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第三話…… 『裏庭の竹林』

ガンッ…… ガンッ……


……まただ ………


頭の中で音が鳴る、 心臓の鼓動の様な間隔で、 意識を深くへと沈める様に、 音が鳴る度に抵抗しても、 意識が暗い混沌へと引き摺られる


それで眠れるなら何も問題は無いのだか、 そうは行かない、 私はこれが酷く恐ろしく、 体が動かなくなるのだ、 所謂金縛りだろうか……


ガァンッ…… ガァンッ…………


……ギィッ、 ギィッ ………


音はその内に、 何処かで聴いた事のある階段の音に変わる、 この音は家の階段の踊り場が悲鳴を上げる音だ、 軋む時の音、 誰かが階段を登っている……


父か、 母か、 兄か………


誰でも無いと何かが言う、 この足音の正体は家族の物では無い、 何かは分からないがただ只管に思う


この足音の正体が、 部屋に入って来ては行けない、 万が一部屋に入ってきて、 ソレに触れられた時、 自分は、 死ぬのだ……


っ


ぅっ、 ぁっ、 っっ………


動くのは視線ばかり、 物凄い重力に体を押さえつけられ、 体はちっとも動かない……


ギィッ…………


っ、 っ!………


足音が、 近付いて居る、 部屋の前で止まる……


……ガチャッ ……


っ、 ゃっ、 こっ、 ぁっ、 ぁっ! ぁぁっ!!


………………………


っ


「きゃあああああっ!! っぅっ……………」


バサンッ!


はぁっ、 はぁっ…………


息が苦しい、 全身が熱い様な寒い様な、 震えが止まらない、 押さえつけられていた力が急に無くなり、 勢いのままに起き上がって、 訳も分からず悲鳴を上げた、 頭を抱える、 今のは、 今のは………


ギィッ……


っ


部屋の前で急に床が軋む、 足音が部屋の前で……


カチャッ………


ぅっ!


ドアが開かれる、 まずい、 部屋の中に……


……めてっ ……………


「きゃああっ! 来ないでっ! 入って来ないでっ!!」


っ


ボンッ!


近くにあった枕やクマのぬいぐるみ、 時計、 身近な物を勢いのままに扉の方へ投げ飛ばす、 恐怖に頭を抱える、 訳も分からず、 力も持たない子供は、 ただ声を荒らげて悲鳴の様な声を上げるだけ……


………………


「ちょっ、 愛美(あみ)っ、 物投げなっ、 危なっ、 この部屋電気どこだっけっ……」


ドスッ!


ぅっ………


「あっ、 いだァっ!? うおっ、 時計が脛に………」


………?


聞いた事の有る声に顔を上げると暗い部屋の中で扉の前で蹲る男、 その声……


「……お、 お父さん …… ぁっ、 ぇっ、 ぁっ………」


父がそれでも親指を立て笑って見せようとしているのが何とか見えた、 と思った時………


ドォンッ!!


っ!?


扉が大きく開かれて、 誰かが入ってくると扉の前の父をそのまま踏み付け、 大きく飛んだ……


「ウゲッ!?」


っ


「愛美ちゃんっ! 悲鳴が聞こえたけど大丈夫っ!?」


……………………


ぁっ


………流石に夢が冷めてきて、 現実が見えて来た、 母だ、 母が勝手の知っている様に、 枕元に手を伸ばし照明のリモコンを取ると、 チカッ、 眩しい程のLED電飾が部屋を照らした……


っ……


目を強く瞑った時、 空気が動いて体が優しい熱に包まれる、 大好きな匂いがする………


母が抱きしめてくれた………


怖さが薄らいで行く、 まるで訴える様に、 目元が熱くなると、 気が付けば私は泣き出して居た………


……その後の事はあんまり覚えてない、 特に何も聞かずに優しい熱は、 静かなペースで私を撫で、 知らない内に、 意識は沈んで行った、 しかし今度は、 あの音も、 金縛りも、 恐ろしい夢も無く、 ただ規則正しい眠りについたのだった…………


