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疾風ガール  作者: メリット5
仲間
12/20

非番

「お前、いつか人轢きそうだな」

 莉奈のパトカーの運転を見た、一ノ瀬の評価。パトカーで、カラーコーンを二つなぎ倒してしまった莉奈。

 本当は、勤務解除で休日となるはずだった。だが、昨日の夜警らの際に、一ノ瀬が言っていた暇つぶしにより、莉奈はまだ、江乃町庁舎にいた。

「これじゃあ、駅伝の役割変更しないとな」

 その言葉に俯いていた莉奈も、勢い良く思わず顔を上げた。

「もう、決まってるんですか?」

 莉奈は、どの分担だろうか。去年は、沿道の観客に、間も無く選手が通過すると知らせる予告車というパトカーの助手席だった。

「七瀬は確か…最後尾警戒車の運転だった気がするよ」

「また、パトですかぁ…」

 せっかく上がった莉奈の頭が下がる。

「だから、パトの練習してる訳」

 淡々と言う一ノ瀬は腕を組む。

「パトの運転上手くならなかったら、何に変更になるんですか?」

 今にも消えてしまいそうな声で莉奈が言う。

「沿道に立って警備するか、資機材の回収役とかかな?」

 そんなことをやるために、白バイ乗りを目指したんじゃない。

慣熟(かんじゅく)走行するので、ちょっといいですか?」

 中島が一ノ瀬に声をかける。それを見て、莉奈は慌ててパトカーを移動させた。

 慣熟走行と呼ばれる取締りに出場する前に行う走行訓練。今日は、彩や中島らの黒澤小隊が取締りを行う。小隊長の黒澤 正裕がスラロームを通過する。さすがベテラン。その走りは、莉奈には異次元の人間のモノのようにみえる。

「七瀬。上野は今年、先導だった気がするよ」

 一ノ瀬がポツリと呟いた。彩は去年、交通規制解除を知らせる解除車の助手席。解除車から、先導へ一気にレベルアップだ。

「いいなぁ」

「いいなぁって思うなら、七瀬も運転上手くなれ」

 一ノ瀬は、同情や慰めの言葉というものを知らないらしい。

「行きまーす」

 右手を挙げて叫んだ彩が、スラロームを滑らかに通過する。白バイもパトカーも彩の方が運転が上手い。

「七瀬もバイク練習すれば?」

 慣熟走行を終えた中島が、フェイスシールドを上げて言う。

「バイクの練習したいですけど…」

 莉奈はチラリと横目で一ノ瀬の表情をうかがう。

 真顔。判断に一番困るやつだ…。

「七瀬。お前に任せる」

 一ノ瀬が真顔のまま言う。

「駅伝では、最後尾警戒車の運転なので、一ノ瀬さんとパトの練習しますから、今回は大丈夫です」

 莉奈はパトカーより白バイの方が好きだ。だが、今は、パトカーの練習をしなければ…。

「あれ?七瀬って、先導じゃなかった?」

 先導。莉奈は、中島の言葉に耳を疑った。

「私が先導?」

「そう、先導」

 中島が言っていることを、莉奈は未だ信じられない。

「中島」

 一ノ瀬が名前を呼ぶと、中島が顔が引きつるのが分かる。

「言っちゃダメなやつでした?」

 中島の消えそうな声。恐る恐る莉奈は、一ノ瀬の表情をうかがうが、その表情にすぐに目を逸らす。

「まぁ、仮の分担だ。被疑者逮捕でクラッシュの穴埋めをしたとしても、今の評価はマイナスからゼロになっただけ。これから七瀬が失敗すれば、本当に最後尾警戒車の運転になるからな」

「分かりました。頑張ります」

 憧れの駅伝の先導。思わず莉奈に笑みがこぼれる。

「バイク練習しますね」

「勝手にしろ。俺は、帰ってゲームするけどね」

 一ノ瀬の許可も出たことだし、莉奈はバイクの鍵を取りに庁舎に向かって走り始める。

 鍵を取るとヘルメットを抱え、庁舎から飛び出す。車庫から白バイを押して出し、莉奈は白バイのエンジンをスタートさせる。

「プロテクターぐらいつけろ」

 一ノ瀬がプロテクターを投げて来た。嬉しさのあまり莉奈はプロテクターを忘れていた。

 勝手にしろと言いながらも、プロテクターを持って来てくれる一ノ瀬は、根はいい人なのかもしれない。一ノ瀬は、プロテクターを投げると自慢の高級車に乗り、颯爽と江乃町を去って行く。

「後で俺、一ノ瀬さん半殺しにされるな」

 中島が呟いた。確かに、一ノ瀬は一ノ瀬なりの計画があって、先導のことを莉奈に黙っていたのだろう。

「その時は、ちゃんと私が救急車呼びますから、安心して下さい」

 彩が笑顔で言う。中島がどうなるかは、誰にも分からない。

 莉奈は、その会話を横目に、スラロームのスタート地点に白バイで移動し、深呼吸をする。

「行きまーす」

 右手を上げて莉奈は叫んだ。

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