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第十二話…… 『お誘い』

……ちらり ……


横目で見れば、 相変わらず彼女、 新椥八依(にいなぎやちよ)は壁を向いて居る、 授業中も度々見ていたが淡々と、 偶に思い出した様にノートを取るばかりで先生の話はろくすっぽ聞いては居なそうだった、 何時もなら彼女はこの上なく真面目な印象があった………


やはり、 酷く傷付いたのだろう……


はぁ……


(……私のせいだよね、 昨日、 もしかして私、 やっちゃんの事無視したりしちゃったのかな……)


佐々木景子(ささきけいこ)の話によれば、 八依は昨日の朝から様子がおかしかったそうだが、 やはり時間を置くごとに顔は暗くなったと言う、 それもこれも、 自分勝手な私が隣のクラスの彼女、 明山雪(あかやまゆき)の元へ入り浸って、 景子や八依とのいつものコミュニケーションを蔑ろにしたからだ……


その過程で、 もしかしたら八依の事を無視したり、 後回しにしたりしたのかも……


もうすぐ三ヶ月になろうとする『甘樹街(あまたつまち)の惨劇』と呼ばれたかの事件にて、 突然故郷を追われ、 慣れない土地で彼女にとっても、 はや数ヶ月経とうと言う中で、 ただでさえ硝子の様に繊細な心が悲鳴をあげているだろう彼女の、 少しでも日常の支えになればと常から思って居たのにこの始末……


(……私は、 友達も、 自動会長も、 失格だ……)


カキカキカキ…… タンタンッ、 カキカキカキ……


……先生の声だけがやけに響く教室、 外は曇り空で、 特別季節外れな残暑も引いていて、 今日は季節を感じる様な秋の冷たさを感じる風が吹いている……


教室は朝から蛍光灯の光に煌々と照らされており、 曇り空の為殊更眩しい程に感じた、 照らされた白紙のノートに、 黒板の内容をカタカタンと、 鉛筆を叩いては消しゴムを擦るクラスメイト……


その中で、 八依だけ、 どうしても影が差した様に暗く見えた………


グッ……


愛美は鉛筆を強く握る……


(……授業が終わったら、 次は理科室に移動だ、 いつも通り、 やっちゃんに声を掛けて、 景ちゃんと三人で理科室に向かおう)


もしかしたら、 昨日の愛美の行いが、 彼女との心に大きな溝を作ってしまったのかもしれない、 その溝は簡単には埋められなくて、 不透明な未来にも深く、 刻まれて、 続いているのかもしれない……


でも、 対岸のあの子に手を振ろう、 聞こえなくても喉が枯れるほど名前を呼ぼう、 こっちからどれだけ手を伸ばしても、 向こう側に伝わらなくては、 向こう側からも手を伸ばして貰わなくては届かない


気付いて貰えるまで、 やめちゃダメだ、 勝手に諦めるなんてもってのほかだ……


……例えこれが、 そう在るべくして存在するシナリオだったとしても、 歴史の授業で習うように、 理に抗ってこそ、 人間(わたしたち)なんだから………


…………………


カタンッ! ………………


…………


キーンコーンカーンコーン………………


……………


授業の終わりを告げる鐘が鳴る、 先生が言葉を纏めると、 教科の係が起立を促して、 お決まりの挨拶をして一時限が終わる……


ゾロゾロと立ち上がるクラスメイトは、 フットワークが軽い様に、 次々と仲の良い友達の元へ向かう、 男子何かは、 十分しか無い上、 次は移動教室だと言うのに、 集まって廊下に出れば、 最近男子の中で流行りの跳ね起きを出来た出来ないと盛り上がっていた……


……愛美も何処かソワソワとした気持ちのまま次の、 理科の準備をし、 ファイルや教科書を胸に抱えると、 未だ前時限の教科書やノートを開いたまま壁を向く八依の元へとごく自然に向かう……


ふぅ……


「……ねぇやっちゃん、 次移動教室だよ、 理科室、 一緒に行こ?」


……………


ガラッ…… ザッザッ、 グシャシャッ………


……こちらを見ないで、 まるで今目覚めた様に、 机の上の教科書やノートを強引に引き出しに押し込むと、 代わりに理科の教科書やファイルを引き出した……


ガタッ! ………


「………私、 先行ってるね……………」


ぇっ……


……ガタンッ! ……………………………


……ふらふらと、 足取りが覚束無い様に、 教科書やファイル、 パステルのかわいいポーチ型の筆箱を抱えて、 一度、 開かれたドアに勢いよくぶつかると、 そのままふらふら廊下へ歩いて行ってしまった……


