↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰る場所を守るために―国家災害統括特殊救助機関 "暁" の継承者達―  作者: HANA
第2章 次の景色

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/79

第27話 Together We Lift

「歩ける方、消防の指示に従って移動をお願いします」


大型バス内部では、軽症者の移動が始められた。

車両内部には本城と謙が入り、誘導を行っていた。

駿と悠真はレスキューと共にバスの外で二次被害防止のため、バスの支点補強を進めていた。


そして、徐々にバス内部から移動していく人々の流れ。

支点補強も進み、大丈夫だろうというころ、通信機に謙の声が響いた。


『駿、悠真…中に来てくれ』


謙の声は震えているように聞こえた。

駿と悠真はその場をレスキューに託すとバス内部へと入る。


「副隊長、謙、どうし…」


声を掛けようとした駿の言葉が詰まった。

目の前の光景に言葉を失ったのだ。


駿の後からバスに入った悠真もその光景に足が止まった。


バス後方、転落の衝撃で崩れた座席に押し潰される若い男女の姿がそこにあった。


男性が女性を庇うような姿勢のまま動かない。

女性も意識はあるようだが苦痛に顔を歪めていた。


「謙……」

駿の声が震えていた。


見た瞬間に分かった。

座席と車体の傾き、男女の潰れ方。

無理に動かせば2人だけじゃない、バスごと再転落するということが。


本城は通信機を震える手で握った。

「本部」

『統括室』

「後方座席で二名発見。座席圧迫あり。座席切断検討」

通信に答えた奏の表情が変わり、蒼真が通信に横入りした。

「状況」

「…崩壊した座席により男女2名、圧迫。女性は意識あり、男性反応なし」

蒼真はモニターを見つめながら本部オペレーターへ指示を出す。

「車体状態、拡大で映せ。あと車内の映像」

「……拡大映像に切り替えました!」

現場指揮所から日向の飛ばすドローンのカメラが統括室の大型モニターへ映し出され、謙のヘルメットカメラが車両内部を映し出す。


蒼真は無言で映像を見つめ、蓮もモニターへ視線を向ける。

葛城も足を止めた。

数秒、誰も喋らず、統括室と現場に沈黙が流れていた。

その沈黙を破ったのは悠真だった。


「俺が支えます」

駿が振り返る。

「悠真」

「座席持ち上げて荷重逃がします。その間に切断すれば――」

『待て』

その時、通信越しに蒼真の声が響き、悠真が口を閉じる。


「座席切断はまだだ」

「でも——」

「まだだ」

蒼真の低い、強い声が響いた。

統括室で蒼真はモニターを睨み続けながら口を開く。

「車体後方、左へ傾いてる」

消防指揮が映像を確認する。

『確認』

「座席切断した瞬間、荷重移動する可能性がある」

悠真の顔色が変わった。

「……」

「下手に触れば要救助者の圧迫が強くなる。バスも落ちる」

『その可能性はありますね…』

消防指揮も同意すると蒼真は続ける。


「外部支点増設」

『了解』

「最低三点」

『了解』

「右後方追加。本城、レスキュー支点補強の指示に外出ろ」

『了解!」

消防隊員達と本城が動き始めた。


統括室では葛城がモニターを見ながら呟く。

「よく分かるな」

「……転落、崩落は嫌ほど経験してる」

蒼真が答えると蓮はテーブルにコーヒーを置きながら呟く。

「ついでに埋まったしな」

「その一言、余計だろ。河上、蒼志、福池、2名クラッシュシンドロームの可能性あり」

『了解』

蓮の嫌味に蒼真は反応しながらも蒼真はモニターから視線を外すことなく、医療班へ指示を出していた。

そして、再び第一へ回線を切り替え、悠真へと繋いだ。


「悠真」

通信機へ向けて呼ぶ。

「……はい」

「お前が支えたらどうなる」

「荷重逃がせます」

「違う」

蒼真は即答した。

「お前が潰れたら三人目だ」

「……」

「お前も救助対象になる」

その言葉に悠真は拳を握った。

何も言い返せない。


昔の自分なら、飛び込んだ。

今の悠真と同じ答えを出していた。

自分を犠牲にすれば助けられる。

