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疾風ガール  作者: メリット5
仲間
20/20

冬の夜

駅伝の先導まで、あと三週間。

感想、評価お願いいたします。

 深夜の国道は、車通りも少なくなり違反車もいなくなるため、深夜の取締りは、眠気との決して負けられない戦いだ。眠気対策として、ラジオを聴いているが、だんだんそれも心地よい音楽に聞こえてしまう。

「懐かしいなぁ。この番組まだ、放送してるんだ」

 赤信号を待つ間、ラジオを選局していた一ノ瀬が手を止め呟いた。

「一ノ瀬さんって、ラジオ聴くんですね」

「昔はよく聴いてた。受験勉強とかやりながら」

 懐かしさから、思わず一ノ瀬の表情が緩んだのが莉奈にも分かった。

「テレビ見ない派の人ですか?一ノ瀬さんは?」

「あまり見ないな。好きなドラマとかは録画して見えるけど」

 テレビをあまり見ない一ノ瀬は、自宅では何をしているのだろう。

 信号が変わり、覆面パトカーが走り出す。

「もしかして、一ノ瀬さんはテレビが白黒の世代ですか?」

「俺を何歳だと思ってんだよお前は。俺、まだ三十だぞ」

 そういえば、初めて一ノ瀬の年齢を聞いた気がする…。職場のパソコンで閲覧できる警察サイトには、顔写真入りの個人データがある。だが、パソコンが苦手な莉奈とっては、その便利機能が扱えず、書類作成やメール機能しか使ったことがない。

「それなら、神戸さんと一ノ瀬さんは、どちらが年上ですか?」

「神戸は、俺の二歳年下だよ。お前、同じ小隊なのに、そんなことも知らないのか?」

 確かに、莉奈は同じ近藤小隊のメンバーのことは詳しく知らなかった。

「神戸さんがプリン大好きなのは知ってますよ」

 莉奈が自慢気に言うと、一ノ瀬が笑う。

「そんなこと、会話しなくても分かるよ。いつも、机でプリン食ってたら」

 神戸のプリンの消費量は異常だ。小隊の冷蔵庫の三分の一は、神戸プリンだ。そもそも、神戸以外が小隊の冷蔵庫に飲み物などを保存することは、夏を除けば、あまりない。ほぼ、神戸のプリン専用冷蔵庫と言ってもいい。

「七瀬と上野が交機に来てから、歓迎会やったよな?」

 一ノ瀬の記憶では歓迎会を開催したことになっているらしい。

「地震があって、一ノ瀬さんが広域緊急援助隊の交通部隊として、出動しちゃって、歓迎会が出来なかったんですよ?覚えてませんか?」

「そうだっけ?」

 一ノ瀬は本当に覚えていないらしい。被災地の被災状況確認のため白バイは重宝される。隣県で起きたその地震は、多くの被害を出した。

「日を改めて…。が結局、一年経っても開催しないので、彩も、もう歓迎会のことは忘れていると思いますよ」

「それは、失礼したなぁ。じゃあ、今度、一年遅れの歓迎会やるか…」

 一ノ瀬は、何かと幹事をやることが多い。飲み会やスキー旅行など、レクレーションとなると、一ノ瀬が幹事をやるのが、交機の暗黙の了解らしい。

「今度は、忘れないで下さいよ」

 莉奈は笑顔で一ノ瀬に言う。

「おう」

 一ノ瀬は短い返事を笑顔で返した。

『至急、至急。交機…から…』

 しかし、突然の至急報に、一ノ瀬の笑顔が一瞬で曇ってしまう。

『至急、至急。先ほどコールした交機のもの。無線断続再送願う。なお、至急報につき、県警本部宛に送れ。どうぞ』

 機会音が途切れ途切れに聞こえるが、無線からは言葉が伝わることはなかった。

『至急、至急。県警本部から交機隊』

『至急、至急。交機隊です。どうぞ』

『緊急発報等の作動は、端末から判明しますか?どうぞ』

 緊急発報とは、警察官が装備する無線機の非常ボタンを押下することにより、自動で周囲の音を伝えることが出来、ボタンを押さなくもいい便利な点がある。江乃町庁舎の端末で無線作動の有無と位置が確認出来る。

『緊急発報作動なし。どうぞ』

『緊急発報作動なし。県警本部了解』

 緊急事態発生により、現場の警察官が緊急発報の存在を忘れ、必死に対応しているのだろう。交機で現在、街に繰り出しているのは、近藤小隊と、中島、彩の所属する黒澤小隊の車両に加え、交通事故特別警戒期間中のため、あと特別運用の車両だ。

『県警本部から、現在、運用中の交機の各移動。通信司令の端末では、五台が稼働中とのこと。交機三十、三十一、三十二、三十三、三十四の順で無線報告せよ。まず、三十からどうぞ』

 莉奈達の乗る三十二の他にこんなにも車両が出ていた。いつもなら、この時間は、居眠りタイムだ。起きていてよかった。

『交機三十、異常なし。どうぞ』

『交機三十一、異常なし。どうぞ』

『交機三十二、異常なし。どうぞ』

 莉奈が無線を吹き込んだ。交機三十、三十一は、警戒期間限定の応援警察官が運用している。

 そして、三十三は、近藤、神戸が運用中なはず…。

 三十三は、反応しなかった。

『至急、至急。県警本部から交機三十三』

 無言。

『至急、至急。県警本部から各局。異常は交機三十三と思われる。現在、交機三十三は、細野町の国道芦崎井谷線上り。江乃町方向にて停車中。付近の各移動は、緊走で状況確認願う。なお、交機にあっては、有線にて状況聴取願う。以上、県警本部』

 その無線を聞いて、莉奈は急いでスマホの電話帳から神戸の名前を探す。神戸の名前をタップして、電話をかける。

 ただ、ただ呼び出し音が繰り返される。

「もしもし、七瀬。ヤバイぞ」

 やっと電話に出た神戸の声はとても焦っていた。

「大丈夫ですか?」

「切符処理中に、ダンプに突っ込まれて、パトカーごと路肩から田んぼにダイブだ。小隊長が少し切り傷がある程度でおれは大丈夫。消防は手配済みだから。とりあえず無線報告よろ。じゃあ」

 非常事態にも関わらず、一方的に電話を切ってしまった神戸。

 まだ聞きたいこともあったのに…。

『至急、至急。交機三十二から県警本部』

 運転席から手を伸ばした一ノ瀬が無線機を口に近づけた。

『至急、至急。県警本部です。どうぞ』

 運転しながら無線機を扱う一ノ瀬の姿は、とても頼もしかった。


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