表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰る場所を守るために―国家災害統括特殊救助機関 "暁" の継承者達―  作者: HANA
第2章 次の景色

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/73

第25話 Beyond Expectations

翌朝。

演習場へ向かう途中で悠真は妙な違和感を覚えていた。

「……なんか見られてね?」

隣を歩いていた蒼志が欠伸をしながら答える。

「気のせいじゃない?」

「いや、絶対見られてる」


実際に見られていた。

在日米軍選抜隊の、そのほとんどが悠真を見ている。

悠真が歩けば視線が動き、止まれば止まる。

振り返れば逸らされる。


「なんだこれ」

「知らん」

蒼志は興味が無さそうだった。

その時だった。

「Good morning!」

後ろから大きな声が響き、振り返ると笑顔のブライアンがいた。

朝から元気である。

「おはようございます」

蒼志が軽く頭を下げる。

「Morning!」

悠真も手を上げた。

ブライアンは笑いながら悠真の肩を叩いた。


「今日、楽しみにしてるぞ!」

「?」

「ニホンゴデ……タノシミダ!!」

英語に困惑する悠真にブライアンは片言の日本語で話してくれた。

その時、後ろから蒼真の声がした。

「通訳するよ」

「助かる」

ブライアンは蒼真に笑うと話し出した。

「若い頃のソーマみたいだって話したら、みんな楽しみにしててな!」

「ああ……」

「走りも泳ぎも、ロッククライミングも!ソーマ凄かったもんな!楽しみだよ!」

「……まぁ、そうなるか」

「みんな楽しみだから、頼んだぞ!」


ブライアンの言葉に苦笑いする蒼真に蓮は嫌な予感しかしなかった。

その予感は数秒後に的中する。


「……悠真、俺にお前似てるから、色々楽しみにしてるらしい」


悠真が固まり、蒼志がゆっくり空を見上げる。

「あー……」

悠真も蒼志も察した。

完全に察したが、ブライアンは気付いておらず満面の笑みだ。

「He's fast at running, isn't he?」

「ぇ?」

「What is your best stroke?」

「ん?」

「You're good at rope work, right?」

「え?」

「You're also good at rock climbing, right?」

「………What?」


ブライアンは嬉しそうに勝手に話を進めて行く。

悠真は蒼志を助けてくれ。という視線を送ったが蒼志は肩を竦める。

「頑張れ」

「助けろよ!」

「無理」

即答する蒼志に悠真は項垂れた。

2人の後ろでは黒崎兄弟がクスクスと笑っていた。


その後、ブライアンと打ち合わせを済ませた蒼真が監督用に用意された椅子へ腰掛けると悠真が近寄って来た。

絶望した表情だ。

「……父さん…」

「大丈夫だ」

珍しく蒼真がそう即答した

悠真が顔を上げると蒼真は米軍選抜隊を見ながら続けた。

「お前は俺じゃねぇ」

「……ぇ?」

「だから好きにやれ」

そう言うと、資料へと目を落とした。

だが数秒後、ブライアンの大声が響いた。


「ソーマの息子だ!あいつの動き、よく見てろよ!」

米軍選抜隊の視線が一斉に悠真に集まった。


悠真は天を仰いだ。

終わった。

そう思った。


確かに走りも、ロープも人並み以上には出来る…。

でも父さんと同じレベルを要求されるのは無理だ。

昨日のロープ結紮の速さは異常だった。

あんな事、自分には出来ない。


だけど…男として、ここで投げ出して逃げるのはカッコ悪い。

父さんは好きにしていいと言った。

……よし、やってやろう。



訓練開始の合図が鳴った。

今日の内容は複合救助訓練、崩落現場を想定した進入、ロープワーク。

負傷者搬送、判断速度、全てを総合的に見る訓練だった。

「よし!」

悠真は勢いよくスタートした。

開始直後、走りだす悠真。

速い、確かに速い。

選抜隊の若手達も目を見張った。


「おぉ!」

「速い!」

「ソーマの息子だ!」

その声に悠真は少しだけ嬉しくなる。

だが次の瞬間。

「悠真!」

駿の声が飛んだ。

「止まれ!!」

「ぇ?」


悠真が足を止めたその足先で崩落想定の床が崩れた。

訓練とはいえ、踏み抜けば脱落となる。


「危なっ」

「だから確認しろって言ってるだろ!」

謙が怒鳴る。

米軍若手達が静かになり、悠真は頭を掻いた。

「いやー……」

「いやーじゃない!」

即答する謙に遠くで見ていた蓮が肩を震わせていた。

