第八話…… 『対抗する力』
カチャンッ…… カラカラッ…… カラカラッ………
ツー ツー………
ガチャッ……
………
『……はい、 藤里ですが』
「あっ、 お母さん? 私、 愛美だけどさ……」
……
緑色の公衆電話、 殆ど使った事のないテレフォンカード、 受話器越しの母の声はどこか緊張している様だった……
っ
『……愛美? どうしたの? 公衆電話で掛けてるの? 何かあった?』
「うん、 貰ったテレフォンカードで掛けてるよ、 あー、 それでね、 ちょっと友達の…… 友達の家にお邪魔する事になったから、 いつもと同じには帰らないけど心配しないで?」
…………
『……えっと、 景子ちゃんか、 八依ちゃんのお宅?』
「違うよ、 隣のクラスの子、 ちょっと方向は違うけど、 遅くはならない様にするから」
ふぅん……
母は珍しそうに声を出した
『……それは良いけど、 暗くなる前には帰ること、 あと挨拶はする事、 それと万が一何かあったら直ぐに電話する事、 良い?』
「はい、 そうする」
うん……
『……なら良いよ、 万が一にも迷惑は掛けない様にね?』
「分かったよ、 じゃあね……」
ガチャンッ………
受話器を置くと、 愛美はガラスの扉を押して外に出た、 学校の傍にあるバス停に置かれた、 寂しげな公衆電話から、 バスの待合室の小屋に向かうと、 そこに雪色の髪の少女、 明山雪がまちぼうけた様にしていた
「……あ、 愛美ちゃん、 お母さんに電話できた?」
「うん、 友達の家に遊びに行くって誤魔化しちゃったけどね…… でも雪ちゃんの家の傍なんだよね?」
テレフォンカードをカード入れに仕舞いながら藤里愛美は問いかける
「うん、 近くだよ、 その人の仕事場だけどね」
「う、 うん…… ねぇ、 本当にいきなり尋ねても良いのかな? 仕事中なんでしょ? 迷惑にならないかな?」
愛美の最もな疑問に、 しかし雪は特に何も考えて無さそうな声で平然と言った
「……う~ん、 ま、 大丈夫でしょっ、 よいしょっ」
ぇぇ………
唖然とする愛美に雪は変わらない笑みで笑うと、 こちらに手を仰いだ……
「行こ行こっ」
「……うん、 行こう」
愛美は決意を固める様に雪の後ろに続いた……………
…………………………………………………
…………………
……
あ………
「……愛美ちゃんだ、 それに明山雪ちゃんも、 バス停の方から今帰るみたいだね…… どこに行くんだろ? はぁ…… 聞いても愛美ちゃん答えてくれなかったし…… なんなんだろうな………」
佐々木景子は、 遠目にコチラの通学路とは違う方向へ進んで行く愛美の背を見つける、 今日の愛美は終始、 明山雪にベッタリのご様子で、 取り付く島もないない程だ、 話し掛けても適当に話を逸らされてしまった……
はぁ……
思わず出る溜息に、 隣を向くと、 新椥八依に訴え掛ける様な視線を向ける…… しかし帰ってくるのはこちらも冷たい声だった
「……さぁ? 今度は家にでも行くんじゃない? 話してくれないんだから知りようが無いよ」
………そう話す八依は遠くの愛美の背を向いては居なかった、 何時もだったら熱の籠る視線で怖いくらい愛美の事を見ていた八依が…… そう、 愛美の様子と同時に、 景子からは八依の様子もずっと不安だった、 続いて来た関係の裏側を覗いたら、 知らないうちに内側からヒビが入っているのを見つけたような気分だ……
「……ねぇ、 やっちゃん、 もしかして愛美ちゃんに怒ってる? 愛美ちゃんちょっと、 今日は素っ気ないよね? ……どうする? 刑事ドラマみたいに後ろを着けてみる? なんて………」
八依はコチラすら振り向かなかった……
