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第十話…… 『夜闇に、 月光の照らす者と照らされぬ者』

……月光を背に、 夜風が服をバタバタ…… はためいて揺れる、 睨み下ろす視線は冷えて、 口角ばかり上がった表情に笑みは無く、 大きな月の眩い光の中で、 ただシミの様に黒い逆光の少女………


………覚えがあった、 深い記憶の中で、 ノイズに紛れて忘れてしまう記憶の中に、 同じ様な光景を見る事が有る


でも何時だってそれは、 逆の立場だった、 反対に、 月光を睨見上げる誰かを、 睨見下ろす黒は、 自分の側だった様に思う………


ふと、 反対の立場になって、 嘗て自分が取るに足らないと睥睨した人の営み、 街や、 歴史に文化、 それらが背の下でずっと、 綺羅星の様に輝いて居て……


視線を回せば、 赤紫色の光が飛び交い、 九つの支柱がそんな人の街に平気で乱立し、 九角形の結界の壁が、 まるでかの日の惨劇を思わせる様に覆い隠している……


……ならば、 あの日の、 彼女の視線が、 かの夜の私がしたのと同じ目なら、 この街で今夜起こる事も、 あの、 遠くに見えるぼっかりと光の無い街の残骸、 『甘樹街の惨劇』の再現なのか……


はっ……


白い息が出る、 すっかり秋の頃の青く冷たい夜に、 引かれる様なこの星の理が、 体を強く押し付けた時、 腹の底から溢れ出す様な悲鳴、 耳の奥が収縮する様に間延びする鋭い音と……


浮遊感の後、 襲う……


………………


……落下 …………


っ


バッ!


ッ


バタタタタタタタタタッ!!!!!


「っ、 きゃああああっ!!?」


思わず喉が痛い程に悲鳴が出る、 明山雪(あかやまゆき)は激しく衝突する空気の暴力に、 自由落下で加速し続ける体を両手両足で藻掻いて喘いだ


羽が生えてる訳ではないし、 足の付かない水の中と似ていて全く別物、 空(ここ)は、 生身の人間が一瞬でも居て良い空間じゃ無いっ


体が、 寒……………


っ


「ほらほらっ、 さっさと魔国式結界(まこくしきけっかい)を使いなよっ! 魔王様っ!!」


じゃなきゃ………


「くたばっちゃいますよぉっ!!」


グッ!!


新椥八依(にいなぎやちよ)が、 なんだか全くキャラも言葉遣いもコロコロと不安定なまま、 見下し笑う、 先程明山家の仮設住宅の玄関で雪に触れようとして抉れ飛んだ指はよく見れば治って居る、 赤紫色の、 この街に降りた結界と同じ色のエネルギーが、 八依の手に集まって行くようだった


治った方の手を握る…… 雪の目には、 大量のエネルギーが、 掌の中で圧縮され、 膨張と共に、 赤熱する様に見えた、 八依の体も落下しているが、 離された分、 雪の方が下、 八依は握った手を月に、 上に向けると、 それを放つ……


っ


「軍式魔法…… 爆ぜろっ・叡爆来(えいばくらい)っ!!」


ボッ!!


……赤熱した爆発エネルギーが、 上方に向かって放出される時、 自然的に引かれる重力による落下とは違う、 爆発エネルギーによる超加速的インパクトが、 ジェット噴射の様に、 八依を押すっ


ッ


ボッ、 ガァァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!


ッ、 ボォオオオンッ!!!


ブワンッ!!


っ……


上方での張り付いた闇すら、 鈍く照らしあげる酷の爆発、 押し付け乱す様な熱い爆風が肌を焼く次の瞬間、 その勢いに強く押し出された八依が、 吹き飛ぶ勢いそのままに、 既にさっきのと逆の手に、 今度は拳に固く握ったままの赤熱した膨張エネルギーを、 雪へとぶつけるっ!


ボォンッ!


ッ


衝突、 八依が器用に空中で身を捻りつつ、 そのまま拳を振り抜くっ!


ッ、 ボッ!


ガァアアアアアアアアアアアンッ!!!!


ドォオオンッ!!


っ


ビュウンッ!! …………


ぅっ!?


「わああぁぁっ!?」


チッ


遠ざかり、 徐々に小さく聞こえる雪の声、 爆破の勢いのまま今度は横方向に強く飛んで行く雪に、 八依は舌打ちを打つ…… 拳が痛い………


「……また、 奇妙な力だ…… 魔法? それとも魔国式結界? 知らない力だ、 こっちが削られるし、 向こうはなんでか無傷だなぁ……」


ボボボボボッ!! ……


飛んで行く雪を目で追いながら、 八依は影に佇む送電鉄塔へと目を向ける……


「軍式魔法・結敷跳緒(けっしきちょうちょ)」


ビシュンッ!! ………


ッ……


……


………カタンッ!!


