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第九話…… 『友達になりたい』

更新、 亀のように遅くて申し訳ありません。 書き溜めとお盆休みの終了で、 のんびり更新になります。 書き次第更新していくスタイルになるのでよろしくお願い致します。 この後、 ↓で、 後書きでも失礼しますので、 本編最後まで楽しんで読んで頂ければとっても幸いです。

「じゃあまたね、 ばいば~いっ」


手を振る、 雪色の髪の少女、 明山雪(あかやまゆき)が、 こちらを振り返る藤里愛美(ふじさとあみ)に手を振った、 日が落ち始めた頃、 愛美は一人やや遅れて下校を始めた、 角を曲がって見えなくなるまで手を振っていた雪が振り返ったのを見て息を吐く……


ふぅ…… 行こう……


電柱の影に隠れた私は、 雪の接近に対して自然的に体を道路へ繰り出す、 彼女の進行方向を塞ぐ様に立ちはだかった……


「……ねぇ、 少し話良いかな? 明山雪ちゃん?」


?


雪は特段驚くでも無く、 ただ私を見て首を傾げた……


「……えっと?」



「ああごめん、 私、 隣のクラスの佐々木景子(ささきけいこ)だけど、 知らないよね?」


………あぁ


「景子ちゃんって、 愛美ちゃんの友達だよね? 愛美ちゃんが話してたよ、 リーダーシップがあって、 いつも明るくて素敵な子だって」


っ………


愛美が、 自分の事をそんなふうに評価しているとは……


いや、 問題はそこじゃない………


「えっと? 愛美ちゃんとは今別れた所だけど? 私に用なのかな?」



「うん、 ずっと見てたから分かってる…… ねぇ雪ちゃん…… ちょっと変な事聞くんだけど、 愛美ちゃんとはどうして仲良くなったの? 昨日の今日だよね? 二人が会ったの……」


はぁ……


「私達…… 愛美ちゃんとは親友なの、 登校するのも毎日楽しくて、 休み時間だって放課後だってずっと一緒に居た…… でも、 今日は違った、 今日はずっとずっと、 愛美ちゃんは、 雪ちゃんと一緒にいたよね?」


愛美は雪と仲良くしたいと言っていた、 だからそれは良い、 いい事だ…… でも、 もしかしたらこれは醜い嫉妬心なのかもしれないけど、 全部、 愛美の全部をこの子は攫って持ってた様な気持ちになるし、 どうしても変な気がするのだ……


「ねぇ教えて、 昨日愛美ちゃんと何かあったの? 昨日愛美ちゃんは熱中症で倒れたけど、 その時雪ちゃんさ、 愛美ちゃんにあってるよね? それで今日は今朝からあんな感じ…… タイミング的には昨日のお昼休みに何かあったとしか思えない」


キリッ


慣れない睨み顔で景子は雪を睨み付ける、 しかし、 雪は全く動じて居ない様だった、 寧ろ、 この状況で、 彼女は笑った……


ふふふっ


赤く染まり出す世界、 斜めに入る鋭い陽光がまるでで焼くような世界で、 空も、 道路も、 ガードレールも、 家も、 ブロック塀も、 全てが赤に染まる世界で、 彼女だけ、 負けないように、 くっきりとした輪郭の縁の無い ……潔白だった


…………………


「羨ましいな、 愛美ちゃんっ、 こんなに想ってくれる友達が居て、 羨ましいよっ」


……………


彼女の見せる笑みに穢れは無かった、 ただ澄んだ様に透き通って見え、 それに景子はただ唖然とするばかりだった……


雪は恐れを知らないように、 立ち塞がった景子に寄る、 詰め寄られたのは、 景子の方だった……


「……景子ちゃんはさ、 私に怒ってるのかな?」



「……いや、 怒るって言うか、 そうじゃなくて…… でもやっぱり様子が変なの、 愛美ちゃんは私達に素っ気なくて…… それに、 やっちゃんもなんだか冷たい…… 私は、 どうすればいいか分からない……」


……でも


「どうにかしたいと思った、 怒ってないよ、 ただ、 何があったのか知って、 悩みがあるなら一緒に悩んで、 何か嫌な所があったなら直したい…… まだ、 二人とは親友でいたいのっ」


だから……


「……それを、 邪魔するなら……… ごめん、 やっぱり私怒ってるのかも…… 別に雪ちゃんが悪い訳じゃ無いのに……… ごめん……」


影を見つめる景子は思う、 結局自分は何がしたかったのだろう…… 遠ざかる親友の背中をただ見送る事が出来なくて、 追いかけて来たのに、 二人の世界にいざ割って入る勇気が無かった……


結局自分は……………


………カタンッ ……ふわっ………………


ッ


「謝らないで? 謝るのは違うよ、 私は貴方の事が知りたい、 飾らない素の貴方の事が知りたいよ、 だから、 ごめんで隠さないで? 貴方が抱いたそのままの怒りを、 私にぶつけて欲しい」


………は?