「……別に、 私は何とも思わないよ、 それは多分景子ちゃんの心でしょ、 景子ちゃんがそうすべきだと思うならそうしたら良い、 私は帰るよ、 帰りが遅いとお母さんが心配するから」
…………
っ…………………
景子は、 すっかり何も返せなかった、 今日は一日まるで息を止めた様に苦しい、 いきなり真っ暗闇の檻に閉じ込められたみたいだ、 何も出来ない………
…………
すっ………
……不意に八依が止まる、 景子はその背を見つめる事しか出来なかった、 八依は相変わらず振り向く事もしないけど、 ただ、 声を出す、 今日初めてこちらに向けた声だ……
「……大丈夫だよ景子ちゃん、 私達は変わらない、 三人は変わらないよ…… きっと、 明日になったら、 全て、 良くなっているから……」
っ………
八依の声に景子は息を飲んだ、 何か、 知らない感覚が胸を焼くようだった……
不意に八依が手を向ける……
「……どうする? 帰る?」
……
景子は、 一瞬だけその手を取ろうとして、 でも首を横に振った、 多分、 このまま何もせずに家に帰ったら、 ずっとモヤモヤする、 この一日をただ、 モヤモヤのままに浪費したくはない……
愛美も、 八依も、 大切な友達なんだ、 それをどんな形でも証明したい、 何か悩みがあるなら一緒に解決したい…… 諦めるのは簡単だが、 諦めたくは無い、 まだ、 これからも二人と、 友達で居たいっ……
…………
「……ううん、 八依ちゃん、 ごめんね、 やっぱり私、 あの二人を追い掛ける、 一緒に帰れなくてごめん…… でも、 私も、 明日には三人、 また仲良く笑い合えるって信じてるっ、 だから……」
景子は足の進む向きを変える……
「私行くね、 八依ちゃん、 また明日ね!」
っ
タッ!
……遠くに見えた愛美の背はもう判然としないが、 きっと景子は追い付くのだろう、 そんな、 足取りに見えた………
…………………
……
ぶふふっ! あははっ! ………
「見て見て、 アレみたいだなっ、 ドラマの振られるシーンみたいだっ、 あははっ」
……傍に居た二人の男子がこちらを見て笑っている、 コチラを指さしている、 あれは多分同じ学年の男子だ……
「あれっ、 新椥八依だろっ、 いっつも藤里愛美と佐々木景子の影に隠れてる、 前授業で話し掛けたら、 声小さすぎて何言ってるか分かんねぇのっ、 あははっ」
「ずっとビクビクしてるしなっ、 なんですか~ お化けにでも怯えてるんですか~ 一緒に帰ってあげまちょうかぁ~ あははっ」
…………
不愉快な声が耳に届く…… そう、 クラスに居て、 愛美や景子の影に隠れていれば楽だった、 安心できた…… でも、 一歩外に出れば、 自分が他人から良いように思われていない事も確かだった……
確かに、 自分はずっと怯えて居た……………
……でも、 今、 全く震えが無い、 男子は急に背が伸びて声も低くなる、 八依よりずっと大きく感じる、 それでも、 怖くは無いのだ…… 寧ろ、 笑いさえ出てくる……
ふふっ、 ふふふっ…………
「……確かに、 確かに怖いよね、 お化けって、 本当に恐ろしい存在だよね…… だって、 目には見えないんだもん、 特に、 貴方達には………」
八依が右手を一人の男子に向け、 自分の内側に語り掛ける……
「……お化けさん、 手を貸しなさい」
ゴボッ………
水底から何かが溢れ出した様な音がして、 八依の内側からソレが手を伸ばす、 昨晩に調伏したばかりの、 かの妖魔の手……
目には見えない手が八依から伸びて、 一人の男子へと近ずく………
「はははっ、 お前、 何してんの? 手なんか向けて、 もしかして魔法使いでも夢に見てんのか? 馬鹿がよっ…………………」
……?
