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第二話…… 『日常に滲み入る異非の気配』

ねぇ、 最近さ………


「増えたよね~ こういうの」


?


二人の女子高生が公園のベンチに座っていた、 スマホを弄るボブカットの女子と、 飲むヨーグルトの空容器のストローを何時までも口で転がす髪の長い女子


ボブカット女子が、 隣の飲むヨー女子にスマホの画面を見せる、 首を傾げてスマホを覗き込むとそこにはSNSの画面に流れたこんなに投稿だった……


『《ササマル》 ……毎月恒例の廃墟探索にマジ物が写りました、 知り合いの神主に見せたら今すぐお祓いしろって! 今日の十八時頃詳細の動画を投稿します!』



『《検討診断》 ……今話題のゼロ体感ヨガに参加しようか検討してます。 体感無しでヨガの効果を得られる新感覚エクセらしいです!』



『《猛攻模糊模糊》 ……なんか友達から急に怖い話されて萎えた、 友達の友達の妹のお母さんの友達が経験した事らしいんだけど、 締め切った筈の窓や扉が気がつけば開いてるらしくて、 ここからが不思議何だけど、 それが絶対にきっかり五センチ開いてるら……しくて……』



『《愉快に天丼食うチヂミ》 ……なんかうちの会社変なルール有るらしくてキショい、 帰る時は会社にある全てのカレンダーを四月のページまで戻さなきゃならないらしい、 帰る時全部のカレンダーが四月になってるかの見回り当番だってあんだよ? ヤバくない?』


……………………


「……なにこれ?」



「心霊現象だよ! ポルターガイスト現象とか、 なんか心霊動画とか写真とか、 最近やたら増えて回って来るんだよ!」


へー


「……最近のSNSはそういうの見てると、 似たようなのをオススメしてくる機能着いてるから」


ぐっ……


「そういんじゃ無い! 絶対無い! 本当にこの世界にはそれはもう恐ろしい怪奇現象が有るんだよ! だってそうでしょ!」


ボブカット女子は勢いよくベンチから立ち上がると自信満々に腕を組んで、 ビシッと言い放つ


「二ヶ月前の甘樹街(あまたつまち)の惨劇で、 ファンタジーは証明されたじゃんっ!」


甘樹街の惨劇から正確にはもうすぐ三ヶ月…… 一つの小さな街が根こそぎ破壊されつくし機能を停止、 その周辺地域も至る所が破壊され、 特に藍木(あいき)と言う山と川に囲まれた小さな地域はその殆どが湖の下だ……


何やら奇妙な噂ばかりが蠢いて居るのは事実、 惨劇を経験した議員のおじさんが必死に訴えかけた、 『モンスター』等と呼ばれる化け物の存在、 藍木はその『モンスター』に山奥のダム施設を破壊されて決壊した水流に飲み込まれたらしい


実際航空写真で見ても、 周辺の山は大なり小なり、 まるで巨大地震でもあった後の様に崩れ、 『藍木山』と言う藍木地区の奥の山は岩盤が覗くほどに侵食され跡形も無くほぼ消えたそう……


死者数は計り知れない、 統合も出来ていない、 存在すら殆どの人には不明な『モンスター』に殺されたり怪我をした人の数は数万人に迫ると言われている


本当に急だった、 お茶の間の夕方のニュースを流し聞いていたら、 本当に急にキャスターが血相を変えて、 本当に意味が分からなかった、 でもその後、 ヘリコプターから見下ろした街だった物の痕跡を見て、 誰もが震えた、 恐怖に……


二ヶ月が経った頃、 今月の初め頃だ、 復興祭が開かれ大盛況となり、 人々は苦しみから、 それでも生き残った者たちは前を向き始めた、 しかし、 残酷な事だ、 まるで蚊帳の外の様な人達はこの異常事態に熱狂している


だから、 勝手な推測や噂話が今でも良く問題になっている、 『モンスター』に始まり、 神の怒り、 審判時だとか、 政府の陰謀や秘密結社の大規模テロだとか、 終いには、 幽霊や、 宇宙人、 異世界や剣と魔法のファンタジーだとか、 超能力だとか……


当事者達からしたら、 まるで後ろ髪引かれ、 怒りに頭を抱えたくなる様な噂話が平然と飛び交っている……


………………


「ねぇ、 私の親戚がその惨劇の被害者なの…… これは言ってなかったけど、 そんな風に面白おかしく話さないで欲しい………」


っ……


「……ごめん、 そうだったんだ …… 本当にごめん……」


二人の女子高生の間に微妙な空気が流れる、 ボブ女子が下を向くと、 流石に飲むヨー女子も少し罪悪感湧く……


「……まあ、 別にみんなそんな噂言ってるけどさ、 舞とは気まずくなりたくないから…… それで? どうして急にそんなのに興味持ったの?」


?


