囚われの姫
太陽が沈んできたのでカンナヅキとクリスは一旦森の中の家へ戻り休息をはさむことにした。
その間にトヨウケヒメは疑問を晴らすべく、一人で荒れ地の果てに見える黒いタワーへと向かった。
自分が核にされた時と比べて大きさは10分の1程度ではあるが、驚くべきはそこではない。
「メリュジーヌ!入っていいですか!?」
トヨウケヒメが外から声をかけると黒い塔の主は反応する。
「いいよ、入ってこい」
「それじゃお邪魔するわね」
その中にいたのは黒い肌を持つ美人だった、大蛇の下半身に大鷲のような羽、頭には金の冠をかぶっている。名前はメリュジーヌ。
トヨウケヒメとメリュジーヌはクリームパンの開発のために協力した仲なのだ。つまり言い方を変えれば友である。
トヨウケヒメは疑問に思っていることを率直に聞いた。
「クリスってたぶんあなたの息子だと思うんだけど、一回でいいから龍殺しをやってみたいって、そう言っていたんですよ」
メリュジーヌは大きく反応したかと思えば、目から涙が溢れてきた。
「あの子がそんな…………そんなに元気に育ってくれたのね!!」
トヨウケヒメは面食らって無表情になる。
メリュジーヌの事情としては、クリスたちとの生活は期間限定で行っていた。クリスが7歳を迎えた辺りでクリスたちのもとを去ったのだ。
「どういうわけか、メリュジーヌは悪い龍に囚われてるお姫様みたいな設定になっているんですけど」
メリュジーヌはツボにはまったらしく笑いだした。
「私が、お姫様!あっはっは!面白い、人間とはどうしてこうも……いいだろう、かわいい息子のためだ、ラスボスの役くらい引き受けてやろう」
メリュジーヌとていつまでも息子のそばにいたかったが、自身の命運がそれを許さなかった。
メリュジーヌの黒いタワーは龍としての陽性と女性としての陰性の一人二役で成り立っている、だからクリスのそばにずっといればクリスは衰弱死するところであった。
泣く泣くクリスのもとを去ったが、あれから元気になっていると聞けばうれしくもなる。愛する者のそばにいられない残酷な運命ではあるが戦いによってのみ愛する者と深く結びつくことができるのもまた真実。
というわけで、男ならば大抵の人間が陥ったことのある病を一緒に克服すべく母は立ち上がるのだ。
山に落ちている木を拾って龍を倒しに行く妄想を健全な男児ならばするもので、クリスの家系はほんのちょっとそれにはまりこんで人生まで左右してしまうだけの普通の家柄だった。
「トヨウケさま遅いな」
「せいっ!せいっ!」
クリスは木刀をずっと振るっている。
「カンナヅキくんは剣術とかしないの?」
「剣術か~、見たことはあるよ」
カンナヅキは二刀流で木を持ち、手を下げた状態で立つ。
「とりゃっ!」
クリスが木刀を突くとカンナヅキは急速に両手を閉じ、右手の木で突きを払う。その勢いで右手でもう一回切る動作を入れ、更に胸の前に両手を準備して両手を開く動作で右手で切る。この間でだいたい0,5秒くらいだろうか。
「見たことない太刀筋だね」
「東の方の国ではこういう技術が盛んに練習されているらしいよ、まあ製鉄技術がまだ未熟で刀の重さが2キロぐらいあるからこんなに速くは切れないんだけど」
「ふむ、なかなか便利な剣術だね。1つそれを教えてくれないかい?」
カンナヅキはニチャリと笑う。
「いいとも」