男子は急に言葉を詰まらせた、 スラリと、 喉仏を何かが触れた様に感じて唾を飲んだ………
八依は、 既に目に見えない手で、 男子へと触れている………
「業魔刑・径漣冥祇………」
ッ、 グリッ! …………
っ!?
男子生徒は、 思った、 今、 何かに掴まれた、 最も大切な何かを掴まれて、 縛られた、 枷を掛けられた様に動けない…………
八依と目が合う……
「……良いよ、 一緒に帰ってあげる…… ただし、 退屈だから、 学校の校歌でも大合唱してもらおうかな」
その言葉に、 男子の口が自分の意思とは関係なく開く、 まるでスイッチを入れると歌い出す人形の様に………
ぁ、 ああっ……
「ああっ、 僕らぁっ! 人のぉ子ぉ! 大空ぁ、 いっぱいの希望ぅ~!!」
っ!?
隣の男子が驚きに目を見開く、 しかし、 不意に空気が動いて、 小さい、 まるで熱の全く無い屍の様な冷たさが冷や汗に汗ばんだ腕に触れる……
ヒタッ………
「……何黙ってるの、 貴方も歌うんだよ?」
っ、 うっ……
あっ……
「「……ああぁっ! 僕らぁっ!! 人のぉ子ぉっ!! あの山いっぱいのぉっ、 勇気ぃっ!!」」
ぷっ
「あはははははっ、 ははっ、 あはははっ、 良いねっ、 最高に面白いよっ、 ねぇっ、 貴方女子のパート歌ってよっ、 あ、 裏声で女子声っぽくね、 あなたは最もっと声を張りなさい」
ああああああっ~!! …………………
奇妙に目を引く、 脇目も振らずに大合唱をする男子は、 他学年も混ざる通学路の下校時間に嫌に目を引いた、 誰かが忌避の目を向け、 誰かは大声を立てて笑う……
八依は、 両腕を上げると、 まるで指揮者の様に、 両手を自由に振った…… 目には見えない手が、 縦横無尽に薙いで行く、 行く度に………
「「「あああ~っ!!! 太陽よぉっ!!!」」」
「「「「「「ああああああっっ~ !!! 記憶よぉ~!!! 大地の記憶よぉっ!!!!」」」」」」
あああああああああ~~~~っ!!!!
「「「「「「「「「「「「「「「「「「ああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ~~~~!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
……八依が、 その手を頭の上で、 纏める……
っ
すぅ…………………………
…………皆、 あれだけの大合唱が、 一斉に止んだ、 気が付けば殆どの道行く生徒が、 歩道と並走する車道を走る車の運転手まで、 皆一様に、 八依の手を瞬きもせずに見ていた、 まるで操作をやめたマリオットの様に、 指揮者は、 盤上で笑う……
ふふふっ……
「……うん、 すうするべきだと思うなら、 絶対にそうした方が良いよ…… 私もそうする様に、 この子達がそうは出来ない様に…… そう有るべきだと思うよ」
少なくとも、 この手をとるまでは…………
………
でも…………
ふふふっ♪
「……ちょっと愛美ちゃんには、 私が手を伸ばして掴んであげなきゃダメかな ……あの子も、 ね……」
……………
その後、 八依は指揮を再びは降らなかったが、 他生徒も、 車の運転主すら、 八依の歩幅に合わせて、 正に行列を作って行軍するようだった、 その様は、 何処か昔話に聞く百鬼夜行を思わせる程、 冷たい異様さを放っていた………
…………………………………………………
…………………………
………