顔を上げて、 彼女、 明山雪を見る……


っ………


……霞む様な視界で、 彼女はただ、 何にも霞まずここに立つ、 邪念も何も、 彼女には後回しに思えた、 彼女の言葉こそ、 迷いのない本心だと分かったから、 こそ………


っ!


景子は、 声を出して居た


「っ、 愛美ちゃんを取らないでよっ! お願いっ、 だからっ! 私達から愛美ちゃんを取らないでっ! ……愛美ちゃんを、 連れてかないで………」


っ、 ぅっ………


……歳を重ねて来ると、 昔ほどちょっとやそっとでは涙を流す事がなくなるが、 この時ばかりは、 着飾る必要のない今は、 涙を流しても構わない様な気がして、 感じた事が言葉と共に零れていく……


赤く染まる空と、 尖った様な細い西日を背に、 零れる涙が止まらない景子は、 それでも真正面から雪へ言葉をぶつけた、 もしかしたら、 そうするべきだと思ったのかもしれない………


……すぅ ……


不意に、 手が伸びて、 薄目で見た、 雪が景子の頭を撫でている、 その手からは優しい熱が感じる様だった……


「……ありがとう、 話してくれて、 謝るのは私の方みたい、 ごめんね、 愛美ちゃんを独り占めしちゃって、 景子ちゃんを独りにしちゃって、 気が付かなくて…… ごめんね」


っ……


「な、 なにっ、 馬鹿にしてるの? 私はっ、 雪ちゃんを怒ったんだよっ、 でも、 こんなの私の八つ当たりでしょ……」



「ううん、 大丈夫、 私は怒ってないよ…… あのね、 私嬉しかったの、 愛美ちゃんが私と仲良くしたいって言ってくれたの、 転校生の私は…… ああ、 クラスの子もそうじゃない子も、 みんな私に良くしてくれるんだけどねっ…… 本音を言える人は居なかった、 愛美ちゃんは、 私にとって、 本音を話してみたい人だったの、 受け入れてくれる気がして……」


……なんか、 分かる気がする、 愛美は、 優しいから……


「……でも、 その前に今、 こうして、 景子ちゃんと、 本音でぶつかりあえてる、 だから私は怒ってないよ、 やっぱり嬉しいんだ、 本音を言えることが」


………………


はぁ……


「……なんか嫌になる、 嫌になるくらいお人好しって言うか、 純粋なんだね、 これはあれかな、 愛美ちゃんが単純に、 雪ちゃんみたいな子を心から求めて居たのかな…… だって、 どれだけ力になりたいって思っても、 私は周りにヘラヘラ合わせてるだけで、 そう言うのは無いし……」



「もう、 そんな風に言わないで、 愛美ちゃんは景子ちゃんの事、 ちゃんと好きだよ、 いつも大切な事に気が付かせてくれる人だって言ってたもん、 今日、 私と愛美ちゃんは色んな話をしたけど、 半分くらいは、 二人の友達の事だった、 それこそ嫉妬しちゃうくらいにね」