……………


唖然と立ち尽くす愛美は、 余りにも八依の態度が冷たいので、 思わず息が震えて、 目の下の辺りに熱を感じる程……


っ……


唇を結んで首を横に振る…… まだまだ、 別に八依は無視した訳じゃない、 ただ一人になりたいだけなのかもしれない…… こちらが手を振る事を止めれば、 対岸の彼女は気が付けない……


(……私は大丈夫、 理科室に行こう……)


ザッ……


……愛美も理科室に向かおうとした時だった ……


「……ねぇねぇ藤里さん」


……?


聞きなれない声に名前を呼ばれ、 声のした方、 廊下を見れば、 隣のクラス、 雪と同じクラスメイトの女子が珍しくこちらに手を振っていた、 愛美は首を傾げて廊下に出た……


えっと……


「……椛橋(もみじはし)さん、 どうかした?」


隣のクラスの女子、 椛橋は少しだけ躊躇いがちに口を開いた……


「あのさ、 藤里さんは、 昨日の夜に、 うちの明山さんが行方不明になったって話、 先生から聴いた?」


えっ………


思いもしない会話の内容は、 伴う様に思いもしなかった物だった、 今朝、 朝の会で確かに、 担任の花田から、 隣のクラスの明山雪が昨晩、 突然家を出て行方不明になったと聞かされていた


……正直愛美は、 とても非情な様だが何かを思う事が出来ずに居た、 昨日はあんなに仲良くした彼女、 今日だって暇を見て話をしようと思っていた雪だったが、 突然その子が行方不明になったと言われても、 困惑するばかりで、 その後にどんな感情も続かなかった


まだ状況が全くわからない、 勘違いかもしれない、 当然の様に昨日見た、 真新しい集合の仮設住宅の自室で休んで居るだけ、 その姿が思い浮かぶ程現実感が無い中で、 悲しむのは早すぎるし、 しかしそれ以外の感情は無かった……


なんにせよ……


「……それがどうしたの? 確かに今朝、 先生から聞いたけど……」


椛橋は頷いた


「……その時さ、 花田先生は何か変なこと言ったりした? ……例えば、 新椥さんの事についてだったりとか……」


新椥さん…… 八依の事だ…………


「……やっちゃんが、 何?」


椛橋が引き攣った様に笑う……


「あはは…… ごめんごめん、 変な言い方に聞こえたよね? ……でもね聞いてよ、 何も言わなかったのなら変だよってさ…… だって私昨日見たのよ……」


聞けば椛橋は家が仮設住宅エリアのすぐ向かいだと言う、 仮設住宅エリアは田んぼを潰して作られたので、 昔から有る家とは道を挟んで向かいの所も有る、 かくいう椛橋の家もその辺なのだそうだ……


「……昨日の放課後、 藤里さんも珍しく家の傍来てたでしょ? 私驚いたよ、 珍しいって…… でも明山さんと一緒だったから納得した、 何か凄く仲良くなったんでしょ? 流石自動会長だね~ 昨日もウチのクラス入り浸って……」


でね?


「本題はここからでね、 家からは明山家がよく見えるのだけど、 昨日の晩…… 新椥さん、 明山家を尋ねて居るの、 夜よ? 夕飯のずっとあとの時間、 早い子は寝るような時間に、 新椥さんたらふらっと、 家だって近く無いわよね? 藤里さん家の方よね? 新椥さんも…… でねでね……」


椛橋は底を這う虫の様な、 気分の悪い、 いや、 本人からしたら心底気分の良さそうな声で続ける……


「ふはっ、 でね? その後に消えた…… 居なくなったんだよ? つまり私はこう言いたいの…… 明山さん失踪の鍵は、 新椥さんが握ってるんじゃ無いかって…… そう言えば、 今朝も新椥さん来るなり職員室に呼ばれたんでしょ?」


