第42話 The Lightsaber Wars
統括室に沈黙が落ちていた。
「……光剣戦争?」
悠真が首を傾げる。
蒼志も黒崎兄弟も意味が分からないという顔をしていた。
そんな若手達とは対照的に。
蒼真は顔を覆い天井を見上げ、蓮は遠い目をして壁を見つめ、奏はこの世の終わりのような顔をしている。
そして葛城だけが満足そうだった。
「よし」
「よし、じゃねぇ」
蒼真が即座に否定する。
「葛城、それ捨てろ」
「断る」
「燃やせ」
「断る」
「物理的に壊すぞ」
「バックアップある」
葛城は勝ち誇ったように笑うと蒼真が頭を抱える。
「なんで残してんだよ……」
「面白かったから」
葛城は即答だった。
白石と雨宮は既に笑いを堪えられていない。
若手達だけが状況についていけずにいる。
「だから何なんですか、その光剣戦争って」
蒼志が聞くと葛城は記録ディスクを指で回しながら答えた。
「十年くらい前だな」
「本震の後ですか?」
悠真の問いに葛城は頷いた。
「神代が復帰して少し経った頃だ」
その瞬間、蒼志が固まった。
悠真も固まり、黒崎兄弟も固まる。
「……最近じゃないですか」
「最近だな」
雨宮が笑いながら答える。
「若い頃の話じゃないんですか?」
「残念ながら違う」
白石も笑っていた。
蒼真は深々とため息を吐く。
「マジで見るのか?」
「「「「見る」」」
葛城、白石、雨宮がニヤリと笑いながら即答すると蒼真「終わった…」と小さく呟いた。
「俺、止めましたよ」
奏の声が統括室に響くと全員の視線が奏に集まった。
蒼真と蓮も奏に視線を向けると声がそろう。
「「嘘つけ、お前が持ち込んだんだろ」」
蒼真と蓮の言葉に奏は少しだけ目を逸らした。
若手達の目が輝く。
「奏さん?」
「持ち込んだ?」
「何を?」
奏は観念したように小さく息を吐いた。
「……光剣を」
白石達は机を叩きながら笑っている。
だが、若手達は頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるようだった。
葛城は満足そうに再生ボタンを押すと大型モニターにその映像が映し出された。
—————————
10年程前、埋没の怪我から復帰した蒼真は黎明の幹部会議に参加した。
数日、会議が続いており疲労から呼吸状態が不安定なため、高濃度酸素マスクを装着しての会議参加だった。
シュー……
シュー……
高濃度酸素マスクを装着した蒼真が会議資料へ目を通していた。
室内には酸素の排気音と蒼真の発言する声だけが響いている。
シュー……
「一般部隊の稼動状況は…」
シュー……
「今後の災害発生時の初動についてだが」
シュー……
すでに何人かが小さく肩を揺らしていたが、蒼真は気にも留めず会議を進行していた時だ。葛城が眉をひそめ、大きな溜息をついた。
「……内容が入ってこねぇ」
「あ?」
蒼真が資料から顔を上げると葛城は真顔だった。
「シューシューうるせぇんだよ。お前は暗黒卿か」
総統室が静まり返った。
そして、我慢していた者達がついに吹き出した。
「ちょっ…葛城さん、それは反則ですって!!」
「ずるい!」
言葉を発したのは奏と律だった。
現場を引退し、幹部となっていた2人は思ってたのに言わなかったのに!と腹を抱えている。
蒼真はポカンとしながら、隣の席の蓮を見た。
……蓮は蒼真から顔を背け、肩を振るわせていた。
「……は?」
笑い声が巻き起こる会議室で蒼真だけが取り残されていた。
——数日後。
