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12.現世行き、しかして地獄

「あらまぁ、とても似合ってますよそあら。普段よりも穏やかに感じますよ」


「うん、似合ってる似合ってる。

 性格はそんなでも無いのに顔のー、主に目のせいで常に不機嫌そうな印象を受けてたからねー。

 この装いならそんなそあらでも近寄りやすく感じるよー」


「こっちの方が近寄りやすいって、わたくしの顔はどれ程ですの……」


 クレハさんから渡された衣装を着てのオルルルルル様とクレハさんの感想にわたくしは表情が引き攣るのを感じますわ。

 あの……命を刈り取る様な大きな鎌を持って黒いフードを身に纏っているドクロの仮面の姿が普段よりとっつきやすいってどういう事ですの。


「そんなに、わたくしの顔ってとっつきにくい感じなのですの?」


 その言葉にオルルルルル様は右手を頬に添えながら少し困ったような表情で口を開きまして。


「そうねぇ、この冥府で働く亡者って基本的には生前は平民なのは知ってるのよね」


「ええ、それはまあ知っておりますわ」


 はて、いきなりオルルルルル様は話を変えましたけど、何を言いたいんでしょうか?

 疑問に思うわたくしに、オルルルルル様は話を続けますわ。


「それで貴方って雰囲気的には取り返しのつかない悪行やってる貴族令嬢にしか見えない訳でね。

 貴方の事を何も知らない亡者はみんな下を向いて貴方が通り過ぎるのをじっと待ってるだけでしょ。

 それが答えよ」


「無慈悲!?

 分かり易いですけど無慈悲すぎな答えですわ!?」


 ええ、冥府ですれ違う方々はいつも俯いてわたくしが通り過ぎるのをじっと耐えていて、それでわたくしが声を掛けると元々顔が白い亡者なのに更に顔を蒼くして怯えたりと。

 なんでわたくしってそんなに怯えられなきゃならないんですの!?

 そんなわたくしの肩にクレハさんは手を置いて元気づける様な声音で口を開きましたわ。


「大丈夫、そあらが広い心の持ち主だって私もオルルルルル様も知ってるからね。

 まあ、アレだよね。何て言うかそあらの顔って今の現世で悪名高いアンジェリークに瓜二つだよねー」


「励ましてるのか貶してるのかどっちかにしてくださいませんですの!?」


 クレハさんの言葉にそう抗議するしかできませんでしたわ。

 いえ、自覚はしておりますの。わたくしが悪役令嬢アンジェリークのそっくりな事ぐらいは。

 そのアンジェリークが冥府でも悪名高いなんて、やっぱりロクな女じゃねーですわねあの悪役令嬢。

 


      ◇



 死神衣装を着たわたくしとクレハさんはホームを出て宮殿を歩いて行きますの。

 先導はクレハさんで、これから向かう場所は現世へ繋がる転送門という事ですわ。

 クレハさんは歩きながら現世での仕事を説明してくれますわね。


「そあら、これから現世に行くんだけどねー。

 これから行う私達の仕事は、現世を彷徨う魂を冥府に送ることなんだー。

 基本は話しかけて冥府へ案内すれば良いんだけど、中には頑なに現世に留まりたいって言って抵抗して来る魂もいるんだー。

 そんな時は、この大鎌でバッサリ切り裂いて持ち運びやすくして強制的に冥府へ送れば良いからねー」


「方法がバイオレンスですわー」


「まあ、そうでもしないと良くないからねー。

 現世に留まり続けた魂は、ほとんどの場合が悪霊に成り果てて甚大な被害を生み出すからねー。

 ほら、冥府の女主人が暇つぶしで生きてる人を弄ぶために編み出した亡者転生という禁術があるでしょ。

 悪霊はアレとどっこいどっこいの被害を出すから、そうなる前に対処しないとねー」


 そういう理由なら抵抗する魂を分割して運ぶのもやむなし……いえ、やっぱバイオレンス過ぎますわね。

 せめてグーパンで伸す程度で良いと思いますの。


「それと、あくまで私達の仕事は魂の回収だからねー。

 亡者である私達はあまり現世の出来事に介入しちゃダメだからねー」


「……クレハさん、これから行く場所はバースランド王国の首都ファストリアなのですよね」


「うん、そだよー」


「仕事、終わってからで良いので観光したいですわ」


 バースランド王国の首都ファストリア。

 つまりカリエさんの生まれた場所であり、『緋恋の記録 その手は暖かく』の舞台ですの。

 そのゲームのファンであるわたくしとしては、聖地巡礼として色々と見て回りたいですわ。

 