……………………………………………



………………………



……


はぁ………


深い溜息を着く、 昨晩の事はあまり覚えてない、 悪夢を見て悲鳴をあげて起きて、 母に抱かれながら泣いている内に眠ってしまった………


……うん、 嘘、 殆ど覚えている ………


ぁぁ…………


「はぁ…………………」


恥ずかしい……


今日は朝からそればかりだった、 まず目を覚ました所からだ、 自分は毎朝規則正しく眠り、 規則正しく起きるのだが、 今朝ばかりは寝坊をして、 自分を起こしに来たのは母から依頼された兄だった……


コンコン……


『……愛美~ 朝だよ、 愛美ぃ~ 朝だよっ!』


眠そうな、 高校生の兄に起こされ、 私は訳も分からず目を覚ます……


っ


『……勝手に部屋に入らないでよっ』



『……じゃあ入らせないでくれよ、 外から何度呼んでも起きないから、 はぁ~わわ、 寝みぃ、 愛美も寝不足?』


兄は高校生に入ると毎晩の様に友達とのゲームに明け暮れ、 平気で夜中の一時、 二時まで声がする程だ、 私は一緒にするなと言い返そうと思ったけど、 寝坊した事実がその言葉を飲み込ませた……


階段を一段降りる度に昨晩の事を思い出し、 羞恥心ですっかり昨晩の恐怖等忘れていた、 そもそも夢等、 たしかに怖かったけど、 だからなんたのだ……


来年には中学生になる歳に、 夢が怖くて悲鳴をあげて起き、 取り乱して物を投げ、 しまいに泣きついて母に寝かし付けられる何て………


っ…… はぁ…………


寧ろこの事実こそ最も泣きたくなる様な出来事だった、 リビングに向かう足取りすら顔が真っ赤になるほどで……


『……具合が悪いなら学校無理しない方がいいぞ ………って母さんが言ってた』


前を歩いてた兄がそれだけ言って先にリビングへその姿が消えていく、 廊下で一瞬止まった私は遅れてリビングに入る、 その朝は、 別にいつも通りだった、 父は既に家を出ているが、 母は特に昨日の事を聞かなかった…………………


………………………………………



………………


「……はぁぁ」



「また今日は特大の溜息じゃん、 どったの? 珍しい」


学校、 昨日同様机に着くと、 親友の景子(けいこ)が自分の前の席に座る、 前の席の男子は何処へやら居ないので授業が始まるまでは別に構わないが……


「うん、 何かね、 昨日すっごい悪夢見て、 いや悪夢って言うより、 あれが所謂、 金縛りって奴だと思うんだけど、 何にせよ全然眠れなかったの……」


悲鳴をあげて起きた事や、 泣いた事は言うつもりは無いが、 所詮は昨日見た夢の内容等、 こうして話題にしてこそだ


「ああ~ 私は経験無いけど、 お母さんはなった事有るって言ってたな、 でも眠れなかったって朝まで? 眠くないの?」


うっ…… 少し眠い………


「あはは、 大丈夫だよ、 授業中に眠っちゃう様な事は勿論、 絶対に無いから……」


タッタッ……


「それでも無理、 しないでね?」


こちらに歩いてきた八依(やちよ)が顔を覗き込んで言う


うん


「分かってるよ、 ありがとうやっちゃんっ、 でも大丈夫、 私、 今日楽しみなんだ、 今日こそ明山雪(あかやまゆき)ちゃんに話しかけるんだからっ」


夢見心地が悪かった事等どうでもいい、 昨日の下校、 去り際に八依に言われた言葉で愛美はすっかり覚悟を決めていた、 その為に、 明日にと備え、 きっちり早めに寝て、 早起きするつもりだったのだ……


その緊張感が裏目に出たのか、 実は本当に体調が悪いのか、 それは知らないが、 だとしても昨日、 あの帰り道の、 八依の目を見て、 愛美は勇気を貰ったのだ


だから…………


ダッ ダッ


「明山雪って言った? 隣クラスの?」


不意の声に顔を上げると、 愛美の前の席の男子が自分の席へと戻って来た様だ、 景子が笑って席から立つと、 男子はどっかりと座った


「……言ったけど、 なんで?」


男子はその問いかけに笑った


「あいつすげぇんだよっ!」


?