雪が頬を膨らませる……


ふぅ……


「でも、 嘘じゃ無かった、 愛美ちゃんが言った素敵な友達は、 本当に素敵な人だって今分かった、 私は…… もう既に、 貴方への興味を止められ無い……」


ねぇっ


「友達になろう、 景子ちゃんっ、 これからも互いに本心を言い合える友達なろうよっ! ねっ!」


えっ……


「……嫌じゃないの? 本当に、 私は……」



「だからこそだよ! お互いの事を知ったのに、 せっかく知ったのに、 それでお終いじゃ、 すっごく勿体ないよぉっ! お願いっ、 本当に私は怒って無いからっ!」


押しの強い雪が景子の手を取ってぶんぶん振るう、 あんまりの勢いに流石に面食らった景子は、 もうすっかり馬鹿馬鹿しくなってため息を吐く……


はぁ……… 間違いない、 これは本心だ………


「ごめん、 私、 雪ちゃんの事嫌いかも」



「えぇ~ 全然良いよっ、 嫌いで良いから友達になろうっ!」


…………はぁ …………


「……もういい、 暗くなる前に私帰るから」


スッ……


景子は雪の手を振り払うと、 先程愛美も通って行った道を一歩二歩進む、 でも、 三歩目を踏み出す前に立ち止まって、 振り返った……


「……私まだ怒ってるから、 これはいわば一時休戦なだけだから! ……だから、 続きはまた明日話すわ…… だから、 また明日ね…… 絶対に約束だからねっ!」


ふんっ……


歩き出した景子の背に、 小鳥が鳴く様な、 ことこととした笑い声が揺れた……


「ふふっ、 うん! また明日ねっ、 景子ちゃんっ! ばいばいっ、 気を付けて帰ってねっ! じゃあねっ! じゃっ、 あっ、 ねぇっ~ またねー、 またあしたねっ!!」


っ


うるさい………


ダッ!


何時までも聞こえる雪の声に嫌気が刺した景子は、 彼女の見えなくなる曲がり角まで足に力を入れた、 曲がる時、 一瞬チラリ見た遠くの彼女は、 結局最後まで、 笑ってコチラに手を振って居ただけだった……


……………………………………………



………………………



………



……私の気が弱いのは、 何も今始まった様なことでは無い、 以前の学校でも私は消極的だった、 今と違うのは、 ただ単純に周囲の人間からして、 自分が空気の様な存在である事は当たり前だったからだ、 馬鹿にされる事も無かった訳では無いし……


でもそれが顕著に今、 目立って居るのは、 やはり以前より出来上がった価値観の色の中に落ちた黒墨のように、 ここでは自分が気の弱い人間である事はまだまだ新鮮なのだ、 だから打たれる、 隠れてるからこそ目立って打たれる杭とは、 笑える程の嫌味だ……


はぁ…………


「つまらない……」


派手な格好の男が数人倒れている、 街を歩いている時に路地の辺りで目に写ったので気まぐれに絡んで、 路地裏で殴り合いをさせてみた、 どいつもこいつもイキり上がるばかりで、 腕っ節は見てて退屈なほど低レベルだった………


……手駒が欲しい ………


小さな体が似つかわしくない、 夜の繁華街に揺れる、 新椥八依(にいなぎやちよ)は、 夕飯の時間も過ぎた様な頃、 星の光が本格的に光り、 空には濃い闇が落ちた刻に、 街の喧騒を耳に一人街を歩いて居た……


……八依は自分の手を見る、 この手で触れた生き物を思いのままに、 まさにマリオネットの様に動かせると気が付いてからは、 すっかり身に染みて抱えた極度の怯えと、 それ由来の劣等感は影程も無く消えた


今はただ、 自分の目的の為に力を使う、 そうするべきだと思うからそうしている、 この力は、 バランスを整える、 傾いた均衡、 天秤を対等に均す力だ


出る杭が打たれるべくして打たれ、 そうでない者はなるべくして槌を打つ側に回る、 因果応報を正しく機能させる為の歯車だ、 ただ一つ、 術の使用者、 八依と言う絶対の動力を除いて………


………気になる ……


「……あそこのメガネのお兄さん、 人の良さそうな顔して、 平気で…… 盗聴かな、 イヤホンから音が聞こえる…… これは女性の声……」


八依は耳に手を当てると、 その視線はメガネの男性の視界の先にあるアパートへと、 男性のイヤホンから漏れる音と、 アパートの部屋から漏れる音がリンクする……


「……あの人は打たれるべき杭だ、 打たれずに居るのはこの世界の均衡を著しく乱す、 気になるなぁ…… 」


すぅ……


八依は遠くのアパートへと手を向ける、 彼女の内側の手が遠くの女性へと容易に力を橋渡しする……


…………


「………あったね、 それが盗聴器だよ、 うん、 警察に通報しよう…… こっちのお兄さんには自首してもらうから、 貴方は引っ越した方が良いよ、 うん、 素直で偉いね」


……闇中で八依は笑う


「……でも、 その前に、 メモ帳でも良い、 画用紙でも、 無ければレシートの裏面でも良い、 ペンも何でも構わないけど、 万が一消えると困るから鉛筆やシャーペンは止めてね」


八依がそう言うと、 眼鏡の男性が高そうな革の装丁を取り出し徐に開く、 メモを取るように万年筆で何か書き込んでいるようだった、 書かれた内容はミミズがのたうち回った様な、 全く見慣れない文字と図形だった


