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第1章 第五話 ルシフェル

「……っ!?」


ノヴァの全身から、ドッと冷や汗が噴き出した。


声を上げることすら許されない、静寂の結界。


頭上に浮かぶ不気味な4つの×クロスが、まるで死神の刃のように自分たちを見下ろしている。


発言の禁止。移動の禁止。能力の禁止。そして、正体不明の4つ目のルール。


どれか一つでも破れば、即死。


ノヴァは隣に立つルシフェルを見た。


彼女の額からも、見たこともないほどの冷や汗が滴り落ちていた。


仮面軍No.4・クアトロの放つプレッシャーは、これまでの敵とは次元が違う。


完全に、絶体絶命のピンチだった。


しかし――。


(……ルシフェル……?)


ノヴァは目を見開いた。


ルシフェルは冷や汗を流し、呼吸を荒くしながらも、その口元にフッと自信に満ちた笑みを浮かべていたのだ。


「クツクツ……。どうした?? この絶望のルールが怖くて、指一本動かせないか。そのまま干からびて死を待てばいい」


肩に担いだ大鎌を弄びながら、クアトロがじわじわと距離を詰めてくる。


その時だった。


ザザッ。


静寂の空間に、場違いな足音が響く。


ルシフェルが、躊躇なく一歩を前へと踏み出したのだ。


(なっ――!?)


ノヴァは声にならない叫びをあげ、驚愕に目を見開いた。


声を出すことも、止めるために動くこともできない。


『移動の禁止』を、ルシフェルは自ら破った。


その瞬間、ルシフェルの頭上にある4つのクロスのうち、1つが血のように真っ赤に発光した。


ドクン……!


