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疾風ガール  作者: メリット5
仲間
18/20

声の主

久々の更新です。

よろしくお願いします。

「早く降りんかい。七瀬」

 ヘルメット越しに伝わって来た衝撃が、フリーズしていた莉奈を再起動させた。振り向くと一ノ瀬が立っている。

「すみません」

「とりあえず、お疲れ様。それだけ」

 咄嗟に謝った莉奈に対して、サッパリとした言葉を残した一ノ瀬は、待機テントに向かい歩き出した。

 莉奈もエンジンを切り、白バイから降りた。スタンドを立てるとまた、莉奈は立ち尽くしてしまった。ついに終わってしまった。結局、何も学ぶことはできなかった…。

「また、フリーズしてるぞ。七瀬」

 テントから届いた一ノ瀬の声は、呆れていた。

「疲れて、充電切れたんじゃないですか?」

 神戸の笑い混じりの声に、再起動。

「すみません」

 再びその言葉を口にしてから、テントに向かう。テントは、無線機とお茶、救護用具などが置かれたシンプルなテント。風が駆け抜け寒い。

 お茶を手に取った莉奈の背中に、何かが当たった。

「これじゃないか…」

 その声に驚いて振り返ると、一ノ瀬がプラグで莉奈の背中を突ついていた。

「何してるんですか?」

「充電させてあげようと思ってさ。充電切れたんだろ…」

 一ノ瀬がにやけながら言う。この人は、ふざけているのか、少し感覚がずれていることに気づかず、本気でやっているのか、判断が難し過ぎる。

「私、電気で動くロボットじゃないので。大丈夫です」

 その言葉を聞くと一ノ瀬は、プラグを戻した。

 この人、変わり過ぎ。

「お疲れ様。七瀬」

 神戸が莉奈の肩を叩く。

「お疲れ様です。神戸さん」

 緊張から解き放たれた莉奈は、何か甘いモノを食べたい気持ちでいっぱい。

 何も学べなかったのに、江乃町に帰ったらプリンをくださいとは、さすがに言えない。

「お疲れ様。もう、近藤小隊勢ぞろいか。つまらないな」

 近藤が笑顔でグローブを外しながら、会話に加わって来た。

「小隊長が、一番早めに仕事が終わって江乃町に帰れるからって、この班を会議でかっさらって来たんでしょ」

 神戸が言う。近藤は、図星だったのか苦笑いを浮かべる。その面倒臭い事の嫌いな近藤小隊長らしいところでもある。

「とりあえず、大会本部からの指示待ちで…。各自、警備応援に備えてトイレとか水分補給しておくように。早速、俺はトイレに行ってくる」

 小走りでトイレに向かった近藤。恐らく、今まで我慢していたのだろう。

 仮設トイレの並ぶ駐車場は、警察関係者、大会運営者が行き交う。

「みなさん、お疲れ様です」

 その声に思わず、莉奈は勢い良く振り返った。あの無線の声と同じ声。

 振り返った莉奈は、三度目のフリーズを起こした。

「フリーズの七瀬だな。あだ名は今日からフリーズだ」

 一ノ瀬が莉奈のヘルメットを軽く叩き言う。

「お疲れ様です」

 地球の裏側との中継くらいのタイムラグを経て、莉奈は返事をする。

 まさか、あの声が以前に交通人身事故の処理の際に見かけたイケメン君だったとは。

「君、どこかであったよね?」

 一ノ瀬がボールペンで頭を掻いた。

「以前に深夜の人身でお会いしました。こちらの女性から、計測結果を頂きました」

 イケメン君の丁寧な説明に、一ノ瀬はイケメン君の存在を思い出した。

「そうだ。あの時のヤツだ」

「思い出していただけましたか。よかったです。私、警備応援で派遣の新島 賢人です」

 その名前を聞いて、一瞬、一ノ瀬がピクリと反応した。

「新島って、親は警察官か?」

「はい。今は、本部の教養課にいます」

 イケメン君改め新島 賢人は、サラブレッドらしい。

「まさか、鬼の新島助教の息子さん?」

 新島が一瞬、にやけてから答える。

「そうです。警察学校の助教時代にそのように裏で呼ばれていたと、言ってましたから…」

「まさか、新島助教の息子さんとは…。助教には、よく柔道の授業で俺は、怒られながら投げられたからなぁ…」

 一ノ瀬が再びボールペンで頭を掻いた。柔道が嫌いな一ノ瀬は、やってもいない柔道の訓練を訓練記録簿に記入して誤魔化している。

 それから、一ノ瀬の思い出話がしばらく続いた。

 柔道の授業で、罵声を浴びせられたこと、個別に呼び出されて、怒られたことなど、怒られた思い出話しか、一ノ瀬からは出てこなかった。

「これからも、お仕事をご一緒にさせて頂くことも多いと思いますので、よろしくお願いします」

 一ノ瀬の思い出話がひと段落すると、丁寧に頭を下げたイケメンな新島は、颯爽と去っていった。丁度、トイレから帰って来た近藤とイケメンな新島がすれ違う。

「大会本部から連絡があって、近藤小隊は、最後尾の警備応援だそうだ」

 近藤がなぜか笑顔で言った。

「うわっ。最悪だぁ…」

 神戸が思いっきり嫌そうな顔をして、両手を膝につける。莉奈も思わず、溜息がこぼれてしまった。

「嘘だよ。ここで、解散」

「嘘かぁ。よかった。早く帰ろ」

 嫌そうな顔を一変させ、笑顔をみせた神戸。はしゃぐ神戸に対し、一ノ瀬は静かに机に置かれた自分のヘルメットを取ると、一人で白バイに向かう。

「相変わらず早いな。一ノ瀬は。七瀬も早めに江乃町に帰っていいからな」

 それを見た近藤が、腰に手を当てながら言った。

「分かりました。では、お先に失礼します」

 近藤に軽く頭を下げた莉奈は、一ノ瀬の後を追う。

 まだ、走れば間に合う。

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

 莉奈にかけられた声に、走りながら咄嗟に答えた。この声は、イケメンな新島の声だ。

 ちゃんと挨拶したかったな…。

 色々なことを考えていると、莉奈は一ノ瀬に追いつく。

「一緒に帰りましょうよ」

 莉奈が白バイに跨りエンジンをスタートさせた一ノ瀬の顔を覗いた。

「カップルじゃないんだから、一緒に帰る意味あるか?」

 少しにやけて一ノ瀬は言う。

 色々、道中に先導について聞きたいのに…。

 マラソン大会でも、一ノ瀬とは離れてしまい、莉奈は技を盗むことは出来ていなかった。

「じゃあ、一人で帰ります」

 莉奈は肩を落とし、自分の白バイに向かった。

「七瀬、待て。そんなに落ち込むことか?」

「大丈夫です。何と無く誘ってみただけなので…」

 本当の理由は隠して莉奈は答えた。

「そうか…。特に理由のないなら一緒に帰ってやってもいいぞ」

 この人は、やっぱり変わってる。

「では、一緒に帰りましょう。どうして、一度断ったんですか?私が、一ノ瀬さんに何かするとでも思ったんです?」

 露骨にテンションが上がった莉奈に、一ノ瀬は、少し驚いた表情を浮かべてから答えた。

「殺されるかと思った」

 笑顔でとてつもなく変なことを言った一ノ瀬。

「一ノ瀬さんに私はどう見えてるんですか?」

「ちょっと凶暴そうなオコジョ」

 二人の間に沈黙が広がる。

「オコジョ?」

「そう。オコジョ」

 笑顔の一ノ瀬は、フェイスシールドを下げた。


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