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酒は飲まんよ。真剣な話があるんだ。  作者: 春野セイ
第三章 そうだ。湯屋へ行こう!
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湯屋へ行こう!



 湯屋(銭湯)には実にさまざまな人たちがやってくる。

 混みあっていれば、わいわいガヤガヤ、賑やかなものだ。


 湯屋ゆやは元来、混浴だったが、風紀が乱れるとかで、男が入る時間と女が入る時間を分けている湯屋もあるそうだ。

 中の様子を窺えば湯が冷めないように工夫してあり、薄暗くもくもくの湯気で視野は悪い。

 ぶつからないよう声をかけもって入るのが礼儀であった。


 その湯屋にさんすけという職業がある。

 湯銭を払えば、客の背中を流すなどの手伝いをしてくれる男がいた。



 その日、堀内道場では門弟もんていたちの間で、その三助が話題となった。

 その者に背中を洗ってもらうと、富くじが当たったとか当たらなかったとか、ひ弱な者が強者つわものになっただとか? 迷い猫が見つかっただとか? よくわからないが、運が向上するらしい。


 はやし兵馬ひょうまはそういう話が大好きで、友だちの三浦みうら半之丞はんのじょうの方へくるり、と顔を向けると、


「今すぐ湯屋へ行こう! 半之丞っ」


 と目を輝かせて云った。

 え? と当然のごとく、半之丞は渋った。


「ぐずぐずしていると、みんなに運を奪われてしまうよ」


 兵馬がわりと本気で云うので、仕方なく頷いた。

 頷きながらも、まあ一度行ってみてただの客寄せだということが分かれば、兵馬だって目が覚めるだろうなどと、わりと失礼なことを考えていた。


 稽古が終わるとさっそく噂の三助がいる御幸みゆき町の湯屋へ行った。

 湯屋の二階へ大小(刀)を預ける時も、兵馬はすでに富くじでも当たったか? と思うほどの浮かれ具合でいるので、もう十分でないかと半之丞は落ち着いた気持ちで眺めていた。


 今日は成沢なるさわ忠弥ちゅうやは非番の日で会えなかった。

 かといって半之丞は落ち込むわけではない。

 今では顔を見られるだけでとてもしあわせなので、別にわざわざ三助に背中を流してもらわなくてもけっこうなのである(強気)。


 湯屋にはしょっちゅう行かないが、体を洗う場所と湯に浸かる場所とに分かれていて、その出入口のはざま石榴ざくろぐちと呼ばれていた。


 半之丞が着物を脱いで後から行くと、洗い場ではすでに兵馬が三助に体を洗ってもらっていた。

 まだ若い三助で、彼の特徴は細目であったが、むき出しの腕はたくましく力がありそうだ。


「半之丞、こっちだ」


 兵馬に呼ばれて隣へ座る。

 米糠まで使って背中を洗ってもらい、兵馬はもうしあわせそうだ。

 背中を洗い終えると今度は体を揉んでもらえる。

 こわばった筋肉をほぐしてくれるのだ。


「旦那、素晴らしい体つきをしていらっしゃいますね」


 三助がそう云うと、兵馬が嬉しそうに答えた。


「そうかな。わたしはいつもポッチャリしているって云われてばかりで」

「そんなことありませんよ。この張りのある腕、ほとんどが肉でしょう」

「俺たち堀内道場の門弟(もんてい)なんだ。最近になって、江戸から忠弥さんが帰国きこくされてね」

「堀内道場の方々は大勢来てくださいヤスよ。そういや、先程まで成沢の旦那はここにいらっしゃいやしたぜ」

「ええっ‼」


 突然、半之丞が声を上げたので、話していた二人はびっくりした。


「どうしたんですかい、旦那。突然大きな声で」

「い、いや、その……」

「忠弥さんはもう湯に浸かられたのかい?」

「いや、水を浴びてくるって云って、あ、戻ってきやしたぜ」


 三助がペコッと頭を下げる。

 そこへ手拭いを肩にかけて大柄な男がのそりと戻ってきた。

 半之丞の横に来て、隣に座るぞ、と声をかけた。

 半之丞は心ノ臓が止まりそうになり、返事もできず、体がかちこちに固まってしまった。


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