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帰る場所を守るために―国家災害統括特殊救助機関 "暁" の継承者達―  作者: HANA
第3章 移りゆく時

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第34話 His Legacy

鷹宮隊長の葬儀から数日が過ぎた。

だが、その名前は黎明の中から消えなかった。


本部の廊下や食堂、訓練場で誰かがふと口にする。

「鷹宮さんならさ」

その言葉に続く思い出話は尽きなかった。


――――――

その日の夕食後、神代家のリビングでは珍しく全員が揃っていた。

蒼真はいつものソファに座り、隣には麗華。

向かい側には蒼志と渚。

少し離れた場所には悠真と華凛、蒼空もいる。


テレビは消され、みんなで蒼空の成長を祈る静かな時間だった。

そんな中、最初に口を開いたのは悠真だった。


「父さん」

「んー」

「鷹宮隊長ってどんな人だったの?」

部屋が少し静かになり、蒼真は手元のマグカップを見つめた。


鷹宮隊長。


その名前を聞くだけで思い出す事が多過ぎた。

怒鳴られた事。

殴られた事。

投げ飛ばされた事。

そして認められた事。


蒼真は小さく息を吐く。

「怖かった」

真顔で答える蒼真に悠真が吹き出した。

「え?」

「怖かった」

蒼真は真顔だった。

「理不尽だった」

「え?」

「痛かった」

「え?」

「鬼だった」

次々に出てくる言葉に悠真は困惑し始めた。


「良い所ないじゃん」

その瞬間、リビングの全員が笑った。

蒼真も少しだけ笑う。

「ある」

そして少しだけ遠くを見る。


「誰よりも人を見てた」


リビングが静かになる。

蒼真は続けた。

「出来ない奴は怒鳴る」

「サボる奴は殴る」

「無茶する奴も殴る」

「馬鹿やる奴も殴る」

「飛び掛かる奴は投げ飛ばす」

悠真が苦笑すると蒼真も笑った。


「殴ってばっかじゃん」

「そうだな」

だが次の言葉だけは真剣だった。

「でもな、見捨てた事は一度もなかった」

その言葉に誰も口を挟まない。


それが鷹宮だった。

出来る隊員も出来ない隊員も。

優秀な人間も問題児も。

全員同じように怒鳴って。

全員同じように育てた。

だから今も黎明の中に名前が残っている。


蒼真は少しだけ笑った。

「まぁ」

「俺と蓮は問題児側だったけどな」

「絶対そうだと思った」

悠真の即答にリビングが再び笑いに包まれた。


「飛び掛かる奴は投げ飛ばす。って、それ蒼真と蓮くんしか居なかったじゃない」

麗華がそう呟くと蒼真は苦笑いする。

「投げ飛ばされてたの、父さん?」

悠真が目を丸くして蒼真に尋ねると遠くを見つめながら蒼真は口を開くと、悠真だけではなく蒼志と渚も耳を傾けた。


懐かしそうに。

でも、とても大切に思い出のように。

蒼真はゆっくりと話し始めた。



———————


「鷹宮隊長ーー!!」

第一特務遊撃隊へ配属されて間もない頃だった。

訓練を終えた蒼真は各部隊の隊長が集まっていた部屋へ飛び込んだ。

勢いよくドアを開けると叫ぶように声をあげた。


「今度の合同訓練、俺も参加させてください!!」

隊長机の向こう側で書類を読んでいた鷹宮が顔を上げた。

「却下だ」

「なんでですか!!」

「怪我が治ってねぇ」

「もう治りました!!」

「嘘つけ」

「治りました!!」

「嘘つけ」

話にならなかった。

その時、後ろから息を切らして走ってきた蓮が現れた。

「だから言っただろ」

「うるせぇ」

「隊長が許可する訳ねぇだろ!」

「うるせぇ」

蓮は深いため息を吐いた。

その瞬間だった。

鷹宮がゆっくりと立ち上がり蒼真と蓮の元へと歩み寄る。


蒼真は嫌な予感がした。

本能だった。

だが遅かった。


「蒼真」

「はい」

「蓮」

「はい」