八依の靴の底が送電鉄塔を叩く、 青白く光る電線を力任せに掴むと、 ビリッ、 体も青白く光った、 逆の手で、 標的の雪に向けて鉄砲を作る


ッ


「バチンッ!」


ビシンッ!! ビジジッ!!


バシャアアアアンッ!!! …………


指先から電撃が走り、 空中の雪を狙撃する……


「……弾かれた? いや、 逸らされた…… かな?」


続けて……


ッ、 バジィンッ!! バチバチンッ!! バヂィヂィンッ!! バッ!


ビジィインッ!!!


……


っ


「忌々しい、 何発打っても弾かれる、 何だろう? 私の知らない魔国式結界かな? エネルギー爆発も、 雷撃の速度もダメ……」


グッ!


バジィイッ! ジリジリッ! バヂヂヂヂッ!! ィッ!!


体に吸い込める様に、 鉄塔から電気を吸い上げていく、 パチンパチン、 街で一つ、 二つ、 続けて営みの灯りが消えて停電していく……


バジィンッ!!


「っ、 軍式魔法っ、 ・魔力形成、 忌電槍慧烈(ひでんそうけいれつ)っ!!」


魔力を纏わせた雷電を超圧縮すると共に槍型に整形、 少女の体よりも大きい槍の尾で鉄塔を叩くと、 前手で槍先を操り標準を雪に合わせる


バッ!


「軍式魔法っ ・結敷跳緒っ!!」


フィンッ!! ……


ッ、 シュンッ!! …………


………


バタバタバタッ!!!


瞬間跳躍したのは、 雪の若干上方、 進行方向の手前、 待ち構える様に構えた、 吹き飛ぶ雪にカウンターの様に合わせて、 電槍を穿つっ!


ッ、 接触っ!!


ガジァンッ!


ビッ………


っ


ッ、 ビジャアアアアアアアンッ!!!!!


ドォロォオオンッ!!!


………


っ


「まだまだっ!!」


ッ、 カンッ!!


槍の尾に向けて、 握った拳をぶつける、 拳の中に握られた膨張するエネルギーが、 破裂するっ!


「っ、 軍式魔法・叡爆来っ!!」


ビジジジジジッ!!!


ッ


ボッ、 ガァアアアアアアンッ!!


ッ、 ドォオオオオアアアオンッ!!!!


…………ヒュンッ!


雷槍と爆裂の勢いのままに雪は放物線すら描くこと無く空を高速で吹き飛び、 徐々に高度を落とすと、 黒煙と紫電を今だ帯びたまま、 目の前のビルの屋上へと吸い込まれたっ


ビッ!


ボォオオオンッ!!! …………………………………


…………………………


遠目に見えるビルの屋上から衝撃音と土煙が上がる、 八依は手を開いては閉じ、 やはり微妙な感覚に溜息を着いた………


はぁ……


「……まあ、 簡単では無いと思ってたけど、 もしかして、 私達程度の魔法は魔王様にはちっとも全く効かないのかな?」


魔王軍の者が扱う『軍式魔法』は、 人間が長い歴史の中で試行錯誤を繰り返し魔法式に当て嵌めた言うなれば『人間の魔法』とは違い、 よりずっと感覚的に扱って居る魔王軍の者たちがそれぞれに編み出したそれらを、 魔王軍四天王の智学轢(ちがくれき)のレイナーリが細部を再編成、 式を最適、 簡略化して多くの者がそれなりに扱える様にした物だ


実際にそれは大きな効果を発揮し、 レイナーリが進軍した第四十代魔王率いる魔王軍は、 人間達の巨大都市である、 城塞都市セイリシアを経ったの二日で陥落させるに至った………


レイナーリの扱う業魔刑(ごうまきょう)の能力を受け継いだ八依には、 レイナーリの知識や、 意思までが回帰し、 既に深く根を張っている……


かつての勝利は、 かの異世界では魔力がどこにでもあり潤沢だったからこその采配だったが、 こうして範囲を限定した自身の結界内ならば、 魔力を満たし、 こちらの世界でも多少無理も出来ると言うものだ……


なんにせよ………


「……私の攻撃の殆どが逸らされて無力化されてる、 私が触れても攻撃を受けるのは、 もしかして魔力攻撃を弾いているのかな? 魔力無しなら普通に触れる事ならできるか? ……でもさっきから、 こうして、 多少威力を削がれるけど衝撃にて発生する慣性までは無力化できてない……」


推理通りなら物理攻撃は無力化できない、 魔力攻撃を防がれたとて、 あの勢いのままビルに叩きつけられれば無傷では済まない筈だが……


……さて


(……どうなる?)


