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疾風ガール  作者: メリット5
仲間
19/20

漁場と漁獲量

感想お待ちしてます!

 大学駅伝大会まで、あと三週間。

 一ノ瀬の厳しい訓練に加え、駅伝、マラソンシーズンに突入したため、大小のマラソン大会や駅伝大会の警備に従事していて、あっという間に大学駅伝まで、三週間となっていた。

 しかも、相変わらず莉奈の検挙数は少なく、近藤から叱咤されることもしばしば。

「オコジョ行くぞ」

 一ノ瀬がパソコンを閉じ立ち上がると腰を動かす。

 高堂マラソンから莉奈は、今までの「七瀬」から「オコジョ」と呼ばれることが増えた気がする。

「はい」

 莉奈は新しいその呼び名に、いつものように素早く反応する。

 あれから、スマホで「オコジョ」と言うものを検索したが、可愛い写真がたくさん出てきたため、オコジョと呼ばれることは嫌ではなかった。

「行って来ます」

 莉奈がデスクに向かう神戸に声をかける。

「気を付けてな」

 右手が上がったのを確認してから、莉奈は、いつものように一ノ瀬に続いて庁舎を出る。

 微かに吹いた夜風が、体感温度を一気に下げた。

「今日は、オコジョの検挙数増やすために、頑張るか」

 珍しくやる気のある一ノ瀬が、パトカーのロックを解除した。

「お願いします」

 一ノ瀬が乗り込むのを待ってから、莉奈も覆面パトカーに乗り込んだ。シートベルトを締めると莉奈は、すぐに暖房のスイッチを操作する。近頃、強烈寒波の到来により寒さが厳しくなって来た。県北部では、例年以上の雪が降っており、事故や立ち往生の連絡が止まない。

「オコジョのために、俺の仮眠時間削ってあげるから、違反見逃すなよ」

 一ノ瀬がアクセルを踏み込みながら言った。本来、庁舎で仮眠はすることに近藤小隊はなっている。そのため、パトカーで仮眠する一ノ瀬の仮眠の時間は、本来取締りをする時間。一ノ瀬の仮眠は、本来ないものだ。

「分かりました。運転お願いします」

 ナビを操作しながら莉奈は、二番コースを確認する。二番コースは、大きな国道と主要県道が交差するのに加え、飲み屋もそこそこあり、ある程度の検挙数は期待出来る。

「俺のイチオシの一停の漁場教えてあげるよ。いつも昼、白バイで見てるとこ」

「ありがとうございます」

 検挙数が交機トップの一ノ瀬の取締りスポットなら、検挙数も稼ぐことが出来るだろう。一ノ瀬の提案は、素直に嬉しい。

「その代わり、昼は俺の漁場だから荒らすなよな」

 漁場は各自が、警ら活動中に見つけたものや、今までの経験により導き出されたものも多い。

「大丈夫です。私もいくつかの漁場がありますから」

 莉奈は、あえて笑顔を一ノ瀬に見せた。

 その漁場は、漁獲量は少ないけど。

 しかも、人の漁場を荒らすことはご法度だ。

『交機三十二から交機隊』

『交機隊です。どうぞ』

『交機三十二、取締りに出動します。どうぞ』

『交機隊了解』

『以上、交機三十二』

 莉奈が出動報告を無線で行う。助手席はやることが多い。

 江乃町庁舎から、一ノ瀬の漁場までは少し距離があっため、漁場に着く前に、三件の違反を稼ぐことが出来た。

 噂の漁場は、花咲町にあった。

 町の北部の山には展望台があり、デートスポットである一方、峠道では走り屋がドリフトを繰り広げており、夜になると事故の通報が相次ぐ。

 一ノ瀬がよく取締るのは、一停無視と携帯電話等使用の違反。今日は夜間のため一停無視を取締ることになった。

「早いうちに数稼いで、江乃町で寝よう」

 パトカーを空き地に止めると、一ノ瀬は身体を伸ばした。

「今日は、パトで寝ないんですか?」

「たまには、江乃町の布団で寝たいからさ」

 江乃町庁舎の仮眠室は、所属ごとに部屋自体が分かれているが、交機隊の仮眠室に、なぜか機捜の捜査員が寝ていることもある。しかし、各所属の事情を考慮して、お互いに文句を言うことはない。

「いつも、私が寝ている間は、何してるんですか?」

 以前から気になっていたことを聞いてみる。本来の仮眠時間は、長い時で四時間とれる。しかし、いつもパトで寝る一ノ瀬は、パトで二、三十分の仮眠をとった後は、一睡もしていないらしい。

