ストックホルム症候群
ウブメは自分でも驚くほど速く走った、足の裏に痛覚などない。盗賊団の輪に入って懇願する。
「なんでもしますから私をさらって行ってください!お願いします!」
盗賊団のうちの一人がすぐさま返事をする。
「いいだろう!お前はおれの妻になれ!」
ウブメは安心から泣きじゃくり、涙が止まらない。
「ありがとう!!ありがとう!!ありがとう!!」
ウブメはひたすら感謝を述べている。男たちからすれば意味が分からないが、ただごとでは無いことくらいは分かる。
「どうしたんだその女、さらって来たんだよな?」
「そうだ!あの家の男、かなり強かった。3人くらいを相手に押し勝っていたぞ」
「この国の人間は気味が悪い!さっさとずらかるぞ」
ウブメは自分を受け入れた男に対して愛すら感じていた、かなり限定的で特殊な感情ではあるが男もまんざらでは無かった。女から感謝をされるのが初めてだったからである。
アジトで盗賊団の手伝いをする間に二人の間には子供ができた。カインとマステマである。
二人は本当に仲のよい夫婦となった。盗賊団の残党は狩猟生活をしながら東の国を転々とした。
しかしその幸せは長くは続かなかった。
「取り返しに来たぞ、ウブメ!無事か!?」
逃亡しながらの生活が5年ほど続いたある日とうとう元夫にみつかってしまった。
彼はもう一人男を連れていた。見たこともない装いであった。
元夫がウブメの前に現れた時、彼の手に血塗れの剣が握られていた。おそらくすでに夫は殺されてしまったのだろう。
ウブメはそれでも二人の子供を守らなければならない、気丈に答える。
「私はもう戻りません、もう既に他の男との間に子供ができました、私に帰るところなどありません」
「何だと!?夫を裏切っておいてその言い方はなんだ!死んでしまえ!」
ギンッ!!と高い音が響く
そこへもう一人の男が立ちはだかった。
彼は夫の凶刃を難なく止めて見せる。
「彼女はあなたと別れたがっているように見受けられるのだが、本当に夫なのか?」
「ああそうだ!ここの盗賊団に妻をさらわれたかわいそうな男さ!邪魔する気なら容赦しないぞ」
男はウブメに問う。
「あなたはこの男の元に帰りたいのか?」
ウブメは顔を横に振る。
「いえ!いいえ!もう二度とあんな家へは帰りません、私の居場所はあそこにはありません……」
「ということらしいので、わしはこの婦人の味方をさせてもらうよ」
「なんだと!?何のために同行を許したと……」
ズバッと彼の胸を切り裂く音が聞こえた。
「すまん、彼女をどうしても助けたいのだ、こうするしかなかった……」
初代クリスは東の国の軍隊に招聘されて指導をするために偶然来ていた。
都へ向かう途中で彼と出会い、さらわれた妻を探すのを手伝っていたのだ。しかし盗賊団の手助けをしたなどバレては戦争が起きかねない、しばらく行動するのに必要なお金だけを渡して、身元不明の子供二人を連れて一週間後には西の国へ帰った。