八依はビルを睨み見る………


「……軍式魔法・結敷跳緒」


フュンッ! ………………………


……………


スタッ………………


………


目の前に未だ立ち上がる土煙を手で払って、 半壊したビルの屋上の、 最終着地点のヒビ割れの中を見る、 そこには、 ボロボロと崩れた瓦礫の中に少女の姿………


っ


「うえぇぇぇっ、 気持ち悪いぃ~ 酷いジェットコースターみたいっ、 ぅっ、 吐きそう……」


はぁ………


「……効かないわね~」


口を手で押えて目がぐるぐるとしている雪に、 八依は溜息を着いてから近ずいて行く、 不意に、 無造作に剥き出しになった鉄芯を掴む……


ギギギッ、 カァンッ!!


タンッ…… タンッ……


雪に近づいて、 魔力を解除した手で、 無造作に捻じり取った鉄芯を振り下ろすっ


ッ


バジィインッ!! ……カランッ………


っ……


……手が焼けた様に熱い、 八依の手は赤く血を吐いていた、 鉄芯は、 弾かれて捻じ曲がって飛んで行ってしまっていた………


「なるほどね、 しっかりと物理攻撃にも対処出来るバリアーって訳だ…… 魔国式結界の中に似た様な強固な結界構築魔法があった筈だけど、 それとは違う…… 貴方は、 全く魔力を使う気配が無いものね……」


八依は、 未だ目がぐるぐる回っている少女を見下ろす、 月光が雲間を抜けると、 またしても逆光の八依は暗く、 あれだけの猛攻を受けても雪は見た目に綺麗なままだった………


不思議だ…………


「ねぇ、 どうして魔国式結界を使わないの? これ、 確かに強力な力だけど、 守ってるだけじゃ解決しないよ? 魔国式結界を使えば、 私みたいな雑兵の事なんか虫みたいに瞬殺できるでしょ? だって、 魔王の進行は、 魔王様一人で初めから事足りるんだからね………」


…………?


雪は未だ焦点の合わない目で八依を見る……


「………魔王?」


ジジジッ!! …………


………………ぁぁ


「……なんだ、 貴方も忘れているの? はぁ…… 喧しいよねこのノイズ、 身を任せると忽ち自分の事を見失ってしまいそう、 認識阻害? 鬱陶しくて腹が立つけど……」


まさか……


「魔王様とも言おう者でも抗えないのね、 そっかそっか、 私も昨日の晩まで忘れてたんだよ、 教えてあげる……」


八依はその手を、 指を暗闇の甘樹街の方へ向ける……


「記憶に新しい『甘樹街の惨劇』、 私達はあそこで、 惨劇を起こす側だった、 貴方はあの街を破壊して人々を恐怖に陥れた『魔王』なんだよ? 私はその部下、 貴方の力で目覚めた悪魔の軍勢……」


八依は首筋を撫でながら笑う……


……っ


ぁっ…………


「……違う、 私は…… 魔王じゃない………」


……………


「……鈍いわね、 これだけの危機が迫れば、 認識阻害を超えて肉体は生存の本能に従って力を思い出すと思うんだけど…… それとも知った故で否定しているの? ……まさかそんな事はないか……」


混沌の王が、 子供の様な………


…………


ジジッ、 ジジジジッ!!!


……


「……大丈夫、 覚えてるよ…… ノイズが煩くても、 覚えてる…… 私がした事、 してしまった事…… 私は忘れてない、 忘れないように、 いつも思い出してる……」


だから………


「……ごめんね、 八依ちゃん…… 私のせいで、 私が魔王になったせいで…… 八依ちゃんは怖い思いしたんだねっ…… ごめんね………」


…………………っ


「………はぁ? ……待って待って、 待ってよ…… 忘れてるんじゃ無くて覚えて、 自覚がある上で…… そんな世迷言を吐くの…… 私の知ってる魔王様は、 絶対に謝ったりなんかしないっ」


……うん


「……だから、 私が、 代わりに謝るの…… もう、 あの子は…… 私の中には居ないから」


っ………


ビュゥウウッ!! ………


ビルの屋上を風が叩く、 バタバタと揺れる服、 まるで頬を叩かれた様な衝撃と気づき……


魔王が君臨した、 この異世界の地を焼く『甘樹街の惨劇』と呼ばれたかの日々が、 今では終わりを迎えた事実と、 胸を焼くような焦燥感……


まさか………


「……『魔王様』は?」


月明かりに照らされた雪の目が、 恐れを知らないように八依の目を刺す………


「……ごめんね」


届いたのは、 更なる謝罪だった、 雪は続けて口を開く……


「……雪は、 ずっと怖くて、 目を逸らしてた…… あの子が街を破壊して、 平気で人を殺すのを、 目を閉じて、 耳を塞いで見ないようにしてた…… 私の体を使ってあの子がどれだけ酷い事をしても…… 私は知らないふりをしてたの……」