「報告書作って、あとは、スマホいじったり、テレビ見たり」

「深夜に面白いテレビ番組あります?」

 莉奈にとっては、深夜のテレビ番組といえば、通販や朝まで討論会みたいな番組しか放送されえいないイメージ。

「深夜の通販番組って結構面白いし、いいモノ売ってるぞ」

 変わり者の一ノ瀬が気に入るモノは、恐らく正常な人にとっては、変わったモノだろう。

「よく、少ない仮眠でやって行けますよね」

 交番時代、よくパトカーの助手席で居眠りをしてしまい、わざと急ブレーキをかけられて、起こされた莉奈は、一ノ瀬の睡眠感覚が信じられない。

「はい、一時不停止」

 一ノ瀬が言うとパトカーを勢い良く発進させた。莉奈もすぐに赤色灯を点灯させ、マイクを手に取る。一ノ瀬がパトカーを軽自動車の後ろにピタリとつけてパッシングをする。

「前の車の運転手さん。この先のコンビニの駐車場に入って下さい」

 莉奈の呼びかけにブレーキランプが何度か光った。

 莉奈は、シートベルトを取ってドアを開けると、コンビニの駐車場に停止した軽自動車に駆け寄った。

「すみません。運転手さん。あそこ一時停止あったの気づかなかったですか?」

「隠れて違反を見てるなんて、警察はやっぱり卑怯だな。もっと、交差点とか、見えるところにいたら、誰も違反をしないだろう」

 中年男性が、早々に不満をぶつけて来た。

「では、運転手さんは、警察官が居なければ、信号も無視するし、一時停止も止まらないってことですか?それでは、危ないですよね?」

「違反を防いでくれないの?警察は…」

 警察には、街頭活動という、交差点などに警察官が立ち、歩行者の横断の手助けなどを行いつつ、違反を取締る活動もある。

「違反を防ぐ活動もしてます、運転手さん。まずは、免許証いいですか?」

 このドライバーには、何を言っても仕方ないと感じた莉奈は、免許証の提示を求める。

「急いでるから、早くしてくれ」

 半ば逆ギレされつつも、免許証を受け取った。

「ご住所変わってませんか?」

「変わってない」

 終始、機嫌が悪い。

「携帯の番号だけ教えてくれませんか?」

「080-2561-……」

「ご職業は?」

「早く作れって!」

 ついに、不満爆発。

「切符に記入しなければならないので、ご協力をお願いしますよ」

 怒りに怒りで立ち向かっては、収拾がつかなくなる。

「会社員」

 必要事項を聞き終えると、莉奈は素早くパトカーに戻った。

「否認?」

 莉奈がドアを閉めると同時に一ノ瀬が言う。

「いや、警察は卑怯だとか、急いでるから早く作れって、文句が凄くて…」

 莉奈がメモを切り取ると、免許証と共に、一ノ瀬も見えるように、計測器の上に立てかける。

「こいつ、俺と同い年だ」

 切符を作成しながら、一ノ瀬が呟いた。

「知り合いですか?」

「いや、全然知らん」

 メモを見ながら、スムーズに切符を作成する一ノ瀬。

「左右確認すれば分かるとこに居るのにな」

 確かに、しっかり停止し、左右を確認すれば、パトカーには、必ず気付くはず。実際に、猛スピードで交差点に近づいた車が、停止線付近で急ブレーキをかけ、パトカーに気付いた反応をすることもいる。

「納付書書けました」

 莉奈が納付書を切り取る。

「今、別々に渡しに行くと、七瀬が文句を言う対象になるから、一緒に行って、指印求めて離脱しよう」

 一ノ瀬が指で切符をなぞりながら、記入漏れがないか確認して行く。判子を押し、完成だ。

「よし、行くか」

 一ノ瀬の声に、莉奈がほぼ同時にドアを開けた。一ノ瀬が運転席に近づく。

「運転手さん、窓開けて」

 一ノ瀬がガラスをノックして、窓を開けさせた。

「これが、切符なんだけど、お名前の読み方だけ教えて」

「こが けんと」

「はい、ありがとうね。今、印鑑とか持ってる?」

 一ノ瀬が言うと、ドライバーは首を振った。

「じゃあ、ここに署名と右手の人差し指の指印を頂戴」

 ドライバーは名前を切符に殴り書きし、指印をした。

「事故増えてますので、お気を付けて。では」

 終始、一ノ瀬がペースを握っていたためか逆ギレもされず、しかも早くに現場離脱が出来た。


 これが経験の差か…。


 うなだれながら覆面パトカーに戻った莉奈は、シートベルトを装置する。

 それからここの漁場では、四件の切符を作成し、莉奈の漁獲量はいつもより多めだった。

「漁場変えるか」

 一ノ瀬が呟くと、覆面パトカーがゆっくりと進み出した。


これから、話は急展開

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