#33 もう、仕方がないね
「そらそら! どうした? お前たちはその程度の実力しか発揮できないのか!」
そして、戦闘が始まった。人数の多さではこちらが有利だ、少なくともそう簡単に負けることはない――そう思っていたのだが、数分で形勢は逆転され、今に至る。
「ハンマー・プライサーが――ただの拳に受け止められるなんて!」
ファルコさんの拳に受け止められたことによってひび割れが発生し、その耐久が失われるロコのハンマー。何故、ただの拳が特異点武装を受け止めているのだろうか。
「ヤツの拳に握られているのはシンギュラー・ポイントカードだ。それによって、己の拳を特異点武装化しているのだろう。流石、【ファイティング・ファフニール】の異名を持つだけある――油断するな、皆! 油断すれば、狩り取られるぞ!」
「油断するような余裕は、そもそも無いけどね!」
「この人、強いー」
「マイさん、無理をしないでください。あなたは魂美人としては新人なのですから」
「ふふっ、それはロコも同じでしょー」
傷だらけで立っているのもやっとの状態である皆を見て、俺はある決断をする。
「俺たちは魂美人。やはり店長の存在は必要不可欠だ。精神的支柱がいない今、俺たちは魂美人としての本領を発揮しづらいのかもしれない――だから!」
俺はモップを構えて、ファルコさんに突撃する。彼女の拳と、モップが激突した。火花を散らしながら、実力は拮抗している。しかし、気を抜けばどうなるかよく理解できた。
俺と彼女の力には明確な差があり、決して互角と呼べるものではない。
「皆はバックヤードに捕らわれている店長とフェル姉を助けに行ってくれ!」
「ジューイチはどうするのさ!」
「ここでファルコさんを食い止める! これしか方法が無い! 魂美人として店長の存在は不可欠だし、苗木さんもワンオペが限界だ! それに――俺はやっぱりフェル姉の応援が必要だし、フェル姉の協力がないと、ファルコさんには勝てない!」
「でも――」
救出作戦の実行を渋るマドカたち。そんな彼らに、一つの影が近づいてくる。
「皆、どうしたの? もう退勤時間のはずでしょ?」
その人影の正体は店長であった。あれ? 拘束されていたはずでは――
「あ、うん。そうだけど? なんか脱出できちゃったからさ」
「馬鹿な。ナイフでも切れないタイプの鉄線で縛ったというのに」
「ん? ああ、アレね。確かに切れなかったけどさ――切れないなら、切らなければ良いと思ったから、身体を捻って抜け出したよ。タコの動きを演じることによってね」
「タコの動き? 演じる?」
「ふふっ、俺は若い頃に役者を志していたからね。演じるのはお手の物さ」
「だからって、タコの軟体を再現できるものなのですか?」
「ハッハー! 驚いてくれたのかい? サンキュー!」
店長はいつものように笑いながら、俺たちとファルコさんの間に立った。そして、ファルコさんに向かって、こう言った。「いらっしゃいませ」と――言ったのだ。
「て、店長! その人はどちらかというとお客様ではなく、悪客様です……」
「だからこそ、だよ。耐久性を上げる工事をしているとはいえ、戦闘が長引くと店舗に影響が出るし、ここは一先ず、イートインでコーヒーでも飲みながら――」
「店長、我らの店舗にイートインは無いのだ」
「あ」
「話は終わりか? ならば失せろ」
店長の目前に、ファルコさんの拳が迫る。防御は間に合わないし、回避も間に合わない。
「て、店長!」
「もう、仕方がないね」
その瞬間、店長の身体が輝き始め、強烈な光が辺りに放たれた。あまりの眩しさにファルコさんも動きを止める。な、何だ? 何が起こっているというのだろうか。
「あれは店長のシンギュラー・ポイントカード?」
「この店において、店長である俺はお客様からの過剰な要望にはお答えできない――これぞ秘技、『カスタマー・ハラスメント』だ。【天頂たる店長】の隠された力、魂美人としての本領発揮といったところかな?」
やはり店長も魂美人か! 通りで今までの出来事に対する適応力が高かったわけだ。
「個人的には出禁にしても良いけど、店長としては出禁にはできないかな? 出禁にはできん――ジューイチくん風に言うならば、こういうことだと思うよ?」
「て、店長! かっこいい!」
「ただのスキンヘッズではなかったのですね!」
「まあ、そのギャグはどうかと思うけどー」
「感動してくれたのかい? サンキュー! でも――手伝えるのはここまでだよ」
「何故ですか、店長! 店長程の魂美人なら、ファルコさんと戦えるはずでは――」
「ハッハー! そろそろ苗木くんのワンオペが限界だからね? この後、本社にも行かなきゃいけない――社長に呼び出されているから、早めに決着してね?」
「ふぇえええええ!」
レジカウンターを見ると、悲鳴を上げながらレジ打ちをする苗木さんの姿があった。あ、やべ――忘れていた。早く誰か手伝いに行かないと、長時間のワンオペはきついはず。
「わかり、ました。店長はお店の方をよろしくお願いします」
「お店を任せてくれるのかい? サンキュー!」
「だって、あなた店長でしょう? こちらこそ、ありがとうございます」
俺がそう言った後、店長はレジカウンタ―へ向かおうとして、足を止める。そしてもう一度こちらへ向き直ると、最後にこのように呟いた。
「あとは――任せたよ、ファブリエールさん」




