叔父の家
叔父の年はまだ三十五歳で、細身で長身の若々しい男だった。顔艶もよく、切れ長の目で整った顔だちの色男である。
結婚して女の子が一人いる。子供は一人でよいと勝手に決めて、兄である半之丞の父の子を一人、養子にもらうことに決めたのだ。
物事に乗じない図太い性格の持ち主で、半之丞が庭から入っても特に何も云わなかった。
「顔が白いぞ、大丈夫か」
「叔父上……縁談の件ですが」
「ああ、そういえば、成沢忠弥が帰って来たんだったな」
「はい、わたくしは成沢さんのためなら養子の件も……」
そこまで伝えたとき、急に頭がふわふわしてきた。心ノ臓が激しく鳴り出し、立っているのが辛くなった。
碁盤を睨んでいた叔父が顔を上げる。
「大丈夫だよ、縁談の話はなんとかするから、おいっ」
叔父がはだしで庭に下りてくる。半之丞の体がふらりと傾いだ。
「おい、志保っ、誰かいないかっ」
叔父が妻の名を呼び、大声で叫んでいる。抱きとめられながら、半之丞は、忠弥の後ろ姿を思い出していた。
頭がくらくらしていたが、半日以上も忠弥の側にいられたことが、なによりうれしかった。
叔父の家で倒れてから、目が覚めたのは翌朝だった。
最初、自分がどこにいるのか分からず、半之丞は目を瞬かせた。
「起きましたか」
若い女の声に驚いて声の方を見ると、枕許に他家へ嫁いだ姉の弓江が坐っていた。半之丞はぎょっと目を丸くした。
「姉上…っ」
「だらしのない」
ぴしゃりと叱られる。
「わたしはどうしたのですか?」
半之丞が恐る恐る尋ねると、姉は目を吊り上げた。
「倒れたのです。なんて情けない。それでも武士のお子ですか」
「申し訳ありません」
半之丞が謝ると、弓江は美しい顔を歪め、唇を噛んだ。
「半之丞……、わたくしは…っ」
弓江が袂から懐紙を取り出して口を覆う。
体を震わせて、いつものようにまた悲痛な声を上げた。
「あなたを、成沢忠弥などに会わせたわたくしが…、自分が許せません!」
「姉上、その話は…」
「これから成沢忠弥の屋敷へ参りたいと思います」
「は?」
「いずれ、ご挨拶に行かねばならぬと思っておりました。わたくしの失態からあなたをこんな目に合わせてしまった」
「姉上、お待ちください。成沢さんはなんの関係もありません」
「あなたは黙っていて」
きりりと睨まれ、何も云えなくなる。
「道場は休みですね」
「はい……」
「それは好都合。朝餉を食べたらわたくしと参りますよ」
弓江がいなくなると、ため息がこぼれた。
姉を止めることは、父にも弓江の夫にも出来ないことであった。
従うしか道はない。
半之丞はのそりと起き上がり、支度に取りかかった。




