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第1章 第八話 地獄の戦火

休みの日____


ノヴァは一人、街の近くにある小高い展望台に立ち、目の前に広がる街並みをじっと眺めていた。


オレンジ色の夕日を浴びて輝く、美しく平和な街。


そこには優しくて穏やかな人々が暮らし、この星に危機が迫っていることなど何も知らずに今日という平穏な日常を享受している。


(この美しい星と、この平和が、永遠に見ていられるように……)


ノヴァはそっと胸の前で両手を組み、祈るように静かに目を閉じた。


しかし、彼女の胸の奥には、先日襲来したクアトロがもたらした未知の恐怖が、そして最高医療カプセルの中で今も生死の境を彷徨っている大切な親友・ルシフェルの姿が、重く不気味な影を落としていた。


すう、と息を吸い込んだノヴァの髪を、夕方の冷たい風が小さく揺らす。


彼女の口から、ポツリと、誰に届くでもない悲壮な一言が漏れ出た。


「もし……この星が滅べば……私は……」


その言葉の続きが、ノヴァの口から紡がれることはない。それはノヴァ自信しか知りえないある秘密だ。


____


すると突如として、世界の全てが揺れる。


ゴゴゴゴゴゴ……!! と、天を引き裂くような不気味な地鳴りと爆音が鳴り響き、展望台の頑丈な床が大きく波打つ。


「きゃっ……!?」


ノヴァが驚いて顔を上げ、空を見上げた瞬間、彼女の澄んだ瞳が恐怖と戦慄に大きく見開かれた。


美しいはずの夕焼け空が、まるでガラスのようにバキバキと割れ、天空から「それ」は現れたのだ。


立ち込める雲を傲然と押し退け、圧倒的な超質量を持ってゆっくりと地表へと舞い降りてくる巨大な鋼鉄の影。


――仮面軍の巨大宇宙戦艦だった。


そのあまりの異常な大きさに、街全体が陽の光を完全に遮られ、一瞬にして真夜中のような、おぞましい暗闇へと包み込まれていく。


数日前に現れたクアトロの襲撃など、これに比べればほんの小競り合いに過ぎなかったのだ。


彼らは最初から、この星を跡形もなく潰しにきていた。


仮面軍による、容赦のない全面戦争の幕開けだった。


「我々仮面軍に仇なす愚かなクロノス人よ。絶望を思い知れ!」


戦艦の上で首元にNo1の文字が刻まれた仮面軍の幹部キングスタングが腕を天から下ろした瞬間、

戦艦の底部が不気味に赤く発光し、そこから無数の光の弾が雨のように街へと降り注いだ。


だがクロノス星全域に広がる強力なエネルギーシールドにより、ほとんどの光の弾は弾かれるが、数弾エネルギーシールドを貫通し、地上に落とされた。


そして光の弾に続くように仮面軍の兵士達が地表に降り立った。


逃げ惑う一般人を容赦なく蹂躙し始める。


「キャー――ッ! 誰か、誰か助けて!!」


「うわあああ! 家が、街が……っ!」


さっきまでの愛おしい平和が、一瞬にして地獄へと変貌した。


展望台の上で、ノヴァはグッと拳を血がにじむほど強く握りしめ、溢れ出そうになる恐怖を気迫で押さえつけた。


(この星のみんなには、もうあんな怖い思いも、痛い思いもさせないって決めたんだ……! ルシフェルが命がけで繋いでくれたこの星を、今度は私が、みんなを、守らないと――!!)


ノヴァはバッと立ち上がると、愛用の剣を力強く引き抜き、巨大戦艦を真っ直ぐに見上げて叫んだ。


「この星は, 私が守るんだ!!」


その瞳に、迷いはない。ノヴァは足に力を入れ勢いよく飛び立った。


全軍を率いる敵の懐――あの巨大戦艦の内部へとたった一人で突入していく...


_____


数分前、街の裏手にある岩場では、ウカビルが一人で呼吸を荒くしていた。


「はぁ、はぁ……っ、あと少し……あと少しなんだ……!」


ウカビルは、ノヴァとルシフェルの圧倒的な強さに追いつくため、そして何よりノヴァを自分の手で守れる男になるために、今日も泥臭く自主特訓を続けていた。


体の奥底に眠る『青龍セイリュウ』のオーラを引きずり出し、手のひらに集中させようと、必死に汗を流していたのだ。


だが、そんなウカビルの特訓を切り裂くようにして、街の方角から見たこともない巨大な爆発音と、地鳴りが響いてきた。


「な、なんだ……!? 何が起きてるんだ!?」


ウカビルが慌てて岩場の高台へと駆け上がり、街を見下ろした瞬間、彼の全身の血の気が引いた。


空を覆い尽くさんばかりの漆黒の巨大戦艦。


そして、炎に包まれていく変わり果てた街の風景。


「嘘だろ……何なんだ、あれは……っ!?」


その直後、惑星クロノス全土のスピーカーから、鼓膜を突き刺すような激しいサイレンの音が鳴り響いた。


『――緊急警告。緊急警告! 惑星全土のクロノス人へ告ぐ。現在、未確認の巨大軍勢による全面襲撃を受けている。すべての一般市民は直ちに最寄りの地下シェルターへ避難を開始せよ。繰り返す、直ちに避難を――!』


緊迫したアナウンサーの叫びが響き渡る。


ウカビルは一瞬、あまりの絶望的な光景に足がすくみそうになった。


「ノヴァ……! ルシフェル……!」


二人は今、時の使者として前線で必死に戦っているはずだ。ノヴァが一人でみんなを守ろうと無理をしているかもしれない。


「足手まといのまま、守られるだけの子供でいてたまるかよ……!!」


ウカビルは自らの頬を両手で強く叩き、恐怖を気合で吹き飛ばした。


そして、炎に包まれる街へと向かって全速力で駆け出した。


自分の手のひらを睨みつけ、まだ制御しきれていない青き力を心の底から呼び覚まそうとする


「待ってろ、ノヴァ!必ず君もみんなも守ってみせる!」


ウカビルが戦場へと走るその裏で、時の使者の本部【クロノス・コア】は完全に蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


「警備隊、第1から第5部隊まで直ちに出撃せよ!」


「ノヴァ局員が単身で敵旗艦に突入した模様!」


「バカ者が、死ぬ気か!? 補給部隊もすぐに追え!」


本部にいたすべての時の使者、そして戦えるクロノス人たちが、民を守るため、そして先行したノヴァを救うために次々と地獄の戦火へと飛び出していくのだった。

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