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帰る場所を守るために―国家災害統括特殊救助機関 "暁" の継承者達―  作者: HANA
第9章 その先も、ずっと

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最終話 まだ名もなき怪物達

「本部より、第一特務隊へ」

暁本部の統括室から悠真の強い声が無線へと響いていく。


「———全員、帰して繋ぐぞ」


父が何度も口にしてきた言葉を、自分の声で告げた。

隣に立つ蒼志も強く、頷く。


暁は今日も誰かの帰る場所を守る為に走り続けていく。






季節は巡り、また夏が訪れていた。

神代家のリビングの窓から吹く風が、窓を抜け軒先の風鈴を優しく揺らす。

──ちりん。

その音を聞きながら、蓮はソファへゆっくりと腰を下ろした。


昔から変わらない場所。

蒼真がいつも座っていた場所。

いつの間にか、自分も座るようになっていた場所だった。


「……静かだな」

誰に言うでもなく、小さく呟く。

今日は悠真も蒼志も仕事で家には麗華と蓮だけがいた。

キッチンからは麗華の淹れるコーヒーの香りが漂って来る。

その何気ない生活音に、蓮は小さく笑った。


「……帰る場所、か」


橘の言葉も蒼真の言葉も全部、本当だった。

あの頃は分からなかった。

ずっと隣にいただけだと思っていた。

でも違った。

この家は、この家族は…いつの間にか、自分の帰る場所になっていた。


「……クソ蒼真」

和室に置かれている蒼真の遺影を見つめると、蓮は自然と笑みが零れた。

「最後まで……」


言いかけた言葉は、そこで止まった。

少しだけ瞼が重くて、眠い。

ここ最近、こんな日が増えた。

「少し……寝るか」


窓から入る夏の風、風鈴の音、麗華が台所で鼻歌を歌っている。

どこか懐かしい昼下がりだった。

蓮はソファに身体を預け、瞼を閉じる。


ふと……若い頃の景色が浮かんだ。

19歳で入居した黎明の独身寮。

くだらない事で笑って、喧嘩して訓練と任務で疲れ切った顔をしながら、たどり着く部屋。


『蓮』

懐かしい声がして、目を開けるとそこには、まだ19歳の蒼真が立っていた。

銀色の髪を揺らしながら、呆れたように笑っている。

『何してんだよ』

「……迎えか」

『遅ぇんだよ、お前』

「うるせぇ」

いつもの蒼真の軽口に蓮は、思わず笑った。

『帰ろうぜ』

その一言に、蓮は立ち上がり、蒼真の隣に並んだ。

「……あぁ」


そして、昔と同じように。

何の迷いもなく。

2人は並んで歩き出した。


「蓮、コーヒー入ったわよ」

麗華がマグカップを手にソファへと歩み寄り、声を掛けたが、返事はない。

「蓮?」

そこには穏やかな表情で眠るように目を閉じた蓮がいた。


「……蓮?」

肩へそっと手を置くと、その身体は温かかった。

けれど呼吸は、もうなかった。

麗華は何も言わず、その肩へ静かに手を添えた。

驚きはあった。

悲しみもあった。

それでも涙より先に、小さな笑みを浮かべた。


「……会えたのね」


窓から夏の風が吹く。

──チリンッ。

風鈴が、どこか嬉しそうに鳴った。


まるで「おかえり」そう迎えているように。




1人の少年は、15歳で『黎明』へ辿り着いた。

守る為に振るえ。

その言葉を胸に、多くの仲間と出会い、多くの命を救い、最後まで立ち続けた。

隣には、いつも1人の男がいた。

2人は、ただ当たり前のように隣を歩き続けた。


人はいつしか彼らを「怪物」と呼んだ。

この物語は、英雄譚ではない。

怪物と呼ばれた者達も、特別な存在ではなかった。

泣き、笑い、迷い、何度倒れても手を差し伸べ合い、“帰る場所”を守り続けた者達だ。

だからこそ、人はその背中に希望を見た。

その生き様に、未来を託した。

その願いは、1人では終わらなかった。

親から子へ。

仲間から仲間へ。

時代を越えて受け継がれ、今日もまた、誰かの「ただいま」を守っている。


黎明の牙と呼ばれ、

翼を失いながらも、

誓いを胸に全てを帰し続けた男は、

片翼と共に立ち続け、

最後まで帰る場所を守り続けた。

そして、黎明は開け、暁へと空は変わっていく。






挿絵(By みてみん)



『まだ名もなき怪物達』

            ———完



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