これってさ………


「な~んか、 怪しいよね? 新椥さん…… 元々人見知りで暗いから、 何考えてるか分からないって皆言ってるけどさ? もしかしたら、 何か怖~い秘密が有るのかも?」


………………


愛美は、 心の底から、 本当に笑えなかった、 彼女、 椛橋は今、 友達の悪口を言っていると、 愛美にだって分かる……


ふぅ……


……悪意を持って、 何か害を成そうとする人から溢れる光の粒子は、 濁った灰暗い、 黒煙の様な色に変色して吐き出される、 愛美の目には、 彼女が笑う度にソレがボロボロと質量がある様に転がり落ちるのが見える……


息を吐くと、 愛美は正面からブレる事なく椛橋を見据える……


「……ねぇ椛橋さん、 少し気になったんだけど、 椛橋さんは何時でもご近所や雪ちゃんの家をそうやって、 伺っているの?」


っ……


椛橋のにやけ顔が固まる……


ははは……


「ちょ、 ちょっと、 覗き魔みたいな言い方しないでよ、 ただ、 私の部屋は大きな窓の方がそっちを向いてるの、 向かいの家の玄関灯がいきなりついたりすると、 意外と気になるのっ、 それだけっ」


……そうだろうか? 道を挟んで向こう側のお宅の玄関の光が漏れようと、 カーテンを引いて、 内から照明が着いていれば大概外の事など伺えない物だと思うが、 やはり、 そんな事がいちいち細かく見えるのは、 何より細かく見ている事の証明では無いのか?


「……そうなんだ、 それで? もしかして椛橋さんは、 やっちゃんが、 雪ちゃんを誘拐したって言いたいんだ?」



「……っ、 誘拐って、 そこまでは言ってないじゃん……」


じゃあ………


「つまりどうゆう事? そうじゃ無いなら、 態々、 やっちゃんと仲良くしてる私の所にやって来て、 そんな変なことを言って、 私を不安にさせたいの? 私が不安になると、 椛橋さんにとって何かいい事でも有るの? ねぇ?」


っ…………………


はははっ…………………


「ちっ…… あぁ~ あ、 もういいよ藤里さん…… 私はただ忠告に来てあげただけだよ、 ただでさえこの学校内じゃ人の前に立つ側なんだから、 聞こえの悪くならない様にね…… でもそういう言い方するならもう良いよっ」


ふんっ……………


……椛橋は鼻を鳴らして自分の教室の方へと戻って行く、 それから目を逸らして愛美は通路を逆方向、 理科室の方へ足を向ける……


………


たっ………


「っ、 ちょっ、 ちょっと愛美ちゃ~ん、 私を置いてかないでよ~ 一緒に行こうよ」


?


声に振り返れば…… 景子だ、 彼女はハンカチで手を拭って廊下の奥の方から走って向かって来る、 花を詰んできたのだろう、 彼女は一度教室に入って自分の机を漁ると同じ、 理科の教材と筆箱を持ってこちらに来た……


「ごめんごめん、 待たせて…… あれ? そう言えばやっちゃんは?」


………


「……先に行くって ……」



「あぁ、 あぁ…… 私が遅かった?」


愛美は首を横に振る……


「ううん、 声を掛けたんだけど、 なんか…… 一人になりたいのかな……」



「………うん、 どうしたんだろうね…… 悩んでるなら、 話してくれたら良いのにね?」


流石に……


「あの落ち込み様は、 ただ愛美ちゃんが昨日素っ気なかっただけだとは私はもう思ってないよ? 愛美ちゃんまで暗い顔しないっ、 ……帰ってきた時にそこが暗かったら寂しいでしょ?」


景子の声に愛美は頷く、 独りじゃないと言うのはどれほど心が強くなるのだ、 二人でも単純な倍では無い、 もっと、 ずっと強くなる……


理科室に向かう為に、 別の棟へと足を向ける、 はしゃいだ声がすれば、 男子たちが愛美と景子を抜かして、 理科室へと走っていく………


………


「……愛美ちゃん、 さっき立花(りつか)ちゃんと話ししてた? 珍しいね」


愛美は少し考えて、 立花と言うのが、 先程の椛橋の名前だと思い至る、 椛橋立花(もみじはしりつか)、 確かにそんな名前だったが……


「うん、 急に話しかけられて…… なんか、 雪ちゃん…… 明山雪ちゃんの家のすぐ側にお家があって…… ほらっ ……心配、 してたのかな………」


ふぅん……


愛美の言葉に景子は小さく頷いた……


「なんか変な事言われ無かった?」


……えっ?


