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帰る場所を守るために―国家災害統括特殊救助機関 "暁" の継承者達―  作者: HANA
第2章 次の景色

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第18話 Until Dawn


蒼志の結婚の報告に沸いたその夜。



寝室で眠れずにいた蒼真は水でも飲もうとリビングへ向かった。

しかし、リビングには薄暗く明かりが灯っていた。


「ぁ、父さん…」


「蒼志か……珍しいな、酒」


普段はあまり飲まない蒼志が珍しくお酒を飲んでいた。

蒼真は水をコップへ注ぐと蒼志の向かいに座った。


「……付き合ってたのか」


「うん……黙ってるつもりはなかったんだけど…噂とかで聞いてるかなって」


「いや、全く」


蒼真は水を飲みながら返した。

そんな父を蒼志はいつもの父に戻った。と目を細めた。


「華凛の時ほど、驚かなかったね」


「……そりゃ華凛は驚くだろ。結婚します、子供もできましたって…俺じゃなくても驚くわ」


蒼志は酒のグラスを持ち上げながら笑った。


「父さん、面接みたいなの始めたしね」


「大事だろ。……まぁ華凛が普通に幸せならそれでいいかって」


蒼真は一口水を飲むと続けた。


「華凛には危険のそばに居て欲しくなかった。あいつは覚悟して出来た子だからな」


蒼真は目を細めた。

いつだったか、女の子の小さな服を見て、麗華が少し寂しそうな顔をした。

俺は2人も子供に恵まれて十分だと思った。

でも、麗華はやっぱり寂しそうで。

けれど総統就任の話も受けていて仕事はますます忙しい。

年子2人のやんちゃ坊主、麗華の年齢、自分の体の状態。

何度も何度も話し合って、覚悟を決めて作った子が華凛だった。



「……俺は?」


「……蒼志は…まぁ待ち望んでたよ。麗華と籍入れて3年目だったしな」


蒼真は思い出したように笑う。


「お前が腹にいるって知ったの、俺死にかけてた時なんだぞ」


「は?」


蒼志は死にかけたと笑いながら話す蒼真に目を丸くした。


「死にかけ…って…」


「今なら笑い話だろ。もう26年も前の話だ。現場でさ、まぁ大怪我してさ、意識飛びそうな俺に麗華が子供出来たよ。って…バカだろ、タイミング考えろって。……でもさ、蒼志が麗華のお腹にいるって知ってさ……」


蒼真は天井を見上げて過去を思い出すように目を閉じた。


「……知ったとき、どう思ったの?」


「……死ねない、生きなきゃ。麗華と子供を守るって」


蒼真は目を開け、天井から視線を蒼志に移した。

そして真っ直ぐ真剣な目で見つめた。


「お前は結婚する。夫になって、いつか父親になる。間違えんなよ、ちゃんと繋いで帰ってこい」


「……はいっ」


蒼志の返事はしっかりしていた。

こんな風に父と話したのはいつ以来だろう。


自分の事を父はちゃんと覚えてくれていたのも嬉しかった。

ふっと蒼真の視線が自分の手に持つグラスに向けられていることに気が付いた。


「……飲む?」


「怒られる」


「医者の許可つきだって言えばいい」


「悪い医者だな」


蒼真は笑うと先ほどの水を飲み干した。


「医者から注意。1杯だけ」

「……それでいい」


息子と酒が飲める日が来るなんて思わなかった。と蒼真は笑った。


父と笑って飲める日が来るなんて思わなかった。と蒼志も笑った。


そして、親子はゆっくりと1杯の酒を飲みながら語らい続けた。


「父さん」

「ん?」

グラスを置いた蒼志が少しだけ視線を落とした。

リビングには静かな夜の音だけが流れていた。

昔なら、こんな風に父と2人で話すことなんてなかった。

ずっと背中を追いかける人だった。

けれど今は違う。

目の前にいるのは父親だった。


「俺さ」

蒼志は少しだけ笑った。

「ずっと追いつこうとしてたんだと思う」

蒼真は何も言わずに、ただ続きを待っていた。

「医者になったのも、黎明を選んだのも」

蒼志はグラスを見つめる。

「全部、父さんみたいになりたかったんだと思う」

蒼真は小さく息を吐いた。

「無理だな」

即答だった。

「即答かよ」

蒼志が苦笑する。

「無理だ」

蒼真はもう一度言った。

「俺は神代蒼真だ」

そして蒼志を見た。

「お前は神代蒼志だろ」

その言葉に蒼志は目を丸くした。

「父さん、それ悠真にも言ってたな」

「あいつもお前も同じだ」

蒼真は少しだけ笑った。

「俺にならなくていい。なれねぇしな」

「それもそうだ」

親子は同時に吹き出した。

少しだけ笑い声が響く。

その後、ふと蒼真が口を開いた。

「蒼志」

「ん?」

「渚、大事にしろ」

蒼志は一瞬だけ目を見開いた。

蒼真はグラスの中の酒を見つめながら続ける。

「お前が帰れなくなりそうな時、多分あいつは止める」

「……うん」

「それでいい」

蒼真は静かに笑った。

「俺には居なかったからさ」

蒼志は少しだけ首を傾げた。

「蓮さんは?」

蒼真は少し嫌そうな顔をした。

「蓮は止める前に俺をぶっ飛ばしてくる」

「それ止めてるじゃん」

「そうだな」

蒼真が笑うと蒼志も笑った。

深夜の神代家に親子の笑い声が小さく響いた。


「そろそろ寝るね」

蒼志が立ち上がる。

「父さん」

「なんだ」

「ありがとう」

少し照れくさそうな声だった。

そのままリビングを出ながら小さく手を振った。

「ちゃんと帰ってこい」

椅子に腰掛けたまま、リビングから出ていく蒼志の背中に呟いた。




ー誰かが、耳元で囁く。


『お前は、誰だ』

「神代蒼真だ」

『違う』

「……神代、蒼真だ」

自分にしか聞こえない声に蒼真は弱く自分の名前を伝え続けた。


『こちらの世界は楽だぞ』

『痛みもない』


「……ホンットに、うるせぇな」


薄暗いリビングの中で蒼真はテーブルに肘をついて顔を覆った。

この声はなんなんだ。


「……苦しい…っ…」


薄暗い部屋が余計に喉を締め付けた。

まるでこの世界にいるのは自分1人かと思うような。

孤独、に感じた。


蒼真は残ったグラスの酒を一気に飲み干した。

喉が焼けるように熱い。

呼吸が苦しい。

だけど、それは生きているからだ。

死神が襲って来ようと、囁き続けようと。

弱さも抱えて、心に掬う闇も飲み込んで

俺は黎明総統であり続ける。

夜が明けるまでは。


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