さっきの派手な格好の男達にも殴り合いをさせる前に一筆させたし、 今頃アパートの彼女も書き終わった頃だろう


「そうしたら、 どこでも良い、 壁か、 柱か、 地面から五十センチ以上離れた所なら何処でも良いから陣の面がコチラを向くように貼り付けるか、 何かで固定して欲しい」


アパートの女性は冷蔵庫にマグネットで貼り付け、 眼鏡の男性はバックからテープ糊を取り出すと周囲を伺いながら自身が悠々と座るカフェテラスの椅子の裏側に貼り付けた……


路地の裏には、 派手な格好の男達が汚い字で書いた同じ物が、 ガムテープで張り付けられて居た、 近くのコンビニに走って購入させた物だ……


何にせよ……


「……よし、 これで各地区に満遍なく、 全部で百枚は陣を貼れたかな、 これだけあれば十分でしょ…… あ、 そうだそうだ、 そこのお兄さんはさっさと近くの交番に自主してね~」


男が立ち上がると、 交番の方へ向けて走って行くのを見送った…… さて……


「準備完了…… これで明山雪と戦えるかな? いや…… 多分私的にはこう言った方がいいんだよね……」


ふふっ


「……魔王様っ、 ふふふっ」


ッ、 タンッ!


八依は地面を蹴る、 軽々しい羽ばたく様なステップで八依は傍のビルの玄関屋根まで飛ぶと、 さらに体を沈めるとタンッ と飛ぶ


ッ、 タンッ タタンッ!


スキップでもする様に、 器用にビルの窓枠やエアコンの室外機等、 突起に足を掛けては更に飛ぶ、 くるくると舞う様に服を揺らして、 八依はビルの側面を駆け上がって行くと……


カタンッ!…… スタッ………


最後の室外機を軽く蹴って、 あっという間にビルの屋上へと降り立つ……


見下ろす街の光がチラチラと揺れる………


………ああ ………


遠くに、 ぼっかりと何の光も無い場所が見えた、 死んだ街、 甘樹街(あまたつまち)だ………


きっと、 かの夜に、 彼女もこうして、 笑みを携えて人の営みと歴史を睥睨したのだろう、 確かに、 この高鳴りは、 特別で、 今までに感じた温いソレらを遥かに凌駕する興奮だ………


さて……


「始めるか……」


八依は目を瞑る、 深く記憶を読む…………


「……なるほど、 そうやるんだ、 貴方は物知りなんだね……」


大丈夫………


「心配は要らないよ、 潤沢では無いけど『甘樹街の惨劇』で、 かの世界から、 『魔力』は、 こちらの世界にも漂っている、 ミクロノイズも…… ふふふっ、 本当に…… もうずっと、 戻れない所まで変わったね、 この世界は………」


すぅ………


………ブワッ!!


風が吹く、 八依の服をバタバタと揺らして、 風が、 八依を起点に滞留する、 体の底から、 何か熱いエネルギーが湧き上がっては漏れ出し、 キラキラと、 赤紫色の光が夜闇に浮かんでは風に舞う……


……ポイントを繋ぐ、 各九エリアに満遍なく、 総数百を超える陣の点、 態々陣を他人に書かせるのは、 承認の様な物だ、 世界に対して力を行使する際、 それを観測し、 力を承認、 承諾してくれる存在が多い程、 力の存在感は確固たるものとなり、 イコール底力の強化となる


確実性が欲しい、 少しでも、 そう思った時に、 この力は本当に素敵な物だ、 人の魂に楔を打ち込み、 鎖を引く、 かの世界にて実在した『魔王』率いる『魔王軍』の中でも選ばれた物が発現する力、 『業魔刑(ごうまきょう)』……


……業魔刑の発現者には二種類のパターンが居る、 一つは、 その個人の才能が開花しその者固有の業魔刑の能力が発現するパターン、 そしてもうひとつ、 それは過去に発現した能力が再度新たな業魔刑の発現者の元に回帰するパターン……


これは魔王軍の中で噂程度に語られる話、 後者のパターンで能力が発現した者の中に、 稀に、 以前の能力の発現者の知識や、 意思までもが、 現発現者に能力と共に回帰するという話……


……業魔刑・径漣冥祇(けいれんみょうぎ)の以前の発現者は、 魔王軍の、 四支柱に君臨した絶対的智将……


「……第四十第魔王直属・魔王軍四天王、 智学轢(ちがくれき)のレイナーリ…… 貴方は徹底した隷属による支配軍と戦術知識で徹底的に人間世界を蹂躙したんだね…… そうだね、 私も貴方の様に上手くやるよ……」