舞と呼ばれたボブ女子が首を傾げる


「いや、 だからさ、 舞ってそういうの全然興味無かったじゃん、 どっちかって言えば、 お化け何か居るわけないって笑ったり、 良くある占いのお店何かも馬鹿にしてたアンタが、 急に心霊現象とか」



「そだっけ?」


………?


「そうでしょ、 前は新作スイーツとか、 わんちゃんねこちゃんとか、 イケメンアイドルとか俳優とか、 そんなだったのに、 SNSがそれで埋まる程……」


…………………


タッ


「あぁ~ そうだったよね~ 忘れてたぁ~」


ボブ女子が一歩、 こちらに距離を詰めると、 ベンチに座るこちらの顔を見下ろす、 何処かその雰囲気には違和感があった


「なんか、 アンタ大丈夫? そういや最近ちょっと変じゃ無かった?」


飲むヨーのゴミをスクールバックに入れながら、 なんて無いように彼女に聞くと、 しかし不意に一瞬間が空く、 首を傾げながら舞を見ると、 彼女は下を向いていた……


……実は ……


急に彼女はそう切り出した……


「……家に出るの、 最近、 夜になると……」


?


「ゴキブリ?」



「……違う、 お化けが出るの …… 私、 怖くてっ、 それで調べまくってたのっ、 そしたらみんな似た様な変な事言っててっ、 これは本物だって、 気のせいじゃないって!」


!?


舞はボブカットを振り回して、 突然狂ったように声を張り上げた、 彼女が直ぐ前に立ち塞がるので中々立ち上がる訳にも行かず、 ベンチから驚きながらも舞に手を伸ばした……


「えっ、 本当に大丈夫? ねぇ、 舞……」


パシッ!


っ……………


舞が伸ばしたこちらの手を取る、 その力は少し強い様に感じた、 彼女の目にかかった前髪のせいか、 顔がぼやけて見えない……


舞の口が開く……


「……ねぇ、 咲季ちゃん、 今日家に泊まりに来てよ」


………え?


「えっ、 急に? いや、 それは……」



「……今日、 家に私一人なの …… でも普段も視えるのは私だけ、 私だけでみんな気のせいって言うの、 でも、 でもまだみんな居れば違う、 でも、 一人は流石に、 怖い、 耐えられない、 私一人じゃ耐えられないっ」


グッ!


舞が勢い良く顔を寄せる…… 気の所為だろうか、 その瞬間、 彼女から、 らしくない様な下品な、 唾を飲み込む様な音が聞こえた……


「ねぇっ、 お願いッ! 咲季ちゃんっ、 家来てっ! 家に来てよっ! 今晩っ! 泊まりに来てっ! 早くっ!」


っ!?


唾が飛ぶ程に狂った彼女が、 既に痛い程の力で掴んだ咲季の腕をやたらめったら振り、 まるで押さえつける様に、 勢いに、 背もたれに深く沈む咲季を上から追い詰める


「っ、 舞っ、 やめてっ、 アンタおかしいっ、 分かったっ、 って言うか、 なら舞が家に来なよっ、 アタシだってお化け屋敷と分かって行くのは怖いしっ、 意味無いでしょっ」


ググッ!


ダメっ…………


「ダメだよっ! 咲季…… 君っ、 君が来なくちゃダメなんだよォッ! 来てよ咲季ちゃっ…… 来いっ! お前の方がこの子より好みなんだよっ! アハハッ」


!?