蒼真と蓮が総統室に入ると、蒼真の机の上にあるものが2つ置かれていた。
「なんだこれ…」
なにか開発してたっけ?と蒼真がそれを手に取り、スイッチらしきボタンを押した。
いや、押してしまった。
ーブォン。
音とともに光るそれは、暗黒卿の持つ光剣のおもちゃだった。
「……はい?」
真顔ですっとんきょんな声を出した蒼真に隣にいた蓮はまた顔を背ける。
そして、電話を掛けていた。
「おい、コラ。今すぐ総統室来い」
口調は強いが笑っている蓮。
そんな蓮を見ながら蒼真は光剣をぼーっと眺め口を開いた。
「……なぁ、これ…光剣。はっ!暗黒卿ってそういうことかよ!」
「お前、気が付くの遅ぇ」
その時だ、総統室の扉がノックと共に開かれ、入ってきた人物は入るとともにスマホで光剣を持つ蒼真の写真を撮っていた。
その人物こそが、光剣を持ち込んだ犯人、奏だった。
「奏…お前、これはダメだろ…」
一応注意する蓮だが、声が震えている。
吹き出しそうになっているのを必死に堪えていた。
「…って、写真撮んな!消せ!」
蒼真が奏に近寄ろうとしたが、後遺症からふらついてしまい、蓮が蒼真が転ばないように支えた時。
ーパシャ。
再び奏が写真をとり、ニヤニヤしている。
「いや、その構図最高っすw暗黒卿を支える暗黒補佐官って感じで…」
その言葉を聞いたときだった。
蓮が机の上に残ったもう1本の光剣をおもむろに手にとり、スイッチを入れる。
—ブォン。
「奏…」
「……蓮さん?」
「てめぇ、俺も暗黒補佐官だと?」
「いや、どう見ても2人セット…あ、ちょっ…いや、違います、違います!!」
光剣を手に持った蓮の表情が悪魔のような笑みに変わった事に気が付いた奏は途端に慌てだし、総統室から逃げ出そうと踵を返した。
「蓮さん怖い!!顔、顔!顔怖い!!」
慌てる奏に蓮は悪魔の笑みで囁く。
「覚悟は出来たか」
その瞬間、奏は総統室から飛び出した。
「出来ませぇぇぇぇん!!!!」
「待てコラぁぁぁぁぁ!!!!」
全力で逃げる奏を追いかけ、蓮も総統室を飛び出した。
1人取り残された蒼真は総統室の扉を閉め、部屋の真ん中で光剣を持ち、剣の構えをすると一振り。
—ブォン。
「……振っても音なる!!すげぇ!!」
男であれば一度は憧れたそのおもちゃに目を輝かせた瞬間だった。
「総統……補佐官と奏は何してんだ?なんか持って走ってたけど……いや、お前も何してんだ」
前触れなく総統室へ入ってきたのは葛城だった。
光剣を構えて真顔で止まる蒼真。
2人の間に数秒の沈黙が流れるとーカシャ。葛城がスマホで写真を撮る。
そして、葛城は何も見ていない。と言葉を残し総統室から出て行く。
「……葛城ぃぃぃぃ!!その写真消せぇぇぇ!!」
蒼真の叫びは総統室外の廊下まで響いていた。
だが、これは後の黎明・光剣戦争のまだ序章に過ぎなかった。
奏と葛城が撮った写真はあっという間に黎明内部に広がった。
そして…光剣も広がった。
休憩時間等に光剣を構えている者が現れ各々が何故か楽しんだ。
葛城の”暗黒卿”から始まり、奏が悪ふざけで総統室に置いた光剣はやがて、黎明の新人歓迎会で光剣戦争と題し、劇まで行われる始末。
シュー…
「全員、帰す……それが黎明だ」
劇の終わり、壇上で光剣を構えながら蒼真が決め台詞を落とす。
その横で蓮も構え、奏、律その他、当時の第一隊員も脇を固めてポーズを取る。
そんな総統達を眺め、当時の新人は皆、同じ事を思っていた。
——ここ、何の組織だっけ?