その建物が見えたのは、 雪が自分の暮らす仮設住宅の区画を指差して教えた後に、 更に歩いて一キロに満たない程歩いたところにあった、 説明よりもずっと離れて居たので実際の距離よりずっと遠く感じた……
「あれだよ、 お兄さんが働いてる会社、 冬夜お兄さん居るかな?」
会社の敷地に、 勝手にズカズカと入り込んで行く雪と違い、 愛美はここまで来ても流石に気が引けた、 恐らく未だ仕事中のはずの会社に連絡も無しに訪れるのは、 例え知り合いが居るとしても失礼だと愛美にも分かるからだ……
敷地の駐車場を横切る雪が、 後ろを着いてきてない愛美に気が付き振り返って手を振る……
「大丈夫だよ~ とって食べられたりはしないから~」
…………はぁ、 仕方無いか………
愛美は、 おっかなびっくり敷地へ入ると、 事務所と思われる建物の客用の正面入口を雪の背に着いていくままに向かう……
看板には、 『未確認生物又は未確認事象に対する対策及び現地調を目的とした調査隊本部』と随分物々しい名前が記載されていた、 愛美はその長い名前に何処か聞き覚えを感じた………
………………
ガチャンッ! …………
……そんな事を思っている内に雪が一足先に事務所の扉を開いて入ってしまう、 慌てた愛美がそれに続く……
来訪を知らせる鐘の音に、 テンプレートに沿って立ち上がった事務員が、 挨拶をすると同時に困惑する………
…………
えっ……
「……子供? ん? え? どうかしたの? 二人とも……」
事務員のお姉さんが困惑する声に愛美は胃がキリキリと悲鳴を上げる様だった、 しかしやはり、 自分とは違い雪に迷いは無かった……
「こんにちは! 突然すいません、 冬夜お兄さんは居ますか?」
多分事務所中に聞こえる様な雪の言葉に事務所の全員が不意に一人の若い男に視線を向ける、 何やら書類に目を通して居たような彼も流石にそれに気が付いた様で顔を上げこっちを見た………
ん? ……えっ、 あっ!
「君はっ、 明山雪ちゃんっ、 どうしてここにっ」
村宿冬夜の驚き声に事務所の緊張感は何処か腑抜けてしまった、 ふたりが知り合いだと分かった今、 知り合いの子供が遊びに来てしまった状況におかしくなってしまったのだろう……
彼がきっと、 雪の言った冬夜お兄さんなのだろうと思う、 こちらに歩いて向かってきた冬夜は、 確かにイケメンと呼ばれる部類の人だと思った………
「冬夜お兄さんっ、 冬夜お兄さんにどうしても聞いて欲しい話があるのっ」
ぇっ………
「えっと、 それはどんな話かな?」
「……怖い、 お化けの話って言ったら、 分かってくれる?」
!
冬夜にこそ、 それは確かによく分かる話だった、 妖魔、 彼女の言った幽霊や、 妖怪等の存在は、 眉唾話に思われがちだが確かに存在しており、 実際に被害が出ているのが現状だ
そして、 正に昨日、 彼女が通う小学校で起こった妖魔が学校裏手の竹林を起点に人を閉じ込め隠す結界を使用した事件、 調査によれば一人結界に閉じ込められた人が居る反応があった
そして、 その結界は、 駆け付けた冬夜が対処する前に、 冬夜以外の第三者によって外側から破壊される事により消滅している…… 冬夜は、 目の前の少女、 雪色の髪を持つ、 雪がその結界の破壊者だと思っていた
彼女に不思議な程巨大な力が収まっている事は気配で以前より知っていた、 しかし彼女の力を目当てに集まる妖魔が居るのなら、 そして昨日の妖魔事件が彼女を起点に怒ったことならば、 その専門家として対処しない訳には行かない……
(……タイミング的に、 やっぱり昨日の事絡みかな…… それにもう一人の子は?)