……だから


「……私は、 私の事を最後まで見捨てずに救ってくれたあの人が譲ってくれた人生を生きている…… だからごめん、 私はあんまり詳しくは分からないの……」


でも、 多分……


「あの子…… 『魔王』はもう居ないんだと思う…… 神様が、 そう言ってたから………」


……………


………………………………ッ


神……


ぁぁ………… そうか………………………


「『天閣』の神か……… 神が遂に接触したんだ、 なら魔王様だって抗えないよ…… 神は理の管理者だ、 生きる理の違う世界では特に…… ただ、 今代の魔王様が敗北しただけじゃないんだね……」


魔王は打たれても代を変えて生まれ変わる、 新たな魔王が新たな混沌を産む、 その度に魔王軍は発足され、 人間側で言えば勇者率いる騎士団が王に命じられ戦いに向かう……


かの世界で二百年と少し続いた『魔王転激(まおうてんげき)』と呼ばれた魔王による人間世界の進行は……


「……終わったのね、 こんな異世界で、 決着が着いたんだ…… ああ、 そうか、 私は直ぐにやられちゃって結着を見届けて無いんだな……」


…………………


神の接触…………


「……分かった、 貴方のこの力は神由来かな? この丈夫なバリアーは魔法攻撃も物理攻撃も全てを逸らす、 変なの、 何で貴方はそんなに神様から守られてる訳?」


……いや …………


「うそうそ、 別にそんな事はどうだって良いわ、 この頭の中の喧しいノイズも神由来だと別れば納得できる、 神は、魔王様の記憶を認識阻害で封じる事で、 私の様な覚醒者が記憶を取り戻さない様にしたのね」



「………ごめんね、 何を聞かれても、 雪には分からない……」


はぁ…………


「もういいわ、 どっちしろやる事は変わらない……」


八依は雪に手を向ける……


「私の業魔刑も、 軍式魔法も、 物理攻撃すら貴方には効かない…… なら臭い物には蓋よ、 見掛け倒しなくらい派手に見えるこの巨大な閉じ込める結界は、 全部貴方を封印する為に必要だったの」


封印……


「……何をするの?」



「だから封印よ、 これから始まる戦いに向けて、 貴方は不確定要素だから閉じ込める、 不思議な話じゃ無いわよね?」


……これから、 始まる?


八依はさも当然の様に真顔で告落とす……


「……何って? そんなの決まってるでしょ、 魔王様が居なくても私達は魔王軍なのよ、 言ったでしょ? やる事は変わらない…… 今から魔王軍を再発足して、 この世界の能天気な人間共を鏖殺する」


………っ!?


「どうしてっ……」



「……? さぁ? 衝動かしら、 私達は魔王軍だから、 ただそれだけ、 それ以外は要らないし、 それ以外は持って無いのよ、 初めからね」


……そんな ……


雪は思わず呟く……


「……人を傷付ける事は辛い事だよ」



「……貴方が言うの?」


ぐっ……


雪は下唇を噛んで、 耳の奥から湧いてくる嘗ての悲鳴に身を委ねる、 とても辛いが、 逸らしてはいけない、 ノイズの影に押しやってはいけない


他の誰が、 辛い記憶を忘れて生きて居ても良いと思う、 生きる為に背負いきれない記憶を忘れて生きる行為を否定しきる事は出来ない……


……でも、 そうだ……


「……そうだよ、 私だからこそ言うの、 私は、 あんな事絶対にしたく無かった、 人が自分の所為で泣くのを見るのが辛かった、 苦しかった…… でも私は、 あの子の影で、 確かにこの手で…… 人を殺したんだ……」


……誰かの悲鳴が耳に届く、 誰かの慟哭が鼓膜を訴える様に揺する……


「……誰だって辛いよ、 それはあなた達もそうだよ、 ただ操られるがままに人を殺すなんて…… そんなの、 絶対にあっちゃ行けないんだっ」


ふぅん……


八依が雪を前に鼻を鳴らす


「……これは私の当てづっぽうだけど …… 貴方、 誰かに救われたんでしょ? 誰かに救って貰って、 助けて貰って、 許して貰ったから、 平気な顔、 してるんでしょ?」


っ……………


「温いわね、 反吐が出るくらい…… 私達魔王軍の連中は、 殆どが魔王や、 魔王の指示で動く魔王軍に殺された連中なのよ、 それくらい知ってるでしょ? 魔王様の扱う魔国式結界の中には、 死者蘇生の力が有る、 生き返らせた人間に絶対的な隷属を強いて、 縛り、 戦わせる」


はぁ……


「……私は小さな町の古本屋の娘だった、 古本屋と言っても小さな町には殆ど新しい本なんて入らないから、 繁盛してたわよ、 商人の仕入れた本は高くてとても買えないから…… 生まれた時から私はあのカビ臭い本に囲まれて、 知識の海に浸って生きていた、 なけなしに金を払って古本を買う人だって、 何もその店の娘が店の本を自由に立ち読みしようが咎めようとは思わない…… 私は本が好きだった……」


