拷問体験
夜、暗い道を歩いている。自分は何か探し物をしてここに迷い込んだ気がするのだが。
春は苦手だ、冬の寒さで傷つけられたものが光に照らされて凄惨な姿を晒す。
暗闇と日向の間にある薄暗い場所に、本来あってはならないものがどさくさに紛れてたたずんでいる。
さっさと帰りたい、ここは寒気がする。
その時ドンドンドンと箱を叩く音がする、気がつけばそこら中の家の箱からドンドンドンと音がしていた。
「ど~う~し~て~出~し~て~く~れ~な~い~の~」
「ど~う~し~て~?」
遠くを見れば家の屋根に影が立っているのが見えた。あれは天に人間の行いを報告する天使の成れの果てだろう。自身が重くなってしまっては飛べまい。
あれではおそらく被害者が恨みを捨てるまで加害者が天より罰せられることがない。
堕天使は悲しげに天に向かって吠える。
そいつが不意にこちらを向いて恨みがましい目を向けて来た。
「わしは、わしは関係ない!」
どこからか犬が群れで寄ってくる。だがその犬たちはみな髪の毛がボサボサに生えた女の顔だった。
「クウン……」
「ヒイイイイ!こっちを見るな!舐めてくるな!」
ゴゴゴ……と地揺れがしたと思えば、大地が裂けて深淵から大きな目がこちらを覗いている。
「こ~こ~か~ら~出~し~てえ~」
どうしてこんなことになっている!
わしだって救いを求めていただけだ!
いつの間に世界の理から外れた場所へ片足を突っ込んでいたというのだ!
助けてくれ!ラハブ嬢!
ガバッと目が覚めた、夢だったか。
気がついた時には布団に入っていた。
「はあ、勘弁してくれ…」
「起きたのかい、だいぶうなされていたねえ」
「当たり前だ、今日街を歩くのが心底きついわ」
宿屋をチェックアウトしてみかえるは調査に乗り出す。街を歩けば至る所に箱が置いてある。
聞いた所によると箱の中身は何も妻帯者だけではなく犬や豚を飼う人もいれば人形やぬいぐるみを置いておく人もいるらしい。
調査をしていると変な男が話しかけてきた。
「あんた見ない顔だな、外国人か?」
その男はマネキンの腰を抱いて歩いてきた。
「あ、ああそんなところだ」
こちらの視線に気づいたのか、彼はマネキンを紹介してきた。
「こいつはおれの妻さ、綺麗だろう?結婚するのに貯金を全て出したぜ」
「この方は君の妻か、そうか……確かに美人だな」
「お?てめえ!今この男に色目使っただろ!」
男はいきなり狂ってマネキンに折檻しだした。
「許せねえ……てめえみたいな女はきっちり教育しないとな!今夜は寝られると思うなよ!」
男はみかえるに向き直ると別人のように正気に戻る。
「すまねえ、恥ずかしいところを見せちまった。おれは家に帰ってこいつを再教育するからよ、じゃあな」
最初から最後まで狂人だったようだが、あの手の人間は行動が読めない、あまり深く関わるべきじゃないだろう。
不意に誰かに肩を叩かれた。みかえるが振り返ると先ほどのマネキンが話しかけて来た。
「気をつけて」と。
どっと冷や汗が出てきた。目をこするとそこには誰もいなかった。
「この国について嗅ぎ回っているというのはお前か」
今度は正面から話しかけられた。
ここの自治組織に思ったより早く見つけられてしまったようだ、おそらく訓練された兵士がそこら中に配置されているのかもしれない。
案外さっきの男も気が狂ったふりをしたパトロール要員だったのか?いや、それだけは無いと思いたい。
「気をつけろ、見たところただのちんちくりんのようだが何か違和感がある」
リーダーらしき男が何か勘づいたようだ、まあ実際には天使になったばかりで何もできないのだが。
とりあえず背後から蹴り飛ばされた、あまり痛くはないがあれよあれよという間にお縄にされて取り調べをする機関へと連れて行かれた。
「別にお前には何も聞かない、拷問用の特別製の箱だ楽しんでくれ」
というわけで自分が箱に入れられる羽目になった。怪しい人間相手ならどんな拷問でもできると考えて連れて来たんだろう……冗談じゃない!
おぞましいと思っていた悪夢は歪な現実となって自分自身を呑み込んできた。