……どちらにせよ冬夜的に、 近々その話を彼女にしなくてはならないと思っていたので、 向こうから訪れてくれたのは大いに助かる思いだった……
うん……
冬夜は頷く……
「……分かった ……すいません山路里さん、 二人を応接室で対応するので良かったらお茶を入れていただけませんか?」
「ぇ? あ、 うん、 それは良いですけど…… えっと、 要件は何なの?」
冬夜は小学生二人を見てから、 頷く
「どうやら、 二人も立派なうちのお客さんらしいです、 特に俺にしか出来ない方面の」
……事務員の女性、 山路里は一瞬の間を開けてからゆっくりとうなづいた
「分かりました、 ではお茶をくんできますから」
そう言って事務所の奥へ消えていく、 これで良い、 この奇妙な事業所は、 誰もが誰もを詳しく知っている訳では無いし、 知る事が良い訳でもない、 何故なら彼等が挑んでいるのは、 正に目に見えない未知の領域なのだから………
………………………………
…………
ふぅ……
「それじゃあ、 二人とも、 こちらへどうぞ」
……冬夜に促されて愛美と雪は、 事務所の応接室へ入室する、 ソファーに張り切って飛び込んだ雪と、 身を縮めて腰を下ろした愛美、 そのすぐ後に事務員の山路里がお茶と茶菓子を並べると、 冬夜を一瞥してから頭を下げて退出した……
さて……
「それで? 明山雪ちゃん、 要件はもしかして昨日の事についてかな? 昨日の竹林での事」
冬夜の言葉に、 少女二人はそれぞれに違う反応を見せながら、 一様に驚いたような顔をした……
「冬夜お兄さん竹林の異変に気が付いてたの? 流石だね、 陰陽師」
雪の言葉に冬夜は首を横に振る……
「いいや、 寧ろ俺は限界まで気が付けなかった、 陰陽師の祖先だなんて、 どれだけ力を持って居ようとこんなものだ、 早く助けに行けなかった事は俺の恥だ、 ごめんね」
「まじめだな~ まあまあ、 仕方なかったじゃんっ、 それに、 私が何とかしたから愛美ちゃんも助かったし、 良かった良かった」
冬夜は一拍間を開ける……
「……雪ちゃん、 俺は前々から君に何か不思議な力があるんじゃないかと思ってたけど、 どうやら本当みたいだね? 昨日の妖魔の結界は君が?」
「うんっ、 雪が壊したよ、 バーンっ、 てねっ!」
派手に鉄砲を打つ格好をした後、 雪は隣の愛美を冬夜へ紹介した
「この子は愛美ちゃん、 昨日お化けに襲われてたの、 私が結界を壊したから助かったけど、 もしかしたら前に冬夜お兄さんが言ってた、 襲われやすい体質の子なんじゃないかって思って」
……なるほど
冬夜が愛美の方を見ると、 彼女は緊張した様に肩を跳ねさせたが、 礼儀正しい子の様で彼女は頭を下げた
「あっ、 藤里愛美です、 その、 昨日の事が何だったのかどうしても知りたくて、 それに私の事も知らないままは嫌で…… 私も、 抗う力が欲しいんです」
愛美の声は震えて居たけど、 目は震えていなかった、 冬夜それに微笑む
「強いね、 偉いよ…… 俺は昔、 自分の力を知らないままに、 怠惰的に過ごして来た時分があった、 せき止めて来た力がどうしようも無く弾けた時、 ただ、 自分の無力さに気がついた……」
でも……
「……俺も人に助けられて、 初めて自分の力に目を向けた…… でも、 君も、 それに雪ちゃんも、 まだずっと若い、 抗う力を知る事は大切だし、 そうあるべきだと思う反面、 子供が大人を頼る事もそうあるべき事だ…… 説教がましいけど、 忘れないで、 俺がきっと力になるから」
冬夜の言葉に二人は顔を見合わせると二人して頷いた……
それで………
「力になるって、 どう力になってくれるの? お兄さん?」
「うん、 まずは俺の目で愛美ちゃんを見てみる事かな…… それと出来れば雪ちゃんも」