薮から棒と言うかなんと言うか、 すごい剣幕と言うか、 朝から元気と言うか…… 何にせよ前の席の男子はまるで好きな恐竜やカブトムシを自慢する様な圧と声量で続ける


「あいつ、 明山雪は超能力者なんだよ、 絶対!」


??? …………………?


訝しげな顔をしたと思う、 景子だって眉を顰めてた、 でもそんな事気にせず男子は笑う


「あいつよく俺たち男子に混ざって遊んでんだけどさ、 最初は気を使ったって言うか、 何か今までの調子が出なくてつまらないなって思ってたんだけどさ、 あいつ上手いんだよっ」


上手い?


「隠れ鬼やったらさ、 あいつが鬼側になると誰も叶わない、 皆直ぐに見つかるんだよ、 俺もさ、 俺しか知らない隠れ場所あって、 今まで隠れる側は負け無しだったけど、 なのに直ぐに見つかってさ」


………超能力、 か?


「他には?」



「他? ああ、 あるぜ、 ババ抜きでも負け無しだ、 手札が見えてんのかっ、 て思うほど、 あと占い? と言うか言い当て? かな、 が凄くて、 昨日何食べたとか、 誰と誰が付き合ってるとか、 何でか分かるんだよっ」


へぇ…… 話を聞く分には地味だが、 実際に目の前でされたら素直にすごいと思うかもしれない…… いや、 待て待て、 最後のは問題だろっ……


それにさっ…… 男子が続ける


「甘樹街の話もおもしれぇんだよっ! ほら、 あいつ惨劇以降の転校生じゃんっ、 偶にそん時の事話してくれんだけど、 やべぇんだよっ!!」


………男子は拳を握って声を張っていた、 熱狂している、 当事者達からしたら頭の痛くなる様な事だろうが、 日々退屈を嫌う者からしたら、 あれは格好の刺激だったと言われている……


「ねぇ、 あんまり面白おかしく言うのはやめなよ」



「はぁ? 別に良いじゃん、 終わったことなんだからっ」


咄嗟に声を出した愛美だったが、 男子は以外にも強気に噛み付いて来た、 男子の声が大きかった故、 既にクラス中がこのやり取りを聞いていたので、 皆無意識的思う、 これは、 喧嘩になるか……………


ぁっ


「ぁのっ…… ぇっと、 先生、 来たよ………」


小さく震えた声が聞こえた、 八依の声だ、 彼女は愛美や景子に対してはもうすっかり慣れたが、 他のクラスメイト、 特に彼の様な圧の強い男子とはまず話さない、 そんな彼女が扉の方を指さす……


ガラッ


扉が開くと先生が入ってきて手を叩く、 そこで緊張の糸が切れると、 席を立っていた子は自分の席に戻ったり、 話していた子が黒板の方に向き直ったりする、 景子も、 八依も席へ戻っていく様だった……


…………あれ?


(……今、 やっちゃん、 先生が入ってくる前に扉を指ささなかった? 廊下が見えて、 いや足音………)


「おい」


………?


思考の途中、 前の男子が顔だけ振り返ると小さく呟いた……


「明山雪と話ししたいなら昼休に中庭来いよ、 俺ら隠れ鬼するから」


昼休みに、 中庭………


…………


パンッ パンッ


「はいはい、 みんなこっち見てぇ」


先生の声に愛美や、 男子生徒、 クラスメイト達が引かれる様に前を見る、 その最中にも愛美は決意を決めていた


(……今日は別にお昼休みにすることはない、 お昼休みの外は暑いだろうな ………)


でも……


愛美は小さく頷く


(……行こう)


心の中で強く思うと、 愛美はようやく先生の朝の挨拶に耳を傾けるのだった……………


…………………………………



………………



……


お昼休みと言うのは、 つまり食休みなのだ、 ご飯を食べてゆっくりしたいだろう、 愛美だってお昼ご飯を食べて、 二人とゆっくり話をしながら過ごす


のだが……


(……忙しいっ、 男子達はもう中庭向かったみたい、 多分明山雪ちゃんももう中庭だ、 どうしてご飯を食べた後なのにあんなに動きが早いのっ)