咲季の声に混じって、 不気味な声がまるで壊れたラジカセの様にノイズの様に走る、 ここまで来ればわかる、 何か、 今自分は、 いや舞も、 何やらおかしい状況に巻き込まれているっ


不味い、 このまま押し込まれたら………


……誰か ……


「……誰かっ、 助けてっ!」


……咲季は気が付かない、 すっかり暮れてきた日、 さっきまで疎らだった公園には、 奇妙な程に、 まるで人払いがされた様に、 二人の姿以外無かった、 ここに、 人や、 助けが来るわけが無い……


だから、 更に、 力を込めた…………


………………………………



………


タッ タッ………


……足音がした、 静かな足音だったが、 何処か存在感があって、 何より、 同じリズムで、 この空間自体が揺れている様に見えた……


横目で見れば、 若い男だ、 こちらに向けて真っ直ぐに歩いてくる、 もう訳が分からない状況の中、 すぐ側まで来た彼が、 不意に屈んだ……


「……よっと、 そこの二人、 スマホを落としたよ?」


ニコリ、 愛想のいい笑顔をこちらに見せると彼は拾ったスマホをこちらに向ける、 さっきの、 舞のスマホだ、 いざこざに地面へと落ちていた、 それに釣られ、 舞もそちらを振り返る……


彼女はすぐにそれを受け取らない、 何かわからないが、 警戒する様な顔をして、 こちらを掴む力すら緩んだ……


「………なんで、 ここに …… いやっ、 お前っ」


急に焦った様な声が舞から出て、 一歩彼女が退く、 しかし男性は舞のスマホを片手で押さえつける様に強く握る


グッ!


「ぅっ、 動けっ………」


ふと気が付いた、 男性の手は、 奇妙に光を放っている、 それだけじゃない、 光る手はスマホと同時に何やらスマホから煙の様に立ち上る黒いモヤをキツく掴んでいて、 目を追えばそのモヤは舞へと続いていた


男性がそのまま一歩、 舞の方へと近付く、 その時彼の口が小さく動いた……


「……陰陽術 ……」


スッ……


男性が舞に、 不意に手を向ける、 自分はまだ動けなかったが、 最初友達に手を出されるのでは無いかと思い声が出掛けたが、 その手が、 正確には舞と、 おなじ地点にてもがく黒いモヤの塊に向かっていると気が付いて………


パシッ!


舞、 ではなく、 光る手はモヤを叩いた………


…………


ッ


『ッ、 イギャアアアアアアアッ!!!!!!』


っ!?


突然、 男性の持つ舞のスマホから悲鳴が響く、 知らない、 許容しずらい声の悲鳴だ


『ギィイイイッ!! 何でテメェッ、 現代に昔見てぇな力の人間がインぎゃああっ!! やってられねぇゲェッ!!』


更に何やら叫ぶと、 今度はモヤが酷く暴れ、 遂に拘束から放たれた様に、 スルンと、 スマホや舞から抜け出して空へと向かう、 何だかわからないが、 逃げ出したのか………


ッ


「ギャハハっ! 今の時代っ、 急に無意識に霊感を持った馬鹿どもが大量に居てよぉっ、 知らねぇ内にオレらを敷居に招いちまうのよォッ、 それに通信技術が俺達を最強にしたァ、 もうテメェらの知る人間様の平和な世の中は終わりだァっ!!」


ハハハッ


「平安の世の再来っ、 俺達妖魔の時代がようやっと来たんだ、 ダハハハハハハッ!!」


黒いモヤが空へと登りながら何やら吠える、 その内容はちっとも意味不明で理解できないが、 ただ、 私は、 そちらではなく、 やはり、 この奇妙な男性に惹かれて居た……


彼が手を空へと、 モヤへと向ける……


「……陰陽術・白日(はくじつ)に目(み)ゆ脆雫魂(もろなたましい)」


グッ!


「ウゲッ!? 動けっ……」



「掴んだ…… 豪語してた割に弱い力だな、 宵糸今尺(よいしこんじゃく)で縛り付ける必要も無い……」


何やら空中で止まったモヤに向けて彼が睨みあげ、 何やら言う…………


「マリー、 仕上げお願い」


ごぼっ………


空中、 モヤの傍で急に、 あれは何だろう、 丸く、 でも動いていて、 まるで、 水の塊……


キラキラ…………


水の塊が、 何やら鋭く輝く………


「……は~いっ、 死ね雑魚っ!!」


グリュンッ!! ベジャアアアンッ!!!


