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帰る場所を守るために―国家災害統括特殊救助機関 "暁" の継承者達―  作者: HANA
第4章 時代は廻る

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第40話 Pandora's Box


橘の葬儀から数日後。

黎明本部は久しぶりに穏やかな空気に包まれていた。

大規模災害の発生もなく、各部隊は通常業務へと戻っている。

黎明本部地下統括室のシステム確認を奏と行って居た時の事だ。


「平和だなぁ」

統括室のソファで羊羹を食べながら蒼真が呟いた。

「お前が平和って言うと不安になる」

蓮が書類から目を離さずに返す。

「なんでだよ」

「大体その後、何か起きる」

「失礼な奴だな」

蒼真は不満そうに眉を寄せた。

その様子を見ていた奏が小さく笑う。


「まぁでも本当に平和ですね」

「こういう日も必要だろ」

蒼真がそう言った時だった、統括室の扉が開く。

「雨宮さん?」

奏が顔を上げ、不思議そうな顔をする。

それもそのはず、雨宮は訓練所の統括教官。

教官達と訓練生を見ている人間だ。

本部に来ることは訓練所関係の報告で、総統室に来ることはあるが統括室に来ることは今までなかった。

そんな雨宮は段ボールを一つ抱えていた。


特に理由はない。が、嫌な予感がした。


「あのな」

雨宮は段ボールを机の上へ置いた。

ドスッ。

妙に重そうな音が響く。

「橘補佐官の資料整理してたんだ」

蒼真が羊羹を食べる手を止め、蓮は書類から顔を上げた。

「それで?」

「面白い物見つけた」

雨宮がニヤリと笑ったその瞬間。

蒼真と蓮の表情が同時に固まった。


嫌な予感が確信へ変わる。


雨宮は段ボールの中から一枚の写真を取り出した。

訓練所の木の上に立つ銀髪の少年。

隣には黒髪の少年。

どちらも満面の笑みだった。


数秒の沈黙の後、口を開いたのは蒼真だった。

「雨宮」

「なんだ」

「その写真、しまえ」

「嫌だ」

雨宮は即答だった。

蓮は静かに天井を見上げた。


終わった。

何かが終わった。

そして何かが始まった。

そんな予感しかしなかった。


「でな、DVDも入ってて、統括室なら再生出来るかと思って」


ごそごそと段ボールからDVDを取り出し、雨宮はプレーヤーを探すと近くにいたオペレーターが代わりにプレーヤーにDVDを入れ再生する。


『かかって来い、クソ蒼真ぁ!!」

『てめぇこそ、かかってこい、クソ蓮!!』


統括室の大型モニターに映し出されたのは

訓練生時代の蒼真と蓮の姿だった。

組み手の訓練中に見えるのに、周りはざわついて笑っている者も見える。


『訓練でかかってこいってなんだ、お前ら』


少し笑いながら、呆れた橘の声が聞こえて来る。

その声に蓮はモニターへと視線を向けた。

映像の中で若いころの自分と蒼真が組み手をしている。

いや…組み手なのか殴り合いの喧嘩なのかすら分からない。

周囲の同期達は「また始まったw」と笑って自分達を見ている。


——懐かしい。


そう感じ、蓮は蒼真を見た。

蒼真もまた、モニターを懐かしそうに見つめていた。


「もういいだろ、消せよ」

蒼真が小さく息を吐きながら言った。

見たって仕方ないだろ。と言いたげだ。


「消さん」

「はぁ?」


頑なに消そうとしない雨宮に蒼真が眉を歪めた時だった。

「総統、各機関との通信デバイスの接続確認訓練の——」

「え?!なにこの映像!」


統括室に悠真と黒崎兄弟が報告のために訪れたのだ。

モニターで繰り広げられる蒼真と蓮の映像に目を見開き、動きを止めた。

悠真はモニターから視線を蒼真に移し、もう一度モニターを数秒見つめ、また蒼真を見ると口を開いた。


「……父さん、若ッ!!なにあの動き!!」

「……いや…組み手?」


頭を掻きながら答える蒼真に統括室が吹き出した。

その時だ。

雨宮が誰かに電話をかけるのを蓮は見逃さなかった。

そして、悠真もスマホを取り出し、メッセージを打ち出したことも。


数分後、組み手の映像から様々な訓練映像が続く中、統括室にやってきたのは蒼志だった。

「悠真、急いで統括室って……いや、なにこの映像」

「父さんと蓮さんの若いころの訓練映像!!2人共めっちゃ若いんだよ!あと、なんかやべぇ」