愛美は早歩きで昇降口を目指し歩いていた、 給食と言うのは大体皆同じだけの量が配分されているが、 男子と女子では食べる速度が違う、 『ご馳走様』の時間は同じで、 愛美だって流石に時間を超える前には食べ終わるが、 男子はと言えば、 日々、 七分で食べたとか、 六分、 五分で食べ終わったと、 何故か早食いタイムを競い合っている


それに比べれば愛美はゆっくりで、 食後の一息を時間内に済ませ、 焦ったように食器すら片付け、 『ご馳走様』を今か今かと待つ男子に比べれば、 愛美はスタートダッシュがずっと遅いのだ……


……なんとしてでも、 この昼休みに話し掛ける、 その為に…………


………


「………あれ? 愛美ちゃん? 外に遊びに行くの? 珍しいね……」


っ


下駄箱からスニーカーを出した愛美の背中に声が掛かる、 声に振り向くとそこにいたのは八依だった


「あ、 やっちゃん、 うん、 ちょっと用事があってね……」


……何故だったのだろう、 この時の私は……


八依が小さく口を開く


「児童会の事? 何か手伝おうか?」



「ううん、 違うの、 全然大丈夫、 お昼休みが終わるまでには戻るからっ」


素直じゃなかった………


………


「……明山雪ちゃんに、 会いに行くの?」


っ……………


「一緒に行こうか?」


…………


愛美はチラリと壁に設置された時計を見て誤魔化すように笑う……


「あはは、 違うよ、 本当に大丈夫だから、 じゃあ私もう行くね」


カタンッ……


スニーカーが石のタイルを叩く、 つま先を蹴り当てて靴を履くと、 まだ視線を感じてもう一度振り返る……


…………っ


八依と目が合った……………


「……うん、 わかった、 熱中症に気をつけてね」


ぁっ……


「うん、 ありがとう、 行ってくるね」


カタン カタン………


愛美は昇降口を出て、 中庭へと向かっていく、 もう一度振り返る事はしなかったけど、 彼女の視線は、 愛美が見えなくなってからも暫く感じた気がした……


……………………………………



………………



……


あっ


「お~い、 田中くん、 来たよ」


愛美は中庭に着くと、 今朝愛美を誘ってくれた前の席の男子、 田中を見つけて手を振る、 どうやら彼一人の様だ、 彼はこちらを見つけると途端に怒った


「遅いよっ! 来ないかと思った…… もうじゃんけん終わったから、 早く隠れろよ」


え? いきなり……


「私、 隠れる側?」



「そだよ、 鬼は一人のルールの方が長く楽しめて面白いからな、 あと一分だから、 因みに俺が鬼ね」


えっ!?


「えっ、 えっ、 どうしよっ、 どこに隠れたら良い?」



「はぁ? それ鬼に言ったら意味無いじゃん、 範囲は学校の敷地内だったら何処でも良いから早く行けよ」


中庭だけじゃないのか、 学校の敷地全て、 と言っても校舎の中は無いだろうが、 結構広い………


でも…… 田中が呟く


「あっち、 明山雪はあっち側行ったよ」


それは中庭から西校舎をぐるりと回った向こう側、 裏庭の方を指していた、 理科室とか音楽室がある方だ……


「田中くん、 ありがと」



「……早く行けよ、 あと三十秒だからなっ」


うん


タッ タッ


愛美は小さく手を振ると小走りで裏庭に向けて走り出した…………


……………………………………



………………


裏庭、 愛美にとっては余り来ない所だ、 中庭と違って遊具があったりアクティビティがある訳ではない、 何があるかと言われれば、 ちょっとした竹林が有る、 広くは無いが立派な竹が生えて居るので何だか大きく感じる場所だ


何故こんな所に竹林があるかと言えば、 聞くに、 昔この辺は更に広い竹の群生地で、 学校云々よりずっと前の事だが、 この土地に暮らす人達は対して使い道のない竹林を開拓して行ったそう


この土地に学校を建てる頃、 当時の市長が、 それでも歴史ある竹林を少しでも残したいとして、 完全に伐採される事なく生き残った竹達を綺麗に育て直し、 子供達の教育や、 涼みの場として敷地に残したのだ……………