でも……


「私達の前の前、 三十八代魔王の軍勢の行軍ルートだった私達の町は、 呑気な勇者一行がたどり着く前に皆殺しにされた…… 私は地下の書庫で本を読んで居たから気がつくのが遅れて、 私が事態に気が付いた時には両親や家族も殺された後、 家兼の店舗も、 勿論本も、 燃やされたわ…… 私よりも前にね」


語られるのは、 誰の記憶だろう……


「……私にはお気に入りの本が一冊あって、 それはいつも自分が小脇に持っていた、 買い手も居なかったしね、 あちらの世界では珍しいんだけど、 誰か、 遠くの幸せな誰かの書いたエッセイだったわ、 ずっと憧れてたの、 作者も本が好きで、 花に囲まれた庭でお茶の香りを楽しみながら本を開いてうたた寝する…… そんなワンシーンを私は夢に見た……」


キラキラと、 画用紙に油絵で書かれた様な世界観、 どこまでも続く、 咲き乱れる大輪の花畑の中に埋もれる様なバンガロー、 きっと時が止まった様に、 幸せが動きを止めて寄り添い続ける……


「……私はせめて残ったその本だけは、 守ろうと思った、 けれど躓いて足を挫いて、 直ぐに捕まった…… 笑えるでしょ? きっと私が本に手を伸ばしたからでしょうね………」


本好きの少女を捕まえた魔王軍の者は少女を直ぐには殺さずに、 捉えたまま仲間に本を手渡した……


「夢を見るな、 幻想に浸るな、 辛い現実を見ろ、 目を覚ませ…… そう恫喝しながら、 あいつらは私の目の前で一ページ一ページ本を破り続けた、 ご丁寧にページに書かれた綺麗事を鼻で笑って読み上げては、 バカバカしいと付け足して、 三百ページ有るその本の全てを否定して、 残骸を踏みつけてから、 最後に私を殺した……」


ねぇ?


「……なんであいつらはここまでしたと思う?」


……雪は泣きそうな顔で首を横に振った


「……分かんない、 どうしてそんな酷い事……」


カタンッ! ………


八依は響く足音で雪の言葉をとぎらせると低い声で唸る……


「目を逸らすなよ魔王…… 分からないって事は無いでしょう? 覚えて居るならわかるはずよ、 魔王様が貴方の脳味噌を回して、 何を思って人を殺すのかを……」


っ……………


「…………その方が、 その人が苦しむから?」


ふふっ……


「分かってるじゃない…… 苦しめた分だけ憎悪を抱く…… そして魔王軍となった時、 私達は生まれついて人を憎む、 残酷に殺したいと願うのはね…… 私達が生前最後に抱いた膨大な憎しみを、 魔王様の隷属が逆に人間側に向く様、 矛先を変換させているから……」


嘗て抱いた魔王への憎悪を、 そのまま憎しむべき魔王に利用され、 逆に今度はその憎しみを人間の方に向いた故に魔王軍は人を苦しめて殺す、 無限の悲劇の連鎖……


「魔王軍になった時、 私が真っ先にした事は、 街の図書館を襲って本が好きな奴らを皆殺しにする事…… 高価そうな本を山のように積み上げて、 図書館司書をその本の上に、 磔に括って、 下から本に火を放った」


本から本へ火が上へと登っていく、 本好きの石頭どもの足の腱を切って、 腕を組むように縛り付けて、 自分達の愛す本と、 それを管理する偉大な司書が灰になっていく様を拝ませてやった……


「……どうして? 自分が嫌だったのに、 辛かったのに……」


ははっ……


「だからよ、 自分がされて嫌だった事を、 今度は他人にやって返す、 それが魔王軍と言う者たちの正体だった…… 貴方が魔王様の事を覚えて居ると本当に言い張るなら、 やはり、 結局取るに足らない雑兵の事なんて気にも停めなかったのでしょうね? 貴方の反応を見るには……」


まぁ……


「それだけじゃないけどね~ 貴方を庇ってあげる訳じゃ無いけど、 あれらの行為はやっぱり自分の内側から湧いてくる本心…… 楽しくなってくるのよね…… 力を振るわれる側の人間は何時だって自分の事をちっぽけで何も出来ない弱い存在と貶める……」


でも……


「力を振るう側に回って初めて、 根っこに染み付いた劣等感を否定する材料を手に入れ、 勝利を積み重ねる度に、 過去に貶めた弱い自分が、 それでも、 苦渋に顔を歪め、 辛酸に吐くほど怒る、 一度足りとも、 それらを舐めさせられた事を許した事が無かったと知る…… いや、 思い出す……」


自分の中の弱さ……


「……を、 否定する瞬間がこんなにも心が踊る、 楽しいのだとわかる…… ああ、 でもこう思うでしょ? そんな自分勝手に、 迷惑を被る奴の事も考えろって? ……でもね、 結局世界は強い奴が勝つのよ、 力を持つ奴じゃない、 力を振るえる奴が勝ち進んでいる、 強力な力を持とうと、 それを一度も振るわず、 世迷言を並べて被害者ぶる奴は終始言い訳を並べて居るだけで決して人生のどの瞬間にも、 一歩たりとも踏み出した事は無い、 生きれば生きるだけ負け続ける不戦敗の権化だっ」


