第41話 Skeletons in the Closet
——時は遡り38年前。
蒼真、蓮15歳。
黎明訓練生となり、訓練にも少しずつ慣れた夏の事だった。
「なぁー誰か面白いこと知らない?」
机に突っ伏しながら呟いたのは蒼真だった。
暑さと訓練疲れからかだらっとしている。
そんな蒼真の問いかけに1人が何気なく口を開く。
「……面白いかは分かんねぇけど…単車で走ると楽しい」
「単車かぁ…免許ねぇし、物がねぇ」
「いや、俺、単車持ってる」
「マジで?」
その夜、蒼真、蓮、同期3人が外出申請をし、寮を出て向かったのはゲームセンターでも娯楽施設でもなく、人通りのない山道だった。
——ドドド…。
同期の1人が実家から単車を持ち出し山道で合流する。
多感な15歳達。
派手な単車を目の前にして、テンションが上がらないわけはない。
蓮ですら目を輝かせ、単車に跨って見たりしていた。
「で、マジで走るのか?」
単車を持ってきた同期が蒼真に問いかける。
「楽しいんだろ?」
「運転出来んの?」
「原理は分かる。あと、車は運転出来る」
「じゃあ、いっか」
何も考えていない15歳の少年たち。
普段の訓練から抜け出した非日常から危険に足を踏み入れていることに気が付くはずもなく、蒼真を誰も止めなかった。
走り出す単車。
蒼真は風を切った。
——そう思った瞬間だった。
蒼真が走り去った方向で衝撃音。
残った4人は事故った。と青ざめながらその方向へ向かった。
4人がたどり着いたその場所には単車と共に転がる蒼真とひしゃげたガードレール。
「神代ぉぉぉ!!生きてるか?!」
同期が叫ぶと蒼真はむくっと起き上がった。
「悪ぃ…単車、壊した」
「いや!!単車よりお前!!」
「草がクッションになった」
「不死身かよ!!」
ケロッと答える蒼真の様子に4人がほっとした時だった。
蓮がガードレールを見つめ、現実に戻ってきた。
「…なぁ、これ、バレたらやばくね?」
無免許での運転。
ガードレール破壊。
バレたら大問題、いや、バレなくても大問題。
5人の顔が蒼真の無事の安堵から一気に変わり、青ざめた。
教官の橘にバレればただでは済まない。
罰当番でもきっと済まない。
最悪、黎明を出ていけ。と言い渡される可能性もある。
その瞬間、悪ガキ5人の頭はフル回転を始めた。
そして、蓮が口を開く。
「戻そう」
ガードレールを人力で元に戻すという無謀な計画だった。
しかし、蒼真を始め他の3人も頷く。
戻してしまえば、バレない。
5人はそう思い、必死に曲ったガードレールを元に戻し、何事もなかったように寮へと戻った。
—————————
「……いや、やば」
悠真は呆然としている。
「何してんですか、あんたたち」
蒼志は額に手を置き、天井を見上げている。
「思った以上にやばかった」
話を聞き出した奏も聞かなきゃよかった。という顔だ。
「で、次の日、呼び出し食らったんだよな、5人ともw」
「橘さんに連れられて、総統室までいってさ…」
同期は若手や奏の反応を見て、笑いながら続けた。
「お前ら外出したよな?山道で事故があったらしいけど、なんか知らないか?って聞かれて」
「5人全員でよ……」
笑いすぎて同期達は話を続けられなくなっていた。
代わりに口を開いたのは蒼真だった。
「ったく、墓場まで持ってくって言っただろうが…俺達、映画見て銭湯に行ってました、知りません。って答えたんだよ」
蒼真の一言で統括室は笑いに包まれた。
同期も腹を抱えて笑っており、蒼真と蓮は頭を抱えていた。
なんとなく噂で事の事情を知っていた白石と雨宮も笑っている。
最悪だ。
