兵士たちの裏切り
リリスの家でリリスとのやりとりが一通り終えると誰かが家の中に入ってくる。するとそいつは怒号を飛ばした。
「クリス!」
一人の兵士がクリスの目の前に立ちはだかった。
彼は確かカインの手配した兵だ。何か自分に用でもあるのだろうか。
「黙って死んでくれ」
クリスに向かって剣を腹に刺そうとしてきた。
「何を!!」
クリスは後ろに避ける。
カインの手配した兵は約100名、ミカエルの私設兵が99名でカインを合わせて200名ここにいる。
さっきのリリスとのやりとりが女王の意思を無視したと取られて反感を買ったか?
目の前の兵士は顔を覆っているヘルメットを脱ぐ。
「久々だなクリス、お前のことを忘れたことは無かったぞ」
「お前はどこかで見覚えが...」
「女王を襲おうとした兵だよ、あんたくらい偉くなったら顔も覚えてられないのかい」
「ああ、なるほど」
男は地面に立っていたのにいきなり落ちて行った。頭が地面に当たる、痛い。
クリスは男の首をスパッと切り落としたのだ。
「敵ならば容赦しなくていいから楽だ」
そこへカインが中へ入って来た。
「お義父様、あなたの時代は終わりだ、ここからは僕に全て任せてお休みになってください」
カインの堂々とした姿勢にクリスは不意にプッと笑いが込み上げてくる、急におかしな気分になった。
「ハッハッハ!ありがとうよ息子よ」
「こちらへ来てください」
リリスは不安な表情でクリスを見る。
「たぶん大丈夫だ、もう少し休んでなさい」
「クリス……」
カインの後ろについてリリスの家の外に出ると兵士たちを整列させていた。
カインはバッと片手を広げると微笑を浮かべながらクリスを見据える。
兵士たちは全員ヘルメットを脱いでいる、どいつも見覚えがあった。女王を襲おうとしていたグループとその予備軍だ。
「僕はゴミ漁りが大好きでしてね、珍しいオモチャがいっぱいあったので拾って来ました」
「ほう……それで?カインはここからどうするのかな?」
あくまで自分の子供に優しく問いかけるように親として慈しみの態度を貫いていた。カインはそれに対して毅然と答える。
「驚かないでくださいね。ミカエル殿!手筈通りにお願いします!」
「了解じゃい」
ミカエルの私設兵が整列してカインの並べた兵の前まで歩いて来た。
そこでふと気がつく、何かがおかしい、クリスほどの手練れでも寒気のようなものがする。
「各自鎧を脱ぐが良い!」
ミカエルが号令すると鎧の中身は人間ではなかった。彼らの正体は見たこともない何か、背は高くは無いがゴリラのように筋肉隆々で口が頬まで裂けている。
カインの連れて来た兵士たちの顔に疑問の表情が浮かぶ、事前に聞いていた話と違うと言いたげであった。
カインはバイオリンを取り出して弾き始める準備をする。
「それじゃあ……ゲームスタート!」
カインは号令をかけると狂おしくバイオリンを弾き始めた!
それと同時にミカエルの私設兵がカインの連れて来た兵士に襲いかかる!
剣戟が飛ぶ、なかなかの手練れだ。
ミカエルの連れて来た兵士は怪しさ満点だったが意外と良心的な性格をしているようだ。
この時点でクリスは魚人というものの存在を知らなかったが、第一印象はバッチリであった。
「ゲギャ、ゲギャ」
魚人同士で何か会話をしていると思えば三人ずつに別れて3対1になるように陣を組んで行った。
巨漢が槍を突くと魚人たちは散開し、先頭の魚人は高く飛び、後列の2体は左右に別れて相手を挟み撃ちにする。挟み撃ちにした後攻撃するのではなく、ロープのようなものを取り出し足に絡める、すると足を開かされあっけなく尻餅をつく、飛んだ真ん中の魚人が袋を取り出し中身を兵士の顔面にかけた。
「グワアアア!」
えげつない、唐辛子の粉でも入っていたのだろう。
しかもあのアーマーは簡単には脱げない。
なかなかの地獄だな。
魚人たちの手際はかなり速く、一人の相手を2秒ほどで処理し、そのあと刃物を奪った上で兵士の首と首をロープで繋げて二人一組にしている。あんな重いアーマーをつけたままでは立ち上がることもできまい。
あっという間にミカエルの兵士がカインの兵士を戦闘不能状態にした。
カインはバイオリンを弾き終えると今度は剣を取り出し、クリスに鋭い目を向けた。
「前座はここまでです、それでは本日の目玉である僕との死闘をプレゼントしましょう」
「カインよ、まさかお前が裏切るとはなあ……わしはそんなに嫌われることをしたか?」
「いやあ、姉さんからはネタばらししないでほしいって言われてるんだけど仕方ないかな。死ぬ前にくらい全貌を教えてあげましょうか」
「マステマも関わっているのか?何故に謀反を起こしたのか本当に理由がわからん」
カインはコホンと咳払いをした。
「まあ端的に言えばさ、姉さんはあんたに惚れてるんだわ」
「……どういうことか分かるように説明してくれるか?」
「だから、親であるあんたを異性として好きになってしまったらしいんだよ、初恋だったらしい」
「……待て待て、わしはもう50を越える老人だぞ」
フフッとカインは鼻で笑う。
「ちょっと気持ちは分かるよ、よく貴族たちが挨拶にくるけどさ、あんたに会う人はみんな嬉しそうだ、それを見ていてこっちも気分が良くなる、だがその後はどうだ、俺と姉さんを見てあからさまに見る目が変わる、ゴミを見る目になっている!もう耐えられないんだよ、素晴らし過ぎるあんたと比べられるのは!」
「なるほどな、そのためのわしとの一騎討ちというわけか、邪魔者として消しても惜しくない人員としてあの者たちを再雇用したのか」
「あいつらを王宮から追い出したのは偉大な功績だけどその後が良くない、一般市民に乱暴な振る舞いをする人間を街に放ってしまったからね。だからやつらの後始末の次は世代交代をさっさとここですませてしまいましょう」
カインはシャキンと剣をクリスに向ける。
「僕らの愛と憎悪とコンプレックスをまるごとくらうがいい!クリス!」




