西の国の城下町
大鵬王が追って来ないのを確認してアマテラスはホッとした。
確かにいつかは戦ってもらおうとは思っていたがまさか勝算を練る前にぶつかりに行くとは想定外である。
そして何よりトヨウケヒメに先程のやり取りを知られてキレられた。
「ツクヨミさまに何てことをさせてるんですか!?」
怖かった、まさか真正面から怒られるとは。
気を取り直してアマテラスは問うた。
「どうじゃ、あれが大鵬王じゃが勝てそうか?」
「正直強そうですね、このまま戦って勝つのは恐ろしく勝率が低い」
さっきまでやる気まんまんだった男から自信の無さそうな感想が出てくるとは予想外である。
「とりあえずこのまま西の国の王宮の城下町へ向かうぞ、大鵬王がまだこの辺をうろついていてはいつ攻撃されるか分からん」
「そうですね、それと情報収集もしたいところではあります」
アマテラスさまに抱えられながら遠くを見ると地平線の向こうに低い目の黒いタワーが見えた。
「あれは……西の国にもあるんだな」
「あれか、あの黒いタワーはトヨウケヒメに聞くと良い、なんか知っとるっぽいぞ」
30分ほどしてようやくまばらに人の姿が見え始めた。
「やっと着いたわい」
王宮の城下町へ着いた。
「じゃあ妾はこの辺で失礼する」
アマテラスさまはまたどこかへ飛んでいった、身分の割に自由な人だ。
城下町は肉料理を出す店がかなり多いらしく、そこらじゅうから香ばしい香りが漂ってくる。
「この香りは、窒素固定をする植物を焼いた時とかに出る匂いだな」
「へえ、肉なのに植物由来の香りがするのかい?」
しばらくぶらぶらと歩いてみる。
「一体何の肉だろ、この分だとたぶん街全体で全く同じ種類の肉を使ってそうなんだけどな」
「ふーん、昔人間の肉を食わせる殺人鬼の小説とかを読んだことがあるけど」
「クリスくん、やめてくれ……」
とりあえず宿屋にチェックインしに行く、飯は後だ。
トヨウケさまは街の外で待っていてくれるらしい、ちょうど値段的にも無理がない所をみつけたのでチェックインを済ましてトヨウケさまと合流する。
「カンナヅキ、もう晩ごはんは食べましたか?」
「いえ、先にトヨウケさまに報告をすませようと思い、何も食べていません」
「それならば今夜のご飯は私が用意しましょう」
カンナヅキは感動してしまう。
「ありがとうございます!勉強させていただきます」
「しっかりと見て盗むのですよ」
トヨウケさまが今夜用意したのは西の国の一般的な料理であるらしい。
透明な湯飲みに氷の入った黒っぽい飲み物、麦茶をかなり濃くしたような香りと苦味、そこへサトウキビ由来の砂糖を惜しげもなく放り込み風味を損なわない程度に、それでいて強烈に甘い!
氷の冷たさも相まって一気に飲み干してしまった。
「すいません、味わう間もなく飲み終わってしまいました」
「しょうがないですねえ、2杯目はゆっくり飲んでください」
トヨウケさまはこうなることを見越していたのか、2杯目をすぐに入れてくれた。
「氷はどうやって作ったんだろ」
「砂漠地帯がそばにあるのですが、そこへ高い壁を設置します、夜は氷点下に達するので薄く水を撒いて薄氷を毎晩重ねていきます、すると分厚い氷が生成できるというわけですね。そしてこの黒い飲み物はアイスコーヒーと言います、タンポポの根や麦を炒ったものに近い風味ですが、これはコーヒーという木の実の種を炒って作りました」
トヨウケさまはそう言って牛乳を注いでくれた。更に味にまろやかさが加わって先ほどとはまた違った風味を楽しむことができた。
「なるほど、これは風味が強くて満足感が得やすいですね」
「そうですね、ただ少し依存性があるので飲みすぎないように気をつけてください」
次はパンに棒状の肉が挟まった食べ物をかじる。
するとパキンと割れて肉汁が溢れ出す、赤いソースと黄色いソースが肉のくどさを中和し、それらをパンが吸い上げる。この酸味がなんとも食欲をそそる。
「これはすごいバランスでできていますね、何という料理ですか?」
「これは、ホットドッグと言います」
「何!?犬だと!」
ちんちくりんな赤い天使が視界に飛び込んできた、みかえるである。
「まだ生きてたのか、しぶとい……」




