家族を失う
聖女任命式から遡ること2年前のこと
雨の中、舞踏を練習している少女がいた。
「1、2、3…1、2、3…あっ!……だめだ、また同じところでつまずいちゃった」
彼女は男爵令嬢のラハブという。
基本は努力家で素晴らしい貴族になりたいとぼんやりと願っている。
「今のところを明日までにマスターしておかないとまた先生に怒られちゃうわ」
その努力している姿をまじまじと見つめる怪しい男がいた。若き日のミカエルである。
「はあ~はあ~、ラハブたん!!わしの天使!あの子をこの手にできたならどんなにか……はうっ…」
率直に言ってラハブは健気な娘であった。運命に翻弄されてしまうその時までは。
馬車での移動中、不運にもラハブの一家は山賊に出くわしてしまう。
ここの山賊は北の国からやって来た民族の血筋を持っている、彼らは物資不足の中を生き抜いてきたため、常に飢えた状態の行動が身に染みている。
腹が減れば人間を食うのが常識なのだ。
三又のボーラーが投げられ、馬の足を束ねてしまう。バランスが崩れた瞬間に3、4人の山賊が一斉に馬へダガーを突き立てる、ヒヒン!と馬は嘶く。
だが驚くのはここからだ。山賊たちは馬を生きたまま食っているのだ。
一際身体の大きな男が御者の腹をナイフで一閃、切り裂いた。
反対の手を素手で腹に突っ込んで内臓を引きずり出す、すると景気よく血が吹き出した。現実感の無い風景にラハブは恐慌状態でありながら何故かプッと笑いが吹き出した。
狂った中にも安心感に似た、悪いジョークでも見ているような、あまりに荒唐無稽な状況に彼女はおかしくなったまま、なんと踊り出したのだ。
その間にも父と母は山賊たちに惨殺されていく。
「ラ、ハブ……」
「お願いします、娘だけは!ぐはっ!」
執事もメイドも見境なく殺されていく。生きたまま刺され肉を切り取り彼らはそれを頬張る。野生動物の手際に人間の頭脳を持つ悪魔のようであった。
「お嬢様!お下がりください!」
「お嬢様……」
「お嬢様!」「お嬢様」「お嬢様…」「お嬢様ああ!」
みんなが殺されていく中、ラハブだけはトランス状態から還らないまま、踊り続けていた。
何故か彼女だけは山賊に襲われなかった。
山賊たちはなんとなく狙わなかったが、次第にその異常事態に気づく。
彼らはラハブの中に神を見たのだ……
鮮血が収まるまで彼女はひたすら踊り狂った、微笑みは綺麗な形に安定し、美しくすらあった。
全てが終わった時、彼女は気絶してしまう。
次の朝、山賊のアジトで目が覚めた彼女は記憶を探る。
「え……え?パパ、ママ?みんな、みんな死んじゃった!!私は一体何をしていたの!?分からない!覚えてない!」
発狂したラハブの絶叫がアジト内に響く。