ぁっ………………


「……いや、 ぁぁ…… 別に………」


………………


景子は少しだけ間を置いた……


「……やっぱり、 やっちゃんは凄いな、 あの子には愛美ちゃんが隠そうとする物がちゃんと見えてた……」



「……………え?」


小さい声だった、 景子は首を横に振ると先程の質問に話を続けた……


「椛橋さん、 噂話が好きらしいんだよね…… まあさ、 誰だって大なり小なり好きな物だと思うけどさ、 どっちかって言うと、 椛橋さんは、 話題の中心になりたくて仕方ない子なの」


話題の中心?


「そうそう、 あのね、 私はさ、 結構色んなクラスの子と仲良い思うんだよね、 クラス替えでクラスメイトは変わっちゃうけど、 それだけで疎遠になったら寂しい気がしない? だから極力、 クラス変わった子でも、 仲良くしてた子とは関係を維持したいんだ…… 私って寂しんぼなのかも……」


あはは…… 乾いた笑いが廊下に溶ける


「でさ、 色んな子と話してると、 どうしても流行の話題とか、 流れ? って言うのが見えてくるの、 いい噂から、 悪い噂までね…… 私いつも、 皆にそれとなく聞くの、 その噂誰から聞いたの? って…… 大抵、 尾鰭を追うと、 行き着くのは椛橋さん」


それって……


「椛橋さんは、 刑事ドラマの記者みたいに、 話題を求めて色んな人の事を探ってて、 信ぴょう性が増すと噂を流す…… ってこれも悪い噂なんだけど、 実際それで学校不登校になった子も居るって、 まあこれも噂だけど…… ちょっと、 気を付けて欲しいって言うか……」


……景子は優しい、 多分、 児童会長としても、 愛美の性分としても、 噂や、 人を悪く言うのは好きじゃない事を知っている、 人の噂を語る事は良かれ悪かれ、 陰口を言うという事、 きっと景子自身好きじゃない事だ……


それを分かった上で、 こうして、 愛美に忠告している、 どう思われるか理解した上で、 それでもこう言ってくれてるんだ…… それが、 今は目に見えて分かる、 彼女から発せられる光は、 綿毛の様にふわふわと、 木漏れ日の様に柔らかく…… 今は、 少しだけ緊張した様に震えている……


うん………


「……ありがとう、 景ちゃん…… でも本当に大丈夫だよ、 これは嘘や誤魔化しじゃなくて、 今、 私は私を信じてる、 ううん、 私の力を信じたい、 力の限り足掻いてみたいとそう思うの……」


…………


「……愛美ちゃん?」


ふふっ


「それに、 景ちゃんも、 やっちゃんも、 皆居る、 もう踏み出す事を躊躇う私では居たくない、 私が自信を持って皆の隣に居れる様に……」


カタンッ……


愛美の歩みが景子より前に出る、 そして自然な弧を描いて振り返ると、 景子と目が合う、 その目が揺れている……


「……それに、 だからこそ…… 私が本当に困った時は、 私を、 いつもみたいに助けてくれるよね? 景ちゃんっ……」


っ………


はは…………


「……本当に見えないな ……見えそうで見えないのが一番困るんだけどな…… 気になって仕方ないよ……」


?


うん……


景子が頷いた……


「もちのろんっ、 全く愛美ちゃんは仕方ないから、 私が力になってあげるよっ、 早速お助けが必要そうだしね~」


……ぅん?


景子が通路から中庭に見える時計塔を指さす、 愛美が見た時一つ針が重苦しく動いた……


「気付いて無い? あと一分で授業始まるよ、 走らなきゃ遅刻だっ」


…………えっ!?


愛美はもう一度時計を見ると急かす様な秒針が確かに、 授業開始時間を追い上げる様にせっせと走っている………


……カタンッ!