絶対遵守のペナルティ。


それは、心臓を直接握りつぶされるような、容赦のない「即死の呪い」だった。


「ガハッ……!?」


ルシフェルの口から、鮮血が激しく噴き出す。


凄まじい激痛に顔を歪め、ドサリと膝をつくルシフェル。


「う...うぅ」


クアトロの言う通り、ルールを破った者には等しく本物の『死』が牙を剥いた。


「ハハハ! 馬鹿が、自ら死を早めるとは――」


クアトロが勝ち誇ったように笑う。


だが、その笑い声はすぐに止まった。


「……は?」


ノヴァが息を呑む。


膝をつき、激しく吐血したはずのルシフェルが、震える手で地面を押し、ゆっくりと立ち上がろうとしていたのだ。


心臓が停止するほどの呪いを受け、死の淵へと片足を突っ込んだはずなのに――彼女の瞳の光は、一切消えていなかった。


「この程度で...私が死ぬわけないでしょ...」


ルシフェルは口元の血を乱暴に拭い、再びクアトロを睨みつける。


その瞬間、『発言の禁止』の呪いが発動したがそれでもなお、ルシフェルは死なない。


その顔には、先ほどよりもさらに深い、確信に満ちた自信の笑みが浮かんでいた。理屈は分からない。


だが、「私がここで死ぬはずがない」という絶対的な自信だけがそこにあった。


「ば……馬鹿な……!?」


クアトロの仮面の奥の目が、初めて驚愕に揺れた。


「私の絶対遵守の結界だぞ……!? ルールを破った者が、なぜ生きている!? なぜ死なない……!!」


「私のタフさが…あなたの力を上回ったのかもね…!」


ルシフェルは勢いよく地面を蹴った。


「タフさ?ありえない...死の力だぞ!!お前は心臓や内蔵がめちゃくちゃなはず.....っ!?!」


クアトロは勢いよく迫ってきたルシフェルに驚き、体勢を後ろへ崩した。


【宇宙災厄の一振り コズミックディザスター】を引き抜き、動揺するクアトロの胸元へと切りつける。


「はあああぁぁぁ!」


鋭い掛け声とともに、漆黒の刃がクアトロの胸を深く切り裂いた。


「ぐ、ふっ……!?」


鮮血が舞う。それと同時に、ルシフェルの頭上にある4つのクロスのうち、さらに1つが禍々しく赤く発光した。


ルシフェルの全身を、先ほど以上の絶大な即死の呪いが駆け巡る。


激痛に襲われ、一瞬視界がパッと白くなるが――それでもルシフェルは、不敵に笑ったまま倒れない。


「な、なぜだ……! 4つ目のルールが……『私にダメージを与えた者は即死する』というルールさえ」


クアトロが胸を血で染めながら、信じられないものを見る目で絶叫する。


「あぁありぇないありえないばかなばかなぁぁ」


肉体を切りつけられたことでクアトロの結界は完全に限界を迎え、ガラスが割れるような音を立てて、空間を覆っていた不気味な紫色の魔法陣が粉々に砕け散った。


その瞬間、ノヴァの体を縛っていた重圧が嘘のように消え去る。


「ぷはっ……! はぁ、はぁ……!」


ようやく声と自由を取り戻したノヴァが、激しく呼吸しながら叫んだ。


「ルシフェル! 大丈夫!?」


「えぇ……。少し目眩がするけど、問題ないわ。それよりノヴァ、ルールは消えたわよ!」


ルシフェルは肩で息をしながらも、コズミックディザスターを構え直す。


その言葉に、ノヴァの瞳に激しい怒りの炎が宿った。


「よくも……よくもルシフェルをそこまで痛めつけてくれたわね……!!」


ノヴァが【ブラスターエクリプス】を限界まで握りしめる。


その刀身から、怒りに応じるように凄まじい超熱量の光が噴出させた。


「私のルールが...」


クアトロが胸の傷を押さえながら、狂ったように巨大な大鎌を振り回して突進してくる。


動揺と怒りで、その刃に冷静さはない。


「ルシフェル、私が合わせる!」


「えぇ、一気に畳み掛けるわよ!」


自由を取り戻した二人の、決死の反撃戦が始まった。


ブンッ! ガキィィィン!!


迫り来る大鎌の刃を、ルシフェルが正面からコズミックディザスターで受け止める。


吐血のダメージが残る中、ルシフェルは歯を食いしばり、根性と自信の笑みでクアトロのパワーを押し返した。


「そこよ、ノヴァ!!」


「いっけええええ!!」


クアトロの体勢が崩れた一瞬の死角から、ノヴァが跳躍した。


ブラスターエクリプスから放たれる、怒涛の超熱量斬撃。


ズバババババババッ!!!


「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


これまでは透明な壁に防がれていた攻撃が、今は容赦なくクアトロの体を捉える。


結界を破られたクアトロに、もはやさっきまでの余裕は微塵もなかった。


「これで……終わりだぁぁぁああ!!」


ノヴァは空中でもさらに魔力を爆発させ、ブラスターエクリプスを両手で強く握り直す。


刀身が太陽の如き凄まじい輝きを放ち、クアトロの巨大な大鎌ごと、その肉体を真っ二つに叩き斬った。


「ば、馬鹿な……! この私が……仮面軍の、No.4であるこの俺様がぁぁぁーーーっ!!」


クアトロの絶叫が広場に響き渡る。


ズドォォォォォォン!!!


次の瞬間、クアトロの体はノヴァの超熱量に耐えきれず、激しい大爆発を起こして木っ端微塵に吹き飛んだ。


あたり一面に猛烈な煙と炎が広がり、やがて静寂が戻ってくる。


クアトロの気配は、完全に消滅していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」 


着地したノヴァが、肩を激しく揺らしながらブラスターエクリプスを収める。


「やった……の、よね……?」


「えぇ、完璧な一撃だったわ、ノヴァ」


ルシフェルがコズミックディザスターを鞘に戻し、微笑みながら歩み寄ってくる。


しかし、その足取りはどこか危うい。限界を超えて即死の呪いを何度も受けたのだ。


激しい戦闘が終わり、張り詰めていた緊張が切れた瞬間、ルシフェルの視界がぐらりと歪んだ。


「ルシフェル!?」


倒れそうになるルシフェルの体を、ノヴァが慌てて支える。


ルシフェルはノヴァの肩を借りながら、少し辛そうに、それでもいつもの自信の笑みを浮かべた。


「大丈夫……ちょっと疲れただけよ……それより、このことを報告しにいきましょ」


「うん……! ついでに本部で手当してもらお!」


ウカビルが保健室で眠る中、時の使者二人は、かつてない死闘の末に仮面軍の刺客を完全に打ち破った。


しかし、自らルールを破っても死ななかったルシフェルの体に隠された「謎」は、誰にも知られぬまま、不穏な未来への火種として静かに燻り始めるのだった――。

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