……声がした、 それだけ、 水が、 夕日に空かされた透明なそれが、 まるで刃の様に研ぎ澄まされたと思ったら、 モヤを思い切り貫いた……


ッ


「ウギャアアアアアッ!!!? 何でぇっ……」


……………………………


ふわっ


それだけ、 モヤは最後何か言い残して消えた、 それは聞こえなかったが、 明確に何か終わったと思ったらのは、 瞬きを一つした後だった………


………っ、 !?


辺りが、 暗くなっている……… さっきまで真っ赤だった空には、 すっかり向こう側に落ちた日と後を引いた様な余韻の様な薄暗闇……


カー カー


ブゥンッ………


キリリリッ


急に、 さっきまで止んで聞こえた虫や鳥の声、 そばの道路を走る車の音、 慣れ親しんだ街の音が耳を揺らした……


っ……………………


今、 何が、 起こって居たんだ…………


「……やぁ、 こんばんは、 スマホ落としたよ?」


その声は、 さっきまでの事が夢では無かった事を証明する様な男性の声だった、 咲季は声が出なかったが、 それに反応したのは舞だった


「あれっ!? いつの間に? あ、 ありがとうございますお兄さん、 ってかすっかり暗くなっちゃったねぇ」


その声はよく知る彼女の物だ、 狂って居たり、 変な声が混じっていたりはしない、 舞は笑顔でスマホを受け取るとベンチからバックを持ち上げる


「ねぇ咲季ちゃん、 そろそろ帰ろ」


えっ………


あっ……


え?


「あ、 えっと、 お兄さんありがとうございます? えっと、 え? さっきのは……」


そう言いかけて、 不意に男性は人差し指を口の前で立てる、 黙っていろと言うことか、 何故かこの時自分は素直にそれに従う事にして、 それ以上は何も言わなかった……


「それじゃあね、 夜道には気をつけて帰りなよ」



「え~ そういう忠告する人って逆に怪しいですよお兄さん~」


彼が爽やかに手を振る、 それに舞が何時もの調子の良い笑顔で答える、 彼は困った様に笑うと去っていった……


「私達も帰ろか」


舞の言葉に頷く……


ベンチから立ち上がり暗がりの道を歩く、 その間に彼女はスマホを付けると歩きスマホで画面を見だした、 眩しく照らされた舞の顔が浮かび上がる


「さっきのお兄さんイケメンだったね…… でも何時から居た? 急に現れたよね? それにぼーっとしてたらすっかり夜になってるし」


……ぅ、 ぅん ……


何と答えたら良いか分からなくて適当に濁す、 そうして暫く並んで歩くと、 急に彼女が足を止めた……


「おわっ、 まじかっ! ねぇ咲季ちゃんコレ見て!」


彼女に向けられた画面に少し目を細めると、 そこにはSNSの画面が映されていた、 それに少し肩を震わせる


「……また心霊現象? 私怖いの見たくないよ」


?


舞は咲季の言葉に間抜けに口を開けた


「は? 心霊? いやいやいや、 なに急に、 お化けなんかいる訳無いじゃんっ、 違うよ、 これ、 見て! 裕也が不倫されて離婚だって! 事務所が発表してるっ、 あははっ、 見たか、 何処の馬の骨とも分からん一般女性じゃなくて私を選んでたらこんな事にならなかったのにっ」