景子の足が愛美を追い抜いて前に、 走り出す……


「早く行こう愛美ちゃんっ!」


っ


「待っ、 ああっ、 のんびりし過ぎたっ~」


棟を繋ぐ廊下を愛美と景子の二人は肩を揺らして走る、 足音が廊下に反響し、 上履きのグリップが高い音を立てて、 学び舎に新たな青春の足跡を刻んだ、 今はただ、 その一瞬一瞬が、 薄暗い不安感の中でも確かに光って見えた……………


…………………………………………



…………………………



……


愛美はリビングでぼーっと夕方のニュース番組を見ていた、 昨晩の街の方での騒動で、 新たに、 ビルの屋上に大きな破壊痕が残っていたり、 今朝には見れなかった新しいカメラ映像が公開されたりと、 調査の進展が報告されるも、 たったの数分で次のコーナーへ、 キャスターの声質が明るい物に変わると始まったのは動物の話題だった…………


……結局今日は、 ずっと八依に避けられていた…… 打てども響かず…… とは言った物で、 休み時間の度に話し掛けては、 彼女は目も合わせないで慌ててそっぽを向いたり、 席を立ってしまった……


帰り道こそ一緒に帰ったが、 会話には混ざらず、 愛美と景子の前に出れば置いていかれる程に早歩きで、 逆に後ろにつけば、 気付くと遠く置いていかれる様な遅い歩みになった……


距離を取られている…… そこに寂しさは有るけど、 実は懐かしさも感じていた、 それは八依が転校して来て直ぐ、 まだ周囲に馴染めず、 今の様に周りを伺って小さくなっていた頃の事だ……


最初は話し掛けても目を逸らされたし、 逃げるように離れてしまう事もあった、 他のクラスメイトはそれが気に食わないのか直ぐに八依から距離を取るようで、 彼女はますます孤独に見えた……


それでも愛美が諦めずに話し掛け続けたのは、 多分、 自動会長の肩書きを利用出来たからだ、 愛美だって周りから浮くのは怖い、 どれだけ孤独な彼女の事が気になっても、 自動会長と言う肩書きに守られ無ければ、 共に周囲からの鋭い目を浴びる事に耐えられなかった筈だ……


どれだけいい子ぶって、 正しいと思える考えを頭に持とうと、 言葉や行動として三次元化し無ければただの妄想に過ぎない、 児童会長として掲げる公約の装備を纏うことで、 周囲から、 児童会長だから話し掛けているのだと、 思われ無ければきっと無理だった……


……なんにせよ、 そんな事を執拗いくらい、 何度も何度も続けると、 少しづつ、 同じ方向の帰り道を並んで歩いたり、 彼女は何も言わなくても、 休み時間は一緒に居たりと、 徐々に心を開いてくれる感覚が、 とても嬉しく感じた……


……今でこそ、 景子と合わせて何時もの三人として過ごして居るが、 それは転校してきてからひと月目には、 未だ見れなかった光景だ、 例え昨日今日と彼女が落ち込んで、 下を向いたって、 これまで三人で過ごした時間が消えて無くなったりはしない


どれだけ八依が距離を取ろうとしても、 景子も、 勿論愛美も、 あの頃の様に、 執拗いくらいにその分距離を詰める気だ、 彼女が困ってしまっても、 もう、 執拗い二人に見せる困り顔は何度も見た後なのだ、 ならば、 もう一度、 また三人で笑える時は必ず来る……


ガタッ……


愛美は椅子から立ち上がると、 おかってでパタパタと忙しなく夕飯の準備をする母を横目に、 リビングの廊下へと続く扉のすぐ隣に置かれた固定電話の前に立つ……


ペラッ……


固定電話の周りには、 電話帳や、 母がメモした誰やコレやの電話番号、 地区の連絡網や、 兄や、 愛美の学校関連や、 クラスの連絡網が分かりやすく纏められて居る…


愛美は自分のクラスの連絡網を手に取ると、 その中から新椥八依の名前を見つけ、 彼女が現在暮らす祖父母の家の電話番号だ……


ふぅ………


ピポパッ、 何度も何度も連絡網と固定電話の数字を見比べて、 息を吐いてから、 発信する……


プップップッ…… プルルル…… プルルル……


………ガチャッ ……


……


『……はい、 もしもし、 どちら様でしょうか?』


この声は、 恐らく八依の母だろうか、 知らない女性の声だと思った、 以前一度参観日の際に来たのは父親だったし、 前に八依の祖母には会った事があるがこんなはっきりした声では無かった


……風の噂では、 心を病んで病床に耽ってると小耳に挟んだ記憶もあるが、 電話口から聞こえる女性の声は、 明るく聞こえた、 知らない番号から掛かってくる電話に出る時人は無意識に警戒して声を潜めそうな物で、 声が明るいのにも関わらずしっかりその警戒感が伝わるのがアンバランスで変だと思った……