だけど今は違う。

同じことを悠真にさせるわけにはいかない。


「支えるな」

蒼真の声は静かだった。

怒りも迷いもなくただ静かだった。

それだけに強かった。


「固定しろ」

外では消防隊員達と本城が次々と支点を増やしていく。

車体が少しずつ安定していくのを確認しながら蒼真は言い放つ。


「全員で帰るぞ」


通信越しに聞こえたその言葉に。

悠真はゆっくりと息を吐いた。


「……了解」

そして初めて一歩下がった。

その姿を見ながら統括室で蓮が小さく息を吐いた。

「少しは聞くようになったか」

蒼真はモニターから目を離さないまま答えた。

「まだ足りねぇ」

だがその声はどこか少しだけ安心しているようにも聞こえた。


消防隊員達による支点補強が進んでいく。

車体下部、後方、左右に次々と追加される支柱。

救助隊員達の額から汗が落ちる。


「支点固定完了!」

外から聞こえた本城の声に謙がすぐ通信を取った。

『本部、支点完了しました!』

統括室でモニターを見つめていた蒼真が小さく頷く。

「荷重変化確認」

本城が車体を慎重に確認していく。

その間、誰も息をしていないように統括室は静まり返っていた。

そして『変化なし!』その報告が飛んだ瞬間、統括室の空気が少しだけ緩んだ。


「座席切断開始」

『了解』

バス内部で駿が切断を進める。


謙は俯く悠真の肩に手を置いた。

「助けよう。そして、帰そう」

「……」

「ちゃんと止まったじゃん。飛び込み掛けただけだよ」

「……はい」

悠真の声は少し悔しそうだった。


結局、自分はあの日の工場地帯火災から何も変わっていない。

無茶は救助じゃない、それは理解出来ているのに。

全員で帰る為の方法を選ぶ。

それが、黎明なのに…。


父の背中が、現場に出ると更にその存在を増す。


——期待外れ。

そう言われても、仕方がないのかも知れない。

ここにいないのに、父は現場の掌握を誰よりも早くした。

そんな父にどうやって追いつけばいいんだ。


切断機の音が響き金属が軋む。

少しずつ、少しずつ…潰れた座席が持ち上がっていく。

「女性側空間確保!」

「男性側もあと少し!」

駿が声を上げたその時、女性が涙を流しながら小さく呟いた。


「たす……けて……」


「大丈夫です」

謙が女性に即答する。

「帰れます」

その一言に女性が小さく泣いた。

悠真はその姿を見つめながら、拳を握りしめた。


助けたい。

飛び込みたい。

支えたい。

その気持ちは変わらない。


「ジャッキもう一段!」

「了解!」


自分が支えるんじゃない。

みんなで支える。

その為に自分が動く。

それが全てだと思った。


でも——それは違うのだろうか。


「男性側確保!」

「引き出せる!」

謙の声が響くと悠真と駿が男性を慎重に引き出した。

続いて女性。

二人とも呼吸はある。

脈もある。


「副隊長!」

駿が振り返る。

「二名救出完了!」

数秒、誰も言葉を発さなかった。


「よし!」

謙が拳を握った。

その瞬間だった、医療班から通信が入る。

『男女2名、すぐにあげろ」

蒼志の静かな声が通信機に響いた。

「了解!」

謙が返答すると、すぐに2名を崖上へ搬送する。


「福池、循環システムの準備は」

「終わってます、2名分」

「蒼志、状況的に男性が優先だ、ヘリ搬送頼む」

「はいっ」

医療テント内で軽症者の処置をしていた3人は男女の救出の報告を受けると、すぐに重傷者対応の準備に取りかかった。

そして、運ばれてくる要救助者2名。

蒼志は男性、河上が女性の担当をする。福池は担架を挟んで2人同時のサポートに入った。

「男性…呼吸音、問題なし。頭部外傷なし、骨盤、両下腿…やってるな。出血多い、輸液追加!止血剤!」

蒼志が言うと即座に止血剤が福池から手渡される。

止血剤を押し込みながら、女性の様子を河上に尋ねた。

「蒼志、こっちが搬送先だ!すぐにヘリに行くぞ!」

スムーズに挿管を終わらせた河上が蒼志に告げると救急隊員と共に蒼志は担架を押し、ヘリへと走り出した。


——繋ぐ。

ただ、それだけを胸に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。