息子の前でこんな話をする羽目になると思わなかったという表情を蒼真はしていた。
「父さん、マジでやばいw」
涙を流して笑う悠真を見ながら蒼真は小さく息を吐く。
「お前はやんなよ」
「普通やらないから、安心してw」
腹を抱えて笑う悠真に蒼真は少しだけ目を細めた。
自分のバカ話でここまで笑ってくれるなら、いいのかもしれない。と。
「そういえば、タバコ逃走犯捕獲訓練も面白かったな」
涙を拭きながら同期が蓮を見て口を開いた。
「やめろ」
「いや、もういいだろ」
「ここまで来たら」
「蓮、諦めろ」
蒼真がタバコ闘争犯捕獲訓練という言葉に反応して蓮をニヤッとみつめた。
———————
36年前。
蒼真と蓮は訓練生3年目、奏は1年目のある日の訓練終わりだった。
人目を避けるように入り込んだのは訓練場裏の林だった。
「なぁー次、吸ってんの見つけたら、ぶっ飛ばすって橘教官言ってたじゃん」
隣でタバコを取り出す蓮を横目に蒼真が呟いた。
「吸いたくなったもんはしょーがねぇ」
「俺は吸わん」
「俺も」
蒼真の隣に立つ奏もぶっ飛ばされるのは勘弁です。と知らんぷりしようとした時だった。
——ガサッ。
物音に3人はビクッと肩を揺らした。
3人の目の前に仁王立ちしていたのは、橘だった。
「ほぉ…?次、見つけたらどうなるか分かってるよな」
橘がにやッと笑いながら拳を鳴らしていた。
蒼真は青ざめた。
「逃げるぞ」
蓮は言いながら走り出し、停止している蒼真の腕を引く。
「ちょっ…!!奏、逃げろぉぉぉぉ!!!」
「いや、待ってくださいよ!!」
蓮を先頭に蒼真と奏が走り出すと、それを待っていたかのように橘が追いかけてくる。
「待てコラぁぁぁぁ!!!」
「「「ひぃぃぃぃぃ!!!」」」
鬼の形相で追いかけてくる橘に3人は悲鳴をあげた。
そして、林を抜け野外訓練場に3人が飛び出した瞬間だった。
「てめぇらぁぁぁぁ!!!逃走犯の捕獲訓練だぁぁぁ!!!その3人、捕まえろぉぉぉ!!!」
野外訓練場、いや隣の本部にも聞こえるのではないかという程の橘の怒声に訓練生達の視線が3人に一斉に集まった。
そして……。
「了解っ!!!!」
野外訓練場に残っていた訓練生達の目つきがギラつき、30人程が3人に向かって押し寄せた。
「違う違う違う!!訓練違う!!」
パニックの蒼真が叫び。
「教官の職権乱用だ!!」
正論を蓮が叫ぶ。
「俺と蒼真さんは違ーう!!」
奏も全力で否定する。
が、教官命令。
訓練だ。と言われれば訓練生達は止まらない。
3人が必死に逃げ、揉みくちゃの捕獲劇が始まり、橘は笑っていた。
「今、殴ったの誰だ!」
「おい!蹴り入れたのどいつだ!」
「痛ってぇ!」
揉みくちゃの中で殴られ蹴られも起こる。
蒼真と蓮の同期は笑いながら「お前らに勝てるのは今しかねぇ!!」「数で押せぇ!!」と楽しんでいた。
「神代、押さえたぞ!!」
「黒瀬も確保!」
「……ぁ、奏も確保!」
普段なら逃げ切れたであろう3人はパニックを起こしていた事で数分のうちに確保され、橘の前に連れ出された。
「俺と奏は吸ってない!」
蒼真が橘に無罪だろ!と噛み付いたが橘はそれを鼻で笑った。
「逃げたろ」
「蓮が逃げろって言った!引っ張られた!」
「そうですよ!」
「やましい事がないヤツは逃げん」
橘も正論だった。
そして、次の瞬間、蒼真と奏の身体は宙を舞っていた。
「理不尽だぁぁぁ!!」
「なんで俺まで?!」
宙を舞う2人の叫びに訓練生達は腹を抱えて笑っていた。
「主犯は蓮だな」
橘が蓮の前に仁王立ちすると、蓮はたちまち青ざめ、固まった。
ーーガンッ!!
