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距離


 それから数日経って、まちなかでお染の姿を見かけた。

 立ち止って武士と話をしている。

 よく見ると相手は半之丞だった。

 お染はわりと身長が高く、小柄な半之丞と背丈はあまり変わらなかった。

 二人は親密そうに見えた。

 忠弥は思わず立ち止りぽかんと口を開けてそれを見ていた。


 何を話しておるのだ、あの二人は。

 一瞬、ムッとしたが、二人の様子は仲むつまじい姉弟きょうだいのように笑い合っている。

 半之丞がしきりに頭を下げているが、お染の顔も柔らかく温かみがあった。


 あいつ、あんな顔ができるのか。


 半之丞の穏やかな顔を見て、どうして自分には……? と、いつもの問いに戻ってしまった。

 すると、半之丞がお染に頭を下げて去って行く。

 忠弥はくるりと背を向けて歩き始めたお染を追いかけた。


「お染」

「はい? まあびっくり。忠弥さま」

「半之丞と何を話しておったのだ?」

「え?」

「とぼけるな、先ほど話をしておっただろう」


 お染が目を瞬かせてから、ああ、と笑った。


「挨拶をしていただけですよ。この前、ご気分が悪そうでしたから、無理なさらないで下さいましね、とお話しただけです」

「嘘だ」

「は?」

「お主から声をかけるはずがない」


 お染は町人だ。

 相手は武士なのだから、うかつに声をかけるとは思えなかった。

 お染はため息をついた。


「お詫びしてくださったのです。この前、お店に入っただけですぐに出て行ったことを悔やまれていたようで、あちらからお声をかけられたのですわ」

「迷惑をこうむったのは俺だ! 俺に謝るべきではないか」

「はあ……」


 お染は呆れたように息をついた。


「では、そのように申し上げたらよいではありませんか」

「あいつから謝るのが筋だろう」

「あたしの時と同じですわね」

「え?」


 お染の意味深な言葉にドキリとする。


「好きな方には素直にならない」

「む?」


 こめかみがピクリと引きつる。


「何か誤解をしておるようだが……」

「あら、じゃあ、あたしの事は好きでも何でもないんですね」

「お主の事は気に入っておる。男と女は別だ」


 まるで云い訳のようだが、ここはきっちりしておかねば、と思った。

 気にかかるのは自分だけ阻害されているような歯がゆさがあるからだ。

 しかし、それを云えば自分がいじけているだけのように思えて、真実を明かすことも出来なかった。


「そうでございましたか。では、お気をつけなさいまし。このままではもっと嫌われるだけでございますよ」

「もう嫌われておる」


 きっぱり云うと、お染がくすっと笑った。


「では、そっとしておいてあげたらよいと思いますわ」


 頭を下げるとお染はくるりと振り返るといきに歩いて行った。

 後ろ姿を見て大きく息をつく。


 俺は嫌われている――。


 はっきりと云ってしまうと、むなしさが残った。


 なぜだ? あれほど懐いていた若者が自分の知らない所で背を向けていなくなろうとしている。

 自分が何をしたのか、さっぱり覚えがない。

 お染の云うように、そっとしておくべきだろうか。

 そうなのかもしれぬな。


 忠弥は珍しく自分を客観的に見て、少し距離を置こうと考えた。


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