「観光かぁ、そんな余裕はないと思うんだけどねー」


「そんなに魂を冥府に送るのは厳しいのですの?」


 その言葉にクレハさんは違う違うと苦笑しまして。


「ほら、今まで私一人で現世に行って仕事してたでしょ。

 そあらがホームで働いていた一か月間で王国の情勢が色々変わっちゃってね」


 若干、疲れたような調子でクレハさんは口を開きましたわ。


「ごめんねそあら、初めての現世の仕事が大変な感じになりそうで。

 実は現世でオズウェル王子を擁した戒律騎士団主導のクーデターが起きちゃってねー。

 それでクーデターが成功しちゃって……今の王都はある意味悲惨だよ」



      ◇



 バースランド王国の首都ファストリア。

 年に一度、各地の貴族が一堂に王都へと参上し国王へと忠誠を示す儀を行う日。

 もはや、傀儡となった国王に形だけの礼を送るだけの形骸化した催し。

 王城の謁見の間で行われていた行事。

 その最中に武装した集団が突如現れ、会場へと雪崩れ込んで行った。


 それはオズウェル王子を擁する戒律騎士団と、それに協力する貴族の私兵で構成されたクーデターの軍団。

 瞬く間に王都及び王城は制圧され、オズウェル王子は国王を玉座から引き摺り降ろし自らが新しい王となった事を宣言する。

 あっけなく、拍子抜けするほどに早々とクーデターは達成された。


 そうして、地獄が始まった。


 国王を傀儡として圧政を敷いていた貴族達は戒律騎士団に捕まり、神の名のもとに処断されていく。

 つまり、今まで街中をふんぞり返っていた貴族達はもはや力なんて物は無くなってしまった。


 ただ、新しく手に入れた剣の切味を試したいだけで老人を切り捨てた貴族の子息がいた。


 ただ自分が乗る馬車を見つめた子供が何となく目障りで、家来に銘じてその子供の目を潰させた貴族の夫人が居た。


 そんな事をしても許されたのは、単に強大な権力がバックにあったからだ。

 なら、その権力が無くなってしまえばどうなるか。

 答えは、民衆の爆発と言う形で現われてしまった。


 民衆にとって貴族とは良識なのか悪徳なのかなんて、見分けが付くわけではない。

 虐げられた鬱憤を晴らすために、王都にある貴族の屋敷へと民衆は襲撃をしていく。

 ただ、戒律騎士団側がクーデターを起こす一因として、貴族達が擁する私兵の総数が国軍を遙かに上回る規模となっていた。

 ゆえに襲撃した屋敷に貴族の私兵が多く詰めていて、逆に返り討ちに遭った民衆もいた。

 だが、それは少数派であり、大多数の貴族の屋敷には数人程度の護衛しか詰めていない。

 そもそも貴族の私兵は、その貴族それぞれの領地で募った兵であり、今回の行事のために領地から出発した貴族が引き連れた私兵の数は山賊やモンスター等から身を護る程度の人数でしかない。

 大人数の私兵を引き連れる。それは移動するだけで、多額の費用が掛かるという事だから。

 ゆえに、護衛として引き連れた人数程度では暴徒と化した王都の民衆を止めることなどほぼ不可能である。

 中に居た貴族の夫人や子息子女は民衆の手により外へと引きずり出され、そうして始まるのは―――



      ◇



 鮮血が舞った。

 それは、固い物が砕け散る様な鈍い音だった。

 下卑た笑みを浮かべる男は、鼻っ柱を砕かれてそのまま仰向けに倒れて白目を剥く。

 

 ケホッケホッと咳をする、男の手により首を括られていた幼い少女を見て、黒いフードのドクロ面の人は、拳に着いた血を気にせずに、少女の首に巻かれた縄を引き千切る。

 

 裸に剥かれて首を括られ吊られて殺されそうになっていた幼い少女。

 その隣では少女の母親だろうか、一人の女性が首を吊られぶら下がっている。既に瞳に光は無く、命は潰えている。

 

 そのフードの人は、まるで虚空から一瞬で現れたかのようだった。

 貴族の母娘を吊るす催しを楽しんでいた民衆は、その謎の人物に動きが止まる。

 そんな様子を気にも留めず、フードの人物は声を発した。


「ごめんねー、そあら。私の方が我慢できなかったよー。

 ちょっと、この子を連れて安全な場所に隠れててー。そ、れ、と。」


 その声は、この場に似つかわない間延びしたような声音であり。


「首を絞めて見世物にして殺すのは、私としては許しがたいなぁあああああああああああああ!!」


 その怒号は周囲の空気を震わせた。





クレハさんの死因は絞殺。しかも、複数の男に散々嬲られたあとに、用済みとして殺される。

つまり、民衆は彼女の地雷を踏み抜いた。

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