結局……


「戦ってる奴の意見が通る、 勝ってる奴の勝手が歴史になるっ、 殺して殺して殺してっ、 殺し続けた奴が世界を動かしているっ! それが私達で、 その頂点が、 魔王様だった………」


ビュウウウウッ! ヒュウウウッ!! ……


風が二人を打つ、 火照った頬を風が撫でる気分の良さに、 八依は胸に手を当て深呼吸した……


はぁ……


「……明山雪、 お前こそが不戦敗の権化だ、 魔王様…… 力を否定し、 目を背けた過去を、 他人から譲り受けた温い日常に浸して柔くしてから飲み込んだ、 お前の抱える過去に対する辛さは所詮、 お前が飲み込んだ物の種が喉に引っかかったと、 ありもしないフリを演じているに過ぎない……」


スゥ……


「……軍式魔法式結界術・九錦鎖楼証(くにしきさろうしょう)」


ッ…… ガジャンッ!! ………


っ………


街に立つ九本の柱が生き物の様にブルブルと震え始めたかと思うと、 足でも生えた様に地面を這いずって、 まるでこのビルを目指して意志を持った様に歩み始めた、 様子を見るに柱には実態は無く、 街が蹂躙をされて行く事は無いようだが………


ガガガガッ…… ガガガガッ……


その重そうな体を引き摺って、 いや、 雪の目には見えた、 八依だ、 柱には鎖が八依に繋がって居て、 簡単な動作で引き寄せて居るんだと分かった…… 不意に八依が指をこちらに向ける……


「……一指(ひとさし)」


右手人差し指を立てる、 初めそれが何を意味するのか分からなかったが、 一瞬後にそれを理解した…… 九本の柱が一本、 こちらに向かって街を蹴って飛んだのだっ!


ッ


バリィイインッ!!!!


っ!?


……飛んだ柱がビルに衝突する、 指を向けると柱が引かれる様に飛んでくると思った、 柱は街を壊さないと言う条件はそのままだ、 ビルに衝突したと言うより柱の方がビルに突き刺さった様だ、 揺れも無く、 音も常人には聞こえてない……


八依は次々に指を向ける……


「二指(ふたふり)……ぴーすっ」


ッ、 バシャアアアアンッ!!


「三指(さんせん)、 四指(ししん)、 五指(ごしょう)、 パー」


ッ、 バジァンッ!! ビジャアアアンッ!!


ドジャアアアンッ!!!


畳まれた指が伸びる度に激しい硝子の割れる様な音と共に柱が飛んで来てはビルに突き刺さる、 五本、 開いた掌がこっちを向く…… さっきまでな明確な攻撃ではない、 もっと別の儀式的な……


「……何をするつもりなの?」


雪の問いかけに八依は少し口角をあげるだけで答えない、 徐に逆の手を持ち上げると同じ様に、 再び指を開き続けた


「六指(むつむき)、 七指(ななしし)、 八指(やえにしき)………」


すぅ…… 九本目の指が向く……


「九指(ここのしらし)……」


ッ、 バジャンッ! バリシャアンッ! ドッシャアアンッ!!


ッ


バリャアアアアンッ!!!


………………


「……何をするつもりって? 答えたでしょ、 封印の為の儀式よ、 それぞれの柱に相対する指を宛がって有る、 指を向けると柱が飛んできたでしょう? 初めからこの街を『甘樹街の惨劇』のように閉じた悲劇にするつもりは無い、 大規模な結界術の行使も全部魔王様を封印する上での想定だった」


八依は最後に一本握られたままの小指を残して両手を雪に向ける……


「でもそんなに備えは要らなかったかしら、 魔王様でもないただの子供…… いいえ、 いいえいいえ、 貴方にはそのバリアーがある物ね、 備えあれば憂い無しかしら……」


スゥ……


「柱組み……」


ガガガガガガッ!!!!


ビルに突き刺さった柱が畝って、 柱の尾と尾が音を立ててぶつかる、 何か、 九本の柱が形を作って居るようだった


「三角柱よ、 九辺の図形で構成された三角柱、 元々九角形を作っていた結界をそこから力をさらに込めて圧縮する、 そうすると二層式の圧縮結界が出来て単純に効果は倍、 これは閉じ込める為の結界だからまあ、 内側からの強度ね、 でも外からの強度にもまあまあ強い、 それは二層式だからこそね、 最初の九角形の効果が内側から、 次の三角柱には外側からの強度を…… と二重効果に出来る」


まあ……


「その分構築と維持に制度が必要で大変だし、 私みたいに他人の承認を経て結界の構築を完了してる様な非凡な魔法術師は、 その分、 結界を破壊された時の跳ね返りが承諾者分返ってくるから、 楽じゃ無いわ…… 魔王様の扱う隷属はそこを完全に他社負担に出来たけど、 私の業魔刑はそれ程有能じゃないからルールーには逆らえない……」