…………


竹林が見えてくると愛美は初め入るか迷った、 それは対して意味がある訳では無く強いて言えば、 単純に明山雪が何も竹林の中に隠れている訳では無い、 と思ったからだ


隠れ鬼は、 要は隠れんぼの進化系、 見つかっても逃げれば良い、 そう思えば竹林の中に入る事は良い選択とも言えるが、 だからと言って隠れるに適しているかと言われたら、 綺麗に整備された竹の感覚は広く、 木の幹と違って人の身は隠せない


これがあくまでも隠れんぼの進化派生だと思えば、 いきなりかけっこからは始まらない、 竹林は竹を障害物に旋回し走り続ければ鬼を翻弄し有利だろうが、 つまり言っても隠れる場所は無い、 地面にでも伏せればともするが、 まさか身を汚してまで、 そこまではしないだろう……


何にせよ、 明山雪は竹林の手前、 又は、 竹林を抜けて更に進むとプールが有るのだが、 そちらかもしれない、 しかし基本的にプールは授業以外では立ち入り禁止で鍵もかかっている、 そこを更に抜ければ昇降口の方へとぐるり戻ってしまうので、 裏をかくと言う心理を思っても竹林の手前かと思ったが……


はぁ……


「この辺には居なそう、 と言うか誰も居ないし、 田中くんは私に助言して方向がわかってるから…… いや別に捕まっても良いけど、 雪ちゃんは捕まらないらしいし、 捕まってから檻スペースで話す事は出来ないよね」


と思えばやはり、 隠れながら彼女を見つける事が必要……


「竹林、 入ろうか」


愛美は頷くと竹林へと足を進める、 裏庭は砂利で、 砂利同士が擦れてぶつかる奇妙な音を足裏で感じながら竹林へと足を進める………


ジャラッ………


?


……何かをスニーカーが踏む、 不意に足元に視線を落とすと、 そこには拳二つ分程の石が落ちていた、 横方向に縞模様の流れる何処にでも有る石だが、 不揃いの二、 三センチ程の庭砂利の中には大きく、 河原で見る玉砂利の様にまるで角が無い、 目を引く楕円の石だった……


しかし、 例えそうだとしても木を隠すなら森、 石を隠すなら砂利の中、 たまたま踏みつけたので目を向けたが、 愛美は一瞬首を傾げただけで、 そのまま薄暗い竹林の中へ身を吸い込まれて行く……


………


ふわっ……


何か、 風か、 匂いか…… 全く知らない感覚が身を包んだ……


…………………………



…………


ジャリッ ジャリッ


「へへへっ、 愛美の足は遅いからな、 余裕で追いついたぜ、 お、 愛美だ、 ふふん、 隠れる場所探し回ってるな、 どうしよっかな、 直ぐに捕まえたら可哀想かな~」


いや……


「俺達の鬼・ 隠れ鬼はそんな温いルールじゃない、 さっさと捕まえちまうか~」


鬼役、 愛美のクラスメイトの男子、 田中は、 素直に裏庭を目指して小走りする愛美を余裕しゃくしゃくと追い掛けて来た……


ん?


「竹林に入る事にしたみたいだな、 ふっふっふっ、 分かってないな~ 竹林は逃げ回るにしても走りづらいんだよ、 だが俺は毎日竹林の中を駆け回ってる、 足の遅い愛美じゃイチコロコースだ、 隠れ場だって意外と無いんだよなぁ~」


さてと、 捕まえてやりますかねぇ~


田中は、 正に今竹林を進んで行く愛美の背中を追い掛けて砂利道を音を立てて進んで行く………


ジャラッ! ………


?


ふと、 一瞬足元に、 普段ここをよく利用する田中だからこそ気がつく違和感、 砂利の中に……


「……ん? なんだこの丸い石、 こんな石いつも無い……」


反射的に手を伸ばし石に触れようと………


ジャッ!!


っ……


途端に激しい音を立てたかと思うと、 音に驚いて固く閉じた目、 もう一度目を開けると……


………


「……あれ? 石どこ行った? …………」


首を傾げながら本来の目的の為に顔を上げる……


「お? 愛美の姿が見えない…… どっかに隠れたか、 プールの方に回ったか………」


ジャリッ ジャリッ ………


あっ!