「あっ、 もしもし、 八依ちゃんのクラスメイトの藤里愛美って言います、 今八依ちゃんは居ますか?」



『……あらぁ、 貴方が愛美ちゃんね、 いつも八依ちゃんから話は聴いてます、 仲良くしてくれてありがとうね ……ちょっと八依ちゃんに確認を取るから……』


ガサゴソ…… ピ~ ピロロ~♪


電話が保留になる…… 友達からの電話に代われるかと聞かれ、 確認すると返されるのは変だと思った、 間抜けな保留音が妙な緊張感を産み、 心を焼く……


ピッ…… 保留が切られた……


ガサガサ……


『……もしもし、 愛美ちゃん? ……どうしたの? 何かあった? ……』


彼女に電話をした事は以前にもあったが、 あの時は電話口からでも弾む様な声がしたが、 今は、 ポロポロと転がって落ちてしまいそうな程、 下を向いていた……


……彼女と仲が良くなってから色んな話をした、 一緒に帰る様になって、 景子を含め、 互いの家で勉強会をした事も有る……


でも、 これは八依とは初めて……


「……八依ちゃん、 急に電話してごめんね、 明日何だけどさ、 もし八依ちゃんの都合が良かったら、 二人で街の方、 ショッピンモールにさ遊びに行かない?」


……………………


一週間が終わりに向かい、 明日は土曜日、 ……彼女にお出かけのお誘いをするのは初めてだ、 電話をかけるのとは違い、 その言葉を伝える事に対して変に緊張したりはしなかった、 帰ってきたのは暫くの沈黙だった………


ザザッ…… 妙なノイズが走る……


『……急にどうしたの』



「う~ん、 どうって事は無いんだけどさ、 欲しい雑貨があったり、 少し興味のある新しいお店が入ったり、 でも一人で行くのも気が進まなくて、 折角なら一緒にどうかなって」


……電話の向こうからは消え入りそうな八依の声以外、 全てが息を潜めた様に静かで何も聞こえなかった、 こちら側では母の出す音、 テレビの音を拾っているだろうが、 向こう側はまるで何も無い暗闇の様に音が落ちていた……


ややあって返答が返る……


『……景子ちゃんは何て言ってるの?』


愛美はその声に少しだけ、 景子に悪いような気持ちで口角を上げて、 彼女の耳に直接囁く様に少し温い息を混ぜて答えた……


「ううん ……二人きりだよ、 景子ちゃんには声を掛けてない、 たったの二人きり」


はっ………


向こう側で息が漏れる様な音がした


ザザッ……


『……………どうして ……』



「……いや?」


っ…………………………………


ぁ…………


ザッ


『……………分かった、 良いよ ……』



「ありがとう、 土曜日のフードスペースは何処も混むだろうからお昼は食べてから行こうね、 うん、 一時頃迎えに行くよ、 駅までお母さんに載せてって貰える様に頼んでみる」


うん……


「……じゃあ、また明日ね…… ねぇ、 楽しみだよ、 やっちゃんっ」


……………………


『……………私も、 楽しみだよ…… うん、 また明日ね……』



「うん、 おやすみ」


……ガチャンッ ………


……………


ふぅ…………


……愛美は受話器を置くと、 コチラの様子を伺っていた母に真っ直ぐに向かって歩く


「友達?」



「やっちゃん、 明日二人でショッピンモールに遊びに行く約束した、 ねぇお母さん、 駅まで送っててくれない? やっちゃんも」


母は笑う


「良いわよ、 でも…… 愛美の方から友達を誘う何て珍しい、 随分勇気出したね?」


ふっ……


「……そうだね、 そうかも……… ねぇお母さん」


母に目を合わせる


「どんな格好してったら良いと思う?」



「ふふっ、 なにそれっ、 まるでデートに行く女の子みたいな事聞くのねっ」


そうでは無いが…… でも、 根に有るのは同じかも知れない……


「……ちょっとね、 気合いを入れたいんだ…… 一番、 私らしい格好で、 行きたいのっ」


目を見開いた母が、 頷いて笑う……


「分かった、 後で一緒に選ぼうか、 一番、 愛美が愛美で在れる格好を」


愛美は頷く…… うん、 明日が、 楽しみになって来た。

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