—————————
大型モニターで流されたのは新人歓迎会での光剣戦争の劇だった。
悠真達はぽかんと口を開け、壁を見つめる蓮、机に突っ伏し顔を隠している蒼真、笑いが止まらない葛城達を順に見る。
「……父さん、何してんの」
蒼志が少し呆れた声を出すと突っ伏したままの蒼真が声を出す。
「だから、見られたくなかった」
「だろうね」
「え、でもこれ楽しそう!」
呆れる蒼志とは反対に悠真はもう1回見たい!と興奮気味だ。
「いや、総統、補佐官、これ最高です」
「どうしてやめたんですか?」
黒崎兄弟が続けてほしかったと口にした。
その問いに蒼真も蓮も答えず、奏や律も少しだけ目を伏せた。
統括室が少しだけ静かな空気に包まれる中、口を開いたのは白石だった。
「総統様と補佐官様が次の日、歩けなくなったんだよ」
バカだよな。と白石が笑う。
若手4人の中でハッとしたのは蒼志だけだった。
他の3人はどういうことだ?と首を傾げた。
だが、白石はそれ以上を語ろうとはしなかった。
「……まぁでも…いい思い出だよ」
蒼真が机に突っ伏しながら呟いたその声はとても懐かしそうな声だった。
「……これ、俺らで復活させたらダメ?」
悠真が真面目な顔で呟くと黒崎兄弟が頷いている。
来年、やるか?と意気揚々だ。
しかし、その流れを止めたのは奏だった。
「やめとけ…これは蒼真さんだから成立してたんだよ。受け継ぐもんじゃない」
少し残念そうな3人だが、それ以上、詰め寄ることはなかった。
そして、葛城が次のディスクを再生させた。
再生されるその映像には…美しいチャペル音楽と拍手の音。
ようやく壁から視線を外した蓮はモニターを見つめる。
蒼真は、その音楽で何の映像か気が付き、顔をあげようとしない。
「これって…」
「……もしかして」
蒼志と悠真が食い入るように見つめるモニターに映し出されたのは…。
銀髪の青年がシルバーのタキシードに身を包み、純白のドレスを着た黒髪の女性の手を引く映像だった。
——蒼真と麗華の結婚式の映像だった。
結婚式のエンディングだろうか。
招待客達が食事を楽しみ蒼真、麗華と歓談する様子がハイライトで音楽と共に流れていく。
「……結婚式、してたの…?」
「写真も見たことないよ!」
驚く2人の声に蒼真はゆっくりと体を起こし、モニターを見つめた。
そこには麗華の手を引き、酸素を必要とせず、しっかりと歩き微笑む昔の自分がいた。
麗華の笑顔がとても幸せそうで穏やかで、ドレス姿が綺麗で蒼真は目を細めた。
「……したよ」
蒼真の声は穏やかだった。
誰もがモニターに釘付けになっていた。
バカばっかりした時代。
そんな時代もあったと今、こうして若手に笑って話せる。
幸せに包まれた時間を息子達に見せることが出来た。
だから、こんな時間も悪くはないのかも知れない。
映像が終わると蓮の「仕事に戻れ」という声と共に仕事に皆が戻っていく。
蒼真は映像の最後に映し出された『Eternal infinity Trust』の文字を眺めていた。
そんな蒼真に葛城が一枚の写真を差し出した。
それは、蒼真と麗華のウェディング写真だった。
「神代、持っとけ」
「……いらねぇ。写真なんてなくても覚えてる。そして、麗華は今も綺麗だ」
「惚気はいいから、持っとけ」
葛城は机の上にそっと写真を置くと蓮の元にも1枚の写真を差し出した。
「野郎との写真なんていらねぇ」
「お前もか…まぁ、持っとけよ」
葛城は蓮の手に写真を渡すと統括室を後にした。
蓮は渡された写真に視線を落とすと小さく息を吐く。
「……クソだな」
その写真は19歳の蒼真と蓮。
第一特務遊撃、配属初日に撮られた写真。
肩を組み、笑っている。
2人共首元には真新しいドッグタグが光っていた。