目で見る? 不思議に思った愛美だが、 不意に冬夜の目が光って見えた……
「……陰陽術・内重也の開覚……」
その冬夜の目に一瞬怯えた愛美に冬夜は微笑んだ
「この力は、 曖昧に感じる妖魔の存在を明確にし接点を炙り出す…… と言っても難しいけど、 簡単に言うなら倒したりする為に、 相手の事を知りたい、 ぼんやりとした妖魔をくっきり見る為の技術だよ」
「でも見えるのは妖魔だけじゃ無くて、 要はエネルギーの流れを見てる、 エネルギーは世界のどんな物にもそれぞれのエネルギーが流れていて、 勿論それは人も同じ、 今からこの目で愛美ちゃんの事を見てみるけど、 まあでも、 この目が光って見えるなら、 視るという事に関しての才能は申し分無いね」
冬夜はもう一度断ってから、 その目で深く愛美の事を見てみる、 愛美の体内を流れるのエネルギーの流れを注意深く目で追った冬夜は、 思わず感嘆の息を漏らした……
ほぅ……
「なるほどね…… 確かに雪ちゃんの予想は正しい、 こんなにエネルギーの流転が規則正しい人は初めて見た、 そりゃ妖魔からは狙われ易いね」
「エネルギーの…… るてん?」
ああ……
「エネルギーは血液の様に体内を巡ってる、 まあ体内ばかりでは無く、 魂や、 自分の意思にすら巡って居ると言うけど、 まあ何にせよ、 血管を通って全身を巡る血液の様に、 エネルギーもまた呼吸の様に体外から取り入れたり、 又は血液の様に体内で作り出したりもする、 それが巡る事をエネルギーの流転と言うんだ、 難しいかな?」
雪は小さく唸ったが、 等の愛美は納得する様に頷いて居た、 愛美が口を開く……
「その、 エネルギーの流転が規則正しい? とどうなるんですか?」
「うん、 例えば同じ例えで行くなら、 血の巡りが悪い人や、 呼吸が弱い人は、 体が弱かったり、 病気になりやすい、 つまり正常の体では無いんだ、 それをエネルギーで例えるなら、 流転の効率が悪かったり、 又はエネルギー回路の巡りが悪く、 ロスが激しい……」
でも……
「エネルギーと呼んでいる物をそもそも知覚してない人からすればあって無いような概念だし、 例えの様にエネルギーの有無で病気になる事は無い、 でも、 エネルギーの巡りの規則正しさには個人差概念あって、 単純に規則正しくないとさっきの例えじゃ無いけど、 ロスが激しかったり、 エネルギーの流転効率が著しく弱いんだ」
「……こんな言い方をしたら機械的で申し訳無いけど、 これが一番分かり易い言い方をするなら、 性能かな、 規則正しいエネルギー回路の持ち主は妖魔にとって性能のいい機体の様な物だ、 まあ取り憑いて動かすと言う点で言えば、 ロボットアニメの操縦士と考えは対して変わらない」
規則正しいエネルギー回路の持ち主が性能の良い機体なら、 誰だってそちらを選ぶ、 才能依然に、 そもそもソレらの存在を忘れた現代人はこと特にエネルギーの効率が悪く、 態々そちらを選ばない、 だから良機体の取り合いになる……
「……藤里愛美ちゃん、 俺は、 君がアレらに抗う力が欲しいと思うなら、 さっきも言った様にそれはそう有るべきだと思う、 能ある鷹は爪を隠すと言うけど、 鷹は決して爪を丸く研いだ訳では無く、 寧ろ常に鋭く研ぎ澄ましたからこそ、 振るい時を選べる余裕が有るんだ」
でも……
「覚えて置いて欲しい、 どれだけ高潔な人間で、 人を傷付ける意思が無い人でも、 力を振るうと言う選択肢を持つ時点で、 もう、 人の常識を超える、 良く使おうが悪く使おうが、今までのようには行かない、 これは確実だ」
っ…… 愛美は唾を飲み込んだ、 彼の言わんとする事は何となく理解出来る