蓮の目の前で火花が散った。
そして、体が地面へと転がる。
「クソガキが」
橘から頭突きを食らい、蓮は気絶していた。
ーーーーーー
「いや、蓮さん!」
「父さんじゃなくて蓮さんだったの?!」
「……補佐官…そりゃ未成年はダメですよ…」
蒼志、悠真、黒崎兄弟が呆然としながら口を開く。
蓮は顔を覆って何も話さない。
見かねた蒼真が口を開いた。
「それで、1回タバコ辞めたんだよ」
蒼真は近くの椅子に腰を下ろし続けた。
「……鷹宮隊長がさ、俺と蓮を喫煙所に連れてったせいで俺も蓮もまた吸い出したんだけどな」
「……え、父さんタバコ吸ってたの?」
蒼真の発言に目を丸くしたのは蒼志だった。
悠真と黒崎兄弟も目を丸くしている。
そんな4人の様子に蒼真は小さく笑う。
「こいつも吸ってたよ、第一時代に」
蓮が反撃とばかりに顔を上げ、口を開く。
「まぁ、蒼真は辞めたけどな」
「……あ…肺のせい?」
蒼志が少しだけ気まずそうに聞くと、蒼真は蒼志と悠真の2人へ視線を向ける。
「……麗華が妊娠したって知って、辞めた」
統括室が静まり返った。
誰もが蒼真の次の言葉を待っていた。
「……肺の事もあったけど、麗華と子供になんかあったら嫌だ。って思ってさ、麗華に言われた訳でもないけど、自分で辞めるって決めたんだよ」
そう言う蒼真は少し照れくさそうだった。
「まぁ……リハビリでイラついて、久しぶりに吸って、盛大にむせてたけどな」
しれっと蓮が言うと統括室に笑い声が戻ってきた。
「言うなよ」
蒼真は蓮を睨みつける。
「いや、あれは笑った」
「笑ったな」
「肺悪いくせに何やってんだよって」
同期達が口々に言うと、蒼真は面倒くさそうにため息を吐いた。
「うるせぇ」
「でも、総統がタバコ辞めた理由は意外でした」
黒崎兄弟の兄、駿がそう言うと、蒼真は少しだけ肩をすくめた。
「まぁ……家族出来るって聞いたらな」
「父さんらしいね」
蒼志が小さく笑う。
統括室の空気が少しだけ穏やかになった時だった。
「いや、でも俺はタバコ逃走犯より、あれの方が面白かったけどな」
白石が思い出したように口を開いたその瞬間だった。
蒼真、蓮、奏の三人の動きが止まった。
「……白石」
蓮が低い声を出す。
「それはやめましょう」
奏も珍しく止めに入ったが白石は気にしていなかった。
「いや、今なら時効だろ」
「時効じゃねぇ」
蒼真が即座に否定する様子に若手達が首を傾げる。
「なんですか?」
「なんの話です?」
黒崎兄弟が尋ね、悠真と蒼志が顔を見合わせると雨宮が吹き出した。
「知らねぇのか。……ぁあ、お前ら訓練所来る前か。お前らの父さん達な最近の方が酷いぞ」
統括室が静まり返った。
蒼真は顔を覆い、蓮は天井を見上げ、奏は静かに目を閉じた。
同期達もあれなぁwと笑う。
その様子を見て、若手達の目が輝き始めていた。
「最近?」
「最近っていつですか?」
「十年くらい前だな」
白石が笑いながら答えた、その時だった。
蒼志と蓮が今、一番来て欲しくなかった人物の声が聞こえた。
「盛り上がってんな」
蒼真が顔をしかめ、蓮は舌打ちし奏は小さく笑った。
そして白石と雨宮は腹を抱えて笑い始めた。
葛城だ。
「来たぞ」
「主犯だ」
「違う」
葛城は即座に否定した。
「俺は主犯じゃない」
「主犯だ」
蓮の即答に葛城は呆れたように肩を落とした。
「お前らな……」
その手には記録ディスクが握られていた。
それを見た瞬間、蒼真が静かに立ち上がった。
「葛城」
「なんだ」
「それを今すぐ捨てろ」
「断る」
即答する葛城の言葉に統括室にいる若手達の目が一斉に輝いた。
マズい。
蒼真はこれを息子達に見られたくない。
と葛城の手からディスクを取り上げようとするが、それを葛城は軽く交わした。
少し焦り気味の蒼真の様子を見て蒼志が呟いた。
「……何が入ってるんですか?」
葛城は不敵に笑った
「光剣戦争だ」
統括室の古い顔ぶれは笑いをこらえる者、吹き出す者、様々な反応を見せている。
白石と雨宮は腹を抱えていた。
「……は?」
悠真と黒崎兄弟が間抜けな声を漏らした。




