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第1章 第六話 目覚め

「……う、うぅ……」


どれくらい眠っていたのだろう。ウカビルはゆっくりと目を開けた。


視界に飛び込んできたのは、学校の保健室の天井だった。


窓の外を見ると、すでに日は沈み、静かな夜の町が見える。


「僕、倒れてたのか……。あ、痛たた……」


体を起こそうとした瞬間、全身に凄まじい筋肉痛のような激痛が走り、ウカビルは思わず顔を歪めた。


やはり「青龍」の力を使った代償は重い。


だが、あの時ルシフェルを驚かせた拳の感触は、今も確かに残っていた。


その頃――。


惑星クロノスの中心部にそびえ立つ、時の使者の本部【クロノス・コア】。


その最深部にある謁見の間で、ノヴァは一人、この星の王の前で片膝をついていた。


「.......」


広間には重々しい空気が流れている。


クアトロ・ヴァイスとの死闘の報告を聞き終えた王は、深く長い溜息をついた。


「仮面軍のNo.4と呼ばれるクアトロを討ち取ったか……。よくぞ街を、民を守ってくれた。ノヴァ、そして治療中のルシフェル。勇敢な二人に心から感謝する」


王は頭を下げた。


「ありがとうございます...」


ノヴァは頭を垂れながらも、その胸中は複雑だった。


街を守れたのは嬉しい。しかし、脳裏に焼き付いているのは、血を吐きながらも立ち上がったルシフェルの姿...


そして私はいつも通り、ルシフェルより結果を出すことができなかったからだ。


その頃___


ルシフェルは今、本部の最高医療カプセルの中で眠っている。


カプセルの前に立つベテランの医療チーフは、モニターに映し出される彼女のバイタルデータを見つめながら、冷や汗を流して震えていた。


「信じられん……信じられんぞ……。これほど体内に致命的なダメージを受け、内臓のほとんどが破壊されているというのに……なぜ生きていられるんだ? 」


カプセルの中で静かに呼吸を続けるルシフェル。


その黒髪の隙間から見える鋭い瞳は閉じられたままだが、彼女の存在そのものが、医療陣に言葉を失わせるほどの異様な「謎」を放っていた。


それから数日が経ち、街には何事もなかったかのように平和な日常が戻ってきた。


1日の授業を終え、ウカビルの筋肉痛もすっかり良くなり、問題なく元気に学校へ通えるようになっていた。


「あー、やっぱり天気がいい日の放課後は最高だな!」


夕日に染まる一本道を、ウカビルはノヴァと二人で並んで歩いていた。


いつもなら学校の生徒でガヤガヤしている帰り道だが、今日はたまたま二人きり。


大好きなノヴァが隣にいるというだけで、ウカビルの心臓はさっきから緊張でバクバクと音を立てている。


「本当にね。ウカビルもすっかり元気になってよかった!」


ノヴァが隣で嬉しそうに微笑む。


「あ、ああ!もう大丈夫だ!」


その太陽みたいな笑顔を見るたび、ウカビルは胸がキュンとしてしまう。


歩きながら、ウカビルはふと、数日前から教室の一番前の席が空いたままになっていることを思い出した。


「なぁ、ノヴァ。そういえばさ……ルシフェルの奴、ここ数日ずっと学校休んでるけど、何かあったのか? 模擬戦のあと、僕が先に保健室でぶっ倒れちゃったからよく分からなくて。あいつ、風邪でも引いたのかな」


純粋にライバルを気にするウカビルの問いに、ノヴァの歩みが一瞬だけ止まった。


ノヴァの脳裏に、あの悲惨な街の光景と、ボロボロになって倒れたルシフェルの姿が蘇る。


(ウカビルは、仮面軍のことも、ルシフェルが命がけで戦ったことも知らない……。もうウカビルにも、あんな怖い思いも、痛い思いもしてほしくない。私が守らなきゃ……)


ノヴァはすぐにいつもの明るい笑顔を作ると、ウカビルの目をまっすぐ見つめた。


「ううん、何でもないと思うよ! ルシフェルは時の使者の任務がちょっと立て込んでて、本部に泊まり込みで手続きとかしてるだけじゃないかなぁ。相変わらず真面目だからね、あの子!」


「あはは、そっか! あいつらしいや。任務なら仕方ないな!」


ウカビルはノヴァの優しい嘘に全く気づかず、ホッとしたように笑った。


そんなウカビルの無邪気な顔を見て、ノヴァの胸の奥が少しだけ痛む。


でも、この優しい世界と、大好きな日常を守るためなら、どんな嘘でもつける。


「あ、そうだウカビル! 帰りにちょっとだけ、あそこの公園の売店でアイス買って食べない?」


ノヴァが少し照れくさそうに、ウカビルの服の袖をちょこんと引っ張った。


「えっ?アイスか!いいね!」


「やったぁ!」


夕日の中に、二人の楽しそうな笑い声が響く。


ウカビルにとっては、これ以上ないほど幸せな、大切な日常の時間だった。


――だが。


その平和な惑星クロノスから遥か遠く離れた、不気味な暗黒の宇宙空間。


巨大な浮遊要塞の内部から、おぞましい声が響き渡る。


「……クアトロが、やられたようだな」


漆黒の玉座に深く腰掛けた、圧倒的な存在感を放つ【仮面軍のボス】が、静かに口を開いた。


その前には、首筋に【1】【2】【3】の数字を刻んだ、クアトロとは比較にならないほどのプレッシャーを放つ3人の「幹部」たちが、冷酷な笑みを浮かべて控えている。


「No.4ともあろう者が、辺境のクロノス星で朽ちるとは……仮面軍の面汚しめ」


「クツクツ……だが、あの星にはドロップを消し去り、クアトロのルールさえも打ち破った『何か』がいるということだ。非常に興味深いねぇ」


ボスは仮面の奥の目を怪しく光らせ、冷酷な命令を下した。


「これ以上、我ら仮面軍をコケにすることは許さん。お前達幹部は、全軍を率いて【惑星クロノス】へ向かえ。あの星のクロノス人どもを根絶やしにするのだ!!」


宇宙の闇から、惑星クロノスへ向けて、かつてない絶望の軍勢が動き出そうとしていた。


ウカビルたちの愛する平穏な日常が、音を立てて崩れ去る時は、すぐ目の前まで迫っていた――。

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