「だからこそ力になるよ、 その証明に改めてこの道を選ぶかどうかの選択を問たりはしない、 それにそんなに警戒しなくても良い、 爪を隠す鷹だって、 自由に空を飛ぶ事まで心の内に隠したりはしないだろ?」
愛美は頷いた、 きっとまだ良く分かって無いだろうが、 いつか理解する日が来る……
………
「………あーっ、 もう難しい話終わりっ! ぜんっ ぜん何言ってるか分かんないよ冬夜お兄さんっ! もっと分かり易い事してよっ、 アニメの魔法使いの試験みたいなさっ!」
ふっ……
痺れを切らした雪の声に、 冬夜も、 愛美も笑った……
「そうだね、 帰りが遅くなっても親御さんが心配するだろうから、 やっちゃおうか」
「……そんなに簡単に出来る事なんですか? いや、 何をするのかも分からないですけど……」
冬夜は自分の手を愛美に向ける……
「まずはエネルギーを知覚する事、 知らないから使えないだけなら、 知れば良い、 エネルギーの色や匂いを、 最も手っ取り早いのがこれ、 誰かから実際にエネルギーを受け取る事」
「手に触れて直接エネルギーの流れを感じて貰えば、 直ぐに同じ様な物が自分の中にも既に流れている事を感じれる筈だ、 直接触るのが嫌なら服越しでも構わないよ」
………
「い、 いえ、 大丈夫です、 手に触れるだけで良いんですか?」
ぴとっ……
愛美の手が冬夜の手に触れる、 愛美には見えていた、 冬夜の手が、 さっきの目、 同様に、 光を放って居る………
…………ドクンッ ………
………あれ?
(……なんだろう、 この冬夜さんの手から感じる鼓動…… 水の流れの様な、 今、 この鼓動は、 川を引くように、 ここに、 掌に集まって………)
キラキラ、 キラキランッ………
っ!?
…………………
掌に見える光が徐々に鮮明となっていく、 それを腕へ、 肩へ、 視線をどんどん移して行く、 顔を上げて、 今度は、 冬夜を見た時………
ぇっ………
……全身を、 絶え間なく流れる光の軌跡が、 冬夜を覆っているのがくっきりと見える、 それは流れて、 今は手に向かって居るが、 これを知覚し、 意識的に動かせば、 手だけでなく、 きっとさっきのように目にも移せるのだろう………
……不意に、 冬夜の左目の当たりが、 冬夜を巡る光とは違う色の、 水色のエネルギーが見えた、 その輝きは、 目を凝らせば凝らすほど、 痛い程に、 眩しい……………
「愛美ちゃん」
っ!
冬夜の言葉に妙に驚いて顔を上げる
「その目で見ては行けない物もこの世界にはある、 眩しいと思ったら素直に、 直ぐに視線を下げた方が良い、 この子に敵意は無いけど、 逆に敵意を持つ上位の神の放つ光は人の目を潰す」
………………
冬夜は自分の手で左目の辺りに触れると、 光が畝って輝きが小さくなった様に感じた、 愛美は息を飲む……
「さて、 愛美ちゃん、 どうかな? 今度は目を閉じて深く深呼吸してみて、 今見えた物をイメージしながら……」
愛美は頷いて目を閉じる、 深く息を吸って、 吐くと、 何か、 瞼の裏の闇野中に、 通り過ぎる蛍の様な光の軌跡が見えた、 思わず闇の中で光を追って振り返ると………
っ…………
……そこには、 まるで以前、 ブラネタリウムで見た、 銀河系の様な煌めきが流転していた…………
……………
パチリっ
目を開ける………
「……見えた? それが君のエネルギーの回路だ、 さっきまでと違って、 体に熱のような感覚が巡って居る感覚が分かるよね?」
言う通りだ、 手を広げて閉じたり、 息を吸って吐く度に、 瞬きの闇の中で銀河系の様な光が廻る……
「……はい、 これがエネルギー…… このエネルギーがあれば、 冬夜さんみたいにお化け…… 妖魔を見たり、 戦ったり出来ますか?」