名前を呼ばれた次の瞬間、2人の視界が反転した。


「うぉぉぉぉぉ?!」

「はぁぁぁ!?」


綺麗に投げられ二人まとめて床に転がっていた。

本部の廊下に響く悲鳴だった。

「待ってください!!」

蓮がすぐに起き上がり抗議する。

「なんで俺まで!!」

蓮が叫ぶと鷹宮は鼻で笑った。

「止めなかった」

「理不尽だ!!」

「止めなかっただろ」

「無茶苦茶だー!!」

蓮は頭を抱え、叫んでいた。

蒼真は呆然としたまま、床に転がり蓮と鷹宮のやり取りを見ていた。

鷹宮は腕を組むと2人の顔を見ながら平然と言う。


「お前ら二人で1セットだ」


「嫌だ」

蒼真と蓮の声が綺麗に揃った。


「なら止めろ」

「無理です」

「だから投げる」

話にならなかった。

その後、結局2人とも訓練場へ連行されて、さらに投げられた。

合同訓練には参加させてもらえなかったが、鷹宮の特別訓練を受ける事ができた。


——————

話し終えた蒼真は静かにコーヒーを飲んだ。

リビングは沈黙していた。

やがて悠真が口を開く。

「理不尽じゃん」

「理不尽だったな」

蒼真は即答した。

「父さん何も悪くなくない?」

「俺は悪かった」

「蓮さんは?」

「知らん」

「知らんじゃねぇ」

いつの間にかリビングの入口に立っていた蓮が即座に突っ込んだ。

「俺は完全に巻き添えだ」

「止めなかった」

蒼真が真顔で言うと蓮は数秒固まった。

そして、「お前まで鷹宮隊長理論使うな」と蓮が蒼真を睨みつけた。


「でもまぁ……俺にとって鷹宮さんは師匠だよ。何百回と投げられた。けど、認めてくれたんだよ。俺が投げ返せた時」


そういうと蒼真は目を細めた。



————————


それは鷹宮が隊長を退き、教官職に転じる事が決まった頃のことだった。


「これで最後だ」

腕を組み、仁王立ちする鷹宮に蒼真は向き合っていた。

すでに何十回と投げられていた。

荒れた息を整え、蒼真は鷹宮にむかって走り出し、拳を振り上げる。

簡単に交わされ、蹴りをくりだす。

掴まれそうになる足をすぐに引いて一瞬で鷹宮の間合いに入り、装備ベルトを掴み、蒼真が鷹宮を投げ床に叩きつけた。


「ぉお?!」

近くで見ていた白石が声をあげた。

床に転がる鷹宮は蒼真と目が合うとニカッと笑った。


「合格だ」


それだけ言うと鷹宮は立ち上がり、訓練場から出て行ってしまった。

蒼真は呆然と立ち尽くしていた。

その様子を蓮は黙ってしばらく見ていた。

そして———。


「…うおぉぉぉぉぉっ!!隊長投げてやった!!!!」


蒼真の歓喜の叫びが訓練場に響き渡った。



————————————


「第一を隊長が抜ける前に一本取れたんだよ……あの時の顔、遺影の写真と同じだった」

蒼真は懐かしそうに目を細めた。

「……父さん、すげぇ」

悠真が目を輝かせていると蓮が口を開いた。


「……いや、あの時…鷹宮さん、お前が腰を痛めないように荷重逃がしてたぞ」

「……は?マジ?」

「マジ。あとは……鷹宮さんと言えば、高速滑降だな」

「確かに」

蒼真と蓮が笑うと蒼志が恐々と口を開いた。


「高速滑降ってなに…」

蒼真は蓮は蒼志へ視線を向けると同時に口を開く。


「崖を降りる技術だ」


真面目な顔で、それ以外に何がある。という顔を2人共している。


「それ、俺もやりたい!」

悠真が蒼真に教えてくれ!と詰め寄ると蒼真は首を横に振った。


「高速滑降は俺と蓮だけで終わりだ。奏にも律にも教えなかった」

「あれは、やらない方がいい。失敗したら死ぬ」


真面目な顔で語る2人に蒼志と悠真は青ざめ、麗華は呆れた顔をして、華凛と渚は笑っていた。

そして、蒼空が蒼真の近くへ、ずりバイでやってくると不思議そうな顔で蒼真を見つめるニコッと笑った。


神代家が、鷹宮という人間を知れた瞬間だった。






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