戸惑う蒼志に悠真が声を掛け、椅子に座らせる。

黒崎兄弟はモニターを食い入るように見ている。

その様子を蒼真と蓮が溜息をついて見つめていた。


そして———。


「上映会会場はここか?」

「上映会じゃねぇ」

統括室に何故かすでに楽しそうな白石の声が響くと即座に蓮が否定する。

白石の顔が生き生きとしている。

そして、その後ろには何やら荷物を持つ律の姿が見えた。


——マズい。


もはや、予感ではなかった。

始まった何かが、拡大している。


蓮は立ち上がり、律の入室を防ごうとしたが律は逃げるように若手の傍へ寄っていく。


「総統と補佐官の写真公開します!」

「おい」

「公開するしかない!」

「律、奏、やめろ」

「「やめません」」


律は奏と共に蓮の静止を振り切った。

律が持ってきた手荷物から大量の写真を机の上に出すと悠真を先頭に若手達がそれぞれ写真を眺めていく。

そして、まだ黎明に残る蒼真と蓮の同期達も写真を手に取っていた。

それぞれが

「総統、若い!」

「補佐官、若い!イケメン!!」

「懐かしいなー」

「いや、神代、飯食いすぎ」

思い思いの言葉を口にする。

そして、そこで違和感に気が付いた蒼真は口を開いた。


「ちょっと待て。なんで俺と蓮の写真、こんなにあんだよ」

「……いや、確かに。って、おい、なんだこれ、カレンダー?」

蓮が手にしたのは確かにカレンダーだった。

それも、蒼真の蓮の写真の。

その瞬間、奏、律、白石、雨宮の肩がビクリと揺れた。

4人に蒼真と蓮の鋭い視線が突き刺さった。


「いやぁ…それは…」

視線を泳がす奏。

「……もう、時効ですかね?」

奏の隣で同じように視線を泳がす律。

「うーん、時効か」

顎に手を当て考える雨宮。


「お前達のファンクラブが存在してた」


白石が白状した。ケロッと、軽く。

「「は?」」

蒼真と蓮の動きが止まった。

同期達は肩を振るわせて声を出した。


「ほんとに知らなかったw」

「マジだったw」

「いやいやいやいや、ファンクラブってなんだよ!」

「ちょっ、待て待て待て!ホントになんなんだ!!」

焦る蒼真と蓮の様子に同期は腹を抱えて笑っている。

そして、若手たちは呆然としていた。

焦る2人を見ながら口を開き、蒼志は白石に声をかけた。


「ファンクラブって…」

「あったんだよ、あいつらの。いつの間にか作られてて、当時の第一の俺達が写真撮って、黎明内で売ってたんだよw」

「それっていいんですか…」

「橘補佐官も天音総統も黙認してた。売上は第一隊室のお茶、補食、プロテイン代だったからな」


笑いながら話す白石に蒼志は目を丸くし、悠真は写真を手に目を輝かせている。


「…っていうか……蒼志、父さんと蓮さんの筋肉やばくない?」

悠真が手に持つ写真は何故か上半身を脱いで並ぶ2人の写真だった。

「……バッキバキじゃん!!」

蒼志と悠真にとって、父は確かに昔から筋肉はあってしっかりした体の印象ではあった。

しかし、その写真の中の父の筋肉は子供時代の記憶とも、今の体とも全く結びつかず、あっけに取られた。

そして、蓮の体は今より一回り小さく感じる。


まだファンクラブの存在を飲み込めず、焦っている蓮に蒼志は意を決して声を掛けた。

「蓮さん…肉体改造しました?」

「いや、今それどころじゃ……まぁ、現役時代は素早く動ける筋肉作ってた」

「今は……」

蒼志の質問に蓮は一瞬、まだパニックになっている蒼真へ視線を向ける。

「あいつが倒れたら、運べねぇから…あいつ、なんかでけぇし、重いから、持てる筋肉に変えたんだよ」

「蓮さん……」


その時だった、生き生きとした奏の声が響く。

「ところで、蓮さん!蒼真さんが埋没した時に黒歴史暴露しようとしたじゃないですか。ガードレール…あれ、俺も噂しか知らないんですけど、真相なんなんですか?」


その瞬間、蒼真と蓮、そして同期達の動きがピタッと止まった。

白石と雨宮は「あー、それ聞く?」と言う顔だ。

蒼真と蓮は同期達と顔を見合わせる。

蒼真と蓮は「絶対、話すな」と睨みつけているが同期達の表情が緩む。


「…まぁ、当時のトップもういねぇし」

「これも時効か」


同期達は腕を組み椅子に座ると口を開き始めた。





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