不意に視線の端に特徴的な雪の様な白が見える、 初めて彼女を見た時には思わず目を惹かれた、 何処か他の人とは違う雰囲気に、 新雪の如き、 白髪、 正に雪のようにふわり揺れる……


「明山雪っ、 発見っ!!」


様子を伺って居たのか、 彼女が何処かわざとらしく、 イタズラに口を開く


「ありゃ、 田中に見つかった! 捕まえてみなさいっ!」


少女があっという間に、 腰まである白髪を揺らして走っていく、 足が速い訳じゃ無いのに、 上手いと言うのは逃げ方も、 何時だって撒かれてしまう……


今日こそ……


田中は足に力を込める、 この日の為に買ってもらった…… 訳ではな無いが比較的新しいスポーツシューズに、 普段は一位二位を争う足の速さを乗せて


ドンッ!


「おら! 今日こそぜってぇ捕まえてやるっ!! 明山雪っ!!」


走り出した田中は、 ものの十数秒程であっという間に竹林からプールの方に抜ける道へと差し掛かる、 本当に小さな竹林なのだ……


やはり、 彼女は足が速くない、 彼女は竹林を同じルートでようやっと抜けて外に出たと言った地点だった、 しかし油断はしない、 本当に背中まで迫ってもくるり逃げられた事が有る………


…………


ザッ!


?


不意に、 少し先の、 竹林を抜けた雪色の少女が突然足に急ブレーキを掛けて止まり、 こちらを振り返った様だった、 首を傾げて見える………


なんだ……


この時田中は、 既に頭の中で愛美を泳がせる決断を決めていた、 明山雪を見つけた時、 かけっこ勝負の為に、 それを保留にし、 すっかり頭の端に追いやって居た…………


「随分余裕あるじゃねぇかっ!」


!


「………? ま、 気のせいだよね」


少女は小さく呟くと、 迫る田中をくるり旋回して回避して、 つかず離れず、 そのまま竹林から遠く駆けて行くのだった………


…………………………………………………



…………………



……


…………不思議な物だ、 竹林に入ると何処かひんやりと涼しいのだ、 抜ける風か、 生い茂った竹の葉が日を隠し木漏れ日すら疎らだ……


……ザザッ ザザァ……


っ……


葉が揺れてカサカサと擦れる音がして、 上を見れば……


……果たして、 ここの竹はこんなにも立派な物だったろうか? 長く大きくなった竹は定期的に切り倒し、 夏の流しそうめんのイベントに利用したり、 図工の授業で使用したり、 でも、 竹の樹齢? は知らないがここにあるのはもう長い歴史を持つ様に、 空に届く程高く太かった……


それに………


(……学校の竹林って、 こんなに広かったっけ?)


周りを見渡して、 乱雑に立つ竹の林は、 まるでその奥行きを感じさせない程に、 まだ竹林に入って小さな歩幅で十歩、 歩むかどうかと言う所だが、 既にこの一帯の異様な雰囲気に身は強ばっていた……


これはよく聞く、 閉所恐怖症や、 暗所恐怖症など、 自分にはそういった一面があり、 まるで密集した竹が迫って来るような、 薄暗闇が地を張って来る様な錯覚を覚えるのかもしれない……


ただの遊びだ、 何も無理して進む必要は無い、 鬼に捕まったとて何てことは無い、 目的は明山雪との会話なのだから……


だから、 引き返せば良い…………


ザッ…………


………


っ …………………………………


愛美は竹林の入口へと振り返って思わず息を飲んだ、 言葉が詰まって、 悲鳴すら音では無くただの呼吸の萎む様なか細い音が出ただけだった………


なっ………


なんで………………


「……ぇっ、 ぁっ、 入口はっ……… なっ……」


竹林へと入って来た入口、 正確には砂利道に土が被さり、 徐々に子供達が踏み固めた獣道へと変わる境界が………


無い……………………


振り返って、 更に見えるのは、 同じ、 果ての見えない程の竹林、 焦った様にぐるりと、 荒い息で周囲をくまなく振り返っても、 眼前には有るのは、 まるで、 自分が、 何処か全く知らない、 途方もない竹林の真ん中に突然立った様に


出口の微塵さも感じない、 そこに有るのはただ、 果ての無い竹林の中だった………………

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