二代目継承
なんだなんだ、カインはわしのことを嫌っていたのかと思っていたが意外と懐かれていたのだなあ。
あのまっすぐにわしを見据える眼光は愛にも似ている。
しかもわしに勝つためにあらゆる準備をしていたようだ、見たことない技術ばかりだった。
クリスは嬉しすぎて他のことを考えられなくなっていた。だからこそカインには話しておこうと思っていたことがある。
「見事だぞカインよ、わしはもうここで死んでしまってもいい」
「……」
カインは優勢だった状態からなんとなく気勢が削がれるような、軽く戸惑いを覚えた。
まるで今際の言葉でも残しそうな雰囲気である。
「わしは9才の時、人を食った」
唐突に出た言葉にカインは反応できなかった。
「なんだって?人を、食った?」
「泣き叫ぶ母親から小さな子供を取り上げ、目の前で殺して食った」
「!!!」
クリスたち王宮の人間は元々北の国から女王と共にこの西の国までやってきた団体である。
北の国はとにかく物資が足りなくなることがよくあったらしく、人々が互いに殺し合って食料としてしまうような事件が最近まであったと聞いた。
まさか自分の父親がその当事者であるなどとは思いもしなかったが。
「暗黒騎士カインよ、お前が殺すに値する偉大なパラディンとは一体どこにいる?」
カインは頑張って反論する。
「そ、それだってたぶん、どちらかが食わないと共倒れするとかだったんじゃ……」
「理屈で言えばな、だが毎晩寝る前にホッとする度、あの親子の怨嗟が頭に響いてくる、本当の安寧など40年以上なかった。わしはただ己の罪が許されることだけを願い、異常な人助けをしていただけだ、全て自分のためだ」
「そんな……」
カインの思考が追い付いてくると理想の父親像を押し付けていたのは自分もまた同じだったということを痛感する。
「だがまあ、お前に殺されるなら案外悪い人生ではなかったかもしれん、あの親子もそろそろわしには飽きて来た頃だろう、さっさとわしを殺してお前は正式に二代目クリスの名を継ぎ、善行の呪いにかかるがいい」
クリスは笑ったまま首をもたげてクタッとなった。
そこで殺気を解いてカインはクリスに駆け寄る。
「父さん!父さん!」
カインは初めて心の底からクリスを父と呼んだ。
戦わずに分かり合うことなど性格からして不可能だった、だからこれは避けられない結末であったのだ。
カインはいつまでも泣いていたが、ばつが悪くなったミカエルが呆れたように割って入る。
「おいあんた、何するんだ!」
カインの鼻水がプランとして飛ぶ。
「死んではおらんよ、寝ておるだけじゃ」
「え!?」
「聖騎士は自然治癒が使えるからお主が攻撃を止めた時点でとっくに回復し始めておるよ」
「……」
ミカエルは気まずくて言葉が出せない、カインは思考が止まって何も言えない、少しの間両者の間に沈黙が流れた。時間差でカインの顔が赤くなってくる。
「こんのくそオヤジ!心配して損した!!」
カインはこの時に暗黒騎士の称号と二代目クリスの称号を得ることになった。
クリス在世中はややこしいので正式に名乗るのはクリスが亡くなった後にはなるが、この後クリスはとんでもなく長生きすることになる。