なんにせよ………


「こんなウンチクを語っても仕方ないわね、 最後に何か言いたい事ある? ……ああでもその前に、 私が最後に言いたい事あるからそれだけ言わせて」


はぁ……


「……さっきアンタの事、 不戦敗の権化と言ったけど、 これはますます極まりすぎでしょ? ……さっきからずっと不思議だったんだけど、 なんで逃げないの? そのバリアに守られてる以上私の攻撃は通じないし、 衝突したエネルギーもその身に受けて居ない、 それともまだ目が回ってるの? ……なんにせよ温過ぎるでしょ……」


まさかそれとも………


「……まだ冗談だと思ってる? 魔王様からの支配に盲目的に動かされるマリオネットの独り言がバカバカしいとそう…… 思っているのかしら? もしかして、 夢とか、 幻とか…… はたまた…… まだ私と仲良く出来ると戯言を吐くのかしら?」


ヒュウ…… ヒュゥウウッ


バタバタバタバタッ………………………


………


ううん………


「……仲良く出来なくてごめんね」


…………?


雪の力無い言葉に首を傾げる、 でも首を持たげた雪と目があって、 どきりとする……


「仲良く出来なくてごめん…… レイナーリ」


っ!? ………


「あの頃の…… 私ではないけど、 私の記憶にも見つけたよ、 智学轢(ちがくれき)のレイナーリ、 貴方は魔王軍で、 そう呼ばれていたね」


…………………


「……何故、 私の事が分かるの?」


動揺を隠す様な声に、 雪は静かに返す……


「ずっと思い出してた、 あの子の…… ううん、 あの子達の記憶の中から、 貴方の事を…… 貴方は四十代魔王時代の四天王だった、 どうやら貴方は数多くの戦績を上げたみたいだね、 その功績はちゃんとあの子も認めてたみたいだよ」


雪の声は、 不思議なくらい角が無かった、 その戦績の数だけ死んだ命がある事を咎める様な角は無く、 頑張った子供を褒める母親の様な丸さに、 嫌悪よりも前に疑問ばかりが湧いた……


「……何を言ってるの? 魔王様は下なんて見ないでしょ、 認めるなんて有り得ない…… 妄言よ、 貴方のは……」



「……確かに、 魔王、 あの子は周りの誰にも目を向けずただ破壊と混沌を産む子だった、 だってあの子こそが誰よりもずっとずっと…… 操られるマリオネットだったんだから……」


でも……


「あの子は今、 今度は、 遂に…… 周りに目を向ける側になった、 今度は私達と同じ目線で、 今まで自分が壊して来た尊さに目を向けて苦しんで居る、 あの子が、 最も上に立つ魔王が、 産んできた全ての混沌を背負って生きている、 だから……」


うん


「貴方の罪も、 貴方の抱いた憎悪も、 全部、 ちゃんとあの子が背負ってくれてる、 貴方はもう苦しまなくていいんだよ、 レイナーリ…… あの日抱いた憎しみも、 それ以前に好きだった本への愛も、 もう隠さなくて良い、 本音を聞かせて欲しいな」


っ……………


不思議な事に、 湧くのは怒りでも呆れでも無い、 温い感情だった、 うたた寝してる間に冷めた紅茶のような渋みを感じる、 温い温度の感情、 久しく忘れていたそれ…………


「魔王軍が貴方の町を焼いた、 好きな本を破り捨てたと語った時の貴方の顔には、 本心からの怒りと悲しみが顔を出して居たよ、 もう、 罪悪感の影に隠さないで…… 今のあの子が居ない、 ただ人に救って貰った私には、 もう既に亡くなった貴方へ出来る事が限られてる、 私もそうして貰ったように、 正面から貴方の話を聞いて、 貴方の心を赦して、 貴方を救う事が、 あの日の、 私が起こした惨劇に私が向き合う事の証明だ」


でもやっぱり……


「仲良く出来なくてごめんね…… 私は貴方が生きている内に貴方の事を救ってあげて、 仲良くなれていたなら、 どれ程良かったかと思うよ」


………………………ははっ


「……馬鹿な事言わないでよ、 じゃあ大人しく消えろって? 私はここに居るのよ、 今ここにっ…… この衝動の炎だって消えはしないっ」


殺して、 人間を殺して、 殺して、 殺して………


……ねぇ


「愛美ちゃんも殺すの?」


………………?


……そんなの、 当たり前だろ、 魔王軍は人間を区別しない、 ただ無慈悲に殺し続けるだけ…………


っ、 ドクンッ! ………


………


「……私は八依ちゃんに聴いてるんだよ? 本当に、 今確かにここにいる八依ちゃんに聞いてるの、 八依ちゃんに本心を聴いてるんだよ? ねぇ、 大好きな人達、 家族や、 友達、 景子ちゃんに、 愛美ちゃんまで殺すの? それで良いの?」


ッ、 ドクンッ!


