姑獲鳥
鳥はあらゆる動物の中でも子育てに向かない動物だ。ウミガメもそうだが、あらゆるリスクのある野生の世界において、わりと適当な教育だけをして野に放つ。
ウブメという名前は他人の子供をさらって育てる鳥の妖怪の名前でもある。
マステマはおそらく自分を捨てたであろう母親とラハブを重ねて見ていたのだろう。
なんとなく憎むべき相手でありながら、わりと相性は悪くはなかった。
「あんた、なぜあの子のことを知っているんだい?」
「話せば長くなるが……」
西の国にて起こったことを微を入り細を穿つように説明した。
ウブメは黙って聞いていた。
「カインはまだ生きているんだね」
「あなたはあの二人と何か関係があるのか?」
ウブメはキセルをトントンとたたく。
「あの二人は私の子供です」
「なるほど、確かにカインに少し似ている気がするな」
「あんたは外国から来たんだね、この国の事情はあまり知らないようだ」
「あ、ああ」
ウブメは大きく構えるかのように立ち上がった。
「この国はとんでもなく男尊女卑な思想が根付いているのさ、女を消費して国を支えるのが当たり前になってる」
みかえるはそこでずっと気になっていたことを訊ねる。
「そもそも街で女児以外の女性が一人もいなかったように思うんだが、もしかしてそれと関係があるのか?」
「なるほど、めざといねえ」
ウブメはふうとため息をついて続けた。
「実はあたしも貰い手ができたことがあってねえ、でも女がどんな立場なのかを知った時、全力で逃げ出した。聞けば都は富国強兵をするために国民にある指令を出していてね、それが特に女に不利なものだったのさ」
「そ、それはなんだ?」
みかえるはぞっとした、かつてのトラウマに悩まされていた頃のラハブのまなざしに少し重なる気がしたからだ。
「ここに来る道中で各家の前に長方形の箱が置いてあるのを見なかったかい?」
「あれか、見たよ」
「あれの中身がなんなのか知りたくはないかい?」
横2メートル、高さ1.5メートル、幅0.5メートルの箱、木箱であったり、雨風がしのげる場所のは紙でできていたり、あるいはとてもおしゃれな絵が書かれていたり、だがそれらはなぜか一様に家の外に置かれていた、その意味は……
「それはね、あの中に女を飼っているんだよ」
初めは意味が分からずに沈黙が支配する。
「飼って……、何を……人間を?」
「妻として娶った人間を犬のように飼ってる」
みかえるはゾゾゾっと背中に冷や水をかけられたようにびびった。
「なっ!?なにを!?この国の人間は何を考えてるんだ!?わからない!怖い!」
みかえるは本気で怯える、異国の地とて異性関係は大した違いが無いとたかをくくっていた、だがそれは大きな間違いであった。
虎や熊に待ち伏せされていたかのような狼狽を見せ、全て夢であってほしいと願い、とりあえずウブメにお願いする。
「さっきの歌を私が寝るまで歌ってくれ、料金は少し上乗せする」
「あいよ……100番まで創られててさ、あんたが何番まで聞けるか見物だね」
ウブメは優しい声音で歌い出した。
部屋の隅でアゲハはとっくに眠っていた。




