#35 私は――説教が大嫌いだ!
フェル姉に対して、俺の気持ちを曝け出す。同時に、頭の中で記憶が呼び覚まされた。
「これは――」
何故俺がフェル姉との約束を歪んだ形で覚えてしまっていたのか、その原因は俺の中に眠る【奇解王】の力であった。この【騙りを語りし奇解王】の力によって、俺は自らの記憶を封印していた。それこそがフェル姉との約束を間違えていた理由。
中学生の頃、ある日偶然手に入れたシンギュラー・ポイントカードを意図せず暴走させてしまい、【奇解王】の力を手に入れた俺は部分的に世界の理を歪めた。事実と異なった世界を描くことによって、俺はキライであった世界から目を背けようとしたのだ。
その結果、ご都合主義全開の人生を送っていた俺は、日常の中、フェル姉との約束を歪めてしまい、心の彼方へと吹き飛ばしてしまったのだろう。
父親の借金、自身の将来への不安、そして――フェル姉との別れが、中学生の頃にシンギュラー・ポイントカードを暴走させてしまった。全ては俺の未熟さが招いたことなのだ。
「だから、もう一度。フェル姉、いや――フェルト、俺と結婚してください。将来的に」
「ジューイチ――ありがとう」
フェルトは俺からサイン入りの本を受け取ると、愛おしそうにそれを抱き締める。
そもそも俺のデビュー作である『テリヤキ=チキン・フランスパンの冒険』は幼い頃にフェルトに読んでもらった物語、その中を冒険しているかのような感覚を頼りに、書き上げた一冊なのだ。中身が支離滅裂で荒唐無稽だろうが、その感覚だけは本物で唯一無二のものであり、何よりもフェルトに直接読んでほしいが故に書き上げた一冊なのだ。
ようやくフェルトに手渡すことができた。随分と遠回りをしてしまった。
「おぉ、ジューイチ――なかなかやるではないか」
振り向くと、隣にエミリーが立っていた。おいおい、ファルコさんとの戦闘中のはずではないのか。随分とまあ、余裕を放っているではないか、我が首領は。
「我が結社の構成員は優秀なのだ。いくら【ファイティング・ファフニール】が相手とはいえ、そう簡単に負けるはずがないのだ。ジューイチが愛の告白をする間の時間稼ぎくらいはできる――全く、マドカも素直になってほしいものなのだ」
「最後、何か言った? エミリー!」
「何でもないのだ、マドカ」
ファルコさんの攻撃を避けながら、マドカがエミリーに問いかける。もう、マドカってばいつも都合が良いのか悪いのかわからないことばかり、聞こえない振りするんだから。
「うるさいよ、ジューイチ」
「ここまで時間を稼いだのです、最後くらい決めちゃってください」
「頼むよー、ジューイチ先生ー」
ロコとマイの激励を受け、俺はフェルトとともにファルコさんの前に立つ。ファルコさんはマドカたちの攻撃を受けて多少負傷していたが、その傷がみるみるうちに塞がっていく。なんという治癒能力の持ち主なのだろうか。それともポイントカードの力だろうか。
ファルコさんは俺とフェルトの方を見て、不敵な笑みを浮かべた。
「何を話していたかと思えば――今更、約束の話だと? 今まで忘れていたものを、ちょっと思い出したくらいで、何になるというのだ。フェルト、そのような気の迷いに翻弄されずに私と世界を支配した方が良かっ――」
「気の迷いに翻弄されているのは、姉さんの方です」
「何?」
「他者より優れた力を持っていても、それを自己のためにしか使えない以上――」
「何だ? 説教か? 私は――説教が大嫌いだ! そんなものは力無き者の言い訳だ!」
ファルコさんがポイントカードを握り締める。するとカードは粉々に崩れ去り、破片となって床に落ちた。破片が落ちた場所を中心に、強力な重力が発生し、俺たちは床に身体を押さえつけられる。これでは立つことも、攻撃を避けることもできない。
ただ一人を除いて――
「委員長!」
「どうやら私だけが動けるみたいだねー」
特異点武装の能力だろう。マイだけは宙に浮いていた。しかし、それも時間の問題だ。ならば、【フライング・フライヤー】の能力で、味方を揚げ物――ではなく『上げ者』にするしかない。間違えてテンションまでアゲアゲにしないでほしいのだが――
「この重力だと、一人くらいしか飛ばせないかなー」
「ならば――フェルト!」
「わかったよ、ジューイチ」
委員長の【フライング・フライヤー】の能力で、宙に浮き始めるフェルト。フェルトは扇風機型チェーンソー、【ファン・ファン・ファング】の刃を回転させ始めた。
「来てください、レジスタンス・レジスター」
フェルトはシンギュラー・ポイントカードをレジスターにスキャンした。魂美人宴奥義を発動させるつもりだ。しかし、それを黙ってみているファルコさんではない。ファルコさんは重力の強さを高めると、そのままフェルトの身体を引き寄せていく。
ファルコさんの拳が先か、それともフェルトの奥義が先に届くのか――
「はっ!」
先に動いたのはファルコさんの方だ。彼女の拳の方が速い。まだフェルトは奥義を発動できていない。このままではフェルトに拳が直撃する。そう思った。
「ふっ!」
しかし、フェルトはチェーンソーとともに、自らの身体を扇風機のように回転させながら、ファルコさんの突きを避け、背後を取った。その流れるような動きに、ファルコさんは追いついていない。フェルトはそのまま奥義を発動した。




