自我分裂
その時だ、太陽が落ちてきて人の形になっていく。擬似的な太陽なので距離は1キロくらいしか離れてない。
「弟よ!西の文化を放棄してもらうぞ」
大蛇の首が全て空を仰ぐ。
「言うことを聞かせたくばまずは這いつくばって懇願してみせろ、それが女のとるべき選択だろう。まあ弱者の言うことなど聞くことはないだろうが」
何とかこの土俵を用意できた。後は己を通してくれ、スサノオさま。
アマテラスさまが扇子を振れば炎の壁が立ち昇る、だがヤマタノヒドラとなったスサノオさまに火は全く効かないんだ、塩水をかけたら一番効くんだけどそれは内緒だ。
「はっはっは!!弱いとはみじめなものだな!姉上から強さをとればただの変態女だ!」
「スサノオよ、調子に乗るな……」
「調子に乗らずしてどうする!?あの姉上がこんなに弱いのだぞ!」
「お前はこんなことをして満足なのか?」
「当たり前だろう、姉上を貶めて奴隷のようにできた時おれの心は初めて癒やされる!」
「愚かなり!」
アマテラスさまは両手を上げた。
「やたがらす…」
空からもう一つの太陽が降りてくる。
「しまった、水の邪龍と戦った時は現世だったから他のものが邪魔で力を抑えていただろうが今なら構わず焼き払えてしまう!」
スサノオは一生懸命に頭を回転させる。
「(このままでは消滅してしまう!何か無いか)」
スサノオさまは何を考えたのか、海に飛び込んだ!
「スサノオさま!」
「お父さま!」
ヤマタノヒドラの身体は枯れていくように見えた、だがそうはならなかった。
秒単位で遺伝子は変容を果たしていく、進化が環境に追いついていく。
その結果、海を覆っていく勢いで増殖をしていくに至る。
一つの首から16もの新たな首が生えてくる、更に増えた首からも新たに16本に枝分かれしていく。それとは同時進行に巨大化もしている、分裂と巨大化を並行して行っているため爆発的にヤマタノヒドラは異次元に溢れていく。16×16×16×16×16×16×16×16×16×16×16…………………………………………………………………………………………………………………………
「これが弟の本領発揮というわけか」
「ダメだ!スサノオさま!それ以上は……」
ヤマタノヒドラは際限なく増殖するのにスサノオさまの気配は薄れていく。今目の前にあるものは全くの別物だ。
低い声でそれは囁いてきた。
「哲学というものを教えてやろう……」
「お前は誰だ!?」
「わたしはスサノオに存在するあらゆる面をバラバラにした、そんな中の一人だ。スサノオは西の文化というものを理解しすぎて個に執着してしまった。それでありながら自我というものをあまりにも軽視しすぎていたのだ、高度な神であることがかえって危険信号に鈍くさせていた」
「個に執着だと?」
「スサノオは男らしくなりたがっていただろう、そこへ女装を強要されるという不調和が発生した、だが同時に女装した己に惚れてしまうというイレギュラーが起こる、ヤマタノヒドラの力はその歪みを助長してしまったのだよ、持て余す力でスサノオの心は壊れてしまうしかなかったのだ、その代わり全く新しい自己というものに飛びついた」
「自分らしさを追求する心から塩水に対応できるほどの進化を促したっていうのか?そんなババ抜きを一人でするみたいなノリから世界を覆い尽くすなんて考えられねえよ!」
「だがお前たちも知っているだろう、自我の芽生えによって人間になることを望んだ変わり者な神を」
「え?だ、誰だ?」
((お前のことだよ!!))
アマテラスとイツキは喉元まで言いたいセリフが出てきそうになるがなんとかこらえる。
「北斗!北斗はどうなるんだ!?」
「この辺りからこの辺りまで切ってみろ」
「手刀!」
指定された辺りをすぱんと切ると切れっぱしはドラゴンヘッドを形成し、北斗の眉間が割れて姿が龍となった。
「イタタタタ!クウン……」
「我慢してくれ、切るという行為には悲しみが含まれるのだ…」
「言いたいことはそれだけか……」
カンナヅキはすかさずヤマタノヒドラの本体の上に乗り、身体をスッパスパと切っていく。
「手刀!手刀!手刀!手刀ー!!」
切れた端から数々の神が発生してくる。
ルシファーとヤマタノヒドラの境目を切りとるとルシファーは宙を舞い、高らかに宣言する。
「これからわたしは赤龍ルシファーと名乗り、わたしが望む文明の礎となっていく、それだけが望みだ」
ルシファーと名乗るスサノオさまは高らかに笑いながら異次元空間を去って行った。
「アマテラスさま!他の異次元空間にヤマタノヒドラを移せますか!?」
「あいわかった、砂漠なんかがよいじゃろう、水気が全くない世界で永遠に愛してやろう」
「しかしスサノオよ……もしこれで全部演技とかだったら許さん!」