……あの時、 行軍の最中、 破竹の勝利を掲げ続けたレイナーリの、 首が宙を舞ったのは、 全く認識外の、 野良の人間の能力者(ノウムテラス)、 神からの祝福、 新時代のエネルギー、 ミクロノイズの適合者に軍を横腹から食い破られたからだ……


順調だった物が、 全く予想外の蚊帳の外から訪れた異常に蹂躙される…… その徒労感と来たらやるせなさの頂点だ、 同じ様な経験を経て、 しかしまだ終わらぬ八依の戦いを、 嘗ての亡霊、 レイナーリは純粋に応援するようだった………


……魔法知識が、 知らない筈のそれらが業魔刑を起点に八依へと逆輸入される、 時が経つ程にレイナーリの知識が八依へと馴染んで行く、 全く異なる世界の全く異なる生き方をした二人が、 実は何処までも似ていた様だ………


グググッ


手に意識を向ける、 赤柴色の魔力エネルギーが適切に圧縮され、 羅針盤の様な形を作る、 九つの地点と百数の陣点が示された羅針盤に更に力を込めるっ


バダダッ!!


強く風が畝る、 魔力は空気の動きに常に左右される、 つまりこの風が、 動力の八依と九つの柱を繋ぐ循環のパイプ


ッ


陣に八依の魔力が触れる感覚、 回り出す、 小さな陣点は言うなれば歯車だ、 カチカチ カチカチ ……歯車が回り出す、 噛み合い装置が動き出す


スッ、 スゥッ!


八依が天に向けて掌を、 ぐわりっ、 持ち上げると、 九つの魔力の支柱が隆起を始める、 空に向かって、 八依と視線を合わせる程に立ち上る……


ゴゴゴゴゴッ!! ゴゴゴッ! …………


やがて、 九つの支柱の隆起が停止すると、 八依は掌を、 纏めあげる様に固く握った


グッ!


ッ、 フォンッ!! …………


………………


「結界術、 私にも出来たよ、 ふふふっ、 規模は小さいけれど、 かの日の再現…… 『甘樹街の惨劇』の擬似再現って感じかな……」


中心点の八依を起点にせり上がった九つの支柱は、 その内側を魔力で満たし柱と柱の間を閉じた、 九角形の閉じ込める結界、 八依の居るビルを中心点に九点までの距離は凡そ二百メートル、 巨大なドーム凡そ二・五個分の大規模な魔法結界……


まさに、 あの日、 強力な認識阻害の結界術により内に閉じ込められた甘樹街の内側の様だ、 今度、 惨劇を振りまく少女は夜闇に笑う……


「ふふふっ、 大丈夫、 明日にはみ~んな元通りだよ、 明日、 愛美ちゃんに笑顔でおはようって言える様に…… 朝日が昇るまでに、 その首を頂くね、 魔王様……」


スッ、 タンッ! ………


八依が再び地面を蹴って、 夜闇に舞うと、 しかしその足音も何も聞こえない、 夜風に攫われる様に、 怪しく光る月光は少女の体を見失った………


…………………………………………………………



………………………



……


「雪ちゃんっ、 今日の宿題はやったの?」



「……………やったよ」


ガヤガヤ ガヤガヤ……… ハハハハっ………


……何やら喧しいバラエティー番組の出演者の笑い声と父の笑い声が被る、 その音量に眉を顰めた母が、 しかしもう一度こちらを見ると厳しい目を向けた……


「嘘をつきなさい! 無断で帰りは遅かったし、 帰って来てからも遊んでばかりで一体どのタイミングで宿題やったのかしら?」


っ………


「……宿題、 出てないよ」



「それこそ嘘だってバレバレよ、 ランドセルの中にちゃんと入ってるじゃない?」


ぇっ!?


「ちょっと、 ランドセルの中勝手に見ないでよっ」



「なら毎日リビングにほうり投げないでちゃんと部屋に持って行く事ね~ 」


むぅ……


明山雪は手をヒラヒラと振る母に頬を膨らませた、 宿題は嫌いだ、 何故学校であれだけ勉強をしたのに帰ってからも机に向き合わなきゃならないのか、 正直、 宿題は本当に面倒くさい……