「一つだけ言っとくけど、 俺と同じ様には出来ないかな、 でもそれは、 言うなれば個性の問題で、 俺は単純に陰陽術と言う式に沿ってエネルギーを流して居るに過ぎないけど、 陰陽術が使えるのは第一に俺がその祖先だからだ、 だから全く同じようにななれないよ」
ただ……
「切っ掛けを見逃さない事だ、 もう一度自分を見つめた時、 きっと君にとって大切な物が、 君を守る力になる筈だ、 でも、 そのエネルギーが見えただけ大きな収穫だね、 これからは意識的にエネルギーを巡らせる練習をしておくといざと言う時に役立つから……」
……ああ、 そうか、 この光が………
…………
「ねぇっ! 冬夜お兄さんっ! 愛美ちゃんだけずるいっ! 私も魔法とか、 超能力とか使える様になりたい! 私にも教えてよぉ!」
雪の声に振り向くと、 冬夜の目が再び光った、 しかしさっきもそうだが、 愛美の目には見えるこの光はどうやら雪にはくっきりとは見えて居ない様だった……
「ごめんごめん、 別に仲間外れにした訳じゃ無いから、 じゃあ同じ様に、 雪ちゃんを見させて貰うね……」
冬夜の目が、 明山雪を写して…………
……………………
っ
………そこにあるのは、 ただ、 眩しい程の、 白…… 目が、 焼ける程の……………………
……ジジジジッ!!!
……………………………………………
……………
ッ、 ベシッ! ………………
……?
………冬夜は叩く程の勢で両目を塞いだ、 突然の事に愛美も雪も頭を傾げたが、 冬夜は乾いた様に笑った……
「……ははは、 そっか、 そうか…… 全く、 人に忠告しておいてこのザマじゃ本当に情けないね……」
「……え? 大丈夫? 冬夜お兄さん?」
冬夜は目を拭う様に裾で擦ると、 ぼやけた様な目でそれでも何とか笑った
「大丈夫、 少し力を使い過ぎただけだよ、 直ぐに良くなる…… それより、 今日はもう帰った方が良い、 暗くなるのがずっと早くなったからね」
?
「え? 雪の事は?」
「……ごめん、 また今度で良いかな、 それは」
………………
冬夜の様子に首を傾げながらも、 二人は素直に頷いた、 冬夜がソファーに手を掛けてフラフラと立ち上がる……
「……外まで送るよ」
………………………………………………
……………
ガタッ………
?
「……村宿くん大丈夫? ふらふらして無い? あの子達は帰ったのね、 お茶片付けちゃうね…… ねぇ、 本当に大丈夫………… えっ!?」
二人を見送った冬夜に話し掛けた事務員は思わず驚嘆の声を出す、 冬夜のワイシャツの裾が赤く滲んで居たからだ、 あれは明らかに血………
冬夜は手で制す
「大丈夫です、 片付けお願いします、 ちょっと自分タバコ休憩行ってきます……」
「えっ、 えぇ……………… え? 冬夜くんタバコ吸わないでしょ? …………え?」
………………………………………
………………
外に出ると併設されたベンチにふらふらと歩きドカり腰を下ろす、 赤い吸い殻入れから誰かの噎せそうなタバコの匂いがした………
っ……
……はぁ …………
「っ、 いってぇ…… 目が、 焼けるかと思った、 なんなんだあの子は……」
さっき、 明山雪を見た時に目に映ったのは、 冬夜の目で見えて、 にもが関わらず寧ろ見えなかった物、 眩しすぎで本質がまるで無い、 ただ中身の無い光……
本当に、 清められた神器の様だ、 穢れた物を祓う為だけに作られた、 髪の権能と言われたら納得できる程の………
……なんで ……………
(……あの子を知ろうとすればする程、 誰か知らない奴の事が過ぎる、 なんで、 あの白の中でも、 あのノイズは鳴ったんだ……………)
っ、 はぁ……………
冬夜は頭を抱えながら、 人が居ない事をいい事に、 暫く、 視力が回復してくるまで後味の悪い誰かの残り香を噛み締めるのだった