……そこには、 以前舞が好きだった俳優のゴシップに対する事務所の謝罪投稿が映されていた、 一般女性と結婚したがその女性が不倫をして離婚する事になったそうだ


はぁ……………


画面を見て鼻を鳴らす彼女は、 何処からどう見てもよく知る舞だった……


「……いや、 あんたも充分何処の馬の骨知らん一般女性だから、 しかもあっちは十年来の仲だったでしょ」



「そんな事関係ない、 だって見てよ、 私のこの綺麗に整えたボブカットを、 裕也はボブカット女子が好きなのよ?」


いや、 だからさ………


「その情報発覚したのは、 結婚した人がボブカットだったからであって、 あんたも結婚会見見てボブにしたじゃん、 あと、 跳ねてるよ」


えっ


咲季の言葉に舞は街灯のしたでスマホの画面を消すと、 漆黒の液晶を鏡代わりに顔を見る


「うわっ、 何でこんなにっ……」


手櫛を掛ける彼女の姿に肩を落とす、 やはり彼女はよく知る彼女だ、 いや彼女に戻ったのだ……


はぁ……


「舞、 今日家族誰も居ないんでしょ? 家泊まり来る?」



「え? ……あっ! そうだっ、 そうなの、 誰も居ない…… その話したっけ?」


咲季は頷く


「してたよ、 良かったら来なよ」



「いいのっ? やったぁ、 恋バナしよ、 コンビニでお菓子っ、 お菓子買ってこ!」


はぁ……


そんな彼女の後ろ姿に何度目かの溜息を着くと、 急に走り出す舞を追いかけ、 咲季もその背に向けて走り出すのだった………


………………………………………………



………………………



………


男が一人、 薄暗い街の路地を歩いている、 先程公園で、 二人の女子高生にスマホを拾った男だ


「……はぁ、 やっぱり、 確実に増えてるな」


男の独り言かに思われた、 しかし、 不思議な事が起こる、 彼の声に反応する様に、 一歩通りかかった街灯の光が彼の瞳から涙が零れるのを反射させる、 その涙は頬を流れると、 何と逆に坂巻いてふわふわと男性の隣に浮かんだ


その水の塊が僅かに震える……


「そうだね、 さっきの雑魚妖怪が言ってたみたいに、 ここ数ヶ月で確実に増えてるよ」


水の塊は形を変えると、 まるで小さな妖精の様な形になった、 『神秘体』とそれらを知る者は言う、 嘗て人々が呼んだ、 八百万の神、 その一柱、 今はダムの水に没した男性の故郷、 藍木の地に暮らす水の神様だった


そんな水の少女と共に行動を共にするのがこの男だ、 彼の名前は村宿冬夜(むらやどとうや)、 藍木の故郷に生きた何処にでもいる一人の青年だった、 しかしそんな彼を水の少女との出会いが変える


彼は特殊な家の生まれだ、 彼は、 『陰陽師』と呼ばれる嘗て妖魔を祓ったとも伝えられる者たちの遠い子孫であり、 現代にその才能を認められた者だ、 彼の親戚がプロの霊媒師をやっていてその人も本物である


なんにせよ、親戚の胡散臭いが確実に実力を持つプロの凄腕霊媒師も言っていた事だ……


「甘樹街の惨劇、 急に終わったあの騒動からもう少しで三ヶ月か…… きっかけは間違いなくアレだったよ、 惨劇から確実に、 この世界には爪痕が残された」


変化している、 惨劇以前のよく知る世界から確実に、 別の知らない物へと変化し始めている……


「霊や、 妖怪、 妖魔、 そんな誰もが子供の頃に恐れ、 大人になる頃には忘れる存在達が、 甘樹街の惨劇と言う非日常にその存在を肯定されてしまった、 心の底で、 それでもいる訳が無い、 ファンタジーだ、 そう否定されて来た者達が、 存在を半ば許される時代、 まさに平安の世の再来か……」



「うん、 さっきの子達もそう、 一人は妖魔に取り憑かれていた、 しかもあれはスマートフォン、 インターネットを経由してる、 《噂》と言う形を取って……」


噂は伝わりやすい、 特に現代はSNS等のネットに乗り拡散される、 多くの人が共有する


「甘樹街の惨劇以降、 霊感を持つ人が急激に増えた、 一番の問題はそれが無意識的な事だ、 平安の世の再来と言ったけど、 実際に平安の世は知らないけどさ、 人の心は確実に大きく変わってる」


平和な国と呼ばれ、 平和ボケとも呼ばれる現代人、 人を警戒したり、 敵対意識を持ったり、 そう言う心が無くなった訳では無いけど、 実際に戦乱から遠く、 人の心には和みが有る、 それは同時に緩さを産む


「敷居を下げてしまう、 よく霊は招かれ無くては敷居を股げないと言うけど、 今を生きる人達は昔を生きた人よりずっとそれが低いんだ、 特に霊や妖怪なんて、 とても居ると思ってもみない者達に対しては、 よりずっとね、 その上、 奴らに対する免疫も無い」


その上で、 誰もが見るSNS、 共感は心の同調、 その不確定情報の大きな黒い穴に潜むソレらに誰も気が付けない、 情報と共にそれらを招く、 無意識的に受け入れる……