はぁ……


「ため息付かないっ、 幸せが逃げるわよ、 お姉ちゃんに手伝って貰ったら良いわ、 手伝ってくれるでしょ? お姉ちゃん」



「ううんっ、 お姉ちゃんはやり方ばっかり教えるだけで、 答えは教えてくれないの! 私が知りたいのは答えっ!」


母が頭に手を当てた……


「茜がしっかりしてて良かったわ、 全く昔から…… 長期連休の宿題なんかも、 ちょっと目を離すと直ぐに答えを写してたわね、 最終日までやらなかったし……」


呆れた様に苦笑いをする母は、 しかし何故か、 少しだけ口角が上がっていた………


雪は周囲を見渡す、 何か母の追求から逃げ切る方法は無かろうか、 宿題をやらずに済む方法は無いだろうか………


……明日の学校は楽しみだ、 明日は金曜日、 明日行ったら二日休みになってしまう、 明日は愛美ともっと話がしたいし、 約束した様に、 景子とももっと話をしてみたい……


それに、 愛美が、 こちらが少し嫉妬しちゃう様な笑顔で語った、 景子ともう一人の友達、 八依とも是非とも友達になりたい……


どんな子なのだろう、 愛美や、 景子の様に、 きっと素敵な色の子だと思う、 する会話や、 言動を想像するだけで胸が高鳴る…… だから、 宿題なんてやっている場合では無いのだ……


だから…… 何処かに、 逃げ出す口実……………


……………………


ピンポ~ンッ…… ピンポ~ンッ………


?


不意のチャイムに首を傾げる、 それは母も同じだった………


「ん? もう誰よこんな時間に……」


母がモニター付きの親機に向かう…… 今だ!


ばっ!


「雪が確認してみるねっ!」


雪はリビングを抜けて通路へと出る、 反対方向の親機へ足を向けた母は雪の声に驚きと共に振り返った


えっ!?


「あっ、 ちょっと雪ちゃん待ってっ、 確認せずに扉を開けるのは不用心…… ああもうっ!」


………


タッタッ!


母の声を通路を曲がって遮り、 カチリ、 玄関の電気を付けて、 外履きの靴を履くと軽くつま先を打った……


カチャカチャンッ…… ガチャッ……


鍵とドアチェーンを外し、 ノブを捻る、 集合の仮設住宅の玄関ポーチは真新しい白い壁と、 コンクリートタイルの床を夜には暖色の照明がやんわりと照らし出す………


……ドアを開けて、 少し肌寒い夜風が肌を擽った時、 コンクリートタイルの床に落ちた影闇がパタパタと揺れた、 顔を上げる、 暖色の光に照らしあげられた少女が立っていた…………


…………?


少女が口を開く


「……こんばんは、 明山雪ちゃん…… 遊びに来ちゃったっ」


………え?


「……えっと、 こんな時間に? ぁぁ…… ええと……」


ふふふっ……


彼女が笑った、 正直何処が面白かったのかは分からない、 でも、 笑い声は秋風の様に乾いて、 ちっとも弾んで居なかった……


「ごめんごめん、 いきなり驚いたよね…… 初めまして? 私は新椥八依、 愛美ちゃんの友達って言ったら分かるかな?」


! ……丁度今、 明日になったなら学校で話をしたい、 友達になりたいと思っていた彼女だ……


……タッタッ


玄関の奥でスリッパが打つ音が聞こえた……


「雪ちゃん~? お客さんどちら様?」



「あっ、 お母さん、 学校の友達だったっ!」


母が覗き込んだ外の夜闇の中、 照明に照らされて半分が闇に染まった八依が礼儀正しそうに頭を下げた……


「……あら、 でもこんな時間にどうして? お家はこの辺だったかしら?」


ふふっ……


八依は笑う………


「……ぇぇ、すぐそこです、 本の一息の距離です…… 遅くにごめんなさい、 どうしても彼女…… 雪ちゃんと話したい事があって、 少しよろしいですか?」


……


「えっ、 ええ、 良かったら上がっていく?」



「いいえ、 本の少しの事ですから…… 直ぐに済みますのでここで大丈夫です…… ただ、 少し、 あの…… 秘密の話で………」


雪の母はうなづいた、 心配はあるがし過ぎは禁物だ、 この年頃の子は沢山秘密を抱えている、 何でも把握したいと思うのは野暮だ…… 親は子供にとっての保護者であり、 管理者じゃない…… 間違えてはいけない……


「ええ、 でも遅くなりすぎないようにね、 あと秘密のお話は静かに話してね…… ふふっ、 礼儀の正しい子と友達じゃないっ……」


母は人差し指を口の前に立てた後、 笑ってリビングに戻って行った…… 嵐が過ぎ去った様な気分だ、 このまま是非宿題の件は忘れてくれると………


……いや、 そんな事よりも……


「……それで? 秘密のお話って何? もしかして愛美ちゃんのお話?」


八依は口角を上げた……


「……ああ、 いや、 ああ言えば体良く二人きりになれるかなって思って適当言っただけだから気にしないで…… 愛美ちゃんの話も、 雪ちゃんにはしないかな……」


………?