…………っ


ぁぁっ、 ああっ………


「……愛美、 ちゃ………」


喉の奥から苦しそうに零れる声、 ギュッと強く首を抑える……


「ちっ、 新椥八依っ、 貴方の大切な藤里愛美を手に入れる方法は幾らでも有るの、 でもその前に始めなくちゃいけないのよっ、 私達は魔王軍として、 魔王様が居なくても魔王転激を始めなきゃ行けないのっ! 藤里愛美や佐々木景子、 貴方の大切にしている人を殺すのは最後にしてあげるから、 今は大人しくしてなさいっ 」


少女が自分の喉を強く締めて声をひねり出す様は痛々しかった、 内から湧く八依の声に、 レイナーリは高圧的にソレを押さえつける……


スゥ……


そのまま八依の体に宿るレイナーリは広げた指を今度は握り込む様に全てを折り曲げる……


ッ、 ガジャジャジャンッ!!


激しい音を立てて完成した三角柱が雪を囲っていた、 九本分の柱、 最後の一本、 八依の左手の小指が静かに立てられる


「……これは鍵だ、 閉じる為に用いる結界の鍵、 と同時に私の結界を証明してくれた人への約束の依り代にもなっている」


ガチャンッ……


鍵が差し込まれる、 後は、 回すだけ…………


………


すぅ………


そんな際に、 雪は笑って腕を持ち上げた、 その手は鉄砲の形をしている……


「……大丈夫、 譲って貰った私は、 この世界に居ても居なくても変わらない、 私を閉じ込めても、 世界は何も変わらないよ」


そう………


「戦いの道にそっぽを向いた私は確かに不戦敗の権化だね、 認めるよ…… だからこそ戦っている人が前に進んで居るなら…… 大丈夫だよ八依ちゃん」


だって……


「貴方と真正面から戦うのは、 愛美ちゃんだ、 気を取り直して、 もう一度ぶつかってみなよ、 愛美ちゃんにドカンとっ」


だから……


「レイナーリ、 貴方もそろそろ前に進みなさい、 貴方の戦う場所はここじゃない、 今、 不戦敗を積み重ねているのは、 貴方の方だよ」


スッ!


「ばちんっ!」


拳銃を打つように、 雪が声と共に指を振るって反動で空を向く、 首を傾げるよりも前に、 衝撃は全身にぶつかって爆ぜたっ


ボォッ!! ガァアアアアアンッ!!!


っ!?


「っ、 ぎゃああああああっ!? っ、 これはっ、 なっ……」


八依の喉を通って悲鳴の音がダイレクトに吐き出される


「……この私の力は、 すごく悪い人を倒す為に神様がくれた力、 この力は悪い人しか傷付けない…… 仲良く出来なくてごめん、 レイナーリ、 でも貴方はもう休んで、 その体も心も、 全部、 八依(ともだち)の物なの」


っ


「なんでっ、 私だけに効いっ、 新椥八依はぁっ! 効かないのよっ!!」


内側で小さくなった彼女には、 焼くような雪の力は及ばなかった、 明確に食らったのは我が物顔で演じるレイナーリのみ、 これは時間を置き、 レイナーリの意思が完全に八依の表面に表立って居たからこそ見分けが上手く着いた結果だが、 雪自信明確には理解して居なかった


ただ、 さっきの質問に答えるなら……


「思ってるよ、 私は八依ちゃと仲良くできるっていう思ってる、 知っちゃったんだもん、 もう一方的にでも、 私は貴方と友達になっちゃうよ…… だから……」


っ


「黙れっ!! さっさと消えろっ残骸がっ!」


ッ、 ガガガッ………


……ガチャンッ! ……………


八依が左手の小指を施錠する方に回す、 すると三角柱は軋む様に縮小化を始めた、 完全に終わる頃には拳ほどのサイズになってしまうのだろう……


だから、 これはその前に、 本当の最後の最後に聞こえた……


………


「……愛美ちゃんとお話できたら、 私の事も友達とした認めて、 仲良くして欲しいな……」


………


ッ、 ガシャァコンッ!!


………………………



……


施錠が澄んで、 未だ明ける事の無い月光の下の夜、 半壊したビルの屋上に一人の少女の影が揺れる、 目の前のクレーターには三角柱型の拳大の箱の様な物が落ちていた……


少女はペタリ、 地面に力無く座ると、 呼吸をする事を思い出した様に、 仮面を被った様な彼女の内の黒い意思は光となって最後に消え、 箱を見下ろした紛れも無い八依自信が落胆した様に短く呟いただけ……


ぅっ………


「……………愛美、 ちゃん …………」


ただ、 あの子の名前を呼んだだけ、 その声も風に流されて、 夜の闇に溶けて行った…………

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