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第1章 第七話 はじまりの三人

ノヴァとアイスを食べて帰ったあの日から、さらに数日が経った。


街は相変わらず平和だが、ウカビルの心の中には、ある強い焦燥感が生まれていた。


(今のままじゃダメだ。あの力……『青龍』は、少し使っただけで動けなくなる。もしまたドロップみたいな奴が現れた時、一撃で倒せなかったら、今度こそみんなを守れない……!)


学校の授業が終わると、ウカビルはいつもの帰り道から外れ、街の裏手にある荒涼とした岩場へと一人で向かった。


ここは彼が毎日ひたむきに自主特訓を重ねてきた秘密の場所だった。


「ふぅ……よし。やるぞ!」


ウカビルは拳を強く握りしめ、体の奥底にある感覚に意識を集中させる。


あの銀河の底から響くような声を思い出し、眠る青龍の力を引きずり出す。


「うぉぉぉぉぉ」


バチバチと音を立てて、ウカビルの体から鮮やかな青いオーラが溢れ出た。


途端に、全身の筋肉が引きちぎれるような激痛が襲う。


だが、ウカビルは歯を食いしばって立ち続けた。


(耐えろ……! 出し切るんじゃない、体の中で暴れるこの力を、手のひらに……一点に集中させるんだ……!)


自滅しないために、力を小出しにして「制御」する。


それがウカビルの課した特訓だった。


しかし、青龍の力を拳に集めようとした瞬間、制御を失ったエネルギーが爆発的に弾け飛び、ウカビルは派手に後ろの岩壁へと叩きつけられた。


「がはっ……! はぁ、はぁ……っ、クソ、やっぱり難しいな……」


背中をさすりながら、ウカビルはゴロリと地面に寝転がった。


見上げる空は、あの日ノヴァと一緒に歩いた時と同じ、綺麗な夕暮れ色に染まっている。


痛む右手をじっと見つめていると、ウカビルの脳裏に、数年前の「ある記憶」が蘇ってきた。


それは、ウカビルがまだ9歳の頃のこと。


当時のウカビルはごく平凡な生活をしていて、今みたいに強くなりたい!と努力するような少年ではなかった。


毎日ただなんとなく遊び、のんびりと過ごす。


それがウカビルにとっての当たり前だった。


だがそんなある日、たまたまこの岩場の近くを通りかかったとき、偶然2人の少女の姿が目に留まった。


一人は、金髪ショートヘアの愛らしい少女、ノヴァ。


もう一人は、腰まで伸びた黒髪に、鋭い赤い瞳をした少女、ルシフェルだった。


二人はその若さで、すでに稀代の天才【時の使者】として合同の課外訓練としてこの岩場にやってきていた。


ウカビルが隠れて見ている前で、二人の模擬戦が始まった。その時の衝撃を、ウカビルは今でも忘れない。


目にも留まらぬ速さで動き、岩をも砕く一撃を繰り出すルシフェル。そして、それを華麗な剣捌きと太陽のような圧倒的な熱量の魔力で迎え撃つノヴァ。


ごく普通の日常を生きていた9歳のウカビルにとって、同世代の二人が繰り広げる戦いは、まるで別世界の神話を見ているかのようだった。


結果はルシフェルの勝利だった。


勝ったルシフェルは、悔しそうにするノヴァに声をかけることもなく、ただ一言、

「その程度?...」

と冷たく言い放ち、一番前の特等席へと進むかのように歩き去っていった。



その冷徹なまでの強さと孤高の背中に、ウカビルは恐怖を通り越して、魂が震えるほどの衝撃を受けた。


(凄い……なんて凄い奴なんだ……!)


それまで「強さ」なんて考えたこともなかった少年の心に、「俺もあんな風に強くなりたい! あいつと対等に張り合えるくらいになりたい!」という、強烈なライバル心が芽生えた瞬間だった。


そして、一人残されたノヴァは、悔しさで涙を浮かべながらも、すぐにグッと拳を握りしめて笑った。


「次は負けないんだから……! 私は時の使者として、みんなを守る!!」


夕日に照らされたその笑顔は、ボロボロになっても世界で一番美しかった。


隠れていたウカビルは完全に恋に落ちると同時に、「大した力もない僕だけど、いつかこの子が泣いている時は、命をかけてでも僕が守るんだ」と、心に誓ったのだった。


この2人に出会ったあの日から、ウカビルの「強くなりたい」と願う泥臭い特訓の日々が始まったのだ。


「……思い出しちゃったな」


ウカビルは苦笑いしながら立ち上がり、再び拳を構えた。


あの二人は今、時の使者として前線で戦っている。


ノヴァは「任務が立て込んでいる」と言っていたが、きっと今もどこかで、誰かを守るために傷ついているかもしれない。ルシフェルだってそうだ。


(何も変わってないなんて言わせない。僕は、あの二人の隣に立てる男になるんだ!)


「うぉぉぉぉぉ」


ウカビルの叫びに応えるように、体内の青龍のオーラがさっきよりも静かに、しかし力強く、彼の右拳へと集まり始めた。


ほんの少しだけだが、確かに「制御」の兆しが見えた瞬間だった。


――しかし、ウカビルが汗を流して特訓に明け暮れるその裏で。


惑星クロノスの衛星軌道上に、空間を引き裂いて巨大な影が現れた。


それは全軍を率いて襲来した幹部たちの宇宙戦艦だった。


不気味な3つの仮面が、モニターに映る美しい惑星クロノスを、冷酷に見下ろしている。


ウカビルが強くなりたいと願うきっかけをくれた2人、そして愛する平穏な日常が、今、最悪の形で破られようとしていた――。

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