雪は奇妙な感覚に首を傾げた、 確かに夜に友達が家に遊びに来ると言う事はまず無い事で緊張するが、 それとは別、 何か、 すごく変な感覚が、 木枯らしの様に肌をヒリヒリと這いずる……


ごくっ…… 思わず唾を飲み込んだ、 目の前に広がる夜の闇に、 今にも溶けそうな目の前の八依、 闇その物が笑ったようにも見えた……


「……ああ、 ええと、 じゃあ家に何しに来たのかな? お話しに来た感じじゃないよね? ……それとも、 もしかして景子ちゃんみたいに、 思いを伝えに来てくれたの? 景子ちゃんは夕方に……」


カタンッ! ………


八依がコンクリートタイルを叩く、 やけに音が響いた……


「……はは、 景子ちゃん、 本当に愛美ちゃんを尾けたんだ、 前に刑事ドラマ好きって言ってたしな~ ……そうするべきだと思ったならした方が良いとは言ったけど………… 私的には、 手を取ってくれたら良かったのに…… だってそっちの方がずっと早く終わる………」


………………………


「……八依ちゃん? えっと、 何を………」


ギラッ!


八依の目がキツく光る………


「……お母さんに、 私の事友達だって紹介したね? 嘘つき、 私達って友達だっけ? 私の事知ってる? 住んでるのだってこの辺じゃないよ? ……あれでしょ? なんだかんだ景子ちゃんとは仲良くなれた? でしょ? 景子ちゃんはいい子だもん、 こんな根暗な私にだって、 毎日笑いかけるお人好し…… それは愛美ちゃんも同じか、 二人とも、 ただお人好しなだけよ、 あなたを選んだんじゃない……」


ピリッ ピリリッ……


……空気が、 感想してる、 雪は思わず唾を飲み込む……


怒っている、 のが、 目に見えて分かった…………


「……あっ、 八依ちゃん、 私何か良くないこと…… もしかして私が愛美ちゃんと仲良くしたから、 寂しくなっちゃった? ……景子ちゃんはそう言って伝えてくれて、 ねぇっ、 じゃあさっ、 今、 友達になろうよ、 ねぇ………」


ッ、 カタンッ!


っ…………


一際大きな音を立てて、 空気が揺れた、 八依が夜に揺れる…………………


「………勘違いしないで、 愛美ちゃんも、 景子ちゃんも、 そして私も…… 貴方とは友達じゃないし、 友達にもならない…… 貴方は、 私達には関係ない…… 私達の日常には全く関係が無いの……」


いや寧ろ………


「……関わるべきでは無いと、 そう思うでしょう? ……だって、 貴方は何時だって、 混沌を産むのだから…………」


………八依の言葉は冷えていた、 冷えていたが、 その冷たさは、 八依の声の、 影に潜んだ所から吹き付ける様だった………


…………混沌 ………


ジジジッ!


……頭にあのノイズが走る、 雪は頭を抑える……


「……はぁ、 っ、 はぁ…… ねぇ、 八依ちゃん、 なんだか怖いよ…… 混沌って何っ…… それに、 愛美ちゃんとも、 景子ちゃんとも、 勿論、 八依ちゃんとも、 私は友達になりたいよっ、 そんな風に言わないで……」


……………


すぅ……………


……じゃあ ……………………


八依は雪に手を伸ばす……


「……貴方はこの手を取るの? 私の手を…… いいえ、 貴方は決して伸ばさない、 貴方の日常の中に、 私は既に闇色の汚れを落とされた様な気分で居る、 不愉快だと顔に書いてある」


っ……


……雪は、 目の前の少女に、 実は内心怯えて居た、 その目が、 背筋を氷の様に冷やした、 何もしてないのに、 会話だけで息が切れているし、 きっと、 このまま素直に帰ってくれたなら、 勉強机に向き合って宿題をする方がずっとマシだと思える程、 八依の放つ威圧感は鋭かった…………


……でも、 譲れない、 雪にだって譲れない線は有る、 『友達になる』、 どんなにいがみ合っても、 いがみ合うだけ互いを知れば、 敵はいつか好敵手(ライバル)になるし、 時を過ごせば友情だって芽生えよう……


一番最初の接触、 導入で諦める様なら、 絶対に友達にはなれない、 怖がって背中を背ける様では、 友達とは認めて貰えないっ……


……怖くても、 手を、 伸ばせ……………


雪は、 伸ばされた八依の手に、 自分の手を伸ばして……………………


………その瞬間、 一瞬だけ…… 八依から、 赤紫色の光が漏れ出した様に、 見えて………………


……………………………


ッ


バチンッ!!!!


