ひとりぼっち
感想を頂ければ幸いです。
「ふざけるなよ!何で俺だけなんだよ。もっと速度出してる奴がいふだろ」
「速度を出してる車がいれば、私は追いかけて切符を作成します。今回は、私の目の前で速度を運転手さんが、速度を出し過ぎていたので、お止めしました」
莉奈の説得はかれこれ、十分以上続いていた。一ノ瀬がいなくなった途端、否認事案を扱うなんて…。
「私の計測した速度が、白バイに表示されていますので、ご確認だけでもお願いします」
トラックのドライバーって違反を認めないのかな?以前の否認事案を思い出した莉奈。
「分かったよ。確認だけする」
トラックの運転席から降りて来たのは大男。女性の莉奈は見下ろさせる形になる。
「こんなに出てるはずがないだろ」
「私が計測した結果ですので」
大男の迫力に思わず、莉奈の声が小さくなる。
「ふざけるな。そんなに金が欲しいのか?」
大男に胸ぐらを掴まれた莉奈の足は宙に浮く。
「ちょっと、離しなさい」
大男の力が強く、息が苦しい。
「ノルマのために、偽造までするのか?警察は」
大男は莉奈を離す気がない様だ。
「離しなさい」
莉奈は思いっきり大男を蹴ってみた。サッカーで鍛えた足がまさかここで役に立つとは…。
大男は手を離し、相当痛がっている。
ちょっと、やり過ぎたかも…。
「落ちいて。話をしましょう」
大男と距離を取り、説得を再開する。胸ぐらを掴まれるぐらいよくあることと、近藤から聞いていた。ここは、我慢だ。
「運転手さんの感覚だと、どの位の速度でしたか?」
「法定速度の五十位だろ!七十五も出てるはずがない」
何とか納得して貰うために、莉奈は説得のネタになるものを記憶から呼び起こす。
周りの車を追い抜いていたこと、煽って前の車に進路を譲らせていたこと。速度計測中にあった出来事を伝え、説得を試みる。
「確かに、急いでいたから乱暴な運転には、なってたけどな…」
「急いでいたとしても、メーターは見て、速度は気にして貰えますか?今回みたいに、ご自身の感覚よりも遥かに速い速度でトラックは走ってますので…」
乱暴な運転を認めた大男。突破口は見えてきた。
「メーターを気にしないとだな。今度からは…すまなかった。急いでるから、切符早く作ってくれ」
大男がズボンのポケットから財布を取り出し、財布から免許証を出す。
何とか署名と指印を貰い切符作成を行う。切符を交付し、大男のトラックを見送ると、莉奈は白バイに跨った。
やっぱり、違反を認めないドライバーの説得は難しい。違反を否認しても切符は交付し、供述調書等を作成することになる。
ただ純粋にそれは面倒だ。だから、何とか認めてもらう説得が必要になる。
どうしたらいいのか?いつもなら後ろを走る一ノ瀬に聞けるのだが…。今日は彼はいない。
それから、二件の違反を切符処理とし、違反を探しながら、白バイを走らせる。
気が付くと莉奈の白バイは、江乃町に向かって走っていた。帰りたい。その思いが自然と行動に出ていたらしい。
結局、一人で出来事た切符処理はたったの三件。説得に時間がかかってしまい、白バイを走らせることの出来た時間が少なかったからだ。
「莉奈ちゃん。信号青ですよ」
突然の声に驚いた。莉奈は後ろを振り返りってから、白バイを走らせる。安藤の乗る覆面パトカーが莉奈の後ろで信号待ちをしていたらしい。安藤は、覆面パトカーのマイクを使って莉奈に信号が青になったことを教えてくれた。
その安藤の乗る覆面パトカーが、莉奈の白バイと並走を始めた。
「やっぱり莉奈ちゃんだ。今日は、ひとりぼっちかい?」
助手席の安藤が笑顔で言う。
「今日から一人です。やっぱり一ノ瀬さんがいないと何か上手くいかないですね」
苦笑いしか出来ない。
「まぁ、頑張ってな」
安藤がガッツポーズをすると覆面パトカーは速度を上げて走り去る。
ひとりぼっちで寂しかった莉奈の心に、安藤という知り合いの登場により、寂しさも少し和らぐ。
「もう少し、頑張らなきゃ」
莉奈は深呼吸をしてから、白バイの速度を上げた。
感想を頂ければ幸いです。




