表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疾風ガール  作者: メリット5
仲間
16/20

逃走専科

感想頂ければ幸いです。

 真新しいジャージに身を包んだ中島は、江乃町庁舎に隣接する教習所のコース脇でストレッチをしていた。

 本人はランナーに扮しているらしいが、莉奈から見れば、単なる不審者にしか見えない。このまま街を歩けば、職質対象者だ。

「準備いいか?」

 不審者役改めランナー役の中島が手を振りながら大声で合図する。莉奈から少し離れたカーブの先で、神戸は訓練を眺めている。

 莉奈は、このコースで中島を駅伝のランナーにみたて、先導の練習を行っていた。

「お願いします」

 莉奈も大声で手を振り返す。

 中島が走り出したのを見てから、莉奈は白バイに跨りながら深呼吸をした。落ち着けば、大丈夫なはず。とにかく、大丈夫と自分に言い聞かせた。それしか、莉奈には出来なかった。

 カーブを曲がって来た中島をミラーで確認してから莉奈は、ゆっくり白バイを発進させた。

「七瀬、発進が早すぎる。もう少しランナーが近づいてから発進しろ」

 莉奈の左斜め後ろを走り、莉奈の運転にアドバイスをする一ノ瀬。一ノ瀬自身、何度も先導を任されており、経験値はトップクラスだ。

「了解」

 莉奈は、ミラーの中島の姿を確認しつつ、ブレーキをかけていく。

「ミラーにテープ貼っただろ。それに合わせて」

 一ノ瀬が自身の白バイのミラーを右手で指差した。一ノ瀬がミラーに映るランナーの大きさを考えて、ミラーにランナーとの距離が分かるようにと、莉奈の白バイのミラーにテープを貼ってくれていた。

「テープに合わせました」

 莉奈は、ミラーのテープと中島をピッタリと合わせた。距離は完璧。その時だった。

 ガタン。

 突然の衝撃に、白バイはコントロールを失った。何とか転倒は免れたものの、白バイを立て直した時には、ミラーに中島の姿はなかった。

「全国に白バイの事故が、放映されちゃうぞ」

 横に並んだ一ノ瀬が言う。莉奈はミラーに気を取られ、白バイの前輪を縁石に接触させてしまったらしい。すぐに白バイを停止させて、莉奈は右足を路面につけた。

「すみません」

「ドンマイ、ドンマイ」

 一ノ瀬の言葉とは対照的に、走って追いついた中島は、優しい言葉をかけてくれた。莉奈の折れかけの心を、中島の言葉が救ってくれることもある。

「いざとなったら、横を走る上野に合わせて走れば、なんとかなるよ」

 一ノ瀬が言う。彩と憧れの先導が出来ることはとても嬉しいこと。だが、彩ばかりを頼っていては、気持ち良く先導が出来ない。

「とにかく、ノロノロ走っていれば、お茶の間の人からは、ちゃんと先導してるように見えるからさ」

 訓練を離れて見ていた神戸も会話に加わって来た。神戸は一ノ瀬と共に、何度も先導をして来た。神戸のその楽観的な性格は、時に莉奈に牙を剥くこともある。

 かれこれ、もう一時半程、教習所での練習をしている。教習所の昼休みのみの使用の許可のため、そろそろ、タイムリミットが迫っていた。

「今日はここまでにして、撤収」

 一ノ瀬が言うと、中島は素早くパトカーに手荷物を積むと、神戸を乗せてから、パトカーで走り去ってしまった。

「逃げ足だけは早いよな。あいつは」

 一ノ瀬が首を回しながら言う。何かと意見発表や訓練でよくある、誰か出来る人やってという流れになると、いつも中島は、しれっと影を潜める。

「近藤さんが、逃走専科で学んで来たのか?って以前、中島さんに言ってましたけどね」

 以前に発表や訓練に消極的と中島が近藤からお叱りを受けた際に、近藤が、逃走専科の言葉を口にしていた。

「逃走専科か…。あいつは、首席卒業だな」

 思わず笑みがこぼれた二人。だから中島は、重要な仕事を任せて貰えないのかもしれない。

「お前は、不器用専科にでも入校してお勉強中なの?」

「そんな専科で学んでません」

 莉奈は一ノ瀬の言葉を否定する。不器用専科が仮にあったとしても、絶対に入校したくない。

「そうか。とりあえず、時間だし帰るか…。明日は、高堂マラソンだ。神戸と俺の先導を見て、技を盗んでくれ」

 一ノ瀬が言う高堂マラソンとは、高堂市役所を発着点に市街地を抜けて、街外れのテーマパークを経由するマラソン大会。大学や高校陸上部に加え、一般人も例年参加する県内でも人気のマラソン大会だ。

「分かりました。根こそぎ盗んでみせます」

 莉奈は高堂マラソンでは、二位集団のランナーと共にコースを走り、警戒を行う。駅伝大会などでは、先導に加え、二位集団や一人で走るランナーに白バイが警戒などの意味でランナーの付近を走る。駅伝大会などでは、先導だけに白バイが走っている訳ではない。

「まぁ、頑張って」

 一言残して走り去る一ノ瀬。少し遅れて莉奈も白バイを発進させる。

 県内でも駅伝大会やマラソン大会は多く開催されている。テレビで全国に放映される大学駅伝だけに白バイが先導として走る訳ではない。あくまで、一番有名で歴史のある駅伝大会での先導が役目の莉奈は、県内の駅伝大会等で、先導や警戒の練習をすることになる。

 天気予報は、明日は快晴を伝えていが、雨が激しく降れば白バイでの先導は出来ない。パトカーでの先導を行うこともある。

 パトカーでの先導より、やっぱり莉奈は、白バイでの先導がやりたい。

 教習所から莉奈が江乃町に戻った時には、すでに中島のマイカーはなかった。さすが、逃走専科首席だけある…。

感想頂ければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