……


っ!?


何かが、 火花を立てて弾けた、 手が触れた瞬間、 目の前がチカチカとする程、 熱の様な何かが、 一瞬にして膨張して弾けた………


その、 弾ける感覚は、 直感的に…… 雪を守ったと、 そう思った……………


……………


ぁぁ………


ベチャベチャッ……………


…………


「…………弾かれた、 いたた、 指が無くなった………」


………っ!?


触れた、 八依の手、 触れた途端弾けた力は、 雪を守るように、 雪の中から溢れ出した、 その力に触れた八依の手が、 闇の中でもてらてら光る、 赤黒いシミを地面に打った………


八依の指が、 力任せに抉れ飛んだ…………


ぇっ!


「あっ、 なにこれっ、 えっ、 八依ちゃんっ、 大丈夫…………」


………ぷっ


ははっ………………


「あははははっ、 あはははっ! っ、 全くの詭弁だ、 しっかり攻撃してきたじゃん…… 友達なんて馬鹿みたい………」



「っ、 いや、 ごめっ、 違……………」


ピリッ!


ッ、 バシッ!!


っ


八依の逆の手が再び伸びると、 今度は雪の服を掴んだ、 まるで胸ぐらを掴む様に、 今度こそ八依の顔は、 全く笑って無かった………


「……ちょっと、 付き合って貰うよ、 夜のお散歩にっ!」


バッ!


八依はそのまま強く雪の服を引くと、 足に力を込める、 ここまで嘘だらけだった八依の言葉にそれでも一つだけ真実があるとしたなら、 それは、 彼女の家が、 今の彼女取って、 本当に一息の距離と言うこと……


……この、 九つの支柱に支えられた結界内の、 八依にとって、 どのポイントも……


経った一息の距離…………


っ


「軍式魔法・結敷跳緒(けっしきちょうちょ)……」


………………景色が、 横向きに ……


間延びする…………


ッ、 ブゥゥゥンッ………………………………


………………………………………………



……………………



……ッ


バッ! バタタタタタタタタタタタッ!!!!!


っ!?


……目を瞑って居た、 瞑る前の加速する様な視界の動きと、 一瞬後に襲う奇妙な浮遊感……


……


詰まるような息と、 激しく乱気流にはためく服の音に、 ぶつかる風音が耳に激しい中、 雪は、 奇妙な変化に気が付く……


今、 自分は上を向いている…… 月を見上げて居る……


あれ………


(……お月様って、 あんなに大きかったっけ………)


…………いや ……


ッ、 バタタタタタッ!! ビュウウウウッ!!!


……ここはっ ………


バッ! ……っ!?


……下方に街明かり、 背中に行く街の気配、 見上げるは月光の傍に、 逆光に怪しく笑う悪魔の様な八依の姿、 ここは、 間違いない………


っ


「っ、 きゃああああっ!!!」


思わず、 叫んだ、 既に始まっている自由落下、 押さえつける様な星の重力、 バタつかせても足は、 見上げるはずの空を掻く……


絶対的な………


(……空(そら)っ!?)


ふふふっ、 あははははははっ!!


月光の傍らで八依が笑った……


「上空へようこそっ!! お散歩、 じゃなくて、 お散飛びになっちゃったけどっ!! せっかくなら遊ぼうっ! 笑いなよっ、 明山雪っ!!」


少女の物とは思えない荒々しい、 無遠慮に降り注ぐ声に、 雪は、 この手に負えない、 人類の不可侵である、 空の領域、 夜の天闇に放り出されたのだった…………

こんにちは、 作者のおきみやです。 ↑、 前書きでも言った様に書き溜めを放出したり、 休みが終わってのんびりな執筆になるので、 小説家になろうさんの夏のテーマにて書かさせて頂いている本編ですが、 開催時期までには終わらない事をご承知ください。 申し訳ありません。


そして、 何よりっ、 今回この作品で初めて、 ランキングに名前を連ねる事が出来まして、 ものすごく感動しております。 作品を読んで頂いた方には益々、 最大限の感謝を、 本当にありがとうございます。


こちらの作品は長期連載は予定していないのですが、 その分熱を込めて執筆しておりますので、 最後まで楽しんで頂けたら幸いです。


それでは失礼しました~

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