陰の優しさ
白バイを磨きながら、思わず笑みがこぼれる。憧れの駅伝の先導が出来る。まだ、確定ではないけれど。
「手入れ終わったら、シャッター閉めておけよ」
中島が白バイに跨りながら言う。黒澤小隊は中島を除き、取締りに出かけていた。中島は最後まで残り莉奈の片付けを手伝ってくれていた。また、莉奈の練習のために黒澤は、慣熟走行の時間を延長し、指導までしてくれた。
「分かりました。お気を付けて」
「おう。たくさん狩って来るよ」
中島がフェスシールドを下ろして、走り去る。中島は技術はあるものの、なぜが大仕事は任せてもらえずにいる謎の存在。
白バイを磨き終えると、車庫のシャッターを閉め、庁舎に戻る。ガラガラの部屋に入って鍵をしまい、簿冊に記入を済ませると、莉奈は荷物を持って庁舎を出る。
いつも落ち込みながら帰る莉奈だったが、今日は少し違う。帰りにケーキでも食べて帰ろう。
マイカーに乗り込みエンジンをかける。ラジオから流れて来たのは、莉奈の好きだったドラマの主題歌。今日は、運気が良い日なのかも。
莉奈は、庁舎を出て国道へ続く一本道をマイカーで走る。
「パトカー通ります」
後ろからサイレンを鳴らし猛スピードで迫る機捜の覆面に莉奈は車を路肩に寄せ、進路を譲る。
「ありがとうございます」
丁寧なお礼をされて、さらに気分が良くなる。
江乃町庁舎の近くには、警察の庁舎が集中しているが、飲食店も集まっている。よく学生時代にデザートを部活終わりに食べに来ていた。
どこのお店でケーキを食べるかを停車したまま悩んでいると、莉奈のスマートフォンが鳴る。画面には、神戸先輩との表示。
「もしもし、七瀬です」
「七瀬。今、大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
何か嫌な予感がする。
「駅伝の分担聞いたか?」
その話?さっきまで江乃町で話してたけど。確か、神戸は七瀬より先に帰ったはず。
「はい。先導って中島さんから今朝聞きました。一ノ瀬さんはまだ、内緒にしてたかったみたいですけどね」
「そうか。本当は、七瀬は先導から最後尾警戒車の運転に変更になってたんだよ。クラッシュがあったからな…。でも、暴走車確保したからって、どうにか先導に戻してくれないかって、昨日夜、一ノ瀬から小隊長宛に電話があったんだよ」
莉奈が仮眠している間も起きていた理由ってそれだったんだ…。
「本部に提出する七瀬のクラッシュの報告書も、一ノ瀬がずっとパソコンで七瀬に影響のないようにって、考えて作業してたんだから。その優しさに応える結果を残してな」
「そうだったんですか…。教えてくれてありがとうございます」
思わず涙が頬を濡らす。
一ノ瀬は、性格が良ければモテるのにな。こんなことを思っていた自分が情けない。でも、先導に戻したのにも関わらず、一ノ瀬はパトカーの練習をさせたのだろう…。
「まぁ、とにかく、俺から聞いたって言うなよ。これから、頑張れ」
「分かりました。ありがとうございました。失礼します」
莉奈は泣いていると神戸に気付かれないように、莉奈から電話を終わらせた。
「ご協力ありがとうございます」
別の機捜のパトカーが再びお礼を言いながら追い越して行く。
莉奈は涙をティッシュで拭くと、ハンドルを握り家路についた。
ケーキを食べるのは、また後にしよう。
ご感想、ご指摘があれば、お願いします。
参考にさせていただきます。