「猿だな」

「猿ですね」

葛城も頷いた。

蒼真は酸素マスク越しに小さく息を吐いた。

「……いや、好きにしろってそういう意味じゃなかったんだけど…」

「悠真に伝わらないだろ、それ。お前以上の直感バカだぞ」

葛城が溜息をついて呆れていた。

少し気まずそうに蒼真は資料で顔を覆った。


その時だった。

別エリアで要救助者役のダミーが発見され、選抜隊が動く。

第一も動く。

だが、悠真だけが迷わなかった。

誰よりも先に飛び出していた。


危険も。

評価も。

周囲の目も。

何も考えていない。

ただ「助ける」その一点だけだった。


ダミーへ真っ直ぐ駆ける。

迷うこともなく、躊躇もしない。

その姿をブライアンだけが黙って見ていた。

そして小さく笑う。

「似てるな」

隣の米軍教官が首を傾げる。

「ソーマにですか?」

ブライアンは首を横に振った。

「違う」

そう言って悠真を見る。

「まだ全然違う」


確かに技術は違う。

判断力も違う。

経験も違う。

だが誰かを助けようとする時だけ。

目の色が変わる。

その瞬間だけは昔見た、14歳の少年によく似ていた。

ブライアンは懐かしそうに笑った。


「でも、あれでいい」

その言葉を聞いた者は誰も居なかった。


訓練は滞りなく進んでいき、選抜隊は第一の技術の高さに驚かされていた。

だが、朝から向けられていた悠真への視線だけが少し変わっていた。


“神代総統の息子”


似ている、とブライアンから聞かされていただけに、その期待値は上がっていた。

だが、現実は先輩たちに怒られている後輩に見えていた。

確かにスピードも判断力も悠真にもある。

だが…昨日、目の当たりにした蒼真のロープ結紮の後に見る悠真は自分たちと変わらないのでは?と疑問が上がっていた。


「I had high hopes for him because he's the president's son.」


選抜隊が投げかけたその言葉を悠真がきょとんとした。

そして、日本語が少し出来る隊員が言い放った。

「……キタイハズレ」


悠真と、第一特務隊が凍り付いた。


ー期待外れ。


悠真がその言葉を恐れていることを第一は知っている。

まだ何か話そうとした選抜隊から呆然と立ち尽くす悠真を連れ、駿と謙は軽い挨拶をして退いた。

その様子を演習場脇に設置された救護テントでトリアージや処置、搬送の説明を選抜隊の医療担当者にしていた医療班は見ていた。

テントに水を取りに来た駿に蒼志は声をかけた。何が起こったのかを。


「……悠真が、総統と同じレベルだと思ってるらしいよ、向こうは。…期待外れだって」

「期待外れって…それは違うだろ、否定してやれよ」

「いや、俺が口出したって仕方ないだろ?向こうとの関係だってヒビ入ったら、総統達を困らせちまうだろうし」

「でも、それじゃ悠真くんは苦しむんじゃ?」


静かに話を聞いていた渚が割り込んだ。


「……それは…そうだけど…悠真の実力は俺達が認めてる。そもそも、実力主義の黎明で第一にいるんだから、それであいつには分かってもらうしかないよ。外部がなんと言おうと悠真は期待外れなんかじゃないって」

「……認識のズレ……それでも悠真にはキツい言葉だろうな…」


蒼志はそう呟くと俯いた。


「サボりか」

テント内の重い空気を切り裂くように背後から低い声が響いた。

蓮だった。


「訓練サボってると減給だぞ」

「いや、補佐官…悠真が…」


話しながらスポーツドリンクを取る蓮に蒼志は事の顛末の説明をした。

蓮は特に深刻そうにすることもなくいつもの無表情で答えた。


「悠真はそのうち答えを見つけるよ。……それより、お前の父ちゃんが暑さでぶっ倒れそうだから、後で氷もってこい」


それだけ言うと蓮は蒼真の元へ戻っていく。

気丈にブライアンと話す蒼真の姿が見えた。

だが…確かに顔色は悪く、発汗も多そうだった。


「俺…英語の勉強しようかな」


ぽつりと呟いた蒼志の言葉に渚が返す。


「私もやっぱり、やろうかな」


妊娠が分かったが、渚が黎明を辞めるという選択肢は存在しなかった。

その代わり、最前線への出動はなくし、内勤のみで第一から抜けると言う結論に蒼志と渚は至っていた。


「時間、できるし」

「やっぱり、頼もしいや渚は」


蒼志はははっと笑った。

2人で英語を覚えれば、蒼真に通訳を今後、頼む必要もなくなる。

負担を減らしてやれる。

それは若い夫婦が総統を見ているわけではなく、神代蒼真を父として見ている証だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