冬夜の言葉に水の少女は頷く


「でも、 さっきの奴もそうだったけど、 個体は強くない、 噂と言う不確定要素に適応する為に実態の殆どを捨て確実に弱くなってる、 強さだけなら昔とは比べられないけど…… 対応出来るの人が少ないから、 数が増えるのは、 ねぇ?」


冬夜も頷いた


「ここ一ヶ月でこんな事はもう八度目だ、 叔父さん達の組織連も本腰を入れて対応するらしいけど、 とても手が回ってない、 俺は本業で忙しいから何もその仕事を手伝ってる訳じゃ無いけど」


その辺を歩いているだけで、 今月もう八度目……


「……でも本当に怖いのは、 もう一人の子、 だよね?」


水の少女の言葉に冬夜は頷く


「霊感ってのは別に普通に誰でも少しは持つ感覚、 危機感の一種だから、 噂の霊達はさっきの取り憑かれてた子みたいに、 自分の存在を知らせないように潜伏せざる負えない、 実際取り憑かれてた子は多分、 今までも、 さっきの事も全く実感が無く覚えてない」


でも


「もう一人の子は違った、 あの子は確かに襲われた側だったけど、 何も知らないまま、 分からないまま襲われる人も居る、 それとは違ってあの子には完全に視えていた、 《噂》の霊も、 俺の陰陽術も、 さっきの記憶も、 取り憑かれてた子と違って残ってる」


そこにどれだけの違いがあるのか、 例えるなら、 無意識に襲われるのは対岸の火事、 対岸からの火の粉が飛んで来る、 最悪火事になるかもしれない、 でもその確率は低く、 例え火事になっても小さな物だ


実際に多分、 噂の霊が取り付いたボブの子にあのまま取り憑いて居たとしても、 出来たのは本の小さな事だ、 虫が家に入っても見えなければ居ないのと同じ、 時間を掛けたり、 何か儀式的な段階を踏めばその人を取り殺す事ぐらいは可能だろう


だが、 力を付けようにも非効率だ、 所詮は噂等の情報体、 死体を操る力は無く、 肉体には生物的に生きて居て貰わなくてはならない、 所詮は寄生虫か、 くっつき虫か、 なんにせよ取り憑いてると言う状態こそ、 今の奴らの強みであるからこそ、 取り殺す事はほぼ無い


取り殺す時、 又は新たな肉体に移る機会と言うのはまさに、 もう一人の子の様な、 視認が出来る人を見つけた時だ、 新たな宿主に『噂』としてでは無く、 力の適正を持つ肉体を手に入れる事でより効果的にその力を増大できる


しっかりと視認が出来る人と言うのは実際に多くは無いが、 例えて言うなら冬夜と同じ、 大なり小なり何か力の可能性、 コチラの才能がある者達で、 ココ最近その人達が増えた様に感じるのはやはり、 甘樹街の惨劇による騒動が心理的ストレスとして危機感を与え、 無意識的な覚醒を促してしまった故、 全ては無意識故の危機だ


「さっきみたいに、 奴らは取り付く際大きく行動を起こす、 あからさまだから俺だって気付けるけど、 俺だって視野が広い訳じゃない、 視えてしまう現代人は知らない内に奴らを内に招き、 全く抵抗力を持たない、 いや知らない…… やっぱり平安時代は知らないけど、 今の方がずっと恐ろしいと思うよ」


冬夜はそう話した所で自分が暮らすアパートが見えてくる、 鍵を取り出しながら一言溜息と共に呟く……


「……でも、 ひと仕事終えての退勤中に妖魔の対処はやめて欲しいかな、 疲れてるんだよこっちは、 はぁ…… 陰陽術は疲労するんだからさ……」


ふふっ


「お疲れ様、 冬夜、 おかえりっ」


水の少女が先にふわり、 アパートの部屋に入ると、 振り向いてコチラに笑いかけた


「ただいま、 マリー、 マリーにそう言って貰えるだけで、 どんな心労もほぐれるよ」


続いて冬夜も部屋に入ると内で鍵を閉めた、 陰陽師の祖先である彼と、 相容れない存在である水の少女マリー、 かの世界を震撼させた惨劇を最前で経験し、 多くの事が変わってしまった様に思っても、 それでも二人は、 ここに帰ってくる


そして帰って来れば、 誰もと同じ様に、 愛し合った二人は窓から零れる電飾の灯りが消えるまで、 団欒に心を癒すのだった。

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