめた顔を俺に向けて、諭すように言ってくる。
「悪いことは言いません。運動会参加を辞退してください」
「へ? だ、大丈夫です。こんな埼玉県のとある町で行われる、とある商店街の運動会がキツいわけないじゃないですか。お祭りみたいなものでしょう?」
「お前は運動会を――古座市の運動会を、ナメているな?」
「え――あぁ」
要するに県内で最も秘密結社が多い町で行われる運動会が楽なはずない、と編集者は言いたいのだろう。
「まぁ、古座市に隣接する四季市の運動会と比べればマシだが、この町の運動会も決して簡単ではない」
そう言われると、隣接する四季市という街がどんな街なのか気になるが――俺、あんまり市外のこと詳しくないんだよなぁ。古座市出身だけど、父親の借金を返済するまでは転校も少なくなかったし、近所のことあまりよくわかっていないんだよなぁ。
まあ、それはそれとして――
「でも俺、今回の運動会は執筆の取材のためだけではなく、仲間のために頑張ろうと思っています。だから今更、参加辞退をするわけにはいかないんです」
「あのなぁ……先生はコンビニ店員である以前に小説家だぞ? 執筆活動に支障が出たらどうするつもりだ?」
「それもまた、物語に味わいを持たせるためのスパイスということで」
「は? 意味深なことを言って誤魔化そうとしているだろ」
編集者が大きな溜息を吐き、俺の目を見てくる。俺は決して目を逸らさなかった。
「はぁ、わかった。わかりました――運動会、出ても良いです」
「え! やった!」
「ただし!」
はい、はい。条件付きね。こういう展開によくある、お約束というヤツだ。
「必ず――必ず! 小説を完成させてくださいね? 私も【魂美人の征服王】とやらの活躍が楽しみなので」
その言葉を最後に、今回の打ち合わせは終了した。
条件を付けて、俺にプレッシャーを与えようとしたのだろうが、その条件自体が俺を後押しするものとなっており――そういうところだぞ、編集さん。応援してくれるなら、もっと素直になってほしいものだ。
そんな編集者に心の中でお礼を述べながら、打ち合わせの場から去る俺。
明日の運動会は、皆のためにも頑張ることにする。否、俺一人空回りしても仕方ないので、皆で熱意の大車輪を回していこうと思う。たとえそれが空回りでも、運動会に嵐を巻き起こすような良き風を吹かせられるのならば――俺は、俺たちはそれを追い風にして、どこまでも進めるはずだ。
何故なら俺たちは魂美人であり、秘密結社ワールド・イズ・マインなのだから――




